日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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31 巻, 7 号
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原著
  • 当間 雄之, 大平 学, 首藤 潔彦, 河野 世章, 夏目 俊之, 太田 拓実, 斉藤 洋茂, 佐藤 麻美, 久保嶋 麻里, 米山 泰生, ...
    2011 年 31 巻 7 号 p. 973-978
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    【目的】血流障害を伴いやすいclosed-loop(CL)の診断は難題である。MDCTによる形態診断を行い有用性について検討する。【対象】MDCTを行った小腸閉塞症50例【方法】(1)64列MDCT:閉塞部の形態に注目し両端閉塞型腸管ループとそれに対応する腸間膜血管の集束像を認めた場合CL型,その他をopen─loop(OL)型と分類。(2)臨床所見と比較。【結果】(1)MDCT:CL17例・OL33例。(2)手術施行29例の手術所見(CL14・OL15)との比較でMDCTの正診率は97%であった。CTでOLと診断した群に絞扼はなく,CL群で17例中9例(53%)に絞扼が合併していた。【考察】空間分解能の高いMDCTによる形態診断は手術所見とほぼ合致した。絞扼はCL内に起こる血流障害であるため,MDCTによるCLの検出は絞扼診断の精度を向上しうる。【結語】MDCTによるCL診断は臨床的に有用と考えられた。
  • 大塚 恭寛
    2011 年 31 巻 7 号 p. 979-985
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    過去9年間に当科で経験した消化管出血(GIB)に対する緊急手術施行例9例を,上部GIB(上部)群4例と下部GIB(下部)群5例の2群に分類し,患者背景・術前重症度・手術関連事項・術後経過と転帰・出血源の特定に苦慮した例の詳細,についてretrospectiveに調査・検討した。その結果,患者背景と術前重症度は両群同等であったが,出血発症から手術開始までの所要時間は下部群で有意に長く,術中出血量は上部群で有意に多かった。上部群では全例で術前に出血部位を確実に同定し得たが,下部群中の2例(Crohn病の回腸出血・上行結腸憩室出血)では出血源の特定に至り得ぬまま緊急手術に移行していた。術後経過は両群同等で,全例が生存退院した。下部GIBに対しては各種診断技術を駆使して可及的速やかな出血部位の同定に努めることが,上部GIBに対しては充分量の術中輸血を準備することが肝要であると思われた。
  • 尾崎 裕介, 落合 秀人, 深澤 貴子, 宇野 彰晋, 片橋 一人, 稲守 宏治, 神藤 修, 松本 圭五, 伊藤 靖, 鈴木 昌八
    2011 年 31 巻 7 号 p. 987-992
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    内ヘルニアは小腸閉塞を引き起こすまれな疾患であるが,術前診断は容易でなく,開腹した際に診断に至ることが多い。当科でイレウスの診断で開腹した172例のうち,内ヘルニアは7例であった。男女比は2:5であり,年齢は15~86歳であった。4例には診断後24時間以内に緊急手術を行い,3例はイレウス管による腸管減圧後に開腹術を受けた。内ヘルニアと診断できた3例のうち,2例はMDCTを用いたMPR画像で子宮広間膜裂孔ヘルニアと診断した。開腹術により大網裂孔ヘルニア,盲腸窩ヘルニア,S状結腸間膜ヘルニアをおのおの1例に,4例に子宮広間膜裂孔ヘルニアを認めた。腹部CTで腸間膜濃度の上昇がみられた3例で小腸切除を要した。1例は経過中に発見された胆嚢腫瘍の精査を目的に転科となったが,その他の6例は術後6~32日(中央値:9日目)に退院した。内ヘルニアの診断にはMDCTを用いたMPR画像が有用であり,腸間膜濃度の上昇は嵌入腸管の切除の可能性を示唆する重要な所見である。
  • 佐近 雅宏, 高田 学, 三輪 史郎, 澤野 紳二, 荒居 琢磨, 宗像 康博, 立岩 伸之
    2011 年 31 巻 7 号 p. 993-997
