日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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28 巻, 4 号
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会長講演
  • 伊藤 泰雄, 韮澤 融司, 浮山 越史, 渡辺 佳子, 吉田 史子
    2008 年 28 巻 4 号 p. 525-529
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    1980年以降の25年間に当科に入院した小児患者は6,916例で,うち緊急入院は2,193例,31.7%であった。その間の手術総数は5,927件で,うち緊急手術は1,287件,21.7%に対して行われた。新生児緊急手術は200件で,消化管閉塞や腹壁異常などの先天性疾患が多く,出生前診断率は約60%であった。乳児期以降の腹部緊急手術例1,039例の内訳は,急性虫垂炎が659例,63.4%と最も多かった。消化管出血を主症状とする疾患で一番多かったのは腸重積(167例中103例,61.7%)であった。われわれは小児腹部外傷の重症度を評価するために臨床所見と簡単な検査からなる腹部外傷スコア(以下,ATS)を考案した。ATSはISSともよく相関し,重症度評価に有用であった。またわれわれは,誤飲されたボタン型アルカリ電池を摘出するためにマグネットチューブを考案した。現在,マグネットチューブは商品化されて,釘,ヘアピンなど金属製異物の摘出にも利用されている。
原著
  • 村上 慶洋, 山本 和幸, 小出 亨, 村川 力彦, 北上 英彦
    2008 年 28 巻 4 号 p. 531-539
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    当科において過去5年間に経験した下部消化管穿孔34例について検討した。在院死亡例では,白血球数は生存例に比べ有意に低かった。術後在院日数は年齢が70歳以上,術前合併症あり,術前ショック,人工肛門・回腸瘻造設,術後合併症の発症,術後DICの発症が長期化する要因となっていた。また,70歳以上の高齢者では術後合併症の発生率が有意に高かった。術式では予後との間に有意な相関を認める項目は存在しなかった。下部消化管穿孔では,まず救命が第一であるが,高齢者の多い本疾患では術後在院日数が長期にわたるとADLの低下等により,退院後のQOLが著しく低下する可能性がある。このため術式の選択,術後管理において,患者の状態の把握ももちろんであるが,術後在院日数が長期にならないような努力も必要であると考える。
特集
  • :ガイドラインの持つ意味
    関本 美穂
    2008 年 28 巻 4 号 p. 543-546
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    診療ガイドラインはさまざまな情報を診療に生かしやすい形にまとめて提供したものである。ガイドラインは数ある情報源の一つにすぎないが,医師の診療行為を改善させる手段として最も利用されている。今日診療ガイドラインのほとんどが,「根拠に基づいた医療(以下,EBM)」の手順に則って作成されている。EBMとは「疾患の診断・予後・治療などについて,患者集団を対象としたデータを定量的に解析することにより,適切な臨床判断を行うことができる」とする考え方である。本来は「専門化が推奨する診療」と「研究の結果,効果が確かめられた診療」とが一致するべきだが,両者はしばしば相反する。それでは,われわれはなぜエビデンスを重視する必要があるのか。臨床研究が盛んになった結果,次々と新しくなる医学知識に忙しい臨床医が遅れずについていくのが困難であるためである。「他の医師はどのような診療を行っているか」という情報を発信し,極端に独善的な診療を排除したという点で,ガイドラインは重要な役割を果たしたといえる。
  • 四方 哲, 中山 健夫
    2008 年 28 巻 4 号 p. 547-550
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    エビデンスに基づいた急性膵炎のガイドライン第1版(2003年出版)と,今回改訂された第2版(2007年出版)とにおける基本的異同について解説する。ガイドラインの目的,使用法は第1版と大きな違いはない。作成法もほぼ同様であるが,第2版では日本消化器関連学会週間(2006年10月,札幌)と日本臨床外科学会(2006年11月,広島)にて案を提示し参加者からのフィードバックを参考に改訂した。作成委員は内科,外科,救急・集中治療,臨床疫学の専門家で構成されていたが,第2版は日本医学放射線学会の協力を得て,放射線科医も参加した。改訂の根拠となる文献はMEDLINEと医学中央雑誌などのデータベースを利用し,膵炎を key wordとして2000年1月から2006年4月までに出版された2,695文献を対象とした。採用文献のエビデンスレベル分類法は第1版と同様のもの(Oxford centre for evidence-based medicine levels of evidence)を採用したが,推奨グレードは,Minds版診療ガイドライン作成の手引きを参考に,十分な科学的根拠がない場合をC1とC2に細分化するなど独自のグレード分類が採用された。
  • 真弓 俊彦, 渡邉 出, 有嶋 拓郎, 小野寺 睦雄, 高橋 英夫, 武澤 純, 高田 忠敬, 平田 公一, 吉田 雅博, ガイドライン作成 ...
