日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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32 巻, 3 号
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原著
  • 川野 陽一, 相本 隆幸, 谷合 信彦, 真々田 裕宏, 吉田 寛, 中村 慶春, 廣井 信, 峯田 章, 吉岡 正人, 上田 純志, 村田 ...
    2012 年 32 巻 3 号 p. 575-581
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    〈はじめに〉膵切除後動脈性出血は,致死的となる重篤な合併症であるが,近年,Interventional Radiology治療の進歩がめざましく,術後動脈性出血の治療戦略にも大きな変化をもたらしている。本稿において,当科における膵切除術後動脈性出血に対するIVR治療の意義を検討したので報告する。〈対象と方法〉膵切除を要した,2005年1月~2009年12月までの後期(133例)とそれ以前の前期(197例)で,術後出血を認めた症例(前期:13例(6.6%),後期:4例(3.0%))を対象とし,両群間で比較検討を行った。〈結果〉前期では5例にIVRを行い,止血成功は3例であった。止血不能の2例は,直後の緊急手術にて全例止血された。初回からIVRを行わず開腹止血術を施行した他の7例では,止血成功例は4例のみで,止血不能となった3例は全例死亡した。その他の1例では,出血後にそのまま心停止となったため,IVRや開腹止血術にも進めなかった。後期では4例で術後出血を認め,有意差は認めなかったものの,術後出血の頻度は減少した。全例にIVRを行い,止血は全例で可能で,死亡例を認めなかった。〈結論〉膵切除後の動脈性出血は,手術手技や術後管理の発展などにより頻度が低下したが,発生時はIVR治療を第一選択に考慮すべきである。すなわち,迅速な診断,速やかな外科医とIVR治療医との連携による処置が重要となる。
  • 矢野 公一, 島山 俊夫, 田中 俊一, 近藤 千博, 千々岩 一男
    2012 年 32 巻 3 号 p. 583-586
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    【目的・方法】S状結腸軸捻転症(SV)は,腸管の通過障害や血行障害から壊死穿孔をきたしうる急性腹症の1つであるが,その治療方針はいまだ確立されていない。当施設では,以下の方針で治療を行ってきた。(1)筋性防御陽性かつ全身状態不良(ショック)例,内視鏡で減圧不能例や腸管壊死例には緊急手術を行い,それ以外は待機的手術を行った。(2)緊急手術では原則としてHartmann手術を行った。(3)待機的手術ではS状結腸切除を行った。この治療方針の妥当性を検証することを目的として,SVで手術した35例について臨床的に検討を行った。【結果】平均年齢は76歳。男性29例女性6例。手術死亡はなかった。緊急手術例(n=10)は待期手術例(n=25)と比較して術後在院日数が有意に長く,総在院日数は長い傾向がみられた。【結語】来院時に全身状態が良好であれば大腸内視鏡下に整復や減圧を試み,待期的に手術を行うことが推奨される。
  • 亀田 徹, 高橋 功
    2012 年 32 巻 3 号 p. 587-593
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    【目的】付属器疾患に対する携帯型装置を用いた経腹超音波検査(携帯経腹超音波)の有用性の検討。【対象と方法】下腹部痛を主訴に救急外来を受診した15~50歳の女性患者で携帯経腹超音波を施行された46例のうち,救急外来で確定診断がなされたか,後に専門外来を受診した32例について検討した。【結果】32例中付属器疾患は15例でその内訳は,出血性卵巣嚢胞5例,卵巣腫瘍4例,内膜症性嚢胞3例,卵管妊娠1例,卵管留膿腫1例,付属器炎1例であった。婦人科手術は9例に行われたが,そのうち8例(89%)は携帯経腹超音波で付属器病変,もしくは腹腔内出血を指摘できた。付属器疾患に対する携帯経腹超音波の精度は,感度87%,特異度94%,正確度91%であった。【結語】救急外来において携帯経腹超音波は付属器疾患の存在診断に有用で,婦人科以外の医師が利用する価値のある検査と考えられるが,その確証を得るにはさらなる検討が必要である。
