日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
31 巻, 1 号
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原著
  • 辻本 広紀, 矢口 義久, 平木 修一, 小野 聡, 木下 学, 山本 順司, 長谷 和生
    2010 年 31 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    上部穿孔性腹膜炎症例における腹膜CT値測定の臨床的意義について検討した。上部消化管穿孔27例を対象とし,単純CT上での肝前面の腹膜CT値(HU)を測定し,腹膜炎の重症度や穿孔部位との関連を検討した。2名により判定した腹膜CTの測定値は正の相関を認めた(ρ=0.87,p<0.0001)。腹膜CT値は,Acute physiology and chronic health evaluation II(APACHE II)スコア,sequential organ failure assessment(SOFA)スコア,Mannheim Peritonitis Index(MPI)と有意な負の相関を示したが,入院時systemic inflammatory response syndrome(SIRS)の有無では差はみられなかった。また腹膜CT値は術後のICU入室日数と負の相関を示し,臓器障害が3臓器以上に及んだ症例の腹膜CT値は,臓器障害なし,臓器障害が1つの症例と比較して有意に低値であった。上部消化管穿孔症例の腹膜CT値測定は,客観的で,腹膜炎の重症度をよく反映し,腹膜炎の重症度の予測に有用であると考えられた。
  • 杉本 起一, 小野 誠吾, 石山 隼, 柳沼 行宏, 五藤 倫敏, 田中 真伸, 仙石 博信, 冨木 裕一, 坂本 一博
    2010 年 31 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    大腸穿孔症例の予後および術後在院期間に関する予測因子について検討した。過去7年間に当科で手術を施行した54例を対象とし,生存群と死亡群の2群および術後在院期間30日以内(短期群)と31日以上(長期群)の2群に分けて検討した。死亡群は6例(11.1%)であった。死亡群では単変量解析でSystemic inflammatory response syndrome(SIRS),Acute Physiology and Chronic Health Evaluation(APACHE) IIscore高値,遊離穿孔,糞便性腹膜炎,エンドトキシン吸着療法が有意に多かった。術後在院期間長期群は30例(62.5%)であった。多変量解析では,併存疾患数と創感染が術後在院期間長期群の独立した予測因子として選択された。予後予測因子を認める症例に対しては敗血症に対する治療が重要である。また,救命できた症例においても在院期間の短縮のために,併存疾患に対する十分な周術期管理や術中・術後の創感染対策が必要であると考えられた。
特集:小児腹部救急における腹腔鏡手術の適応と限界
  • 吉田 真理子, 内田 広夫, 川嶋 寛, 五藤 周, 佐藤 かおり, 高澤 慎也, 岩中 督
    2010 年 31 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡手術は低侵襲で整容的に優れるため,腹部救急疾患に対しても適応が拡大しつつある。当科では最近12年間に,急性虫垂炎・肥厚性幽門狭窄症を除く小児腹部救急疾患75例に対し腹腔鏡手術を行った。診断は腸閉塞17例,脳室腹腔シャント障害9例,卵巣・卵管捻転8例,Meckel憩室(腸閉塞を除く),横隔膜ヘルニア各7例等であった。診断確定目的の腹腔鏡を21例に行い6例は観察のみで終了した。新生児例は捻転のない腸回転異常症と卵巣嚢腫捻転の計3例であった。術中小腸損傷は2例(2.5%),開腹移行は4例(5.0%)あった。腹部救急疾患に対して腹腔鏡手術を行うには,迅速な開腹移行にも対応できる,チームとしての熟練が必要である。腹腔鏡手術の絶対的禁忌は全身麻酔・気腹のハイリスク例であり,相対的禁忌として腸管壊死を伴う絞扼性イレウスがあげられるが,その他の症例では腹腔鏡手術の適応を考慮できると考えられた。
  • 鈴木 信, 石丸 由紀, 田原 和典, 藤野 順子, 畑中 政博, 五十嵐 昭宏, 池田 均
