日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
Print ISSN : 1340-2242
ISSN-L : 1340-2242
32 巻, 4 号
選択された号の論文の20件中1~20を表示しています
原著
  • 猪狩 公宏, 落合 高徳
    2012 年 32 巻 4 号 p. 725-730
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    【目的】高齢者腹部緊急手術における手術部位感染(以下,SSI)の発生要因について検討した。【対象と方法】太田西ノ内病院外科で過去6年間に80歳以上で全身麻酔下に腹部緊急手術を施行した165例を,SSI発生の有無で群分けし,検討した。【結果】単変量解析では低栄養状態,腎機能障害および人工肛門造設術症例では全SSI発生率が有意に高かった。また腎機能障害,人工肛門造設術および結腸直腸手術で,切開創SSI発生率が有意に高かった。多変量解析を行うと,全SSI発生および切開創SSI発生において人工肛門造設術は独立した危険因子(Odds比 2.975および5.559)であった。【結語】高齢者における腹部緊急手術症例では,術前の低栄養状態,腎機能障害がSSIの発生と関連することが示唆された。また人工肛門造設術を選択した際には高率にSSIが発生することを念頭におく必要がある。
  • 久保 直樹, 竹内 信道, 中山 中, 荻原 裕明, 辻本 和雄, 伊藤 憲雄
    2012 年 32 巻 4 号 p. 731-736
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    虫垂炎手術症例について年代ごとの診断や治療の違いをあきらかにするため小児(15歳以下),成人(16歳以上70歳未満),高齢者(70歳以上)の各年代において検討を行った。2005年1月から2009年12月までの間に急性虫垂炎に対し手術を施行した224例を対象とした。初診医の虫垂炎の診断率は小児:成人:高齢者で46%:69.3%:54.8%であった。発症から手術までの病悩期間が2日未満の割合は小児:成人:高齢者で68%:60.1%:48.4%で,組織学的に壊疽性虫垂炎と診断された割合は高齢者が71%と一番高く,術後合併症が発生した頻度も高齢者が32.3%と小児,成人と比較し有意に高かった。小児においては初診医の正診率が低いが,術前病悩期間は短く,術後合併症を生じる患者の割合は低かった。高齢者では術前病悩期間が長く,術後合併症の頻度が高かった。高齢者では病状が進んでから受診する傾向があり,来院時の虫垂炎が重症であることが多い原因であると考えられた。
  • 井上 明星, 古川 顕, 金崎 周造, 園田 明永, 河野 直明, 大田 信一, 田中 豊彦, 村田 喜代史, 井本 勝治, 山崎 道夫, ...
    2012 年 32 巻 4 号 p. 737-742
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    【目的】下部消化管憩室出血に対するMDCTの診断能を検討する。【方法】3人の放射線科医が下部消化管憩室出血と最終診断された12例のMDCT(multi detector-row CT)所見を検討し,血圧,輸血,治療法,出血部位の最終診断とおのおのの画像所見を対比した。【結果】造影剤の血管外漏出像(以下,extravasation)は7例に認められ,そのうち5例で血管造影でも同部位にextravasationが認められ塞栓術が施行された。内腔の異常,すなわちバブルを含む高濃度,液体貯留,凝血塊はそれぞれ5例,8例,4例に認められた。Extravasationは,濃厚赤血球輸血が行われた6例中4例に確認され,また,extravasationが認められた7例中3例は収縮期血圧が95mmHg以下であった。【結語】Extravasationは出血部位を特定する極めて特異性の高い所見であり,血圧低下や輸血を必要とする症例に高頻度に認められた。また,MDCTからは治療戦略に必要な情報が得られた。MDCTは憩室出血の診断に有用であり,下部消化管出血症例に対して積極的に用いられるべきである。