特集:急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドラインを検証する―改訂に向けてのプロセスと課題―
  • 三浦 文彦, 佐野 圭二, 天野 穂高, 豊田 真之, 和田 慶太, 渋谷 誠, 前野 佐和子, 高田 忠敬, 吉田 雅博
    2012 年 32 巻 3 号 p. 597-601
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    海外におけるTokyo Guidelines(TG)の認知度,活用度および位置付けを明らかにするために,TGの論文の披引用状況について検討を加えた。TGの論文は世界中の著者によってさまざまな分野の雑誌に多く引用され,診断基準,重症度判定基準に基づいた臨床研究も増加傾向にある。ガイドライン,テキストブックへの引用も散見されるようになってきており,臨床研究,臨床現場においてgold standardになりつつあると考えられた。今後は,TGの診断基準,重症度判定基準を用いた前向き研究が行われ,その結果をフィードバックすることにより,TGがより確固たるエビデンスとなることが期待される。
  • ─急性胆管炎診断におけるダイナミックCTの有用性─
    蒲田 敏文
    2012 年 32 巻 3 号 p. 603-606
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン初版では,胆管炎による炎症そのものは画像(CT,US,MRI)では診断できないので,画像診断の意義は胆道閉塞の有無やその成因を診断することであると記載されている。しかしながら,造影ダイナミックCTを施行することで,胆管炎に特徴的な所見を得ることができる。すなわち,胆管炎ではダイナミックCTの動脈相で肝実質に一過性の不均一濃染が高率に認められる。この濃染は門脈相~平衡相では消失する。この不均一濃染の成因は,胆管炎に伴う炎症の肝内グリソン鞘への波及により末梢門脈血流が低下し,代償性に末梢肝動脈血流が増加するためと考えられている。胆管炎の治療により炎症が改善すれば,この不均一濃染も改善ないし消失する。臨床的に胆管炎が疑われる場合には,迅速な診断と治療を行うためにもダイナミックCTの施行が勧められる。
  • 浮田 雄生, 新後閑 弘章, 大牟田 繁文, 権 勉成, 斉藤 倫寛, 徳久 順也, 成木良 瑛子, 前谷 容
    2012 年 32 巻 3 号 p. 607-610
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン(以下,JGL)が急性胆道炎の診療を向上させた功績は大きい。しかし,いくつかの問題点も指摘されている。その一つに,重症度判定において中等症が多いことがあげられる。胆道ドレナージ後の絶食期間により中等症のcriteriaを単変量解析したところ,腎障害と高熱に有意差を認め,多変量解析で高熱が選択された。速やかな胆道ドレナージを施行しても高熱例では症状が遷延したことより,重症と同等に取り扱うべきであることが示唆された。また,Tokyo Guidelines(以下,TGL)と比較した結果,中等症のうちTGLのmoderateに相当するのは26%であり,絶食期間は3.5日と両者の相違が大きいと考えられた。高熱とmoderateを多変量解析した結果どちらも選択されなかったが,TGLでは来院時に判定できないことが課題であると考えられた。
  • 横江 正道, 梅村 修一郎, 林 克巳, 折戸 悦朗, 真弓 俊彦, 吉田 雅博, 高田 忠敬
    2012 年 32 巻 3 号 p. 611-616
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    急性胆道炎ガイドライン(JGL)とTokyo Guidelines(TG2007)の間には重症度判定基準の設定が異なっている。重症度判定基準の改訂のポイントを検討する。急性胆管炎,胆嚢炎を疑って入院した74例と81例をRetrospectiveに検討した。急性胆管炎でJGL診断基準に適合した60例は重症2例,中等症52例,軽症6例であった。緊急ドレナージは重症1例(1/2),中等症33例(33/52),軽症全例(6/6)に行われた。TG2007診断基準に適合した52例は重症6例,中等症3例,軽症43例であった。緊急ドレナージは重症3例(3/6),中等症全例(3/3),軽症27例(27/43)に行われた。急性胆嚢炎でJGL診断基準に適合した70例は重症13例,中等症31例,軽症26例であった。緊急ドレナージは重症8例(8/13),中等症15例(15/31),軽症3例(3/26)に行われた。TG2007診断基準に適合した66例は重症7例,中等症23例,軽症36例であった。緊急ドレナージは重症5例(5/7),中等症15例(15/23),軽症6例(6/36)に行われた。早期胆管ドレナージを行う上で急性胆管炎の中等症の判定基準の改訂が重要である。
