日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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29 巻, 6 号
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原著
  • 上月 章史, 篠崎 浩治, 高里 文香, 小林 健二, 加瀬 建一
    2009 年 29 巻 6 号 p. 815-822
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    孤立性上腸間膜動脈解離(以下,孤立性SMA解離,SMA:Superior Mesenteric Artery)は比較的まれな疾患であり,急性腹症から慢性的な腹痛や無症状のものまで症状は多彩であり,診断は困難なことが多い。また急性期および長期的な治療方法についても,一定の見解は得られていない。今回,われわれは1998年1月から2008年12月までの間に経験した,10例の孤立性SMA解離を検討した。平均年齢は55歳(41~74歳)。男性9例,女性1例。急性例9例,慢性例1例。高血圧の既往を2例に,喫煙歴を9例に認めた。5例に抗凝固剤による保存的加療を施行し,4例には入院による安静,降圧もしくは外来加療を施行し,1例に血管内治療を施行した。長期的な抗凝固剤・抗血小板剤の投与を継続したのは3例であった。平均観察期間は4年(10ヵ月~10年2ヵ月)であり,再発症例は認められなかった。われわれが経験した症例では手術を要した症例はなく,全例が保存的治療により軽快した。
  • 亀田 徹, 高橋 功
    2009 年 29 巻 6 号 p. 823-827
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    【目的】救急外来において急性虫垂炎に対する携帯型装置を用いた超音波検査(携帯超音波)の有用性について検討した。【対象・方法】救急外来で急性虫垂炎が疑われ,筆頭著者により携帯超音波が施行された33例中,携帯超音波の後に腹部 CTもしくは手術が施行された 24例を対象とした。携帯超音波による急性虫垂炎の診断精度について検討した。【結果】CTは 22例,手術は 12例に施行された。最終診断は急性虫垂炎18例,回腸末端炎 2例,骨盤腹膜炎 2例,憩室炎 1例,尿管結石 1例であった。携帯超音波の精度は感度 78%,陽性的中率100%であった。CTで腫大虫垂が確認できた15例中,腹壁から腫大虫垂までの最短距離が40mm未満は11例で,そのうち10例(91%)は携帯超音波で腫大虫垂が描出された。【結語】携帯超音波は急性虫垂炎の拾い上げに有用な可能性はあるが,その確証を得るにはさらなる検討が必要である。
  • ─予防的ドレーン挿入の再検討─
    小鹿 雅博, 佐藤 信博, 八重樫 泰法, 高橋 学, 秋冨 慎司, 星川 浩一, 青木 毅一, 吉川 智宏, 井上 義博, 若林 剛, 遠 ...
    2009 年 29 巻 6 号 p. 829-834
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    汎発性および限局性腹膜炎の手術において予防的ドレーン挿入は意義が不明なまま慣習化している。2002年4月から2006年1月までに岩手県高度救命救急センターで施行した消化管穿孔による,汎発性および限局性腹膜炎手術で一期的に閉腹した126例を対象としドレーン挿入の必要性について検討した。対象を2002年4月から2004年12月までの術中腹腔内洗浄およびドレーン挿入にて閉腹した群(D群)79例と,2005年1月以降の術中腹腔内洗浄のみで閉腹した群(ND群)47例の2群に分類しretrospectiveに検討した。all overの合併症発生率はD群67%,ND群42%(p=0.0070)だった。入院期間はD群21.3±9.7日,ND群17.8±9.0日(p=0.03)だった。感染源と穿孔部をコントロールできた腹膜炎手術における予防的ドレーン挿入は有用性がない可能性があり,再考を要する。