    2010 年 31 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    鏡視下手術はさまざまな領域で応用され,小児外科領域においても多種多様な疾患で行われるようになってきた。しかし,腹部救急疾患に腹腔鏡を適応するにあたっては,操作可能範囲の特性と限界を十分に理解することが重要と考えられる。当科では2001年5月より鏡視下手術を取り入れ,種々の腹部救急疾患にも施行してきた。対象疾患は主に急性虫垂炎に関連するもので占められているが,他の原因による腹膜炎,腸重積症,卵巣腫瘍茎捻転,Meckel憩室炎の診断および治療目的にも施行している。腹部救急疾患においても鏡視下手術を積極的に導入可能と考えられるが,一方で手術困難であれば躊躇することなく開腹への移行を行うなどの柔軟な心構えが腹部救急疾患に適応する上で重要である。
  • 福本 泰規, 伊川 廣道, 河野 美幸, 増山 宏明, 押切 貴博, 安井 良僚, 桑原 強
    2010 年 31 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    急性虫垂炎に対して一期的腹腔鏡下虫垂切除術(LA)を1997年12月より導入し,現在は第一選択術式となっている。これまでに経験した一期的LA症例344例とLA導入以前の1996年1月から1997年12月までの2年間に一期的開腹虫垂切除術(OA)を施行した88例をretrospectiveに検討し,LAの適応について考察した。手術時間,術中合併症においてはLAとOA間に有意差は認められなかったが,術後創感染においてLAが有意に多くなっていた。開腹術へ移行した症例は壊疽性穿孔例の1例のみであった。LAは開腹術と比較し病変部と周囲の状態を正確に同定でき,的確で安全な手術操作が可能であることから穿孔例や膿瘍形成例もLAの良い適応であると考えている。
  • 小角 卓也, 米倉 竹夫, 山内 勝治, 黒田 征加, 木村 拓也, 井原 欣幸
    2010 年 31 巻 1 号 p. 49-54
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    過去8年間に鏡視下虫垂切除を行った小児症例71例を検討した。24時間以内に手術をした症例(EA群)と保存療法後に手術をした症例(IA群)の2群にわけ,さらにCT検査にて虫垂炎の状態をA群;腫瘤形成性,B群;穿孔性,C群;非穿孔性の3つに分類した周術期合併症を中心に検討した。EA群は45例で,術後の合併症はA群12例中2例(創部感染1例と腹腔内膿瘍1例),B群の14例中2例(術後腸閉塞1例,腹腔内膿瘍1例)に認めた。IA群は26例で保存的治療中のみ合併症を認め,A群7例中2例(炎症再燃1例と腸閉塞1例),B群の2例中2例(炎症再燃1例と症状増悪にて緊急手術1例)に認めた。EA群IA群ともにC群の合併症はなかった。EA群IA群ともに開腹移行例はなく,手術時の合併症はなかった。全入院期間はEA群がA群,B群,C群ともに,IA群より短かった。EA群では術後合併症のリスクが高く,一方IA群では保存療法中での合併症が問題となった。
  • 勝野 剛太郎, 福永 正氣, 李 慶文, 永仮 邦彦, 吉川 征一郎, 大内 昌和, 伊藤 嘉智, 平崎 憲範
    2010 年 31 巻 1 号 p. 55-61
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    【背景】われわれは腹腔鏡下虫垂切除術(以下,LA)を1995年より導入し,全ての小児・成人急性虫垂炎を適応とし現在では791例の施行経験がある。小児急性虫垂炎に対しても成人と同じ適応にて軽症例・重症例を問わずLAを積極的に導入している。待機的虫垂切除は施行していない。今回,小児急性虫垂炎に対するLA(child LA)の術中・術後成績と開腹虫垂切除(child OA)および成人LA(adult LA)の成績とで比較検討を行った。【方法】対象は1995年5月から2010年7月まで,当科にて虫垂炎手術を施行され,かつその後の追跡調査が可能であった1,069例のうち,child LA群,child OA群,adult LA群を選定。検討1ではchild LA vs. child OAを,検討2ではchild LA vs. adult LAを行った。検討項目は,背景因子,手術時間,術中出血量,術後合併症,術後在院日数などとした。【結果】[検討1]child OAと比較してchild LAにおいて手術時間の延長,創感染発生率の低下および術後在院日数の短縮を認めた。[検討2]各検討項目において,child LAとadult LAとの間に有意な差は認めなかった。「結語」当院では小児急性虫垂炎に対しても成人と同じ適応にて積極的にLAを導入している。今回の検討の結果,小児に対するLAの適応は妥当なものと考えられた。