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    十二指腸腫瘍に対する内視鏡的切除は穿孔などの合併症の頻度が高く難しいことは知られている。また,腹腔鏡下手術での十二指腸腫瘍に対する部分切除は腫瘍の範囲を同定しにくく,切除範囲の決定に難渋する。比企らにより胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡・内視鏡合同手術が報告されているが,今回われわれは腹腔鏡・内視鏡双方の利点を生かし,欠点を補うことを目的に十二指腸腫瘍に対する腹腔鏡・内視鏡合同手術を4例施した。3例が腺腫で1例がGISTであった。全例で術後経過は良好であった。腹腔鏡・内視鏡合同手術は十二指腸腫瘍に対する術式として選択肢の一つとなりえると考える。
特集:NOMI(non-occlusive mesenteric ischemia)をいかに診断し,治療するか
  • 松本 賢治, 尾原 秀明, 北川 雄光
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1001-1004
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    NOMIの診断は,症例の背景(基礎疾患)や理学的所見,血液生化学的検査所見,血液ガス分析結果などに基づき,少しでもNOMIが疑われれば,ただちに選択的上腸間膜動脈造影検査を施行することが,いまだにゴールド・スタンダードである。しかし,近年ではMDCT血管撮影検査や造影超音波検査,腹腔鏡検査などによる診断の試みも登場している。一方,NOMIの治療は原則として血管攣縮の解除であるが,時間的経過によっては腸管の生存能力が失われている症例もあるため,腸管切除術を余儀なくされる場合も多々見受けられる。その際,術中の腸管切除範囲を安全に見定める手段として,レーザードプラ血流検査の導入と,術後24時間以内におけるsecond-look operationの推奨が強調される。
  • 門野 潤, 田畑 峯雄, 大迫 政彦, 石崎 直樹, 井本 浩
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1005-1008
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    Non-occlusive mesenteric ischemia(NOMI)の臨床像を検討した。NOMI 23例(救命群13例,非救命群10例)の年齢や来院までの時間,ショックスコア,SIRS項目数,WBC,血小板数,LDH,CPK,CRP,Cre,PT,BE,大腸病変,門脈ガス像,血管拡張薬投与の有無などを比較した。年齢や来院までの時間,WBC,血小板数,CRP,PTに差はなく,ショックスコアやSIRS項目数は救命群に低い傾向にあった。非救命群のLDHやCreが有意に高く,CPKやBEは有意差を認めないが高い傾向にあった。非血液透析症例のCreに差はなかった。血液透析の4例は全例死亡した。大腸虚血や門脈ガス像も,非救命群に多い傾向にあった。血管拡張薬投与は,救命群に有意に多かった。大腸虚血や門脈ガス像を認めた高度虚血例は予後不良で,特に血液透析は予後不良因子であった。血管拡張薬投与可能な循環動態の良好な症例は予後良好で,早期の循環動態の改善が重要と思われた。
  • 由茅 隆文, 梶山 潔, 古賀 睦人, 安部 智之, 播本 憲史, 宮崎 充啓, 山下 智弘, 甲斐 正徳, 調 憲, 長家 尚
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1009-1014
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    NOMIの予後規定因子を明らかにするため,当院にて手術したNOMI 22例を対象に臨床的検討を行った。22例全体の平均年齢は74歳,男女比=13:9であった。全22例を死亡群(7例)と生存群(15例)に分類し,年齢や性別,心血管系疾患の有無,薬剤歴,術前ショックの有無,門脈ガス血症の有無,血小板数10万/mm3以上か未満,結腸合併切除術の有無,POSSUM score,PGE1投与の有無を比較検討した。NOMIの予後規定因子として,POSSUM scoreの予測死亡率高値(75%以上)は極めて有用であると思われた。その他,結腸合併切除術例,血小板数低値も有意な予後不良因子であった。