    2008 年 28 巻 4 号 p. 551-555
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    2003年に本邦で始めてEvidence based Medicineの手法に準じて作成された診療ガイドラインとして「エビデンスに基づいた急性膵炎診療ガイドライン」が発刊された。ここではガイドライン再版に際して,アンケート,公開シンポジウムfeedbackなどを参考に委員会で改訂を重ねた経過で明らかになった,検討課題について報告する。関連学会会員にアンケートを行ってみると,学会員でもガイドラインをみたことがない方が18%いることが判明した。一方,軽症膵炎でも予防的抗菌薬を使用する方が42.9%いて,33.6%の方が第3~4世代セフェムやカルバペネムを選択していた。重症例での死亡率は10.2%から7.6%へと低下していた。改訂では,推奨度や搬送基準を改めたが,エビデンスと保険診療,海外でのエビデンスの採用度など,推奨度の決定には慎重を要した。今後のガイドラインの普及と日本からの質の高いエビデンスの発信が期待される。
  • 木村 康利, 平田 公一
    2008 年 28 巻 4 号 p. 557-560
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    急性膵炎の診療ガイドライン改訂における,「診断」の領域を概説する。初版では,1.臨床症状・徴候,2.血液・尿検査,3.画像検査,が目次として掲載されていた。改訂に当たっては,「診断基準」へよりアクセスしやすくすること,成因診断の重要性を喚起することを目的として,1.診断基準,2.臨床症状・徴候,3.血液・尿検査,4.画像検査,5.成因診断,以上の 5項目に再編し,新たなエビデンスの整理と共に記述を改めた。1.診断基準では,厚生省(当時)特定疾患難治性膵疾患調査研究班 急性膵炎臨床診断基準があり,これを銘記した。2.臨床症状・徴候,3.血液・尿検査では,最新のデータや臨床的有用性に関する記載を追加した。特に尿中トリプシノーゲン2簡易試験紙検査は,血中アミラーゼ・リパーゼと比較して感度・特異度に遜色なく,急性膵炎をより迅速かつ簡便に診断する上で有力なツールとなる可能性が示唆された。5.成因診断では,成因の詳細を加筆するとともに,胆石性膵炎の診断と,その後の迅速な処置が救命に不可欠であることを改めて強調した。
  • :診断のポイントは?
    蒲田 敏文
    2008 年 28 巻 4 号 p. 561-571
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    膵疾患を正確に診断するためには,後腹膜腔ならびに膵と腸管(大腸,小腸)を結ぶ間膜(結腸間膜,腸間膜)の解剖学的理解が必要である。単純CTでも急性膵炎の診断は十分可能であるが,重症度や合併症の評価には造影 CTが不可欠である。また,時に膵癌が急性膵炎の原因となることがあるが,単純 CTのみでは膵癌の検出は困難なことが多く,造影ダイナミックCTが必要である。MRI(以下,MRCP)は胆道結石の診断能が高く,急性膵炎に随伴する出血性脂肪壊死,仮性.胞内出血などの出血性変化の評価にも有用性が高い。MRCPは造影剤を使用することなく,胆管膵管の全体像を描出できるので,膵炎の原因精査(胆管膵管奇型)にも推奨される。
  • 吉田 雅博, 高田 忠敬, 天野 穂高, 三浦 文彦, 豊田 真之, 和田 慶太, 加藤 賢一郎, 渋谷 誠, 門脇 晋, 浅野 武秀
    2008 年 28 巻 4 号 p. 573-576
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    「エビデンスに基づいた急性膵炎診療ガイドライン 第1版」は,2003年7月に発刊された。今回,ガイドライン改訂にあたり,第1版に用いられた重症度判定に関するエビデンスに2000年から2006年までで系統的に検索された新たなエビデンス92論文を加え,さらに実臨床とアンケート結果を加味して内容を更新した。重症度判定としては,重症化,膵壊死率に相関する因子として,肥満,Htを単独の有用なマーカーとして追加記載した。また,造影CTの有用性を強調した。重症度スコアについては現行の重症度判定スコアとその成績を主に表記するとともに,2008年4月ごろ改訂予定のスコア(案)情報も参考として添付した。さらに,発生早期の経時的・総合的な重症度評価についての重要性をあらたに記載した。搬送基準については,アンケート調査結果を受けで,程度具体的な表記とした。今後の新診断基準,新重症度基準公示を受けて,再度評価しガイドライン内容の改訂が予定されている。