  • 園田 真理, 佐藤 正人, 服部 健吾, 宮内 雄也, 高田 晃平, 濵田 吉則
    2010 年 31 巻 1 号 p. 63-66
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    小児腸重積症に対する腹腔鏡下手術の適応と限界について自験例をもとに検討を行った。非観血的整復が不能であった腸重積症例23例,ならびに繰り返す腸重積症4例に対し,腹腔鏡手術・検査を行った。腹腔鏡下に整復し得たのは23例中21例(91.3%)であった。このうち,Meckel憩室などの器質的疾患を合併していた3例と,小腸壊死を認めた2例,計5例に腹腔鏡補助下小腸切除術を行った。開腹移行となったのは2例であった。6例では腹腔鏡観察時にすでに腸重積は解除されていた。腹腔鏡検査症例では,器質的疾患の合併は認められず,うち2例に腹腔鏡下盲腸固定術を行った。腹腔鏡下整復術は,高い整復率で,安全に施行が可能であった。さらには,器質的病変の検索や小腸切除等にも対応が可能であった。しかし,開腹移行の可能性や粘膜病変等の見落としには留意すべきであると思われた。
  • 土屋 晶義, 世川 修, 吉田 竜二, 川島 章子, 光永 眞貴, 亀岡 信悟
    2010 年 31 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    小児卵巣腫瘤は比較的捻転の合併が多いが,捻転に対する術前正診率は完全ではなく,卵巣温存のためには緊急的対応が必要となる。当科においても,症状や術前検査所見に関わらず緊急的な対応を行い,診断・治療の両面で全例に腹腔鏡を用いている。腹腔鏡的アプローチは,対側卵巣の観察も含めた確定診断や捻転の有無の確認が同時に可能であり,穿刺吸引,捻転解除や保温などの腹腔内操作も容易に施行でき,小開腹併用創も最小限にできるため有用であると考えられる。しかし,腫瘤内容が腹腔内に漏出しやすいなどの問題もあり,さまざまな工夫や体外法の併用が報告されている。また最近では,妊孕性を考慮し,可及的に卵巣を温存するための2期的手術の重要性が多く報告されており,今後もさらなる術式の発展が期待される。
症例報告
  • 大野 敬祐, 佐々木 一晃, 佐々木 寿誉, 染谷 哲史, 原田 敬介, 木村 康利, 古畑 智久, 平田 公一
    2010 年 31 巻 1 号 p. 73-77
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    症例は16歳男性。サッカーの試合中,相手選手の膝が左上腹部に当たり受傷した。受傷直後,近医に救急搬送され入院となったが,10時間後に腹痛が増悪し,加療目的に当院紹介入院となった。来院時,腹部全体に自発痛,高度の筋性防御を認めた。腹部CTでは,Treitz靱帯周囲,右傍結腸窩およびDouglas窩に液体貯留を認め,胃背側および横行結腸間膜背側の小腸間膜根部に腹腔内遊離ガス像を認めた。消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断で受傷15時間後に緊急手術を行った。腹腔内は胆汁を含んだ消化管内容により汚染し,十二指腸第4部に破裂を認めた。破裂部腸管切除,十二指腸・挙上空腸側々吻合術を施行し,経鼻胃管で吻合部腸管内減圧とした。合併症なく軽快し,術後16日目に退院となった。今回,われわれはスポーツ外傷により受傷した外傷性十二指腸第4部破裂を経験したので,文献的考察を加え報告する。
  • 北川 美智子, 山田 成寿, 草薙 洋, 加納 宣康
    2010 年 31 巻 1 号 p. 79-83
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,男性。増悪する心窩部痛を主訴に近医を受診し消化管穿孔を疑われ,当院紹介となった。来院15分後にショック状態となり,腹腔内出血の診断にて緊急手術となった。開腹所見上,中結腸動脈領域からの出血を認め,責任血管を結紮切離した。術後の腹部血管撮影検査にて中結腸動脈が造影され,同血管と左結腸動脈が形成する交通枝に血管径の不整と動脈瘤様の変化を認めた。今後破裂する危険性を考慮し,動脈瘤を含めた横行結腸切除術を施行した。術後経過は良好であり,初回術後61日目に軽快退院した。中結腸動脈瘤は多発する可能性が高く,多発の有無を確認することが重要である。
