日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
29 巻, 5 号
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原著
  • 小杉 千弘, 安田 秀喜, 幸田 圭史, 鈴木 正人, 山崎 将人, 手塚 徹, 樋口 亮太, 平野 敦史, 植村 修一郎, 土屋 博紀
    2009 年 29 巻 5 号 p. 697-702
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    大腸穿孔緊急手術症例のリスクマネージメントとして,2001年9月から2007年10月までに大腸穿孔にて緊急手術施行した35例を対象とし,術後死亡率についてAPACHEII,SOFA,POSSUMの各スコアによる評価を施行した。死亡率は全体で8例(22.6%)だった。患者背景,手術方法において生存群と死亡群で有意差は認めなかったが,APACHEII,SOFA,POSSUMによる評価では,S状結腸から直腸の穿孔例でPOSSUMスコア(死亡群:生存群=64.4±11.4:52.7±8.2,p=0.041)が有意に死亡例にて高かった。カットオフ値を使用し各スコアのaccuracyを求めると,SOFAは88.4%,POSSUMは76.9%だった。【結語】大腸穿孔症例に関する評価法は,特にS状結腸から直腸穿孔では,SOFAとPOSSUM の両スコアによる評価が死亡に関する評価法として適しており,術後集中治療管理指針やInformed consentにおいても有用な指標として考えられた。
  • 寿美 哲生, 勝又 健次, 園田 一郎, 石崎 哲央, 野村 朋壽, 土田 明彦, 島津 元秀, 青木 達哉
    2009 年 29 巻 5 号 p. 703-707
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    【目的】絞扼性イレウスの補助診断法としてSystemic Inflammatory Response Syndrome(以下,SIRS)の有無による有用性を検討する。【対象】2001年1月から2007年12月の間に,イレウスと診断し手術を施行した72例を対象とした。【方法】手術所見で絞扼群27例,単純群45例に分類した。この2群間で,背景因子,SIRSの有無,治療前の血液検査所見,バイタルサインを,後ろ向き研究方法で比較した。【結果】単変量解析ではSIRSの有無,白血球数,血小板数,CRP,クレアチニン,PaCO2,BE,酸素化指数(PaO2/FiO2:以下,PF比),平均血圧,脈拍数,中枢神経系に統計学的有意差を認めた。多変量解析ではSIRSの有無,CRP,BE,PF比が選択され,SIRSの有無は,唯一有意な独立した因子であった。【結語】SIRSの有無は絞扼性イレウスの補助診断法として高い価値を認めた。臨床所見で絞扼性イレウスを疑い,SIRS,CRP,BE,PF比の異常所見を認めた場合は,絞扼性イレウスの高危険群である。
特集:腹部救急における敗血症の病態と治療戦略―特に血液浄化療法について―
  • 辻本 広紀, 平木 修一, 木下 学, 愛甲 聡, 小野 聡, 山本 順司, 長谷 和生
    2009 年 29 巻 5 号 p. 711-715
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    sepsisに派生する免疫抑制状態は,時に重篤な多臓器障害を併発するため,それらの病態形成メカニズムの解明やそれに基づいた対策が重要である。そこでsepsisに続発する免疫抑制状態に関して,制御性T細胞(以下,Treg)の役割に着目して,最近の文献および著者らの検討結果を概説した。TregはCD4+CD25+Foxp3+などの特徴を有し,ほかのT細胞の増殖・活性化を強力に抑制すると考えられている。sepsis患者や腹膜炎マウスの末梢血では,Tregの割合が著明に増加しており,この増加がsepsisにおける免疫抑制状態に深く関与しているものと考えられる。抗IL-10抗体や抗TGF-β抗体投与は,腹膜炎マウスで認められるTregの増加を阻害することができ,さらに抗TGF-β抗体投与により予後が改善した。sepsisに派生する重篤な免疫抑制状態に対して免疫学的特徴,特にTregに着目したimmunomodulation therapyは,今後sepsisの救命率向上に向けた新たな治療法となりうるものと考えられる。