特集:高齢者腹部救急疾患の問題点
  • 福田 直人, 杉山 保幸
    2009 年 29 巻 6 号 p. 837-841
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    2000年1月から2008年12月まで,当院外科に入院した80歳以上高齢者の急性腹症67例に関して臨床的検討を加えた。患者背景として内科的併存疾患が48例(71.6%)に認められた。47例(70.1%)に手術療法が行われた。合併症は19例(28.4%)に発生し,SSIと肺炎が各7例と多くを占めた。転帰は軽快57例(85.1%),死亡10例(14.9%)であった。死亡10例のうち4例が原病死,6例が他病死(誤嚥性肺炎2,窒息1,突然死1,腎不全1,癌1)であった。ADL不良例では有意に死亡率が増加していた。また内科的併存疾患陽性例および合併症発現例では有意に入院期間延長していた。80歳以上の高齢者急性腹症例でも,重篤な基礎疾患がなく,かつ全身状態が不良でなければ積極的に手術療法を考慮すべきであると考えられた。
  • 黒田 武志, 小山 隆司, 栗栖 茂, 梅木 雅彦, 北出 貴嗣, 大石 達郎, 高橋 英幸
    2009 年 29 巻 6 号 p. 843-847
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    1985年4月から2007年8月までに兵庫県立淡路病院で経験した,80歳以上の高齢者腹部緊急手術症例計485例を,同時期の70歳台腹部緊急手術症例629例と比較検討した。また1998年12月までの前期(287例)と1999年1月からの後期(198例)に分けての検討も同時に行った。平均年齢は85歳(最高齢99歳)。疾患別ではイレウスが後期で増加しており,その原因の54.5%が大腸癌であった。腸間膜血管閉塞症は70歳台と比較すると高頻度に認められた。術後死亡退院症例は61例(13.1%)であり,心血管系疾患に起因する腸間膜血管閉塞症や腹部大動脈瘤破裂が前後期を通して高い死亡率であった。高齢者に特有の死亡原因として,術後に重篤な脳・心血管障害の発症が認められた。術後合併症により再手術を受けた症例は全例死亡しており,回避する対策が重要である。また,高齢者では心血管疾患の併存が高頻度であることに注意し診断と治療を行う必要がある。
  • 佐々木 純, 難波 義知, 松原 猛人, 成原 健太郎
    2009 年 29 巻 6 号 p. 849-854
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    2002年から2008年までの7年間に当院に搬送された80歳以上の高齢者の腹部救急疾患にて手術を行った35例について検討した。高齢者の手術症例では,術前併存症あり89%,術後合併症74%と多く,死亡率も28.6%と高率であった。術前併存症では循環器系,悪性腫瘍,糖尿病が多く,術後の合併症としては肺炎,無気肺,心不全,不整脈,せん妄,創部離開が多く認められた。臓器不全に対するサポートも人工呼吸器,血液浄化法,カテコラミン使用など,多く使用されていた。
  • ─POSSUM scoreによる予後予測─
    竹林 隆介, 出石 邦彦, 井上 達史, 柿木 啓太郎, 萩池 昌信, 岡野 圭一, 臼杵 尚志, 鈴木 康之
    2009 年 29 巻 6 号 p. 855-860