  • 片岡 祐一, 島田 謙, 樫見 文枝, 神應 知道, 花島 資, ウッドハムス 玲子, 相馬 一亥
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1015-1019
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    当施設において過去6年間で治療したNOMIの症例は17例であり,在院死亡は5例で死亡率29%であった。臨床所見とCT検査でNOMIが疑われた場合,血管撮影検査を積極的に施行した。13例に動注療法を施行し,手術を施行せず軽快した症例は2例,開腹したが腸管切除術を回避できた症例が3例,second look手術で切除範囲を縮小できた症例が1例であった。動注療法は,上腸間膜動脈に留置したカテーテルからプロスタグランディンE1をbolusで投与後,パパべリンを持続的に動脈内投与した。明らかな腹膜刺激症状があれば,手術を施行した。手術は,12例に施行した。動注療法と開腹手術をともに施行したのは8例で,死亡率は25%であった。死亡症例は診断まで時間が経っており,治療開始時にはすでに多臓器不全に陥っていた。早期診断と手術を前提とした動注療法の施行が,治療成績の向上に寄与する。
  • 中尾 彰太, 渡部 広明, 高橋 善明, 山本 博崇, 松岡 哲也
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1021-1027
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    Non-occlusive mesenteric ischemia(以下,NOMI)に対する治療法として,血管拡張剤の動注療法が一般的になりつつあるが,重症例において適応とするのは困難と言われている。われわれはショックを伴った重症型NOMIに対して,積極的な開腹手術を中心とした治療を展開しており,今回この妥当性を検証した。対象17例の平均APACHE-IIスコアは31.2と高く,全例ショック状態であった。全例緊急開腹術を施行し,14例で腸管壊死を認めた。また,second look手術を施行した13例中5例で腸管壊死を認めた。追加切除術が不要であった10例に対しては,動注療法を施行していなかった。最終的な致死率は47%(8例)であった。なお,術前の採血や臨床経過から,腸管壊死の有無を確実に鑑別することは困難であった。重症型NOMIにおいては,生理学的徴候が破綻しており,根治的手術が困難であるのみならず,複数回の壊死腸管切除術が必要となる割合も高いため,second look手術を想定した迅速な開腹手術を行う治療戦略が有用である。
  • 辻 喜久, 山本 博, 能登原 憲司, 児玉 祐三, 千葉 勉
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1029-1037
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    重症急性膵炎に非閉塞性腸間膜虚血症(non occlusive mesenteric ischemia:NOMI)を併発すると,予後不良である。また,重症急性膵炎におけるNOMI併発の機序など,いまだ不明な部分も多い。近年,重症急性膵炎患者における血管攣縮関連因子(angiopoietin-2, エンドセリン-1,VEGFなど)や凝固関連因子(ADAMTS13など)の異常が報告されており,NOMIとの関連が推測される。一方,NOMIの病理像については,不明な点が多い。われわれの経験では,虚血に由来した腸管のダメージが腸管の各所に不連続に偏在しており,NOMIの病理像の特徴の一つと考えられた。また,NOMIの診断方法は,血管撮影検査がgolden standardであるが,簡便な検査とはいいがたい。一方,われわれの肝perfusion CT検査を用いた研究では,肝血流障害がNOMIに併発することが明らかになり,肝血流を指標としてNOMIを診断できる可能性があると考えられた。最後に,こうした重症急性膵炎におけるNOMI発症の機序や病理像,診断方法の理解から,現在のわれわれの治療方針について報告する。