  • 岡本 好司, 長門 優, 田村 利尚, 日暮 愛一郎, 山口 幸二
    2009 年 29 巻 5 号 p. 717-722
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    炎症が感染によって全身に波及した状態が敗血症である。炎症と凝固の密接な関係がある。活性化型血液凝固第X因子(Xa)や,thrombin,tissue factor(TF)-VIIa 複合体は,向炎症作用をもたらし,fibrinogenやfibrinは,凝固とは直接的に関与しない宿主防御反応の役割を果たす。さらには敗血症の病態には白血球エラスターゼのような非特異性蛋白分解酵素の関与が以前より指摘されてきた。白血球エラスターゼにより分解される可能性を指摘されている血中のvon Willebrand factor(以下,vWF)切断酵素であるADAMTS13は,血管内皮上でvWFを至適なサイズに切断することにより,血小板凝集活性を制御している。ADAMTS13が敗血症性DIC症例で低下していることが証明され,このような症例では腎機能障害も合併していると報告されている。HMGB1はエンドトキシン血症時の後期かつ致死的メディエータであり,これらがDICや臓器障害を引き起こす。HMGB1は,TMにより制御することが可能であり,動物モデルにてrTMは敗血症の良い治療薬となる可能性を示した。敗血症では密接に連関している炎症と凝固の双方を同時に治療することが,良い効果を生むと考えられる。
  • 平木 将紹, 三好 篤, 佐藤 清治, 橋口 和義, 中房 祐司, 宮崎 耕治
    2009 年 29 巻 5 号 p. 723-727
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    プロカルシトニンは全身性細菌感染,敗血症などで選択的に誘導される新たな炎症マーカーとして注目されている。2002年6月から2008年4月の間,敗血症に対しPCT値を測定した45例を対象としてPCT値2.0ng/mL未満を陰性群(14例),2.0ng/mL以上を陽性群(31例)に分け,各種血液検査,敗血症の重症度との関連を検討した。PCT陽性群ではSOFAスコアやGorisスコアが有意に高く,SOFAスコアの臓器項目別では,血圧低下症例やPF ratio,血清ビリルビン値,血小板数,血清クレアチニン値の悪化した症例を有意に多く認めた。PCT陽性群では有意差をもってPMX-DHPを施行しており,PCT陰性群では全例PMX-DHPを施行せず全例救命可能であった。PCT陰性群ではPMX-DHPが非適応となる可能性が示唆された。PCT値を測定することにより,敗血症診断や重症度診断,さらにPMX─DHP適応の補助判断が可能であり,治療方針の決定に有用であると考えられた。
  • 阪本 雄一郎, 益子 邦洋, 小幡 徹, 横田 裕行
    2009 年 29 巻 5 号 p. 729-733
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    【背景】APACHEIIスコア20以上の腹膜炎症例の転帰が,術後3時間以内のpolymyxin B-immobilized fiber column-Direct hemoperfusion (PMX-DHP) 施行例で良好であった自験データを基に,われわれは術後3時間以内にPMX-DHPを施行している。【対象と方法】PMX-DHPを施行したAcute physiology and chronic health evaluation (APACHE) IIスコアが20以上の腹膜炎症例13例を対象とし,術後3時間以内のPMX-DHP施行の有用性を検討した。