日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
30 巻, 4 号
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原著
  • 小倉 正治, 田中 信孝, 古屋 隆俊, 野村 幸博, 永井 元樹, 高橋 道郎, 高山 利夫, 平尾 浩史
    2010 年 30 巻 4 号 p. 515-519
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    小腸穿孔は,消化管穿孔の中でも遭遇率が低く,原因の究明に苦慮することも多い。さらに,小腸穿孔は特異的な症状に乏しく,また画像上正確に診断するには高度な診断能力が必要となる。当科での経験例をもとに,小腸穿孔の原因,診断につき検討した。対象は当科にて2000年1月~2008年9月に手術を施行した小腸穿孔68例。内因性51例,外因性17例であった。内因性の内訳は,非外傷28例(イレウス16例,腫瘍7例,原因不明5例),鈍的外傷23例であった。外因性の内訳は医原性5例,異物5例,鋭的外傷7例であった。術後合併症は内因性30例(58.8%)であり,外因性3例(17.6%)に比べ高率であった。在院死亡4例は,いずれも内因性であった。内因性小腸穿孔は,外因性小腸穿孔に比べると合併症が多く予後も悪いため,内因性小腸穿孔が疑われる場合には迅速な対応が必要と思われた。
  • 猪狩 公宏, 落合 高徳, 西澤 真人, 太田 俊介, 伊藤 浩光
    2010 年 30 巻 4 号 p. 521-525
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    外傷性脾損傷の治療は,緊急開腹術による脾臓摘出術が一般的治療法である。近年の画像診断能の向上や血管撮影検査およびinterventional radiologyの普及により非手術治療によって治療できる症例が増えてきており,その適応は拡大されつつある。しかし非手術治療を選択することによる重篤な合併症の頻度が決して低くないことは看過できない。当院で1998年1月から2007年12月までの10年間で診療にあたった外傷性脾損傷は75例。初期治療に手術治療を選択したのは33例(44%),非手術治療を施行したのは42例(56%)であった。いずれの治療においても救命率は約85%と良好な結果が得られたが,非手術治療の占める割合は他施設に比し低かった。TAEを含む非手術治療の適応は確立されたものはなく,施設間での成績に格差が生じている。非手術治療の選択にあたっては,その適応やプロトコールの確立が必須である。
特集:腹部救急の指導をどのように行うか
  • 水沼 仁孝
    2010 年 30 巻 4 号 p. 529-531
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    教育セミナー構築を目的として2009年3月,学術委員会が発足した。腹部救急診療の後継者育成を主眼としており,その教育・指導を本学会運営のなかでどのように行うかが求められている。本稿では腹部救急診療の特長ゆえに抱える問題点として生命を助ける医療への医学生の誘導が困難になっていること,それを解決するための医療システムとその社会制度の整備が必要であることを述べた。
  • ─腹部救急診療と外科医の教育─
    加納 宣康, 草薙 洋, 三毛 牧夫, 武士 昭彦, 渡井 有, 山田 成寿
    2010 年 30 巻 4 号 p. 533-537
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    腹部救急診療における外科医の教育は,基本的なところは昔から同じであるが,近年では,endoscopic surgeryの手術手技を習得していることが必須となった。優秀な腹部救急診療外科医を養成するには,まず,外科医としてのトレーニングを受けることが必須であり,open surgeryとendoscopic surgeryの両方の厳しいトレーニングを並行して受けられる環境整備が必要である。また外科医としてのトレーニングには,術者としての経験を早期から積ませるearly exposureの方針が有効である。亀田総合病院におけるトレーニングの内容を報告する。
  • ─腹部救急診療の問題点と外科系救急医の育成─
    白井 邦博, 小倉 真治
    2010 年 30 巻 4 号 p. 539-544