  • 佐藤 晃彦
    2008 年 28 巻 4 号 p. 577-580
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    急性膵炎では,軽症例であっても入院治療が原則であり,脈拍数・血圧・尿量・呼吸数などの基本的なモニタリングを行いながら,絶食による膵外分泌刺激の回避,除痛,十分な輸液を行う必要がある。軽症例では,感染性合併症の続発がまれであるため予防的抗菌薬投与の必要はなく,蛋白分解酵素阻害剤投与や経腸栄養療法の臨床的有用性も確立されていない。経口摂取を契機として急性膵炎が再燃する場合があるため,食事開始時期の決定は重要なポイントとなる。軽症例では,腹痛の消失,血中膵酵素値やCRPの低下を指標として食事開始を決定することが推奨される。入院時に軽症であっても,経過中に重症化する症例が少なからず存在するため,重症度評価を継続する必要がある。
  • 急性膵炎の診療ガイドラインにおけるCHDFの位置づけ
    北村 伸哉
    2008 年 28 巻 4 号 p. 581-585
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    全国集計では重症急性膵炎(以下,SAP)に対する血液浄化法(以下,BP)として CHDFが最も多く行われているが,その救命率は芳しくない。しかし,この報告では施行された BPの目的,開始のタイミングや施行方法等,いずれも一定ではなく,その効果の実態を導きだせるものではない。SAPに対する CHDFの効果を検証するにはその適応が合併した急性腎不全に対するものなのか(renal indication)膵炎の病態を増悪しうる病因物質除去効果を期待したものなのか(non-renal indication)を考慮して検討する必要がある。また,使用した血液浄化器の素材も病因物質除去効果に影響するかもしれない。CHDFの臓器不全予防効果に関してはその有効性を示唆する研究が報告されているが,信頼しうるデータに乏しく,その推奨度はレベルの低いエビデンスに基に決めざるをえない。(non-renal indication:推奨度C1)。また,急性腎不全に対するBPの開始タイミングは発症早期の方が有効であるという最近の知見より十分な輸液にもかかわらず,循環動態が不安定で利尿の得られないSAPでは積極的にCHDFを施行すべきである(renal indication:推奨度B)。
  • 荒田 慎寿
    2008 年 28 巻 4 号 p. 587-592
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    急性膵炎の一つの重要な成因である胆石性膵炎に対する初期治療について既報告を吟味し,第1版との変更点を中心に治療ガイドラインを提示した。胆石性膵炎に対する緊急 ERCP⁄ESについての RCTに対して,重症度別のメタ解析が行われて,重症例にその有用性が高いことが報告された。また,新たに関連する3つのRCTが行われた。いずれも緊急ERCP⁄ESの有用性に肯定的な結果を報告している。特に重症例と通過障害が遷延する症例に有用と考えられる。胆石性膵炎症例の残存結石に対してERCP+ESのみで経過をみる是非について検討を追加した。胆摘出群に比して,ERCP+ES単独治療群の急性膵炎の再発率は高くはないものの,より高率に胆道系症状が再発する。高齢者や手術リスクの高い胆石性膵炎症例においても,胆摘出術を施行し得ない特段の理由がなければ,ERCP+ES単独で経過をみるべきではないと考えられる。胆石性膵炎発症時には退院前に胆道検索と胆摘出術を行うことが望ましい。
  • 山内 栄五郎, 熊野 玲子, 寺本 りょう子, 船窪 正勝, 高橋 美緒, 上條 謙, 大西 毅
    2008 年 28 巻 4 号 p. 593-597