また,救命群と死亡群に分けPMX-DHP施行前のmobility group box protein 1 (HMGB1z),N-arachidonoylethanolamine (AEA),2-arachidonoylglycerol (2-AG),interleukin-6 (IL-6),plasminogen activator inhibitor (PAI-1),プロテインC値を比較検討した。【結果】平均APACHE II scoreが28.4と高値にも関わらず救命率は69.2%と良好であった。救命群と比較して死亡群ではPAI-1値およびHMGB-1値が高くプロテインC値が低い傾向を認めた。【結語】腹膜炎症例に対する術後PMX-DHPの施行タイミングは,術後3時間以内の施行で比較的良好な結果であった。PMX-DHP施行前のPAI-1,HMGB-1およびプロテインC値は予後予測因子となりうる可能性が示唆された。
  • 鈴木 泰, 小鹿 雅博, 高橋 学, 佐藤 信博, 遠藤 重厚
    2009 年 29 巻 5 号 p. 735-738
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    重症敗血症や敗血症性ショックは救急領域でも最も重篤な病態を呈する疾患である。今回われわれは,サイトカイン吸着カラムを用いた血液浄化法でこの重篤な疾患に対して臨床試験として治療を行った。重症敗血症の18名(サイトカイン吸着群9名,対照群9名)を対象として行い,APACHEIIスコアについてはサイトカイン吸着施行群のほうが対照群より7日目で有意に改善を認めた(P=0.018)。また,サイトカイン吸着群において,7日後のIL─6とIL─8については有意な低下をみたが(p=0,0464),対照群との比較は治験プロトコールの採血ポイント不足で比較できなかった。当施設のみのデーターであるが,重症度改善が認められており,今後変更された治験プロトコールでの結果が期待される。
  • 中田 孝明, 織田 成人, 松田 兼一, 貞広 智仁, 仲村 将高, 平山 陽, 安部 隆三, 立石 順久, 平澤 博之
    2009 年 29 巻 5 号 p. 739-745
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    腹部救急患者の各種重症病態においてサイトカインをはじめとするhumoral mediatorsは重要な役割を果たす。なかでもseptic shockは,高サイトカイン血症を呈する代表的病態である。われわれは重症救急患者に対し,高サイトカイン血症の程度を把握するために,IL-6血中濃度を迅速測定システムを用いて測定している。そしてそのIL-6血中濃度を重症度評価やPMMA-CHDFなどの各種治療の効果判定の判断の指標として用いている。一方,polymethylmethacrylate(以下,PMMA)膜hemofilterを用いた持続的血液ろ過透析(PMMA-CHDF)は主にhemofilter膜への吸着により効率的に,持続的に血中よりサイトカインを除去し得る。そこで今回PMMA-CHDFを施行したseptic shock 43症例を検討し,その有効性を評価した。その結果,PMMA-CHDF導入後,早期より循環動態の改善,尿量の増加を認めた。またPMMA-CHDF導入後,septic shock患者のIL-6血中濃度を指標とした高サイトカイン血症および血中乳酸値を指標としたdysoxiaの改善が認められた。これらよりseptic shockに対してPMMA-CHDFの早期施行は有効と考えられた。
  • 江口 豊
    2009 年 29 巻 5 号 p. 747-751
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    敗血症の予後を改善する目的でSurviving Sepsis Campaign Guidelines(SSC)が発表されているが,本邦で広く行われているDICの診断・抗凝固療法や急性血液浄化はSSCでは推奨されていない。われわれは集中治療室で管理・治療した重症敗血症20症例に対し,DIC15例にアンチトロンビン製剤を中心とする抗凝固療法と,12例に持続的血液濾過透析,エンドトキシン吸着療法,Plasma Dia─filtrationなどの各種急性血液浄化を行い,ICU入室時の予測死亡率67.6±19.1%が実際には25%(5例)であった。以上より,SSCを遵守しつつ早期からのDIC診断・治療や病態に応じた適切な急性血液浄化法を組み合わせることで敗血症の救命率はさらに向上できるものと考えられる。