  • 太田 裕之, 塚山 正市, 藤岡 重一, 村上 眞也, 小島 正継, 川浦 幸光
    2010 年 31 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,女性。2007年7月に腹痛,嘔吐が出現し救急外来を受診した。急性腸炎の診断で点滴,鎮痛薬を投与し症状が軽快したため一旦帰宅したが,翌日に腹痛が増悪するため再度救急外来を受診した。腹部CT検査において肝内門脈および小腸壁内にガス像を認め,腸管壊死を伴う絞扼性イレウスと診断し緊急手術を施行した。小腸に広範な虚血所見を認め,一部の回腸は壊死をきたしていたが小腸間膜の動脈の拍動は良好であった。虚血に陥った回盲部を含めた小腸広範切除を施行した。病理組織検査において小腸壁に出血および好中球浸潤を伴う壊死を認めた。粘膜下層には空胞形成を認め,ガス壊疽の所見を呈していた。グラム染色において粘膜内にクロストリジウム属細菌の形態的特徴を有するグラム陽性の大型桿菌の増殖を認めた。問診より患者は腹痛が出現した当日に消費期限を過ぎた豚肉を摂食していたことより,クロストリジウム属細菌の感染による壊死性腸炎と診断した。術後経過は良好で第24病日に退院した。
  • 田中 肖吾, 福本 信介, 石原 寛治, 渡辺 千絵, 中村 有佑, 倉島 夕紀子, 大野 耕一, 山本 隆嗣
    2010 年 31 巻 1 号 p. 91-94
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    患者は58歳,男性。2009年1月非機能性膵内分泌癌に対し脾合併膵体尾部切除を施行した。膵切離面に留置した腹腔ドレーンは術後4日目に抜去した(排液中アミラーゼ1,009IU/L)。術後6日目より左季肋部の疼痛が出現し,術後10日目に施行した腹部CT上膵断端に径5cm大の液体貯留を認め膵液漏と診断し,絶食下にて保存的治療を開始した。しかし38℃以上の発熱,左季肋部の圧痛を伴う腫瘤触知および血液検査での炎症所見の亢進を認めたため,術後20日目にCT検査を施行したところ液体貯留は径8cm大に増大していた。術後21日目に内視鏡的経鼻膵管ドレナージを施行した。膵液が粘稠であったため1日2回の強陰圧および洗浄を行い,留置20日目には液体貯留は径3cm大まで縮小し強陰圧をかけても排液がないため抜去した。最終的に切離面に仮性嚢胞を形成したが変化なく,術後1年6ヵ月まで増悪を認めていない。
  • 桑原 明史, 酒井 靖夫, 大橋 拓, 武者 信行, 坪野 俊広
    2010 年 31 巻 1 号 p. 95-98
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性。横行結腸腫瘍に対する内視鏡下粘膜切除術でsm癌と診断され,腹腔鏡下横行結腸部分切除術を施行した。約2ヵ月後,突然の腹痛と吐気・嘔吐が出現し,当院救急外来を受診した。腹部単純X線検査では異常を認めなかったが,腹部CTで空腸をヘルニア内容とする横行結腸間膜欠損部内ヘルニアと診断し,緊急手術を施行した。手術所見では,横行結腸間膜欠損部から網嚢内へ空腸が1mほど入り込んでいた。脱出腸管を戻した後,腸間膜欠損部を縫合閉鎖した。腹腔鏡下大腸手術後の腸間膜欠損部での内ヘルニアはまれであるため発症から診断治療まで時間を要している報告が多いが,速やかな診断にはCT検査は有用であった。また,本症は発症率は低いが手術が必要となるため,腸間膜欠損部はできるだけ閉鎖するべきと考えられた。
  • 中地 健, 生方 英幸, 田渕 崇伸, 竹村 晃, 佐谷 徹郎, 島崎 二郎, 中田 一郎, 田渕 崇文
    2010 年 31 巻 1 号 p. 103-106
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    症例は32歳男性。腹痛・嘔吐を主訴に近医受診。腸閉塞の疑いにて当科紹介入院となった。開腹歴なし。腹部は臍部を中心に膨隆,軽度圧痛あり,腹膜刺激症状はなかった。CTにて右上腹部に巨大な嚢状構造と拡張した小腸ループ像を呈し,上行結腸を外側に圧排していることより右傍十二指腸ヘルニアによるイレウスの可能性が高いと判断。絞扼性イレウスの可能性も考え,同日緊急手術施行した。腹腔内にはTreitz靱帯が存在せず,上腸間膜動静脈の右側に生じた腹膜開口部をヘルニア門とし,約200cmの小腸が嵌入していた。嵌入小腸に虚血・壊死がないことを確認。ヘルニア門を縫合閉鎖し閉腹した。本症例は腸管の循環障害を認めず,小腸整復とヘルニア門の閉鎖,予防的虫垂切除のみで終了したが,大量小腸切除を必要とした症例もある。本疾患を念頭におき画像検査を進めれば,術前診断は可能であり早期の適切な手術が可能であると考えられた。