  • 古川 浩一, 神田 達夫, 舟岡 宏幸
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1039-1043
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    非閉塞性腸間膜虚血症(NOMI)は,腹部の動脈の攣縮・狭小化による血流低下で,広範囲の腸間膜虚血や腸管壊死が惹起されことが知られている。しかし,この腸間膜虚血症を従来の検査方法で,早期に選択的に簡便に評価することは困難と言える。一方,重症急性膵炎においてもNOMIはしばしば発生し,その病態や予後への関与が報告されている。今回,膵炎に発生するNOMIに対し,小腸粘膜に特異的に分布する腸管由来の脂肪酸結合蛋白(I-FABP)を測定し,NOMI診断への臨床的意義につき検討した。IFABPは急性膵炎の重症度に関連する病態を示し,腸間膜血流に関連する造影CT検査におけるグレードの膵外進展度に相応した数値上昇を認めた。潰瘍性大腸炎例での計測とI-FABPの小腸粘膜への特異的な分布を考慮すると,急性膵炎に併発する小腸粘膜傷害を直接的に反映していると言える。以上より,I-FABPは急性膵炎時のNOMIの早期診断や病態評価に有用な指標と考えられる。
  • 畠 二郎, 今村 祐志, 眞部 紀明
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1045-1048
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    一般に容易でないとされるNOMIの診断における,造影超音波検査(CEUS)の有用性に関して検討した。CEUSとは,造影剤ソナゾイドTMをワンショットで静注し,通常観察に用いる音圧に比較して弱い音圧(mechanical index:0.2~0.4)を用いて,造影剤の共鳴によるハーモニック信号を画像化する手法であり,これにより微細循環を評価することが可能である。開腹あるいは剖検により診断の確定したNOMI 5例において,その全例にCEUSにて小腸壁の一部に染影不良域を認めた。また,4例(80%)に染影不良域と正常な染影を呈する領域が隣接して混在しており,本疾患に比較的特徴的な所見と考えられた。普遍性や再現性に関して,今後の継続検討を要するものの,基本的に非侵襲的であり,造影剤による重篤な副作用の少ないCEUSは,ベッドサイドで容易に施行でき,さらに良好な診断能を有することからも,今後本疾患における第一選択的検査法となり得る可能性が示唆された。
症例報告
  • 渡邉 賢二, 矢吹 英彦, 稲葉 聡, 小原 啓, 庄中 達也, 北 健吾
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1049-1051
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性。2007年4月に中咽頭癌(扁平上皮癌 T2N2aM0)の診断で化学放射線療法を施行し,寛解となっていた。2008年4月に頸部リンパ節再発を認め両側頸部郭清を施行したが,同年8月に頸部再発,右肺転移,胸椎転移を認めS─1開始となった。その後も頸部再発巣は増大,両肺に多発転移を認め病状は進行していた。2009年8月に急性腹症として当科紹介となり消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した。術中所見で回腸穿孔の診断となり同部位を切除・吻合した。病理組織学的検査の結果、穿孔部位に小腸壁を貫き浸潤する扁平上皮癌を認め,中咽頭癌小腸転移の診断となった。術後は良好に経過したが,肺転移の増悪による呼吸不全のため第37病日に永眠された。まれな中咽頭癌小腸転移穿孔の1例を経験したので報告する。
  • 山近 大輔, 西 隆之, 伊東 英輔, 三朝 博仁, 島田 英雄, 大谷 泰雄, 生越 喬二
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1053-1056