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    本邦の救急医療は,独特の救急体系で構築されてきたが,医師不足や財政不足,地域偏在性など,社会情勢の変化や医療改革によって崩壊の危機にある。このため,救急診療体制の早急な改革と再構築が求められている。腹部救急診療において,われわれ救命救急センターの役割は,救急科専門医と外科系救急医であるacute care surgeonを育成することである。acute care surgeonの育成カリキュラムは,初期診療から根本治療,集中治療まで完遂することを目標としている。また,現場で適切な緊急度と重症度を判断して,適切な病院へ搬送し集約化することが重要である。このためには,ドクターヘリやドクターカー,救急医療情報支援システムを用いる必要がある。この結果,acute care surgeonが多くの症例を経験することができるため,技術や知識を向上させる手段として有用である。またこのシステムは,最も適切な施設で最高の医療を提供することを可能にするため,患者にとっても有益である。
  • ―指導医の立場から―
    板橋 道朗, 橋本 拓造, 廣澤 知一郎, 小川 真平, 亀岡 信悟, 高野 加寿恵
    2010 年 30 巻 4 号 p. 545-548
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    初期臨床研修制度導入や後期臨床研修医の減少により医局の人員構成は大きく変化してきている。教室における人員構成の推移をみると,手術件数は年間100件増加しているのも関わらず,総人員数は3人減少していた。卒後3.5年の医師あるいは若手医師に臨床業務の多くの負担がかかっており,腹部救急の教育・指導はこの環境で行われている。初期研修指導医講習会のグループワークでは,65%が指導医は多忙であること,35%でマンパワー不足であるなどの問題点があげられている。指導医への量的,質的な負担はかなり大きい。腹部救急における教育・指導の特徴は,さまざまな制約のなかで適切な治療を行いつつ教育・指導を行うことにある。時間内診療は,マンパワー,設備ともに整っている場合が多く,教育・指導が円滑に行われる。時間外での対応,指導は最も厳しい状況である。時間内診療に於いて腹部救急対処の基本的教育を行い,並行して時間外にも教育・指導を行う。若手医師の教育は多くの症例に暴露され経験することが大切である。初期治療がその後の予後を決定するような疾患を見逃さないよう,助言・指導していくことが指導医には求められる。ベストな治療を行いつつ教育することが重要である。指導医には,若き後輩に対し愛情をもって育てる熱意が必要であり,指導医自身も評価される必要がある。腹部救急において見落としてはならない疾患を若手医師にいかに指導,助言できるかが指導医に求められる。
  • 宮崎 耕治
    2010 年 30 巻 4 号 p. 549-552
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    地方では腹部救急に対応できる病院が減少し,大学病院を含む中核病院に救急患者が集中しつつある。現実的には外科医が日常外科診療の中で対応しており,外科診療の過重化とともに中核病院,大学病院の本来の機能である高度手術への影響が懸念される。二階部分専門医のハイボリュームセンターへの集約化は止むを得ないとしても,地方の病院でも一般腹部緊急手術に対応できる外科医の配置は必須であり,日本外科学会専門医の配分には工夫を要する。外科手術の安全性と質を確保するためのトレーニングシステムの確立も重要であり,経験手術数のみならず,修練の課程を開示できる研修プログラムが必要である。過重労働の割に低い外科医の収入や高いリスクが敬遠の理由とされ改善を要する。腹部救急の現場にはドラマがあり,若い医師に救命の達成感を体験させ志気を醸成するには最適の研修であり,さらに患者の理解と感謝があれば,外科医を増やすことも夢ではない。
  • ─研修医の立場から─
    菅原 俊祐, 水沼 仁孝
    2010 年 30 巻 4 号 p. 553-555
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    急性腹症の症例を前にして,いかに的確な診断・治療を行うかは,座学の知識のみならず,少なからぬ経験が必要となる。質の高い医療を患者に提供するためには,医師として経験の浅い人材を単独で診療に当たらせることは,多くのリスクをはらんでいると言わざるをえない。しかし,このリスクを回避するために,指導医の完全な管理下で初期・後期研修医が救急診療を行うことは,救急診療研修に対する緊張感の低下につながり,同時に誤診・誤治療のリスクが事前に回避されることから,自己の診療能力への過剰な信頼感を生じせしめかねない。本編では,自分が受けた研修内容を振り返り,実際に腹部救急診療のトレーニングを受けた立場から,今後,効率的・効果的なトレーニングを行うためのシステム,指導体制についての考察,提言をする。これから研修を受ける医師,ならびに指導医の一助となれば幸いである。