症例報告
  • 村岡 孝幸, 大橋 龍一郎, 徳毛 誠樹, 岡 智
    2009 年 29 巻 5 号 p. 753-756
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    症例は76歳女性。心窩部痛と嘔吐を主訴に前医を受診し,当院へ紹介となった。CTで門脈の右尾側から背側を経由し網嚢内に脱出した小腸を認めた。Winslow孔ヘルニア嵌頓と診断し,発症42時間後に緊急手術を施行した。腹腔鏡観察にて中等量の血性腹水を認めた。腸管切除を含めた操作が必要になると判断し,上腹部正中切開による開腹に移行した。Treitz靭帯より270cmから340cmの回腸が嵌頓しており,同部をWinslow孔から用手的に引き出した。腸管は著明に鬱血していたが,嵌頓解除後速やかに色調の改善を認めたため結局切除を行わなかった。ヘルニア門は2横指で,3針の縫縮を行った。経過良好で術後12日目に退院した。ヘリカルCTによってヘルニア門の正確な術前診断が可能であった。
  • 上月 章史, 篠崎 浩治, 加瀬 建一, 小林 健二
    2009 年 29 巻 5 号 p. 757-761
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    症例は43歳,男性。嘔吐,下血を主訴として当院の救急外来を受診した。軽度の貧血を認め,緊急上部消化管内視鏡検査を行ったが出血源は認めず,精査加療の目的で入院となった。腹部造影CT上,左胃大網動脈と上腸間膜動脈の分枝を栄養血管とし,造影効果を有する約8cm大の腫瘤を認めた。下部消化管内視鏡検査を施行したが明らかな出血源や腫瘤性病変を認めなかった。入院後は下血を認めなかったため,経口摂取を開始したところ,再度,下血を認めた。出血を伴う大網由来の腹部腫瘤の診断で開腹手術を行った。手術ではTreitz靭帯より約2m肛門側の空腸に10cm大の腫瘤を認め,腫瘤に大網が付着し,同部に栄養血管を認めた。小腸腫瘍の診断で小腸部分切除術を施行した。腫瘍は小腸粘膜面に潰瘍を形成しており,出血源と考えられた。病理診断ではKIT・CD34ともに陽性の小腸GISTの診断であった。左胃大網動脈からの血管は腫瘍への寄生動脈と考えられた。
  • 下地 克正
    2009 年 29 巻 5 号 p. 763-765
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    腸間膜脂肪織炎は,腸間膜脂肪織に生じる非特異的炎症疾患で,比較的予後良好な可逆的な疾患である。今回,われわれは腹部CTで診断し,保存的に加療しえた1例を経験したので報告する。症例は51歳の男性で左上腹部痛を主訴に来院.WBCは11,200,CRPは15.6と炎症所見を認めた。腹部超音波検査では高エコー像を呈した腹腔内腫瘤を認めた。腹部CTでhigh densityな腫瘤性病変を認め,腸間膜脂肪織炎と診断した。保存的加療を行い症状が改善したため第7病日に軽快退院となった。その後,再発は認めなかった。腹部症状があり,腹部CT検査で腹腔内腫瘤を認めた場合,本疾患も念頭に置く必要があると考えられた。
  • 小杉 千弘, 安田 秀喜, 幸田 圭史, 鈴木 正人, 山崎 将人, 手塚 徹, 樋口 亮太, 平野 敦史, 植村 修一郎, 土屋 博紀
    2009 年 29 巻 5 号 p. 767-771
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    症例は50歳代,男性。2007年7月脚立より転落し当院救急外来受診。腹部造影CT検査で,上腸間膜静脈近傍からの出血を指摘し得たため,緊急開腹手術施行。腹腔内に大量の出血を認め,中結腸静脈が,上腸間膜静脈へ流入する部位で切断されていた。上腸間膜静脈側の中結腸静脈根部の結紮止血は困難と判断しdamage control surgery(以下,DCS)としてガーゼパッキング施行。手術3時間後に腹腔内再出血出現し,開腹にて腹腔内の動脈性出血を認めたためガーゼパッキング追加し,腹部血管造影検査施行。左胃大網動脈からの出血を確認しtranscatheter arterial embolization(以下,TAE)施行し止血。36時間後にパッキングガーゼを除去し,救命し得た。外傷性腹腔内血管損傷は救命困難となる症例も多いが,DCSやTAEを複数の専門科で行うことで救命し得た。