特集:急性虫垂炎の治療方針の変遷と現状
  • 藤原 英利, 尾崎 貴洋, 松本 晶子, 西村 透, 松本 拓, 藤田 恒憲, 和田 隆宏, 安田 健司
    2012 年 32 巻 4 号 p. 745-749
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下虫垂切除術(Laparoscopic Appendectomy:LA)の地方公立病院での普及しない原因と可能性を検討した。2009年4月より2年間で経験した急性虫垂炎77例LA34例,開腹(Open Appendectomy:OA)43例を対象とした。性別(男:女)LA 23:11例OA 37:6例と差を認めた。手術時間はLA 81.8±28.5分でOA 65.8±22.8分とLAが長かった。手術開始時間を時間内:時間外:休日とするとLA 25:5:4例OA 19:16:8例と差が認められた。術後入院期間はLA 6.4±2.6日,OA 7.5±5.8日であった。手術部位感染では皮膚感染が各2例にみられOAに体腔内感染2例と麻痺性イレウス1例が認められた。合併症の少ないLAは患者だけでなく病院にも有用であり,麻酔科との連携,機材の導入などバックアップ体制,新人外科医の教育を進めれば,普及の可能性があると思われた。
  • 五十嵐 隆通, 安東 立正, 富澤 直樹, 荻野 美里, 榎田 泰明, 濱野 郁美, 清水 尚, 荒川 和久, 田中 俊行, 小川 哲史, ...
    2012 年 32 巻 4 号 p. 751-755
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    当院では2005年以前,急性虫垂炎は保存治療を原則としていたが,2006年に腹腔鏡下虫垂切除術を導入後,カタル性虫垂炎,腫瘤形成性虫垂炎以外は積極的に手術を行う方針に転換した。1997年から2010年9月までの急性虫垂炎症例1,290例を対象とし,保存治療完遂群,保存治療から手術への移行群,および来院時手術群の成績を検討した。また,開腹手術と腹腔鏡下手術の成績を比較検討した。平均在院日数は,保存完遂群と腹腔鏡下手術群が6.9日と最短であった。しかし,保存完遂群に15日以上の長期入院を要する例を7%に認めた。手術移行群,手術群とも,腹腔鏡下手術は開腹手術と比べ,在院日数は短い傾向にあり,術後合併症も少なかった。よって初回治療としての腹腔鏡下手術は妥当と思われた。高度炎症例に待機的腹腔鏡下手術を行った場合,在院日数は短く,術後合併症もなく,高度炎症例の治療の選択肢となり得ると思われた。
  • 中川 了輔, 小杉 千弘, 幸田 圭史, 鈴木 正人, 山崎 将人, 手塚 徹, 今井 健一郎, 平野 敦史, 腰野 蔵人, 白神 梨沙, ...
    2012 年 32 巻 4 号 p. 757-763
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    急性虫垂炎に対する手術症例を後ろ向きに解析し,術式選択について検討した。対象は2007年10月から2010年10月に急性虫垂炎の診断で手術治療を行った66例。開腹虫垂切除術32例(以下,OA),腹腔鏡下虫垂切除術27例(以下,LA),単孔式腹腔鏡下虫垂切除術7例(以下,SA)である。これら3群間の治療成績,診療報酬につき検討した。術前に回盲部炎症を認めた17例中,回盲部切除を行ったのは2例。出血量,術後初回排ガス日,在院期間でLA+SA群で有意に良好な結果であった。従来,腸管切除を考慮するような急性虫垂炎症例に対しても,LAまたはSAで対応が可能である症例があり,まずSAで開始し,完遂困難な場合はトロッカーを追加し回盲部切除等に対応する治療方針を検討しても良いと考えられた。またDPC点数ではOA群が有意に高かったが,手術・麻酔点数を加味した入院1日当たりの点数ではLA+SA群が有意に高く,コストを削減することで,その有用性をより高めることができると考えられた。