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    【目的】高齢化社会を迎え,女性の平均寿命が86歳となった現在,高齢者の定義は70歳以上から変わりつつある。今回われわれは,当院の80歳以上腹部緊急手術症例についてretrospectiveに検討した。【対象】1990年から2008年12月に経験した80歳以上の高齢者の腹部緊急手術症例43例(平均85歳,男18例,女25例)を対象とし,POSSUM scoreを中心に検討した。【結果】術後死亡は6例で,術後合併症は30例に認めた。合併症なし13例と比較すると,POSSUMの術前身体スコアーは34:24(合併症あり群:なし群),手術侵襲スコアーは19:15,予測合併症発生率は89.4%:62.5%,予測死亡率は55.2%:18.7%と全てにおいて有意差を認めた。予測合併症発生率を70%以上と未満で区切った場合,実際の術後合併症発生率は90.6% vs 9.1%と差を認めた。【結語】高齢者腹部緊急手術例において,POSSUM scoreによる予測合併症発生率を70%にcut off値を設定することで,術後合併症の発生予測に有用性があることが示唆された。
  • 鈴木 修司, 小池 伸定, 原田 信比古, 鈴木 衛
    2009 年 29 巻 6 号 p. 861-866
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    高齢者の多くは合併症を有し,予備能も低く,重症化する場合も多い。対象は2001年から2007年までに高齢者胆道炎に対して外科的治療を施行した106例である。『急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン』により分類し,検討した。なお高齢者は70歳以上とした。急性胆管炎症例は53例で,軽症13例,中等度32例,重症8例であった。軽症例は全例待機的手術,中等度症例は待機的手術27例,緊急手術1例,PTBD3例,ENBD1例後手術を施行した。重症例は2例にPTBD後手術,6例に緊急手術を施行した。急性胆嚢炎症例は53例で,軽症20例,中等度14例,重症19例であった。軽症・中等度症例はPTGBD 1例,胆石イレウス1例を除き待機的手術を施行した。重症症例で胆嚢周囲膿瘍6例はPTBD後手術,壊疽性胆嚢炎7例は緊急手術,他は待機的手術を行った。高齢者胆道炎はガイドラインの推奨に沿った治療は困難なことも多く,個々の状態に合わせた治療が必要である。
  • ─教室での高齢者大腸穿孔例の検討─
    片山 真史, 櫻井 丈, 大坪 毅人
    2009 年 29 巻 6 号 p. 867-872
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    高齢化によって大腸穿孔の原因である大腸癌や大腸憩室の罹患率は増加傾向にあり,日々の診療において大腸穿孔を経験する機会は増加している。大腸穿孔は穿孔直後より bacterial peritonitisを引き起こし,敗血症や多臓器不全などの重篤な状態に陥りやすいため迅速な対応が要求される。特に高齢者ではより迅速な対応が必要となるが,腹膜炎症状を欠くこともあり診断に苦慮することもある。本稿では,教室での高齢者大腸穿孔の臨床的特徴を検討した。救命率は62.5%であり,発症後手術までの経過時間は救命例で有意に短かった。穿孔原因は大腸癌が最も多く,部位は S結腸が最多であった。術前のショック状態,白血球減少症,DICの直接死亡率はそれぞれ57.1%,62.5%,71.4%と高率であり,予後不良因子と考えられた。手術はHartmann手術が多く,約半数に PMXや CHDFなどの血液浄化療法が施行されていた。高齢者では全身の予備能力が低下しており,血液浄化療法などを併用した集中治療を行ったとしても,依然予後不良である。高齢者大腸穿孔の治療成績向上には,より迅速な診断・治療が要求される。そのためには,高齢者の特性を十分に認識し診療を行うことが肝要である。
  • 池内 浩基, 内野 基, 松岡 宏樹, 坂東 俊宏, 冨田 尚裕
    2009 年 29 巻 6 号 p. 873-877