症例報告
  • 日高 渉, 長谷川 洋, 坂本 英至, 小松 俊一郎, 久留宮 康浩, 法水 信治, 高山 祐一
    2010 年 30 巻 4 号 p. 557-561
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,女性。既往歴は特になし。左下腹部痛・嘔吐を主訴に受診。左下腹部に圧痛を認めたが腹膜刺激症状は認められなかった。腹部CTにて,少量の腹水とS状結腸および小腸の拡張,腸間膜の集束像,肥厚した小腸壁の造影不良を認めた。絞扼性イレウスと診断し,緊急手術を施行した。開腹するとileosigmoid knot(以下,ISK)を形成しており,約65cmの回腸が壊死に陥っていたため小腸部分切除術を施行した。術後経過は良好で術後9日目に退院した。ISKは比較的まれな疾患であり,本例でmultidetector-row CTをレトロスペクティヴに検討したところ特徴的な画像を呈していた。
  • 伊東 英輔, 大谷 泰雄, 山近 大輔, 藤平 威明, 西 隆之, 木勢 佳史, 小澤 壯治, 幕内 博康, 生越 喬二
    2010 年 30 巻 4 号 p. 563-567
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    患者は91歳の女性で,他院に肺炎と心不全で入院中に嘔吐を認め当院へ転院となった。腹部CT所見上,右下腹部に涙滴形の高吸収域を認め種子などの異物によるイレウスが疑われ,まずイレウス管を挿入し保存的治療を開始した。その後の腹部CTで異物がバウヒン弁を通過していないため第4病日に開腹術を施行した。終末回腸から40cm口側に腫瘤性病変を認め,その部に梅の種子がはまりこみイレウスを呈していることが判明した。虫垂も硬化萎縮して認められたため,小腸部分切除術および虫垂切除術を施行した。病理組織学的検査所見はどちらもカルチノイドであった。本邦報告の小腸カルチノイド腫瘍において食餌性イレウスの併発はなく初例と考えられたため文献的考察を含め報告する。
  • 橋本 憲輝, 内山 哲史, 北原 正博
    2010 年 30 巻 4 号 p. 569-572
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    S状結腸軸捻転の3例を経験したので報告する。【症例1】66歳男性。腹痛を主訴に当科を受診。腹部CT検査等によりS状結腸軸捻転症,絞扼性イレウスと診断。S状結腸切除術,人工肛門造設術を施行した。約4ヵ月後,人工肛門閉鎖術を施行した。【症例2】75歳男性。イレウスの診断で当科へ紹介受診。腹部X線検査によりS状結腸軸捻転症と診断。絞扼を疑わせる所見を認めず,下部消化管内視鏡による整復を施行した。【症例3】66歳女性。S状結腸軸捻転症を過去3度発症し,それぞれ保存的に加療されていた。今回,待機的にS状結腸切除術を施行した。S状結腸軸捻転症に対しては,各症例に適した治療方針の決定を慎重に行う事が重要であるものと考えられた。
  • 大野 玲, 榎本 直記, 細矢 徳子, 上田 吉宏, 大槻 将, 加藤 俊介, 円城寺 恩, 石田 孝雄
    2010 年 30 巻 4 号 p. 573-576
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    症例は63歳の女性。上腹部痛と黄疸を主訴に当院を受診した。腹部造影CT検査で胆嚢結石を伴う胆嚢炎と,それに起因すると考えられる門脈左枝の血栓を認めた。感染巣の除去を優先することにし,入院翌日に腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った。抗凝固療法として術直後からヘパリンカルシウムの全身投与を行い,術後第1病日の経口接取開始と同時にワルファリンカルシウムも内服投与した。その後血栓は残存したものの伸展はなく経過は良好で術後9日目に退院した。胆道感染症に伴った門脈血栓症の治療には感染巣のコントロールと抗凝固療法が重要である。
  • 坂本 一博, 田代 良彦, 永易 希一, 丹羽 浩一郎, 小野 誠吾, 石山 隼, 杉本 起一, 秦 政輝, 小見山 博光, 柳沼 行宏, ...