  • 平崎 憲範, 福永 正氣, 李 慶文, 菅野 雅彦, 永仮 邦彦, 飯田 義人, 吉川 征一郎, 伊藤 嘉智, 勝野 剛太郎, 大内 昌和
    2012 年 32 巻 4 号 p. 765-770
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    【背景】われわれは腹腔鏡下虫垂切除術(以下,LA)を1995年より導入し,すべての急性虫垂炎を適応としている。2009年より単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を導入し,症例を選択し施行している。現在では,症例の重症度に応じて保存的治療,LA,単孔式腹腔鏡下手術などの術式を選択して施行している。現在われわれが行っている急性虫垂炎治療における標準的な方針を示し,あわせて単孔式LAと従来式LAの成績について報告する。【方法】対象は1995年5月から2011年12月まで,当科にて虫垂炎手術を施行され,かつその後の追跡調査が可能であった1,280例について検討を行った。検討1では軽症虫垂炎に対して行ったLA447例,単孔式LA72例の成績を比較した。検討2では緊急手術を必要とせず,入院にて保存的治療を行った40例について検討した。【結果】[検討1]患者背景に差はなく,手術時間においてのみ従来法LAがより長い結果であった。その他の術中・術後成績において2群間に差はなかった。[検討2]保存的治療を選択した理由は全例腹部所見が軽度であったためであった。さらに血液検査上白血球数10,000(/mm3)以下の症例が16例,画像検査上虫垂腫大が10mm以下の症例が12例であった。平均在院日数は5.3日であり,入院中に手術に移行した症例はなかった。今回の検討の結果,単孔式LAは従来法LAと比べ遜色ない結果であり,当院における虫垂炎に対する治療方針は妥当なものと考えられた。
  • 家入 里志, 柳 佑典, 松浦 俊治, 宗崎 良太, 永田 公二, 林田 真, 木下 義晶, 橋爪 誠, 田口 智章
    2012 年 32 巻 4 号 p. 771-774
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    腹腔内膿瘍を合併した穿孔性虫垂炎においては,術中術後合併症のリスクが高いことから,interval appendectomy(IA)の有用性が論じられている。当科のIA症例から,その適応と至適時期について検討した。対象は当科でIAを選択した10例で当院紹介時,全例で虫垂周囲の腫瘤形成を認めた。1例でドレナージ術を施行したが,他の9例はドレナージなしの待機手術とした。抗生剤3剤を投与,炎症所見軽快した後,一旦退院,腹腔鏡下IAを施行した。開腹移行例および術後合併症も認めなかった。Intervalは平均3.5ヵ月であったが,6例は待機中に再燃を認め,5例で緊急IA,1例で再保存的治療後にIAを施行した。再燃したIA症例では糞石を有している症例を多く認めた。IAは,腫瘤形成性虫垂炎の第一選択であると考えられ,3ヵ月のintervalを基本としているが,糞石症例では,緊急IAを要した症例が多いことから,intervalを短くすべきと考えられた。
  • 福長 徹, 飯野 正敏, 木村 正幸, 菅本 祐司, 成島 一夫, 武藤 頼彦, 花岡 俊晴, 細田 利史, 後藤 俊平, 松原 久裕
    2012 年 32 巻 4 号 p. 775-779
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    当科では急性虫垂炎に対し,保存的治療後の腹腔鏡下interval appendectomy(IA)を基本方針としている。急性虫垂炎と診断された405症例のうち,ASA─PS class4と判断された3例と,患者希望等で急性期手術を選択した34例を除く368例に保存的治療を行い,全例が奏効軽快した。IAには急性期手術に比べ,(1)拡大・不要手術が避けられる,(2)手術合併症が減る,(3)待機中に悪性疾患などのチェックが可能─などの利点がある。術式変更がない,合併症がない,術後在院期間が4日以内という3つの条件でアウトカムを検討すると,急性期手術では29例中11例37.9%でアウトカム不良だったが,IAでは145例中5例3.4%のみだった。初回MDCTで膿瘍形成例では,急性期手術群10例中7例がアウトカム不良例であったが,IA群では32例中5例(15.6%)のみであった。一方,蜂窩織炎であれば急性期手術群でもアウトカム不良は14例中1例のみで,認容範囲であった。IAは合併症の少ない,安全確実な優れた治療法であるため,急性期虫垂切除の適応は限定されるべきと考えている。