  • 鈴木 修司, 尾崎 雄飛, 小池 伸定, 原田 信比古, 鈴木 衛
    2012 年 32 巻 3 号 p. 617-622
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    (目的)急性胆道炎患者に対する重症度判定の問題点について検討した。(方法)対象は急性胆道炎に対して外科治療を施行した313例である。『急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン』の重症度判定にて分類し,70歳以上の高齢者(A群),それ以下の若年者(B群)に分けて検討した。(成績)急性胆管炎症例は131例で,A群,B群で病悩期間,在院期間に有意差は認めなかった。重症度別(A群/B群)は軽症22.0%/14.3%,中等度64.6%/69.4%,重症13.4%/16.3%であった。中等度2項目陽性例は1項目陽性例に比して緊急処置が増加した。急性胆嚢炎症例は182例で,A群はB群に比して病悩期間,在院期間とも有意に長かった。重症度別(A群/B群)は軽症36.7%/38.8%,中等度25.3%/19.4%,重症63.3%/41.7%であった。A群重症症例の2項目陽性例は1項目陽性例に比して緊急処置が増加した。(結論)現状のガイドラインにおいて項目での重みづけと必要条件の見直しが必要と考えられた。
  • 桐山 勢生, 熊田 卓, 谷川 誠, 久永 康宏, 豊田 秀徳, 金森 明, 多田 俊史
    2012 年 32 巻 3 号 p. 623-627
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    現在,急性胆管炎・胆嚢炎の診断規準は,国内版と国際版ガイドラインであるTOKYO Guidelines(以下,TG2007)による診断基準が並立してdouble standardとなっている。国際版のTG2007に合わせた共通の診断基準となることが望まれる。今回,われわれは臨床例を対象にTG2007による急性胆管炎・胆嚢炎の診断基準を検証した。[急性胆管炎]有症状総胆管結石の患者201例を対象にTG2007の診断基準を当てはめると,その感度は確診のみでは70.1%となり十分な感度とは言えないものであった。これには診断項目の組み合わせが不適切であり,特にCharcot3徴に「胆道疾患の既往」を組み合わせた4項目のうち2項目以上が診断に必要な点が問題と考えられた。[急性胆嚢炎]手術により急性胆嚢炎が確認された155例を対象に,TG2007急性胆嚢炎診断基準を検証した。確診は155例中137例(88.4%)となり良好な感度を示した。妥当な診断基準といえるが,確診の表現が曖昧であり見直すべきと考えられた。【結語】国際版ガイドラインであるTG2007による診断基準は,今回実地臨床による検証の結果,一部問題点があることが判明し改訂が必要と考えられた。
  • 浅井 浩司, 渡邉 学, 草地 信也, 松清 大, 斉藤 智明, 児玉 肇, 萩原 令彦, 榎本 俊行, 中村 陽一, 斉田 芳久, 長尾 ...
    2012 年 32 巻 3 号 p. 629-635
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    急性胆嚢炎症例260例に対し,急性胆嚢炎診療ガイドライン(以下,国内版)とTokyo Guidelinesにおける重症度分類の比較検討を行った。重症度の内訳は国内版では軽症20.8%,中等症45.4%,重症33.8%に対し,Tokyo GuidelinesではMild 43.1%,Moderate 56.2%,Severe 0.7%であった。双方のガイドラインを合わせて検討した結果,国内版軽症,Tokyo Guidelines Mild,国内版中等症,Tokyo Guidelines Moderate,国内版重症の順に炎症所見の有意な変化を認められた。また年齢,体温,胆汁細菌陽性もこの順に有意な変化を認めた。今後,大規模試験を含めた十分な検証が必要であると考えられ,特にTokyo Guidelinesの重症度判定基準に関しては再評価する必要があると考えられた。
  • 礒 幸博, 窪田 敬一
    2012 年 32 巻 3 号 p. 637-640