  • 加藤 悠太郎, 菊池 潔, 露木 晃
    2009 年 29 巻 5 号 p. 773-776
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,女性。汎発性腹膜炎に対する緊急開腹術を施行し,S状結腸直腸移行部の非腫瘍性穿孔と診断した。Hartmann氏法による穿孔部切除・人口肛門造設および虚血が疑われた回腸の部分切除・吻合を施行した。術後は敗血症・systemic inflammatory response syndromeによる呼吸循環不全,腎不全,高度黄疸を伴う急性肝機能障害,播種性血管内凝固症を呈したが,持続血液濾過透析およびエンドトキシン吸着療法を中心とした集中治療が奏功し,術後約1ヵ月で多臓器不全から離脱した。しかし術後黄疸は約1年遷延し,その原因として肝不全ではなく,肺炎・膿胸・創感染そして深在性真菌症等の長期感染症の関与が示唆された。特に真菌症の活動性は術後晩期の黄疸の推移によく対応していた。大腸穿孔重症例では,血液浄化療法の併用とともに,持続感染症とくに深在性真菌症への対応が重要である可能性が示唆された。
  • 安藤 晴光, 磯谷 正敏, 原田 徹, 金岡 祐次, 亀井 桂太郎, 前田 敦行, 高橋 祐, 上遠野 由紀
    2009 年 29 巻 5 号 p. 777-780
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    ステロイド内服中に発症した後腹膜気腫を伴う腸管嚢腫様気腫症の1手術例を報告する。症例は86歳の女性で,腹痛,背部痛を主訴に近医を受診し,腹部CTで後腹膜にガス像認め消化管穿孔の疑いで当院救急外来を紹介受診した。既往歴は25年前から関節リウマチの診断でプレドニゾロン5mg/day内服加療中であった。腹部の理学的所見では心窩部に筋性防御および反跳痛を認めた。腹部所見とCT所見から消化管穿孔と診断し緊急手術を施行した。術中所見では消化管穿孔は認めず,腸間膜の嚢腫様気腫,十二指腸水平部の壁内気腫および,後腹膜気腫を認めた。以上の所見から腸管嚢腫様気腫症と診断し,試験開腹のみを行った。術後経過良好で術後第26病日退院し,術後6ヵ月経過した現在再発なく生存中である。
  • 川口 清, 瀬尾 伸夫, 太田 圭治, 浦山 雅弘, 藤本 博人, 山岸 岳人, 小松 多未笑
    2009 年 29 巻 5 号 p. 781-784
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    非閉塞性腸管虚血症,門脈ガス血症ともに致死率が高いとされているが,さらに腸管気腫症を伴う症例を救命し得たので報告する。症例は70代前半の男性。既往歴は糖尿病,高血圧。脳内出血の右半身麻痺にて当院脳外科に入院し,リハビリテーションと経管栄養中に腹痛が出現。ショック状態となり,外科に紹介された。MDCTで門脈ガス血症があり,上行結腸と小腸の一部に壁の菲薄化,気腫を認め,造影効果は不良であった。主要な血管に血栓所見はなく,壊死型虚血性腸炎と診断し,十分な輸液後,開腹手術を施行した。空腸は分節的に数箇所炎症所見を認め,回腸と右側結腸は一部に腸管気腫を伴う高度の炎症所見を認めた。この時点で非閉塞性腸管虚血症と診断した。小腸の広範囲と右側結腸を切除し,小腸横行結腸吻合を施行。残存小腸は約1mとなった。病理の結果は非閉塞性虚血性腸炎と診断された。術後にエンドトキシン吸着を施行。術後は第40病日に転科した。
  • 砂川 宏樹, 大城 直人
    2009 年 29 巻 5 号 p. 785-788