  • 片桐 秀樹, 宮野 省三, 町田 理夫, 北畠 俊顕, 藤澤 稔, 児島 邦明, 浦尾 正彦
    2012 年 32 巻 4 号 p. 781-784
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    【背景】われわれは急性虫垂炎に対して主に緊急腹腔鏡下虫垂切除術(Emergency laparoscopic appendectomy:以下,EA)を施行している。また,腫瘤形成性虫垂炎に対して著者らが別に考案した適応を満たす症例には保存的加療を先行し,軽快後1~3ヵ月後に腹腔鏡下手術(interval laparoscopic appendectomy:以下,IA)を行っている。【対象】2005年7月から2010年9月までに当院で施行した急性虫垂炎手術例236例のうち腹部CTで腫瘤形成性虫垂炎を呈した21例(IA14例,EA7例)を対象とし,手術時間,出血量,術後在院日数,開腹手術への移行率,合併症発生率,保険点数についてIA群およびEA群で比較検討した。【結果】手術時間,出血量,開腹手術への移行率に関してはIA群がEA群と比較して有意に優れていた。【考察】腫瘤形成性虫垂炎では保存的加療を先行することにより,緊急手術と比べ膿瘍の消失・癒着の軽減化がみられ,腹腔鏡下手術が容易になり,拡大手術や術後合併症を軽減できる可能性が示唆された。
  • ─手術適応症例に対する待機的腹腔鏡下虫垂切除術(Interval laparoscopic appendectomy)の現状について─
    大滝 雅博, 二瓶 幸栄, 鈴木 聡, 三科 武
    2012 年 32 巻 4 号 p. 785-791
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    当科の小児急性虫垂炎に対する治療方針は,(1)虫垂腫脹のみ症例は保存治療,(2)糞石もしくは膿瘍・腫瘤形成症例は待機的腹腔鏡下虫垂切除術(Interval appendectomy:以下,IA),(3)汎発性腹膜炎症例は緊急腹腔鏡下虫垂切除術(以下,ELA)と考えている。過去約4年6ヵ月間に経験した虫垂炎86例を,(1)保存治療群30例,(2)短期再燃群8例,(3)ILA施行群23例,(4)Drop out(以下,D/O)群6例,(5)手術未施行群10例,(6)緊急手術群9例に分類し検討を行った。(1)は保存治療完遂率100%,(4)の保存治療完遂率は84.6%であった。また(1)は入院日数と診療点数において(3),(4)に対して有意に低い結果となり(p<0.05),虫垂腫脹のみ症例は,入院期間・医療コストいずれも手術症例より保存治療が優れていた。また(1)と(3)の糞石のみ症例での検討では,入院日数に有意差を認めず診療点数においてのみ有意差を認めた。小児急性虫垂炎における保存的治療およびILAは,有用性が高い治療法であるが,その適応は十分に検討する必要性があると考えられた。
症例報告
  • 安 炳九, 水黒 知行, 片岡 卓三
    2012 年 32 巻 4 号 p. 793-796
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性。下腹部痛を主訴に当院へ紹介された。腹部単純X線写真にてイレウスと診断,イレウス管を挿入するも,改善せず,手術を施行した。虫垂切除時の開腹創部直下に形成された索状物が,小腸を絞扼していた。索状物を切離した後,イレウス管先端を小腸絞扼部付近まで用手的に誘導した。術後2日目にはイレウス管を抜去,4日目より経口摂取を開始したが,術後7日目より嘔気・嘔吐認め,術後10日目に,イレウス管を再挿入した。腹部CT検査では内部に同心円状の層状構造を呈するSOLを認めた。腸重積症の診断にて,再手術を行った。Treitz靭帯から約5cm肛門側で約10cmにわたって腸重積を認めた。Hutchinson手技により,整復することができた。成人の術後小腸重積症の報告は国内においても散見される。若干の文献的考察を加えて報告する。