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    インターベンション治療(以下,IVR)は今回の急性膵炎の診療ガイドライン第2版では独立した項目では取り上げられていないが,近年,非侵襲的外科治療,すなわちIVRの発展は目覚ましく,膵臓にも応用されるようになってきており独立した項目として述べてみた。ここでは膵炎により生じる膵仮性嚢胞,膵膿瘍,壊死性膵炎,慢性膵炎,膵管皮膚瘻に対するIVRについて,技術的な面は成書に譲り,理論的な面から解説した。膵仮性嚢胞,膵膿瘍に対するIVRについては日本以外でも広く受け入れられており,評価も定まっており,他の治療より優先して施行すべきものと考えられる。壊死性膵炎,慢性膵炎,膵管皮膚瘻の治療については,日本以外では報告がほとんどないが,明らかに効果が認められることより,侵襲的な外科的治療を行う前に,試みる価値があると思われる。
症例報告
  • 浅海 吉傑, 酒徳 光明, 家接 健一, 金子 真美, 清原 薫
    2008 年 28 巻 4 号 p. 599-601
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    回腸子宮内膜症はまれな疾患で,その術前診断は困難で診断率は15.3~28%と言われている。今回われわれは腸閉塞で発症した回腸子宮内膜症の1例を経験したので報告する。症例は40歳女性,腹痛と嘔気を主訴に来院し腸閉塞と診断されて入院した。イレウス管にて加療を行ったが改善を認めず手術を行った。手術所見では回腸末端部の漿膜面に白色の小結節と透明な小嚢胞を認め,それらによって回腸の狭窄をきたしていた。この部を腸閉塞の責任病変と考え小腸部分切除を行った。切除標本の病理組織学的検査で異所性子宮内膜症と診断された。生殖年齢女性の腸閉塞では腸管子宮内膜症を念頭に置き,加療する事が必要である。
  • 大野 玲, 林 美貴子, 設楽 兼司, 大川 卓也, 井石 秀明, 福成 博幸, 石田 孝雄
    2008 年 28 巻 4 号 p. 603-605
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    患者は心房細動のある78歳男性。血便を主訴に 2003年 3月 7日内科受診した。大腸内視鏡検査でS状結腸に高異型度の腺腫を認め,3月25日手術目的で外科入院し3月31日 S状結腸切除術を施行した。術後経過順調であったが4月9日夕方から突然腹痛が出現し,発症4時間後腹部造影CT検査の結果上腸間膜動脈塞栓症と診断し血管造影を施行した。上腸間膜動脈から置換右肝動脈が分枝しており,その末梢から血流が途絶していた。上腸間膜動脈にウロキナーゼ24万単位を動注したが奏功せず,血栓除去術を施行したところ血流が再開した。12時間後2nd look surgeryを施行した。トライツ靱帯より80cm肛門側から回腸末端まで小腸が壊死しており,上行結腸も虚血状態であったため切除し空腸人工肛門および横行結腸粘液瘻造設術を施行した。2nd look surgery後の経過は良好でCVリザーバーを留置し退院した。
  • 橋本 拓造, 板橋 道朗, 曽山 鋼一, 谷 英己, 神戸 知充, 柴田 亮行, 小林 槇雄, 亀岡 信悟
    2008 年 28 巻 4 号 p. 607-611
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性。下血・腹痛を主訴に入院した。注腸造影で左結腸曲に蟹爪状所見,CTで同部に4cm大の脂肪と同密度の腫瘍を認めた。大腸内視鏡で腫瘍表面はびらんと潰瘍を呈し,pillow signとcushion signは陰性であった。脂肪腫による腸重積症が疑われたが,腹部所見は軽微で腹膜刺激症状を認めないため待機手術とし,後日,結腸部分切除を行った。左結腸曲で横行結腸が下行結腸に軽度嵌入していた。腫瘍は4cm大で粘膜下層に局在し,病理学的に脂肪腫と診断された。大腸脂肪腫は慢性的機械刺激によりその表面に炎症性変化が起きると,典型的所見を示さない場合があり,CTをはじめ各種検査の総合的判断が重要である。一方で脂肪腫は本来弾性に富む腫瘍であるため,術前重積解除例や重積が継続した状態にあっても症状軽微な症例があり,腹部所見を観察しつつ症例に応じて待機手術の選択を考慮すべきと考えられた。
  • 中川 淳一郎, 李 兆亮, 布施 貴司, 室谷 卓, 伏見 知浩, 渡部 貴士, 野村 文彦, 田原 憲一, 呉 教東, 山吉 滋, 小玉 ...