    2010 年 30 巻 4 号 p. 577-580
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    症例は54歳の女性で,主訴は下腹部痛,便秘で,高脂血症の既往があり内服治療されていた。2年前にS状結腸癌の診断で腹腔鏡下S状結腸切除術を受け,経過観察されていた。1ヵ月前より便秘傾向があり排便困難を自覚していたが,下腹部痛が出現したため精査・加療目的で入院となった。下部消化管内視鏡検査では,肛門縁より約18cmの部位に吻合部がみられ,その肛門側腸管に約8cmの全周性粘膜浮腫を認め,伸展性は不良であった。虚血性大腸炎の診断で保存的治療を施行した。入院8週後の内視鏡検査で狭窄部腸管の改善を認め食事を開始し,第9週に退院した。高血圧,糖尿病,高脂血症などの血管側因子を併存する左側大腸癌症例では,術後には便通異常による腸管内圧の上昇に注意することが重要であると考えられた。
  • 今井 健一郎, 新井田 達雄, 西野 隆義, 鬼澤 俊輔, 秦 侑鈴, 白戸 泉, 伊藤 亜由美, 前原 千彩
    2010 年 30 巻 4 号 p. 581-585
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性。発熱,腹痛が出現し,近医で総胆管結石による急性閉塞性化膿性胆管炎,敗血症性ショック,播種性血管内凝固症候群,多臓器不全と診断され,集中治療を行った。全身状態改善後に当院へ転院し,ERCPを施行したところ,総胆管内に1.5cm大の結石を1個認めたため,内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)ののち,砕石バスケットで結石を除去した。EST翌日,発熱と腹痛とともに皮下気腫を認めた。CTで腹腔内遊離ガスと十二指腸背側の後腹膜気腫,皮下気腫を認めた。EST後消化管穿孔,腹膜炎の診断で,緊急開腹手術を施行した。十二指腸下行脚前壁を開窓したところ,ESTによって開大した乳頭の奥に完全に離断した胆管を認めた。胆嚢を摘出後,空腸を挙上し胆管空腸吻合を施行した。砕石バスケットでの採石の際に下部胆管が損傷したと考えられた。
  • 西山 亮, 丸山 尚嗣, 七條 祐治, 夏目 俊之, 羽成 直行, 渡辺 義二
    2010 年 30 巻 4 号 p. 587-590
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    Transcatheter arterial embolization(経カテーテル的動脈塞栓術:以下,TAE)にて止血困難であり,開腹手術にて救命し得た骨盤部出血の症例を経験した。症例は70歳,男性。歩行中に交通事故にて,当院へ搬送された。意識レベルはGlasgow Coma Scale(GCS)E1V3M5で,バイタル・サインは安定していた。両肺挫傷・血胸,右脛骨骨折,びまん性軸索損傷の診断にて,ICU管理となった。翌日,貧血が進行(Hb12.9g/dL→7.7g/dL)するため,腹部CT検査を施行したところ,仙骨前面より造影剤の血管外漏出と後腹膜血腫を認めた。緊急血管撮影検査を施行し,内腸骨動脈領域からの出血はTAEにて止血し得たが,正中仙骨動脈からの出血は止血困難であった。そこで開腹手術を施行したが,仙骨前方骨棘の剥離骨折による正中仙骨動脈損傷を認めた。そのため同動脈を結紮止血後,ガーゼパッキングにて対処した。著明な後腹膜血腫のため閉腹困難と判断し,サイロ状閉鎖(silo closure)とした。第4病術日,ガーゼを除去し閉腹した。その後の術後経過は良好であった。
  • 龍野 玄樹, 落合 秀人, 宇野 彰晋, 神藤 修, 尾崎 裕介, 松本 圭五, 伊藤 靖, 鈴木 昌八