  • 星野 博之, 朝倉 武士, 伊藤 弘昭, 三浦 和裕, 小泉 哲, 大坪 毅人, 森本 毅
    2012 年 32 巻 4 号 p. 797-800
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性。高血圧症,高脂血症,便秘症にて近医通院中。腹痛・嘔吐を主訴に近医受診し,急性腹症の診断で当院紹介受診となる。来院時腹部所見は左下腹部を中心に左側に限局した圧痛を認めるも,腹膜刺激症状,下血は認めなかった。血液検査では白血球:10,800/mL,CRP:6.65mg/dL。腹部造影CT上,nonrotation typeの腸回転異常症と考えられ,上行結腸から下行結腸の一部に限局して腸管壁の著明な浮腫性変化および肥厚した腸管壁内にはairを認め,腸管虚血あるいは壊死が疑われた。以上より腸回転異常症に合併した虚血性腸炎と診断し保存的療法とした。症状軽快後,下部消化管内視鏡で脾弯曲部から下行結腸にかけて多発性の白苔を伴う潰瘍を認め,生検では慢性炎症細胞と炎症性肉芽組織であった。腸回転異常症に合併した虚血性腸炎の1例を経験したので報告する。
  • 木村 俊久, 竹内 一雄
    2012 年 32 巻 4 号 p. 801-803
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    症例は,34歳の女性。来院前日から右下腹部痛を訴え,虫垂炎の疑いで他院より紹介された。入院時の理学的所見では,体温36.8℃であり,右腹部に圧痛とBlumberg徴候を認めた。血液検査では,CRPが2.84mg/dLと軽度上昇していた。腹部超音波検査で,圧痛のある腹壁直下に不規則なエコー輝度を呈する腫瘤を認めた。また,腹部CT検査で同部に脂肪(大網)のらせん状濃度上昇を認めた。大網捻転症と診断し,腹腔鏡下手術を施行した。捻転した大網が右腹壁と癒着していたため,これを切除した。虫垂には異常を認めなかった。大網捻転症を起こし得る器質的原因を認めなかったことから,特発性大網捻転症と診断した。大網捻転症は術前診断が難しいとされているが,注意深いCT検査画像診断により,その典型像を認めれば診断は比較的容易であり,腹腔鏡による侵襲の少ない手術が可能と考えられた。
  • 石野 信一郎, 比嘉 宇郎, 友利 寛文, 山城 和也
    2012 年 32 巻 4 号 p. 805-808
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,CTで特徴的な所見を認め,早期に診断し手術しえた子宮広間膜ヘルニアの2例を経験した。症例1は48歳女性,嘔吐と腹痛にて来院。症状は自然軽快し検査所見でも異常がなく帰宅。しかし翌日,腹痛増悪のため再受診。腹部CTにて子宮左側で小腸が拡張し,左卵管付近で狭窄したclosed loop像を認めた。左子宮広間膜ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断,緊急手術を検討したが事情により当院では手術できず,他院へ搬送し手術となった。左子宮広間膜裂孔から小腸が嵌頓しており,壊死のため腸管切除を要した。症例2は44歳女性,腹痛を主訴に来院,触診で腹部反跳痛を認めた。腹部CTでは左子宮広間膜を境に子宮腹側で小腸が拡張していた。左子宮広間膜ヘルニアと診断し緊急手術を施行。小腸は還納され壊死も認めず。左子宮広間膜に裂孔があり,これを閉鎖し手術を終了した。
  • 前田 敏樹, 藤原 雅光, 井上 仁, 白川 洋一
    2012 年 32 巻 4 号 p. 809-813