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    <背景>「急性胆嚢炎の診療ガイドライン」では,白血球,CRP,ビリルビン,尿素窒素,クレアチニンと肝胆道系酵素がその重症度判定に有用とされ,重症例に対しては緊急手術,中等症以下では早期の腹腔鏡下手術を推奨している。当科における急性胆嚢炎症例について検討を行った。<対象と方法>2000年4月から2011年11月まで腹腔鏡下胆嚢摘出術で手術を開始した586例のうち,中等症胆嚢炎を併発していた212症例を対象とした。これらを腹腔鏡手術完遂群(LC群:n=186)と開腹移行群(OC群:n=26)に分類し,比較検討を行った。<結果>平均年齢(歳)は,LC群:55.0,OC群:60.9:p=0.06(以下同様),手術時間(分)は,135.2:202.0:p<0.05,出血量(mL)は,47.5:246.0:p<0.05,術後在院日数(日)は,3.3:9.5:p<0.05であった。術前の血液検査は,白血球(/μL):7,500:11,200:p<0.05,CRP(mg/dL):3.4:8.8:p<0.05,ビリルビン(mg/dL):1.2:2.2:p=0.12,尿素窒素(mg/dL):13.7:16.1:p=0.06,クレアチニン(mg/dL):0.78:0.75:p=0.69,AST(U/L):49.3:206.4:p<0.05,ALT(U/L):64.0:181.7:p<0.05,ALP(U/L):318.7:484.2:p=0.09,γGTP(U/L):112.8:316.3:p<0.05であった。胆嚢炎発症から手術までの時間(hr)は,72.5:578.9:p<0.05であり,これらを多変量解析すると発症から手術までの時間(cut off値72)に有意差を認めた(p<0.05)。<結語>発症から72時間以上経過症例は開腹移行への可能性が高いため,ガイドラインの追加項目となり得る。
  • 草地 信也, 渡邉 学
    2012 年 32 巻 3 号 p. 641-646
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    急性胆道炎に関する唯一のガイドラインである「科学的根拠に基づいた急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン」発刊から5年以上が経過し,統一された基準が広く認知され普及してきている。従来から急性胆道炎の抗菌薬療法については,日本はもとより欧米においても明確なエビデンスは乏しかったが,現在までに集積されたデータからさまざまな点につき検証が行われている。実際の臨床の場においても,ガイドライン使用の際に抗菌薬療法におけるさまざまな問題点が指摘されている。ガイドラインは,その評価に基づき効果判定を行い,さらなる改訂を行っていくことが重要である。本稿では,現行の日本版と国際版ガイドラインの差異を示し,ガイドライン改訂に向け急性胆道炎の抗菌薬療法において最も問題となる「病態ごとの具体的な抗菌薬の選択や投与方法」について,急性胆管炎・胆嚢炎それぞれにつき日本の医療背景に合わせた提言を行った。
  • 糸井 隆夫, 祖父尼 淳, 糸川 文英, 栗原 俊夫, 土屋 貴愛, 石井 健太郎, 辻 修二郎, 池内 信人, 田中 麗奈, 梅田 純子, ...
    2012 年 32 巻 3 号 p. 647-649
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    急性胆道炎に対する内視鏡治療の進歩と課題について述べた。近年,急性胆管炎に対する内視鏡的胆管ドレナージではバルーン小腸内視鏡を用いた胆管ドレナージや超音波内視鏡(EUS)を用いた胆管ドレナージが行われている。一方,急性胆嚢炎に対する内視鏡的ドレナージとしてガイドラインに取り入れられた内視鏡的経鼻胆嚢ドレナージの他に以前より内視鏡的胆嚢ステンティングも行われてきた。さらには胆管ドレナージ同様に近年EUSによる胆嚢ドレージも報告されている。改訂版のガイドラインではこうした新しい手技も含めて取り入れられるのが望ましい。
  • 山下 裕一, 乗富 智明, 松岡 信秀, 愛洲 尚哉
    2012 年 32 巻 3 号 p. 651-656