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    手術時年齢が60歳以上の症例を高齢者手術症例と定義した。潰瘍性大腸炎(以下,UC)においては,高齢者手術症例は増加しており,最近は約10%の症例が高齢者であった。高齢者UC手術症例の問題点は,緊急手術症例の予後が極めて不良なことである。今回の検討では,緊急手術では8/21(38.1%)が,待機手術では1/67(1.5%)の症例が術死となっており,有意に緊急手術の予後は不良であった。一方,60歳未満の症例では緊急手術でも待機手術でも予後に関しては有意差を認めなかった。高齢者緊急手術症例の死亡原因としては,MRSAや真菌感染に由来する呼吸器感染症や敗血症が多くみられた。高齢者UCの重症・激症型の症例は,予備能力が小さく,緊急手術となると予後が不良なため,消化器内科医と外科医が緊密に連絡をとり,手術時期が遅れないようにすることが極めて重要であると思われた。
  • 山崎 将人, 安田 秀喜, 幸田 圭史, 鈴木 正人, 手塚 徹, 小杉 千弘, 今井 健一郎, 平野 敦史, 土屋 博紀, 腰野 蔵人
    2009 年 29 巻 6 号 p. 879-883
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    腹部緊急手術を施行した173例を対象に年齢層別(中年期67例,前期高年期43例,後期高年期63例)に術前併存症と医療費を検討した。術前併存症を有した症例は中年期27例40.3%,前期高年期34例79.1%,後期高年期60例85.7%と年齢が増すにつれ増加した。死亡率(術前併存症あり)は中年期11.1%,前期高年期14.2%,後期高年期22.6%と年齢が増すにつれ増加した。術前併存症なしの死亡は中年期,前期高年期では認められず,後期高年期で20%の死亡率で有意差を認めた。平均入院日数,保険点数では各群間に有意差は認められなかったが,術前併存症なしの1日平均保険点数は中年期5,949点,前期高年期7,660点,後期高年期10,898点で有意に増加した。年齢区分ごとに対象となる疾患が異なるため年齢層ごとの入院日数や医療費に差は認められなかったが,術前併存症を有さない加齢による因子だけが関係した高齢者では有意に1日保険点数は上昇していた。
症例報告
  • 村岡 孝幸, 大橋 龍一郎, 徳毛 誠樹, 岡 智
    2009 年 29 巻 6 号 p. 885-889
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    包丁の自傷行為による胃前後壁刺創の2例を経験した。2例とも受傷直後に搬入され,dynamic CT動脈相で胃損傷部位からの造影剤血管外漏出を認めた。緊急開腹術を施行したところ,胃前後壁を貫通した全層性刺創で,損傷部を修復した。術後経過は良好であった。刺創症例の開腹基準に関して種々の検討がなされてきたが,近年ではCTの有用性を示す報告が目立つ。自験例では造影剤の血管外漏出の他にも網嚢内に液体の貯留を認めたことが損傷部位同定の一助となった。また2例とも腹壁創と臓器損傷部位が近接していなかったが,これは受傷時とCT撮影時の体位の相違によるものと考えられた。体位による臓器の移動を念頭におくことでより正確な術前診断が可能になる。
  • 二本柳 康博, 大城 充, 高木 隆一, 森山 彩子, 瓜田 祐, 吉田 豊, 田中 宏, 杉下 雄為, 木下 敬弘, 長島 誠, 蛭田 啓 ...
    2009 年 29 巻 6 号 p. 891-894
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    症例は41歳男性。開腹手術の既往なし。突然の心窩部痛を訴え当院救急搬入。腹部触診では臍中心に圧痛と筋性防御を認めた。腹部CT検査で腹水と小腸拡張および腸間膜収束像を認めた。内ヘルニアによる絞扼性イレウスの診断で緊急手術を施行した。開腹所見では,大網裂孔に約1mの小腸が嵌頓壊死しており大網裂孔ヘルニアと診断した。嵌頓壊死小腸はTreitz靱帯より3m10cm肛門側の回腸であった。大網裂孔の開放と壊死小腸の切除を行い手術を終了した。術後は経過良好で第10病日に退院された。内ヘルニアはまれな疾患で,なかでも大網裂孔ヘルニアの頻度は低くその術前診断は困難とされているが,近年腹部CT所見から術前診断し得た報告例が相次いでいる。今回われわれは腹部CT所見により内ヘルニア嵌頓による絞扼性イレウスと診断し,手術にて大網裂孔ヘルニアが判明した症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。