  • 藤田 昌紀, 椿 昌裕, 伊藤 友一, 萩原 信悟, 勝又 大輔, 加藤 広行
    2010 年 31 巻 1 号 p. 107-110
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    電解質異常を伴う直腸巨大絨毛腺腫の3例を経験したので報告する。症例1:81歳女性。頻回の下痢電解質異常にて精査,上部直腸に全周性で長軸方向15cmに渡る巨大絨毛腺腫を認めた。症例2:67歳女性。水様性下痢の継続。直腸S状部に17×8cmの絨毛腫瘍を認めた。症例3:73歳男性。血便を主訴に精査。上部直腸に10×10cmの絨毛腫瘍を認めた。いずれも粘液産生を認め,電解質異常を呈したためElectrolyte depletion syndrome(EDS)を合併する絨毛腫瘍と考えられた。いずれの症例も手術にて電解質異常も改善し良好な経過となっている。EDSを伴う絨毛腫瘍は比較的まれである。長期の水様性下痢を呈する場合はこのようなEDSを呈する巨大絨毛腫瘍の合併もあり時に重篤な電解質異常を呈するため注意が必要である。今回3症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。
  • 二宮 豪, 石榑 清, 林 直美, 加藤 公一
    2010 年 31 巻 1 号 p. 111-114
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,男性。2009年5月動悸と腹痛が出現し,当院を受診した。貧血を指摘され精査した。内視鏡検査で胃角部に存在する隆起性病変と,幽門輪より十二指腸に脱出する隆起性病変を認めた。生検結果はともに中分化型腺癌であった。上部消化管造影検査では胃角部と,十二指腸球部に存在する隆起性病変を認めた。同時性多発胃癌と診断し手術を施行した。手術所見では,十二指腸球部内に軟腫瘤を触知でき,用手的に胃内に整復還納した。幽門側胃切除,D2郭清を行った。病理組織学的にはpT1(M,SM),ly0,v0,pN1と診断された。ball valve症候群は胃腫瘍が幽門にはまり込み,閉塞に伴う症状としてあらわれる病態とされている。今回われわれはball valve症候群をきたした同時多発性胃癌を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。
  • ヘルニア修復術後に小腸穿通を形成した1例
    山下 俊, 田中 信孝, 野村 幸博
    2010 年 31 巻 1 号 p. 115-118
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    症例は71歳男性で,他院で胃癌に対し胃切除を行い4ヵ月後に腹壁瘢痕ヘルニアを発症したためComposix Kugel Patch®を用いた修復術が行われた。6年8ヵ月後,腹部正中創の発赤・疼痛を訴え当院受診となる。Computed Tomography(CT)では正中創直下で人工物周囲の膿瘍を認め,癒着した小腸への穿通が疑われた。その後手術にて人工物とともに強固に癒着する小腸約30cm長を一塊として切除した。腹壁瘢痕ヘルニアに関しては大腿筋膜自家移植により修復した。摘出標本を観察するとComposix Kugel Patch®が癒着した小腸へ穿通していた。Composix Kugel Patch®は発売以来,expanded Polytetrafluoroethylene(ePTFE)面が腸管と癒着を起こさないために腹膜欠損を伴うような巨大ヘルニアや腹腔鏡下手術での有用性が強調されてきたが,人工物感染の報告が除々になされるようになってきた。一方,Composix Kugel Patch®の腸管穿通形成例は,少なくとも2010年までの本邦医中誌検索では認めない。今回われわれはまれな症例を経験したため文献的考察を加えて報告する。
  • 須納 瀬豊, 平井 圭太郎, 吉成 大介, 戸塚 統, 戸谷 裕之, 小川 博臣, 高橋 憲史, 田中 和美, 富沢 直樹, 小川 哲史, ...