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    “急性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術は推奨治療になったか”については,本邦では日本内視鏡外科学会の2008年と2009年のアンケート調査結果では,腹腔鏡下胆嚢摘出術を“全例に行う”および“症例に応じて行う”の比率の合計は87%であった。日本腹部救急医学会外科系評議員に対するアンケート結果では,“患者への手術術式の説明は?”の質問の回答は2011年で90%が腹腔鏡下胆嚢摘出術であった。米国では急性胆嚢炎で入院した患者の初回入院中にその75%に手術が行われ,その71%に腹腔鏡下胆嚢摘出術が施行されていた。これらのことより,急性胆嚢炎に対する腹腔鏡手術は推奨治療になったと考えられる。しかし,本邦における早期手術については,外科医や麻酔医不足などに起因する施設の対応能力に差があるためガイドラインで推奨するレベルにまでは達していないのが現状のようである。
症例報告
  • 目﨑 直実, 三浦 智史, 木村 成宏, 中村 潤一郎, 山田 聡志, 三浦 努, 柳 雅彦, 高橋 達
    2012 年 32 巻 3 号 p. 657-661
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    抗血小板薬内服中の消化管出血が虚血性心疾患を顕在化させた2例を経験した。症例1は64歳男性。クロピドグレル内服中に吐下血をきたした。出血性胃潰瘍に対し内視鏡的止血術施行後も心窩部不快感が持続し諸検査で急性心筋梗塞と診断した。心臓CTや冠動脈造影で左前下行枝と右冠動脈に狭窄を認め経皮的冠動脈形成術を施行し再発なく経過している。症例2は80歳男性。低用量アスピリン内服中に血便をきたした。高度の貧血を認め,狭心症発作をきたした。心筋シンチグラフィで前壁中隔の虚血と診断した。高齢のため血圧管理のみで再発なく経過観察している。今後ますます増加が予想される抗血小板薬による消化管出血は重要な問題であり,プロトンポンプ阻害薬やH. pylori除菌療法による予防が推奨される。また,急激な貧血の進行は虚血性心疾患の発生閾値を低下させるため,抗血小板薬起因性消化管出血を診る際には虚血性心疾患発症のリスクをつねに念頭に置く必要がある。
  • 渡部 篤史, 羽生 信義
    2012 年 32 巻 3 号 p. 663-666
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    絞扼性イレウス症例に対して,単孔式腹腔鏡補助下(single incision laparoscopic surgery:SILS)に癒着剥離と腸管の絞扼を解除した症例を経験した。患者は,29歳の女性で5歳時に虫垂炎による腹膜炎手術を受けていた。腹痛と嘔吐を主訴に来院し,癒着性イレウスと診断された。イレウス管による保存的治療を行ったが第4病日に腹部症状の悪化で緊急手術を行った。呼吸循環動態が安定していることから鏡視下手術とし,また創部の整容性を目的に単孔式腹腔鏡手術を選択した。癒着剥離と腹腔内検索の結果,回腸末端より口側約80cmの回腸が腸間膜によって形成された索状物による腸管虚血が原因だった。絞扼した腸管を体外に引き出し,その索状物を切離することで腸管血流が再開したため腸管切除は行わなかった。術後第8病日に退院し現在も再発を認めない。
  • 福田 進太郎, 宮下 薫
    2012 年 32 巻 3 号 p. 667-670
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性。下血を主訴に紹介され,精査のため,入院した。翌日ショック状態となり,緊急手術を施行した。手術時明らかな出血点が不明であったが,終末回腸のみに凝血塊を認め,凝血塊を含めた通常より回腸を長く切除する回盲部切除術を施行した。しかし,術後3日目より再び大量の下血を認め,ショック状態となった。再度施行したDynamic CTでは,左上腹部の小腸内に造影剤の漏出像を認めた。前回の手術で出血部位を切除できておらず,また,場所が移動していることから小腸からの出血と考え,再び緊急手術を施行した。再手術の所見では,空腸にも凝血塊が透見され,Trietz靱帯より50cm肛門側の空腸に白色の壁肥厚を認め,同部位を部分切除した。腫瘍は粘膜下腫瘍の形態で,粘膜面は陥凹しており,中心に露出血管様の壊死を認めた。術後の組織学的検査では,小腸原発のT細胞性リンパ腫であった。
  • 試験開腹に至った一症例と文献的考察
    原田 大輔, 田中 公章, 斉坂 雄一, 市来 玲子, 石原 潤子, 杉本 和彦, 村田 厚夫, 森本 雅徳
    2012 年 32 巻 3 号 p. 671-674