    2010 年 30 巻 4 号 p. 591-594
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    われわれは肝後区域胆管が胆嚢に合流するまれな胆管走行異常を伴った急性壊死性胆嚢炎症例を経験したので,文献的考察を加え報告する。症例は42歳男性。倦怠感,発熱を主訴に当院の救急外来を受診した。画像所見より壊死性胆嚢炎と診断し,緊急開腹手術を行った。胆嚢体部の剥離の際,胆嚢床側から胆汁漏出を認めた。術中造影で肝後区域胆管からの胆汁漏出と判明し,後区域胆管が胆嚢に合流する胆管走行異常を伴っていたものと診断した。胆嚢摘出後に挙上空腸脚と後区域胆管を吻合し,Roux-en-Y法で胆道再建を施行した。経過良好で術後21日目に退院した。術後9ヵ月の現在,胆管炎なく,社会復帰している。胆道系の緊急手術では術前に十分な胆道系の検索が行えるとは限らない。必要な場合には躊躇することなく,胆道造影により確認することが術前予測不能な合併症を防ぐために重要である。
  • 斉田 芳久, 片桐 美和, 中村 陽一, 中村 寧, 榎本 俊行, 長尾 さやか, 高林 一浩, 渡邊 良平, 大辻 絢子, 草地 信也, ...
    2010 年 30 巻 4 号 p. 595-598
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    腹壁瘢痕ヘルニアの結腸嵌頓・壊死から重症化した症例を報告する。症例は80歳の女性で,右下腹部痛と腹部膨満を主訴として受診した。既往の虫垂切除術の右下腹部手術創上部が膨隆し圧痛を伴っていた。造影CT検査を施行したところ横行結腸が右下腹部の直径3cm大のヘルニア門から脱出・嵌頓し,周囲に炎症を伴っていた。腹壁瘢痕ヘルニアの横行結腸嵌頓との診断で同日に緊急開腹手術を施行した。上下腹部正中切開で開腹したところ,ヘルニア嚢内は横行結腸中部が嵌頓・壊死していたため,結腸右半切除術を施行した。ヘルニア嚢内のデブリートメントおよび腹壁の単純閉鎖,右下腹部横切開による開放創で皮下のドレナージを施行した。術後は重症感染症に対する全身管理と,開放創に対しては,毎日の生理食塩水による洗浄を繰り返した。正中創は感染離開したが,連日の洗浄により47病日には閉鎖し,第64病日に退院した。その後2年間再発していない。
  • 山名 一平, 川元 俊二, 永尾 修二
    2010 年 30 巻 4 号 p. 599-602
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    症例は55歳女性。アルカリ性洗剤をコップ1杯誤飲し,上腹部痛を主訴に来院した。上部消化管内視鏡検査にて食道下部から胃にかけて黒色調の腐食性変化を認め,腐食性食道炎胃炎と診断した。絶飲食,抗生剤投与,プロトンポンプ阻害剤投与で治療開始後,第11病日,突然の吐血,Hbの低下と炎症反応の再上昇を認めた。出血制御が困難で穿孔の可能性があったため,翌日,開腹手術を行った。開腹所見では膿性腹水の貯留と胃体部大弯側に広範囲な胃壁の菲薄化と壊死性病変を認めた。食道に壊死の所見はなく,胃全摘および空腸Roux-en Y再建術を施行した。病理組織学的検査で胃体部大弯に90×110mmにわたる胃壁全層の壊死巣を認めた。腐食性食道炎胃炎に対して保存的治療を行う場合,早期に制御困難な出血や穿孔の併発をきたす重篤例もあるため,慎重な経過観察の下に外科的手術を含めた治療選択の可能性を考慮する必要がある。
  • 尾辻 英彦, 平松 聖史, 土屋 智敬, 田中 寛, 木村 明春, 待木 雄一, 加藤 健司
    2010 年 30 巻 4 号 p. 603-606