    2010 年 31 巻 1 号 p. 119-122
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    症例は65歳男性。2008年10月,意識障害を主訴に救急外来受診。精査の結果,異常高血糖(1,000mg/dL以上)に伴う糖尿病性昏睡が疑われ,大量補液を行った。その後,血圧低下からショック状態になり,大量に吐下血した。大量補液,インスリン投与,輸血を行い,状態の改善を図った上で緊急内視鏡検査を行った。内視鏡では十二指腸球部から下行脚に大きな潰瘍性病変があり,止血を行った。その後も度々,吐下血を繰り返していた。精査のためCTを行ったところ,膵頭部に不整な腫瘤影があり,背側で上腸間膜静脈が巻き込まれていた。十二指腸浸潤を伴った膵頭部癌と診断し,根治的治療として膵頭十二指腸切除を行った。病理組織学的には膵頭部癌が十二指腸に直接浸潤して腫瘤を形成していたほか,組織学的にも上腸間膜静脈への浸潤を認めた。腫瘍出血により出血性ショックとして発症した,十二指腸浸潤を伴った膵頭部癌の1切除例を経験したので報告する。
  • 長谷川 毅, 阿古 英次, 西村 重彦, 妙中 直之
    2010 年 31 巻 1 号 p. 123-126
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    症例は45歳,女性。上腹部痛を主訴に当院救急外来を受診し入院となった。術前CT検査にて門脈と下大静脈との間から網嚢へ陥入する腸管像を認め,Winslow孔ヘルニアと診断し,緊急手術となった。手術所見ではTreitz靱帯より約400cm肛門側の小腸がWinslow孔から網嚢内に約90cmにわたり陥入していた。Kocher授動を行い,用手的に整復は可能であった。しかし,陥入した小腸が壊死に陥っており,小腸部分切除を行った。Winslow孔の縫縮は行わなかった。上行結腸,下行結腸に固定異常を認めた。Winslow孔ヘルニアは内ヘルニアの約8%と比較的まれであり,本邦では自験例を含めて33例の報告がみられた。CTにて術前診断可能であったWinslow孔ヘルニアの1例を経験したので文献的考察を加えて報告する。
  • 高梨 秀一郎, 嘉悦 勉, 村上 雅彦
    2010 年 31 巻 1 号 p. 99-102
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2011/03/11
    ジャーナル フリー
    症例は83歳女性,既往に肺塞栓症があり,ワルファリンカリウムの内服を続けていた。今回,腹痛,嘔吐を主訴に来院した。炎症反応と凝固能異常を認め,腹部造影CTでは空腸起始部に強い拡張,浮腫があり,血性腹水を伴っていた。急性腹症,急性腸管壊死の疑いで緊急手術を行った。原因は腸間膜血腫による空腸の局所的なうっ血であった。明らかな虚血性変化がないため腸管切除は行わなかった。術後は良好に経過し退院した。非外傷性の腸間膜血腫は術前診断に苦慮することが多いが,抗凝固療法を受けている患者には同疾患を考慮に入れる必要があると考えられた。
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