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    気腫性膀胱炎は膀胱壁内にガスが貯留する比較的まれな尿路感染症である。症例は59歳女性。全身浮腫を主訴に近医を受診し,腸管穿孔疑いのため救急搬送された。来院時,著明な下肢浮腫と糖尿病性壊疽を認めたが腹部所見は異常なかった。血液検査では白血球28,060/mm3,HbA1c 14.3 mg/dLであった。腹部CTで骨盤腔に腹水とガスを認めたが,膀胱壁内限局性ガスと遊離ガスの判別が困難であった。そこで膀胱鏡検査を行い,嚢胞状の膀胱壁を認め気腫性膀胱炎と診断した。腹水貯留と糖尿病による腹部症状鈍麻の疑念から腹膜炎を否定できず試験開腹したが,異常所見はなかった。気腫性膀胱炎に対しては尿道カテーテルによるドレナージと抗生剤の保存的治療で気腫は軽快した。本邦で気腫性膀胱炎の報告例は56症例あるが,試験開腹に至った症例報告はなく,本報告が糖尿病患者における腹膜炎所見をかんがみるうえでの参考となれば幸いである。
  • 上月 章史, 澁谷 祐一, 中村 敏夫, 大石 一行, 村岡 玄哉
    2012 年 32 巻 3 号 p. 675-679
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は29歳,男性。約8ヵ月,下痢,腹痛などの症状が持続し,発熱も伴うため,2009年7月上旬に前医を受診した。内服加療を受けたが改善せず,食事摂取不能となり,体重減少(1年で54kgから35kgへ減少)もあるため,8月初めに当院を紹介受診した。CT検査で両側の肺野に粒状結節および浸潤像と,気管支の拡張と壁肥厚像,腹腔内にfree airを認め,消化管穿孔・汎発性腹膜炎の診断で同日,緊急手術を施行した。腹腔内全体に多数の小結節と,回腸,上行結腸の2ヵ所に穿孔を認め,結腸右半切除術を施行した。切除腸管には潰瘍性病変が形成されており,術中に喀痰塗沫検査でガフキー3号の結果を得たことから腸結核,結核性腹膜炎,消化管穿孔,汎発性腹膜炎,肺結核と診断した。手術後は結核病棟で抗結核剤を投与して加療し,術後47日目に退院となった。
  • 上田 有紀, 小練 研司, 永野 秀樹, 村上 真, 廣野 靖夫, 五井 孝憲, 飯田 敦, 片山 寛次, 山口 明夫
    2012 年 32 巻 3 号 p. 681-685
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は40歳代の女性。突然発症した上腹部痛を主訴に当院に救急搬送された。腹部CTで胆嚢内容が高吸収を示し,胆嚢出血・胆嚢炎と診断された。肝逸脱酵素・胆道系酵素の著明な上昇も認めたため内視鏡的逆行性経鼻胆道ドレナージを行い保存的加療を開始したが,炎症反応の悪化を認めたため,経皮経肝的胆嚢ドレナージを施行した。炎症反応が改善した発症29日目に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し,術後3日目に退院した。摘出標本では胆嚢壁がびまん性に肥厚し,胆嚢底部に胆嚢腺筋症による限局性の壁肥厚を認めた。肉眼所見では明らかな出血原因は指摘できなかったが,病理所見で胆嚢粘膜内にRokitansky-Aschoff sinus(RAS)が散見され,一つのRAS腔内に血液が充満する所見を認めた。RAS周辺に生じた炎症により,粘膜下の血管破綻が生じて胆嚢および胆道内に出血をきたしたものと考えられた。
  • 森下 繁美, 鎌谷 泰文, 木藤 正樹
    2012 年 32 巻 3 号 p. 687-690
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,男性。下痢および激しい腹痛を訴え当院に救急搬入された。左中腹部に最強点を有する筋性防御や圧痛,反跳痛があり,腹部造影CT検査などで,腹腔内出血および後腹膜血腫と診断し緊急手術となった。開腹すると腹腔内には多量の血液貯留があり,左側網嚢内から左後腹膜腔に手拳大を超える血腫を認めた。さらに,中結腸動脈の分枝2ヵ所から出血を認め,そこが出血源であると判断した。止血後にその部分を含めた腸間膜を切除し,摘出標本の病理組織学的検査にて,今回の病因が中結腸動脈領域小動脈における解離性動脈瘤の破綻であり,segmental arterial mediolysis(分節性中膜融解症:SAM)の関与が考えられた。SAMは腹部内臓動脈瘤の成因の一つとして近年提唱されている概念であり,急性腹症や出血性ショックで発症することが多いと言われる。内臓動脈瘤の原因としてのSAMの概念を念頭に置き,腹部救急における診断治療にあたる必要があるといえる。
  • 星野 伸晃, 平松 和洋, 加藤 岳人