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    症例は74歳男性,上腹部痛を主訴に当院救急外来を受診した。心窩部を中心に圧痛と反跳痛を認めた。白血球数の上昇を認め,腹部CTでは十二指腸水平脚に穿通する線状陰影を認めた。腹水や腹腔内遊離ガス像は認めなかった。前日,鰤の摂食歴があり,異物は魚骨と判断,緊急上部消化管内視鏡検査を施行した。十二指腸水平脚に穿通する魚骨を認め,これを摘出・除去した。その後抗生剤投与による保存的治療を行い,腹痛は改善傾向にあったが発熱が続くため,第5病日再度CTを施行したところ,十二指腸水平脚の尾側に膿瘍形成を認めた。抗生剤を変更し保存的治療を続けたが改善しないため第10病日開腹膿瘍ドレナージ術を施行した。術後経過は良好であった。魚骨による消化管穿孔・穿通は十二指腸が最も頻度が少ない。保存的治療で治癒した報告もあるが,外科的治療を行っているものが多く,保存的治療の場合,手術へ踏み切るタイミングの判断が重要と思われる。
  • 森下 幸治, 大友 康裕, 村田 希吉, 庄古 知久, 加地 正人, 相星 淳一
    2010 年 30 巻 4 号 p. 607-611
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    保存的治療にて軽快した,門脈ガス血症の2例を経験したので報告する。症例1は36歳男性で,高浸透圧性ケトン性昏睡の診断にて当院紹介となった。腹部には圧痛を認めなかったが,腹部CT検査にて門脈ガス像,腸管気腫および腹水を認めた。超音波下の腹水穿刺の結果,腸管壊死の可能性は低いと考え,血糖のコントロールを中心に経過観察となった。門脈ガスの原因は,高度の脱水による非閉塞性腸管膜虚血症の可能性が高いと思われた。症例2は85歳女性で,腹痛や嘔吐,下血にて当院紹介来院となった。下腹部に圧痛を軽度認めた。腹部CT検査にて門脈ガス像と直腸に内部壊死を伴う腫瘍像を認め,下部消化管内視鏡にて直腸に腫瘍を認めた。門脈ガスの原因として腫瘍壊死が考えられた。門脈ガス血症はさまざまな疾患に併存する。今回のように保存的に軽快する症例もあるが,鑑別診断として致命的な疾患をつねに念頭におくことが重要である。
  • 又木 雄弘, 新地 洋之, 蔵原 弘, 恵 浩一, 馬場 研二, 高尾 尊身, 夏越 祥次
    2010 年 30 巻 4 号 p. 613-616
    発行日: 2010/05/31
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,男性。十二指腸潰瘍の既往あり。膵頭部の膵管内乳頭腫瘍に対し,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術pylorus-preserving pancreaticoduodenectomy(以下,PPPD)施行。経過良好で術後24日目に近医転院。術後27日目,夕食摂取後に大量吐血し,内視鏡にて止血し得ず,ショック状態にて当院救急搬送された。緊急血管造影を施行し,総肝動脈造影にて造影剤の血管外漏出あり,胃十二指腸動脈より選択的に造影すると,同動脈分枝のextravasationが確認され,コイルによる塞栓術施行。止血が得られた。止血後の消化管内視鏡検査にて,十二指腸─空腸吻合部近傍の十二指腸球部前壁に止血に用いたコイルの露出を認め,十二指腸潰瘍出血であったことが判明した。PPPD術後合併症として,膵液漏や感染に伴った出血や,胃潰瘍や吻合部潰瘍による出血の報告はあるが,残存した十二指腸の潰瘍発生が,大量出血につながった報告はまれである。PPPDを考慮する場合,残存十二指腸潰瘍の発生も念頭におき,慎重な術式選択や術後の薬剤選択の必要性が示唆された。
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