    2008 年 28 巻 4 号 p. 613-616
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    小児の異物誤飲は日常的に遭遇する疾患であるが,通常多くの異物は自然排泄される。今回,大量誤飲されたおもちゃの磁石が消化管内でループを形成し,滞留した症例を経験したので報告する。患者は11歳,男児。既往歴:自閉症。10日くらい前から嘔吐,上腹部痛が出現し,近医で内服加療を受けていたが,症状が持続するため当院に紹介となった。来院時の腹部単純X線写真で,上腹部に多数の金属棒を認めループを形成していた。X線写真所見と異物誤飲の既往歴より,異物はおもちゃの磁石と考えられた。内視鏡下に胃に穿通した8本の磁石を除去した。小腸内に残存した6本の磁石は腹部X線写真で経過観察し,自宅退院後の第21病日自然排泄を確認した。複数個の磁石誤飲では,消化管の穿通・穿孔などをきたす危険な異物となりうるため,可能な限り内視鏡的摘出を試み,できない場合には厳重な経過観察を行うべきと考えられる。
  • 中川 陽史, 弥政 晋輔, 松田 眞佐男
    2008 年 28 巻 4 号 p. 617-620
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    穿孔をきたした急性胃軸捻転症の1例を経験した。症例は72歳の男性。腹部膨満,腹痛を主訴に近医より紹介された。腹部単純X線検査およびCT検査にて,著明に拡張した胃泡と横行結腸の走行異常が認められた。内視鏡検査で胃の変形が強く幽門部までは観察できなかったが,噴門部に胃穿孔が認められ,緊急手術となった。胃は捻転,拡張しており,捻転を整復すると体上部小弯が壊死に陥りその一部に穿孔部を認めた。急性長軸性胃軸捻転症に続発した胃部分壊死,胃穿孔およびそれに伴う汎発性腹膜炎と診断し,胃全摘術を施行した。急性型の胃軸捻転症は血流障害を起こすことがあり迅速な診断が必要である。
  • 中山 智英, 伊藤 清高, 竹本 法弘, 鈴木 雅行
    2008 年 28 巻 4 号 p. 621-624
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    86歳の男性。2007年6月,発熱・腹痛を主訴に当院救急外来を受診。上腹部中心の圧痛,Murphy's signを認め,腹部エコーおよび腹部CTで最大径が8cmに腫大した胆嚢が確認された。胆石は認めず,急性無石胆嚢炎の診断で入院となった。翌日,腹部症状は改善せず,再検した腹部エコーおよび腹部CTで,胆嚢周囲および胆嚢内の気腫像を認め,急性気腫性胆嚢炎の診断でただちに開腹胆嚢摘出術を施行した。術後病理検査でも,壊死した胆嚢壁の粘膜下に空胞を伴う気腫性胆嚢炎の所見であった。術後経過は良好で,術後10日目に退院した。無石胆嚢炎は通常の胆石胆嚢炎と比較し,気腫性胆嚢炎への移行や壊死・穿孔の確率が高く重症化しやすい疾患である。急性無石胆嚢炎に対しては,発症早期から症状の変化はもとより,画像検査を繰り返し行い,気腫性変化を見逃さずに診断・外科的治療を確実に行うことが重要と考え,本症例を報告する。
  • 又木 雄弘, 新地 洋之, 野間 秀歳, 蔵原 弘, 高尾 尊身, 愛甲 孝
    2008 年 28 巻 4 号 p. 625-628
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    出血を繰り返す膵仮性嚢胞に対し,interventional radiology(以下,IVR)による止血と根治手術を行った1例を経験した。症例は56歳,男性。上腹部痛を主訴に来院した。嚢胞内出血を伴う膵仮性嚢胞を指摘され,血管造影を施行した。左胃動脈の分枝に仮性動脈瘤を認めたため,塞栓術を施行し止血した。しかし,出血部近傍の動脈より再度嚢胞内出血を認め,再塞栓術を施行した。明らかな出血は3回あり,嚢胞径は出血後に大きくなり,止血が得られると縮小した。繰り返す出血性膵仮性嚢胞に対し,IVRによる止血を行うことで嚢胞が縮小し,炎症が軽快した時点で膵体尾部切除術を施行し得た。膵仮性嚢胞内出血は繰り返す可能性があり,嚢胞を含めた膵切除術が根治的であるが,IVRを行うことで出血をコントロールし,かつ嚢胞が縮小化した状態で待機的に手術し得る利点がある。
  • 栃井 航也, 二村 直樹, 安村 幹央, 島本 強, 堀谷 喜公
    2008 年 28 巻 4 号 p. 629-632
    発行日: 2008/05/31
    公開日: 2008/07/01
    ジャーナル フリー
    虫垂炎に盲腸癌を合併することはまれなことであり,それを術前に診断することは困難である。今回われわれは,虫垂炎のためと考えられる腹痛で発症し,術前に盲腸癌の確定診断,または疑い診断をしえた虫垂炎合併盲腸癌4例を経験したので報告する。男女比は3:1で男性に多く,平均年齢67.3歳であった。主訴は全例,右下腹部痛で,病悩期間は平均2週間であった。全例で腹部超音波検査およびCT検査により,回盲部の腫瘍性病変の合併が疑われ,CEAを追加測定した。3例でCEAの上昇を認めた。術前,術中に盲腸癌と診断し,全例で一期的に根治術を施行できた。術前に腫瘍性病変の存在を疑った場合は,CEAの測定が診断に有用であると考えられた。中高年の虫垂炎症状を呈した症例の場合,盲腸癌の存在を念頭におき,術前,術中の十分な検索が必要と思われた。
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