    2012 年 32 巻 3 号 p. 691-694
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は60歳男性。2007年6月,他院で大腸ポリープ(横行結腸肝弯曲,直腸Ra)を内視鏡的に切除された。同日夜間に頸部握雪感と腹部膨満感が出現し消化管穿孔を疑われ,当院へ搬送された。CT検査で腹部から頸部に及ぶ広範な皮下気腫,後腹膜気腫,陰嚢気腫,腹腔内free airを認めた。医原性大腸穿孔と診断し緊急手術を施行した。視触診では穿孔部を確認できなかった。そこで,大腸内視鏡にてポリープ切除部を確認し,その後にその切除部を腹腔側から確認すると,横行結腸肝弯曲にpinhole状の穿孔部を確認できた。縫合閉鎖し大網で被覆した。術後経過は良好で術後20日に軽快退院した。内視鏡的大腸ポリープ切除後に広範な皮下気腫を認めることは非常にまれであるため,文献的考察を加えて報告する。
  • 松永 宗倫, 野口 琢矢, 藍澤 哲也, 坂口 健, 久保 宣博, 野口 剛
    2012 年 32 巻 3 号 p. 695-698
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性。右腰部の腫瘤を自覚し近医を受診。皮下良性腫瘍(脂肪腫)と診断され経過観察されていた。5ヵ月後に腫瘤の増大を認めたために,精査加療目的で当科へ紹介となった。腹部CT,腹部MRI検査で後腹膜脂肪織と連続する約6×5cm大の腫瘤を認めたため,右腰ヘルニア(鑑別診断として脂肪腫)と診断し手術を施行した。皮下に脂肪腫は認めず,上腰三角の位置にヘルニア門を認めたため,右上腰ヘルニアと診断し,Mesh-plugによる修復術を施行した。術後6日目に退院し,現在のところ再発は認めていない。腰背部に腫瘤を認める場合には,腰ヘルニアの存在も念頭におき診療にあたる必要があると考えられた。
  • 福田 直人, 和田 浄史, 仁木 径雄, 杉山 保幸
    2012 年 32 巻 3 号 p. 699-702
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,男性。腹痛,嘔気,嘔吐を主訴にイレウスの診断で当院に緊急入院となった。6ヵ月前に肝内胆管癌の診断で肝左葉切除+胆管合併切除術の既往歴あり。腹部CT検査で小腸間膜の著しい浮腫と腸間膜血管が捻転して渦巻き状を呈するwhirl signを認めたため,絞扼性イレウスと判断し同日中に緊急開腹術を施行した。前回手術のRoux-en-Y胆道再建術における空腸空腸Y脚吻合部に4×3cm大の腸間膜欠損部が存在し,同部に末梢側の小腸が120cm入り込み,さらに時計方向に180度捻転し絞扼性イレウスを合併していた。腸管壊死は認められなかったため小腸捻転および内ヘルニアを解除した後,腸間膜欠損部を縫合閉鎖して手術終了した。術後経過は順調で11日目に軽快退院となった。Roux-en-Y空腸空腸吻合における腸間膜欠損部は可及的に縫合閉鎖すべきと考えられた。
  • 湊 拓也, 石川 正志, 滝沢 宏光, 一森 敏弘, 木村 秀, 阪田 章聖, 藤井 義幸, 山下 理子
    2012 年 32 巻 3 号 p. 703-706
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は,71歳女性。嘔吐,腹痛にて当科紹介された。CT検査にて十二指腸狭窄,胆管,膵管拡張がみられたが,膵頭部腫瘤は認めなかった。上部消化管内視鏡で十二指腸狭窄がみられたが,粘膜面は正常であった。腹部血管造影では血管増生を認めなかった。腫瘍マーカーは,CA19-9,DUPAN-2,IL-2Rの上昇を認め,CEAは基準値内であった。PET-CTは,十二指腸と肺門にFDGの集積を認めた。以上より膵癌を疑い手術とした。手術所見は十二指腸を巻き込む腫瘤と腹膜播種があり,生検にて粘液癌と診断した。虫垂に腫瘤を認め,原発性虫垂癌(粘液癌)の腹膜播種による十二指腸狭窄と考えた。虫垂切除術と胃空腸吻合術を行った。術後化学療法としてTS-1内服を行った。原発性虫垂癌はまれな疾患であり,多くは虫垂炎として手術され病理検査で診断される。特異的症状がなく,術前診断に難渋することが多い。腹膜播種による十二指腸狭窄を主訴とした虫垂癌はまれであり,文献的考察を加え報告する。
  • 辻 敏克, 奥田 俊之, 吉田 周平, 加藤 洋介, 太田 尚宏, 尾山 佳永子, 原 拓央
    2012 年 32 巻 3 号 p. 707-710