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    症例は69歳男性。くしゃみを契機に両側鼠径部の激痛が出現し,当院に救急搬送となった。腹部CT検査では左側ヘルニア嚢内にS状結腸の嵌頓,右側には膀胱の脱出が疑われた。同日に緊急手術を施行した。左側はS状結腸の嵌頓を認めたが血流障害は認めず,右側の膀胱脱出は肉眼的には,はっきりしなかったため鼠径部からのアプローチで根治術を施行した。術後に貧血が進行し腹痛も持続したため,CT検査を施行するとS状結腸間膜血腫を認めた。内視鏡検査では,S状結腸に虚血性の変化を認めた。その後の状態は安定し退院となった。緊急手術時には腸管の壊死の有無だけでなく,腸間膜の損傷や血腫についても確認することが大切であると考えられた。
  • 藍澤 哲也, 野口 琢矢, 松永 宗倫, 久保 宣博, 野口 剛
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1057-1061
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    患者は68歳,男性。右季肋部痛を主訴に前医を受診,急性胆嚢炎の診断で入院治療されたが症状は改善せず,当院を紹介され受診した。来院時すでに腹膜刺激症状を呈していた。前医施行の腹部CT検査および当院初療室で施行した腹腔穿刺により,胆嚢穿孔による汎発性腹膜炎と診断し緊急開腹手術を施行した。胆嚢体部に約3mmの穿孔部を肉眼的に確認し,そこからの胆汁漏出と腹腔内の胆汁性腹水の中等量貯留を認めた。手術は胆嚢摘出,腹腔ドレナージを行った。胆嚢内に結石はなく病理検査では胆嚢炎の所見は乏しくかつ穿孔部近傍の血管内血栓等の穿孔の原因は認められなかった。術後人工呼吸管理およびエンドトキシン吸着療法(polymyxin Bimmobilized fiber column:PMX)を行ったが,経過良好で術後第11病日に軽快退院となった。free airを伴わず胆嚢周囲の腹水貯留を認める汎発性腹膜炎症例では,本疾患も念頭においておく必要があると考えられた。
  • 梅邑 晃, 吉川 智宏, 小野寺 ちあき, 西成 悠, 秋冨 慎司, 小鹿 雅博, 井上 義博, 遠藤 重厚
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1063-1066
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,女性。自宅で家族と口論となり発作的に自分の腹部を出刃包丁で刺したため救急車で当院へ搬送された。来院時上腹部に深い刺創があり,腹部CT検査で肝S4にIIIa型損傷を認めた。初期輸液療法に反応したため保存的加療目的に入院となった。受傷2日目に施行した腹部CT検査で左肝動脈の仮性動脈瘤形成と動脈瘤を介した門脈本幹とのarterio-portal(A-P)シャントを認めたため,transcatheter arterial embolization(TAE)を施行した。TAE後,A-Pシャントは消失し,以降順調に経過したため神経精神科へ転科となった。肝外傷後の肝動脈瘤は通常仮性動脈瘤であり,肝損傷後の約1%にみられる合併症である。遅発性肝破裂や胆道出血の原因となるため生命予後を左右する合併症であるが,動脈瘤形成までは受傷後数週間を要するとされる。本症例は,受傷後早期にA-Pシャントを伴う仮性肝動脈瘤を形成した非常にまれな症例であり,TAEにより治療しえたので報告する。
  • 田中 香織, 種村 廣巳, 大下 裕夫, 波頭 経明, 伊藤 元博
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1067-1070
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    症例は54歳,女性。帝王切開と虫垂炎手術の既往がある。以前より時々左下腹部痛を自覚していたが,内服薬にて症状は軽快していた。今回,突然の腹痛を認め当院救急外来受診した。腹部CT検査にて小腸イレウスと診断され,イレウス管を挿入されるも症状軽快せず,4日目に当科へ紹介された。その際施行した腹部造影CT検査にて,子宮の腹側への偏位と,左子宮広間膜部を前方から後方へ陥入する小腸ループを認め,左子宮広間膜ヘルニアと診断され,緊急手術となった。開腹すると,左子宮広間膜に径2cm大の裂孔があり,回腸末端から約60cm口側の回腸が腹側から背側に向かって陥入し絞扼されていた。嵌頓小腸は鬱血していたが腸管壊死は認めず,嵌頓小腸を還納し,裂孔を縫合閉鎖して手術を終了した。術後経過は良好で第9病日に退院した。術前に本症の診断が得られた症例の報告はまれであり,CT所見の特徴も含めて報告する。