  • 山元 英資, 串畑 史樹, 小林 展章
    2009 年 29 巻 6 号 p. 895-898
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    症例は70歳代,女性。腹部膨満感を主訴に当科を受診,腹部単純X線検査にて著明な胃拡張を認めたが経鼻胃管による減圧処置にて症状が改善し帰宅した。2日後,急激な腹痛が出現し当科を再度受診した。腹部単純X線検査,CTにて著明な胃拡張,free airを認め上部消化管穿孔の診断にて緊急手術を施行した。胃体上部前壁に3.0×3.0cm大の穿孔を認め,小網,胃結腸間膜には裂傷を認めた。穿孔部は菲薄化していたが潰瘍,腫瘍は認めず,網嚢内には多量の食物残渣が充満していた。胃後壁には異常を認めず,緊急入院時のCTでは十二指腸が腹部食道前面を走行し,初診時の腹部単純X線検査でも二重鏡面像を伴う胃拡張を認め胃軸捻転症に合致する所見であった。Parkinson病患者における胃軸捻転の報告はないが,画像検査にて胃拡張を認めた場合,本症の可能性も念頭に置き読影することが重要と思われた。
  • 野秋 朗多, 河原 秀次郎, 渡辺 一裕, 平松 友雅, 小林 進, 矢永 勝彦
    2009 年 29 巻 6 号 p. 899-901
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    症例は41歳,女性。2年前より腹部膨隆に気づいていたが放置していた。2008年8月より腹部腫大が憎悪し,歩行困難になったため近医を受診,精査加療目的で当科に紹介された。CT検査では上腹部から骨盤腔内を広汎に占拠する巨大腫瘍がみられ,腹腔内臓器が右背側に圧排されていた。患者は胸部不快感のため仰臥位になれず,両下肢の浮腫を伴っていた。血圧低下に伴い心電図モニターで不整脈が出現したため緊急手術を施行した。腫瘍は45×40×17cm,重量17kgで左卵巣腫瘍であった。術後循環動態は正常化し術後8日目に軽快退院した。巨大腹部腫瘍に対する手術は,手術手技の難易度よりも,腫瘍の胸腔圧迫による%肺活量の減少,腫瘍摘出前後における循環動態の変動などのため術中術直後管理の難度が高い。よって特に緊急手術時は外科医と麻酔科医の緊密な協力が重要である。
  • 田村 利尚, 秋山 正樹, 岡本 好司, 平田 敬治, 日暮 愛一郎, 中山 善文, 山口 幸二
    2009 年 29 巻 6 号 p. 903-906
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    症例は83歳女性。1996年直腸癌に対し腹会陰式直腸切断術を施行された。2003年8月腹痛を主訴に救急外来受診した。腹部所見は腹膜刺激症状に加え,ストーマ周囲の皮膚が発赤し,同部の著明な圧痛を認めた。腹部造影CT検査でS状結腸ストーマ脚の壁の断裂とストーマ周囲の腹壁内にガス像を認めた。S状結腸ストーマの腹壁内穿通とそれに伴う敗血症と考え,緊急開腹術を施行した。ストーマ周囲の皮膚を切開すると,腹壁内のS状結腸は黒緑色に変化していた。腸管の一部は穿孔し,腹壁への便貯留・膿瘍形成を認めた。ストーマを腹壁と合併切除し,人工肛門再造設術を施行した。手術および病理学的所見より宿便性大腸穿孔と診断した。術後経過は良好で,術後26日目に軽快退院となった。本症例では穿孔部ならびに膿瘍形成が腹壁内に留まっていたこと,かつ病変部を一括して切除し得たことが致命的な状態に至らなかった要因と考えられた。
  • 青木 毅一, 小鹿 雅博, 星川 浩一, 吉川 智宏, 秋冨 慎司, 菊池 哲, 小野寺 誠, 藤野 靖久, 井上 義博, 遠藤 重厚
    2009 年 29 巻 6 号 p. 907-910