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は61歳女性。開腹歴なし。心窩部痛を主訴に当院救急外来を受診。腹部単純CTで大網裂孔の存在と同部での内ヘルニアによる小腸イレウスが疑われたが,明らかな絞扼所見は認めなかったため保存的加療で経過観察した。その後腹痛が増強したため,約8時間経過後に腹部造影CTを行ったところ,Closed loopを形成した小腸壁の浮腫性変化が増強しており,腹水の出現も認めた。さらに血液ガス分析ではアシドーシスが認められた。以上より血行障害を伴う絞扼性イレウスと診断し緊急手術を行った。開腹すると,少量の漿液性腹水を認め,treitz靱帯より約130cmの小腸が約80cmにわたって裂孔に陥入し絞扼されていた。嵌頓腸管を整復すると色調は一部改善したが,約50cmの小腸は色調の改善が不良で切除が必要と判断した。術後経過は良好であった。開腹歴のないイレウス例では本疾患を念頭に置く必要がある。その際Multiplanar reformation(MPR)を用いたCT検査が有用であり,本疾患を特定できる可能性がある。
  • 杉田 静紀, 平松 聖史, 岡田 禎人, 佐藤 文哉, 田中 寛, 井田 英臣, 新井 利幸
    2012 年 32 巻 3 号 p. 711-714
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は,22歳,男性。心窩部痛・発熱を主訴に当院救急外来を受診した。血液生化学検査では異常を認めなかったが,身体所見で,心窩部の圧痛,明らかな腹膜刺激症状を認めた。腹部CT検査を施行したところ,浮遊胆嚢が捻転している所見が認められた。胆嚢捻転による壊死性胆嚢炎と診断,同日緊急腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した。手術では捻転を解除し胆嚢を摘出した。術後経過は良好であった。胆嚢捻転は高齢の女性に発症することが多く,若年男性ではまれである。特異的な所見に乏しいため,診断に苦慮し,重篤化することもある。われわれは,(1)胆嚢底部の位置異常,(2)胆嚢体部の狭小化,(3)胆嚢内容のCT値上昇,(4)胆嚢底部の壁肥厚・造影効果の低下といった特徴的なCT所見から的確に術前診断し,緊急腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行することにより,良好な経過を得ることができた。この比較的まれな症例につき文献的考察を加え報告する。
  • 篠藤 浩一, 大島 郁也, 有我 隆光, 尾崎 正彦
    2012 年 32 巻 3 号 p. 715-718
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は,開腹手術歴のない81歳女性で,突然の腹痛が出現し当院に入院となった。腹部CTでS状結腸間膜の外側に嵌頓した小腸ループ像を認めた。内ヘルニアによる絞扼性イレウスを疑い同日緊急手術を施行した。開腹所見では,S状結腸間膜の直径約2cmの異常裂孔が存在し,小腸が約150cm陥入し絞扼されていた。自験例では術前診断が困難であったが,CTの見返しにより小腸の左方移動という特徴的所見を認めた。S状結腸間膜に関連した内ヘルニアの1亜型であるS状結腸間膜裂孔ヘルニアは,まれであり文献的考察を加え報告した。
  • 樋口 徹, 茂原 淳, 高橋 徹, 竹吉 泉
    2012 年 32 巻 3 号 p. 719-722
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2012/06/11
    ジャーナル フリー
    症例は44歳男性。歩行者と乗用車の接触事故の運転手として取調べ中に顔色不良,腰背部痛が出現し,当院救急外来に搬送された。血液検査で貧血と腎機能低下を認め,単純CTで左腎被膜下血腫と後腹膜血腫を認めた。カテーテル塞栓術を計画して行った造影CTで,DeBakeyIIIb型大動脈解離が発見された。輸血と補液により循環動態が安定し,左腎被膜下血腫は経過観察可能と判断され,保存的治療目的で入院した。経過中のCTで左腎被膜下血腫の増大や大動脈解離の進展はなかった。腎機能低下は残存したが第42病日に退院した。発症半年後に再出血をきたし,左腎が著明に圧排されていたため左腎摘出術を行った。被膜下血腫の原因を検討したが,明らかな外傷や,腎疾患,血液疾患の既往はなく,内服歴もなかった。大動脈解離は慢性経過したもので原因とは考えられず,摘出腎の病理学的検査からも原因は不明であった。
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