  • 内藤 浩之, 佐々木 秀, 小林 健, 橋詰 淳司, 中川 直哉, 立本 直邦
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1071-1074
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    症例は74歳男性。2004年11月に膵管内乳頭粘液性腺腫に対して幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD-IV B-1),脾温存膵尾部切除術を施行されていた。2009年8月,右下腹部痛を認め近医受診。急性虫垂炎を疑われ当院紹介となった。CT検査にて小腸内から腸管外へ脱出する線状異物を認め,胆管空腸吻合部のロストチューブによる小腸穿孔を疑い同日異物摘出術と穿孔部閉鎖術を行った。経過は良好で術後10日目に退院となった。手術時に留置したロストチューブにより消化管穿孔をきたすことは非常にまれではあるが注意すべき合併症であると思われたため報告する。
  • 飯澤 祐介, 根本 明喜, 勝峰 康夫
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1075-1077
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    症例は50歳,男性。飲酒時に左胸部痛を自覚し,当院に搬送された。胸部単純CTにて下部食道周囲に縦隔気腫を認め,左胸腔内に中等量の液貯留を認めた。呼吸困難があったため,左胸腔ドレナージを施行したところ,食物残渣の混入した黒褐色の排液を認めた。食道透視にて胸部下部食道に左胸腔内への造影剤の漏出を認めた。特発性食道破裂と診断し,発症後15時間に,左胸腹連続切開で開胸開腹し,一期的縫合閉鎖,胸腔ドレナージ,胃瘻造設を施行した。経過は良好で術後31日目に退院した。発症早期で,穿孔部が比較的小さく,壊死性変化が少ない症例では,必ずしも被覆術の付加は必要ない可能性がある。
  • 石井 亘, 檜垣 聡, 飯塚 亮二
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1079-1082
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,女性。他院入院中,嘔吐を認め受診。バイタルサインに異常は認めず,腹部は緊満していたが軟であり腹膜炎を疑う所見はなかった。軽度の炎症所見の上昇および貧血を認めたが,動脈血液ガス分析は正常範囲内であった。腹部X線検査では,腸管拡張を広範囲に認めたが腹腔内遊離ガスは認めなかった。腹部単純CT検査では,小腸および大腸に多量のガスを認め,腸管壁内ガスおよび腹腔内遊離ガスを認めた。以上より,腸管嚢胞様気腫症として絶飲食の上,末梢点滴による保存加療を行った。第3病日には,腸管ガスの減少を認め,第4病日には下部消化管内視鏡にて器質的病変を除外した。その後,経過良好にて第6病日には経口摂取し,腹部単純CT検査にて腸管内ガスおよび腹腔内遊離ガスが著明に減少したため第8病日転院となった。
  • 坂井 寛, 成田 知宏, 阿部 薫夫, 大里 雅之, 長谷川 達郎, 水野 豊, 岡本 道孝, 澤 直哉
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1083-1086
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    症例1は84歳の女性で,上腹部痛と嘔気を主訴に救急搬送された。腹部造影CT検査では,高度な門脈ガス血症とイレウス像を認めた。代謝性アシドーシスの進行を認めたため,緊急手術を施行した。回腸から右側結腸まで非連続性の虚血性変化を認め,同部を広範囲切除した。腸間膜動脈の閉塞性所見は認めず,非閉塞性腸間膜虚血症が疑われた。術後,第39病日目に退院となった。症例2は79歳の女性で,上腹部痛と嘔気で近医を受診した。開腹歴があるため術後イレウスが疑われ,当院へ紹介となった。腹部造影CT検査で,高度の門脈ガス血症と小腸の壁内ガス像を認めた。強い腹痛と代謝性アシドーシスのため腸管壊死を疑い,緊急手術を施行した。開腹所見では,術後の癒着を認めたが腸管の虚血性変化は認めず,癒着剥離術を施行し,第28病日目に退院となった。本2例は高度な門脈ガス血症を認め臨床所見が類似していたが,腸管壊死の有無が対照的な症例であったので報告する。