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    腫瘤内出血を伴った,後腹膜静脈性血管奇形を経験したので報告する。 症例は38歳女性で,2008年4月右側腹痛を自覚し,近医を受診した。急性胆嚢炎の疑いにて当院紹介となった。 来院時には頻脈と血圧の低下があった。 腹部造影CT検査では右腎上極に最大径20cmの造影効果を認めない巨大腫瘤を認めた。特発性副腎出血の可能性があり,同日緊急で血管撮影検査を施行した。血管撮影検査では腫瘤辺縁の一部に濃染はみられたが,明らかな出血源はなかった。そこで,腫瘤辺縁への流入血管を塞栓化した。その後,血中・尿中カテコラミン3分画,副腎シンチグラフィー検査を施行したが,副腎腫瘍との鑑別は困難であった。そのため開腹手術を施行したが,腫瘤は右腎上極・肝下面・下大静脈の間に存在し、癒着を認めた。右副腎を合併切除し,腫瘤摘出術を施行した。腫瘤内には1,500mLの血腫を認め,腫瘤最大径は15×17cmであった。病理組織学的検査では,静脈性血管奇形と診断された。
  • 三井 章, 桑原 義之, 木村 昌弘, 石黒 秀行, 小川 了, 堅田 武保
    2009 年 29 巻 5 号 p. 789-792
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    【症例】85歳,男性。【主訴】食思不振,腹痛,嘔吐。【既往歴】腎機能障害,下肢静脈血栓症,転落による左肋骨骨折。【現病歴】数日間の食思不振に続き,腹痛,嘔吐が出現したため,本院を受診した。検査所見,既往歴から遅発性外傷性横隔膜ヘルニアの嵌頓と診断し,緊急手術を行った。横隔膜に異常裂孔が存在し,結腸脾彎曲部と大網が嵌入していた。嵌入していた結腸の口側端に裂孔の圧迫に一致して,線状の壊死がみられた。さらに,その口側の拡張した結腸(約20cm)の色調が不良であったため,壊死部から連続して摘出した。肛門側は閉鎖し,口側は人工肛門とした。裂孔は単純縫合閉鎖した。術後経過は問題なく術後28日目に退院した。今回,遅発性外傷性横隔膜ヘルニア嵌頓の1例を経験したので文献的考察を加え報告する。
  • 片野 素信, 後藤 悦久, 春日 照彦, 春日 信弘, 田渕 崇伸, 竹村 晃, 佐谷 徹郎, 川崎 俊一, 中田 一郎, 田渕 崇文
    2009 年 29 巻 5 号 p. 793-796
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    症例は82歳女性。腹痛,腹部膨満にて外来を受診,腹部X線写真にて巨大結腸ガス像を認めた。患者は,数年前より便秘症を主訴に通院内服加療をしており,S状結腸軸捻転症にて数回の整復を行っていた。当初,今までと同様に大腸内視鏡による整復を試みるも改善せず,腹部は緊満状態であり,S状結腸軸捻転症に伴う絞扼性イレウスと判断し,緊急開腹術となった。正中切開にて開腹,S状結腸が反時計まわりに約270度の捻転を呈し,著明に拡張,絞扼されていた。徒手的に整復し検索すると上行結腸から下行結腸にかけて後腹膜に固定されておらず,小腸と共通の腸間膜をもつ総腸間膜症の状態であった。整復後も腸管の循環障害が顕著にて腸管吻合は困難と判断し,拡張腸管の切除,人工肛門造設術となった。術後は経過良好にて14日目に退院となった。
  • 西 鉄生, 大屋 久晴, 永田 二郎, 伊藤 昭宏
    2009 年 29 巻 5 号 p. 797-801
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/08
    ジャーナル フリー
    症例は20歳男性。5日前より持続する右下腹痛と嘔吐を主訴に来院した。初診時右下腹部に圧痛を認め,腹部単純X線では上行結腸付近に類円形の透亮像を複数認めた。腹部CTにて腸重積と診断され,ガストログラフィンを用いた高圧浣腸にて腸重積を整復した。整復後,大腸内視鏡検査を施行したところ上行結腸に粘膜下腫瘍に類似した表面平滑な隆起性病変が多発していた。直後に施行した腹部CTにて腸管壁内に沿った気腫を認め,腸管嚢腫様気腫症に伴う腸重積と診断した。腸重積整復後,症状が消失したことから保存的治療の適応と判断し,酸素投与を行った。腸管壁内気腫は10日後に施行した腹部CTにて減少,縮小しているのが確認され,腹部単純X線でも透亮像の縮小を認め,第21病日に退院となった。
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