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,男性。2008年8月,近医にて内視鏡的大腸ポリープ切除術を施行される。翌日より腹部膨満,腹痛および腹部X線写真にて腹腔内遊離ガスを認め,下部消化管穿孔の疑いで当センターへ紹介となった。CTにて腹腔内遊離ガスおよび広範な縦隔気腫を認めた。同日緊急開腹手術を施行し,S状結腸前壁に長径約8mmの穿孔部を認めた。腹腔内汚染は軽度のため穿孔部の一期的閉鎖を行った。約4横指大に開大した食道裂孔ヘルニアを合併しており,ヘルニア周囲に小気泡の集簇する気腫性変化を認めた。術後経過は良好で第27病日に近医へ転院となった。縦隔気腫を合併した大腸穿孔の報告は散見されるが,いずれも腸間膜側の穿孔から後腹膜を経由した発症の報告例である。本症例は画像所見において後腹膜経路にガス像を認めないことから,食道裂孔ヘルニアを経由した腹腔内遊離ガスの進入により縦隔気腫を呈したまれな症例と思われた。
  • 龍田 健, 清水 智治, 目片 英治, 村田 聡, 仲 成幸, 土橋 洋史, 谷 徹
    2009 年 29 巻 6 号 p. 911-915
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    プロカルシトニンテスト(PCT)は,細菌感染診断試薬として国内でも健康保険適応である。腹部救急疾患の術後症例に対してリアルタイムにPCTを測定し,抗菌薬中止の決定を行った2症例を経験したので報告する。症例1:80歳男性,潰瘍性大腸炎に中毒性巨大結腸症を合併し結腸亜全摘術,回腸人工肛門造設術を施行。術前PCT 4.34ng/mL。全身状態改善と共にPCT 0.27ng/mLまで低下し抗菌薬使用を中止した。その後,誤嚥性肺炎を合併しPCT 10.8ng/mLまで再上昇。抗菌薬治療で軽快しPCT 0.14ng/mLの時点で抗菌薬中止,炎症反応の増悪なく退院。症例2:77歳男性,直腸癌穿通にて直腸間膜内膿瘍形成にてハルトマン手術施行。術前PCT 4.25ng/mLがPCT 0.14ng/mLと低下,抗菌薬を中止し良好に経過した。今後,さまざまな細菌感染でPCTの臨床的評価が必要と考えられた。
  • 谷澤 健太郎, 内藤 浩, 福地 稔
    2009 年 29 巻 6 号 p. 917-920
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    輸入脚症候群は時に重篤な経過をたどるため,早期の診断と治療が求められる。われわれは胃切除術から35年経過後に発症した輸入脚症候群を診断し,内視鏡的ドレナージののち待機的手術とした1例を経験したので報告する。症例は69歳の男性,腹部膨満と動悸を主訴に当院に救急搬送され入院となった。35年前に胃切除術の既往があった。腹部CTにて十二指腸の拡張および急性膵炎の所見を認めた。上部消化管造影と内視鏡検査にてBillrothII法再建で,輸入脚の狭窄を認めたため,急性輸入脚症候群と診断した。これに対し,輸入脚内に,内視鏡下にドレナージチューブを留置した。その後の精査で十二指腸からの後腹膜腔への穿通を認めたため,ドレナージチューブを,より太経のイレウス管へ入れ替え十分ドレナージした。その後保存的に穿通は改善したが,再燃予防のため手術を施行した。前手術はBraun吻合を伴わないBillrothII法結腸前再建であり,輸入脚は長く,折れ返って狭窄していた。癒着を剥離しBraun吻合を置いた。術後経過は良好であった。
  • 五本木 武志, 高橋 信幸, 椎貝 真成, 中野 順隆, 飯田 浩行, 軍司 直人, 折居 和雄
    2009 年 29 巻 6 号 p. 921-924