  • 富永 哲郎, 和田 英雄, 古川 克郎, 黨 和夫, 柴崎 信一, 岡 忠之
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1087-1091
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,男性。腹痛を主訴に当院を受診した。腹部CT検査で腹腔内出血と上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:以下,SMA)の閉塞を認め,腹部血管撮影検査を施行した。右結腸動脈からの出血がみられ,コイル塞栓術にて止血した。また,SMAは回結腸動脈(iliocecal artery:以下,ICA)の起始部で閉塞していた。形状からSMAの解離が疑われ,血行再建術が必要と判断し手術を施行した。開腹所見では,回腸末端から上行結腸にかけての色調が不良であった。ICA内腔を確認すると塞栓を認めたため,塞栓除去術を施行した。その後,ICA末梢の血流は再開し腸管の色調が改善したため,腸管切除術を行わずに手術を終了した。術後は,大きな合併症を認めず退院した。しかし,3ヵ月後に腸閉塞症で再入院し,右半結腸切除術を施行した。回腸末端から上行結腸は,瘢痕化し狭窄していた。腸間膜動脈塞栓症に対する塞栓除去術後は,虚血に伴う腸管狭窄を念頭に置いた厳重な経過観察が重要である。
  • 田中 征洋, 鈴木 秀昭, 永田 純一, 林 英司, 太平 周作, 井上 昌也, 鈴木 俊裕, 久保田 仁
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1093-1096
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    閉鎖孔ヘルニアの治療は緊急開腹手術が選択されることが多いが,他のヘルニア嵌頓と同様に非観血的整復後に待機的に低侵襲手術を施行する報告が散見されるようになった。今回2度の非観血的用手整復後に待機手術を施行した閉鎖孔ヘルニアの1例を経験したので報告する。症例は106歳の女性。4ヵ月前に閉鎖孔ヘルニアに対して非観血的用手整復を施行したが,再度ヘルニア嵌頓を発症した。発症後4時間しか経過しておらず,CTで腸管壊死の可能性は低いと判断し,非観血的用手整復を施行し,後日待機的に手術を施行した。非観血的用手整復により合併症を多く有する高齢者の緊急手術を回避できる可能性はあるが,嵌頓腸管を視認できず遅発性小腸穿孔をきたす危険性がある。非観血的用手整復の適応を閉鎖孔ヘルニア発症からの経過時間で決定することは困難で,CT所見などを参考にして適応を慎重に判断しなければならない。
  • 岡澤 裕, 永易 希一, 小野 誠吾, 杉本 起一, 柳沼 行宏, 小島 豊, 五藤 倫敏, 田中 真伸, 仙石 博信, 冨木 裕一, 坂本 ...
    2011 年 31 巻 7 号 p. 1097-1099
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    症例は62歳の男性。2009年8月両側鼠径ヘルニアの診断で,Tention free法による鼠径ヘルニア根治術を施行した。既往歴は気管支喘息のみで開腹歴なし。術後第1病日より腹痛,嘔吐を認め,イレウスの診断でイレウス管を挿入した。しかし,症状の改善は認められず,腹膜刺激症状も出現したため同日に緊急手術を施行した。開腹所見では,多量の血性腹水と壊死した腸管を認めた。さらにS状結腸の結腸垂が右内鼠径輪近傍の腹膜に癒着して索状物を形成しており,空腸が嵌入し絞扼していた。絞扼していた小腸の部分切除術を施行した。またヘルニア修復部の腹膜には損傷がないことを確認し手術を終了した。鼠径ヘルニア根治術(Tension-free法)後の腸閉塞発症例はまれである。自験例では,索状物が鼠径ヘルニア修復部に存在しており,ヘルニア嚢を整復したことにより腸管が入り込むスペースができたため,腸閉塞が発生したと考えられた。
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