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    症例は38歳,女性。16歳時に,神経線維腫症1型と診断された。2008年12月,めまいと肛門痛を主訴にて前医を受診。肛門周囲膿瘍の診断で切開を受けたが,止血しないとのことで当院を紹介受診した。来院時ショック状態であり,輸液ラインを確保し入院した。腹部CT検査にて,仙骨前面と右臀部皮下に連続する約10cmの血腫を認めた。輸血にても貧血は改善せず,血管撮影検査を行った。正中仙骨動脈末梢に動脈性の出血があり,塞栓術を施行し,その後バイタルサインは安定した。CTやMRI検査でも同部位には腫瘍を認めず,神経線維腫症1型に伴う血管脆弱性に起因し,正中仙骨動脈が破裂し出血性ショックをきたしたものと思われた。出血が致命的になった例も報告されており,神経線維腫症1型を有する患者の診療においては,本症例のような併発症をつねに念頭に置くべきと考えた。
  • 伊藤 元博, 土屋 十次, 立花 進, 北村 文近, 熊澤 伊和生, 西尾 公利
    2009 年 29 巻 6 号 p. 925-929
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    患者は31歳,男性。突然下腹部痛と嘔吐が出現し,翌日腹痛が増強したため,近医より当院救急外来を紹介受診した。受診時下腹部を中心に圧痛・筋性防御を認めた。腹部造影CTにて腹水貯留と下腹部に拡張した小腸と腸間膜の集束像を認めた。発症18時間後に絞扼性イレウスと診断して緊急手術を施行した。腹腔内に血性腹水500mLを認め,回腸末端より約10cm口側回腸の間膜対側から小腸間膜に向かう約2cmの長さの索状物によって約80cmの回腸が絞扼されていた。手術は回腸部分切除術を施行した。この索状物は多核白血球浸潤を伴う肉芽腫で,内部に壊死に陥った虫体を認め,この虫体をPCR法にてAnisakis simplex sensu strictoと診断し,最終的に消化管外アニサキス症による絞扼性イレウスと診断した。開腹歴のない絞扼性イレウスの原因として,消化管外アニサキス症を念頭に置く必要がある。
  • 谷口 雅人, 福田 光子, 小林 裕明, 河田 聡
    2009 年 29 巻 6 号 p. 931-935
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    症例は59歳男性,発熱と腹痛のため当院救急外来を受診した。腹部CT検査で腹部腫瘤を指摘され入院となった。白血球増多とCRPの上昇,意識障害を呈したため,急性腹膜炎による敗血症と考え緊急手術を施行した。小腸腫瘤に対して小腸部分切除術およびS状結腸部分切除術を施行した。腫瘤の内部は壊死により空洞化し,小腸に穿孔を認めた。病理組織学的検査にてspindle typeの細胞増生がみられ,免疫染色の結果C─kit陽性で小腸GISTと診断した。現在,外来で約1年2ヵ月,経過観察中である。
  • 田中 肖吾, 山本 隆嗣, 石原 寛治, 渡辺 千絵, 上西 崇弘, 大野 耕一
    2009 年 29 巻 6 号 p. 937-939
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    患者は83歳,女性。主訴は腹痛。10年前から寝たきり状態で,2006年8月に誤嚥性肺炎を起こしたため経皮内視鏡的胃瘻造設術を施行された。その後経口摂取が十分可能な状態になったため 2007年2月(6ヵ月後)に胃瘻カテーテルを抜去された。2008年10月(胃瘻カテーテル抜去 20ヵ月後)に4日前からの増強する腹痛を主訴に救急搬送された。腹部は著明に膨満し上腹部を中心に腹部全体の圧痛および筋性防御を認めた。血液検査上炎症所見の亢進を認め,CT像上著明な遊離ガス像および胃に円形の透亮像を認めた。以上より胃穿孔と診断し緊急開腹した。胃体中部前壁に1cm大の穿孔を認めた。穿孔部位は胃瘻増設時の皮膚切開部の直下であり穿孔部周囲の漿膜に炎症性肥厚を認めたが,その他の胃漿膜面に異常を認めなかったため胃瘻を造設していた部位に穿孔を起こしたと診断した。大網充填術,腹腔ドレナージを施行した。術後経過は良好で術10日目に退院した。
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