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    向精神薬の長期服用者の中には薬物の作用による腸管運動の鈍化のため慢性的な便秘傾向となり,S状結腸軸捻転に陥りやすいという特徴がある。さらに精神発達遅滞者の場合は,腹痛などの症状をうまく表現できず他覚所見もとりにくい。症例は精神発達遅滞で施設入所中の59歳男性。食物を喉につまらせトイレで倒れているところを発見される。ただちに施設職員による一次救命処置(basic life support:BLS)が施行されたが,当院到着時は心肺停止状態であった。心肺蘇生を継続しつつ気道確保を行ったところ心拍再開を認めた。その後腹部の異常な膨隆に気付きcomputed tomography(CT)をはじめとする検査を行い,S状結腸軸捻転と診断し救命し得た。本症例はbystander によるcardiopulmonary resuscitation(CPR)が適切に施され,心拍再開とともに高次脳機能障害を残さず回復したが,窒息の原因であった S状結腸軸捻転による絞扼性イレウスの診断に苦慮した。心肺蘇生を行いつつ,心停止に至った原因を迅速に検索し,特に短時間での自己心拍再開例であるなら,心肺蘇生後といった不安定な循環状態であっても積極的に手術治療に踏み切り,根本治療を行うことが可能と思われる。
  • 青木 順, 伊藤 智彰, 新城 邦裕, 櫻田 睦, 折田 創, 前川 博, 森脇 稔, 佐藤 浩一
    2012 年 32 巻 4 号 p. 815-818
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    症例は60歳代の女性。2005年5月,総胆管結石に対して内視鏡的乳頭切開術(Endoscopic Sphincterotomy: EST)による採石を施行。その後,総胆管結石の再発に対し,2006年1月と10月に内視鏡的に採石を施行した。2009年7月,腹部CT検査で総胆管結石の再発を認め手術目的で当科入院となった。術前に嘔吐をきたしたが,腹部単純X線検査上はイレウス所見なく,翌日手術を施行した。術中所見では胆道内には結石を認めず,術中胆道造影で十二指腸水平脚に嵌頓する結石を認め胆石イレウスと診断した。術前に認めた総胆管結石が自然胆道を介し十二指腸に落下,嵌頓したものと考えられた。胆石イレウスにおける胆石の落下経路として自然胆道を介して落下したものはまれであるが,EST施行後は巨大な胆石が切開後の十二指腸乳頭を通過しうるため,胆石イレウスのリスクも考慮する必要があると考えられた。
  • 和久 利彦
    2012 年 32 巻 4 号 p. 819-821
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    症例は31歳の男性。前日から続く上腹部痛,嘔吐のため当院受診し入院となった。入院時は上腹部の軽度膨満・腹痛程度の症状であったが,入院2日目には腹部膨満・腹痛増強し,反跳痛も出現した。腹部CT検査では,腹水・小腸拡張像および下大静脈と門脈との間に腸間膜脂肪層と血管群の集簇を認め,Winslow孔ヘルニアが疑われた。開腹したところ,腹腔内に大量の血性腹水を認めた。Treitz靱帯より肛門側170cm~190cmの小腸が,Winslow孔から網嚢内へ嵌入し,壊死に陥っていたことから小腸部分切除を行った。Winslow孔ヘルニアは特徴的なCT所見を示すため詳細に画像を読影する事により術前診断は可能であると考えられた。発症後の経過が長い場合でも腸切除率は低いことから,十分な減圧後に腹腔鏡下手術で整復のみを行いうると考えられた。
  • 腰野 蔵人, 小杉 千弘, 安田 秀喜, 幸田 圭史, 鈴木 正人, 山崎 将人, 手塚 徹, 今井 健一郎, 平野 敦史, 土屋 博紀
    2012 年 32 巻 4 号 p. 823-826
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    症例は81歳男性。主訴は腹痛,嘔吐。既往に開腹歴はなかった。2009年4月下旬に狭心症の診断でステント留置術を施行。入院中に主訴が出現し,腹部単純X線検査で小腸拡張像を認め,腸閉塞症の診断となり,当科紹介受診した。腹部造影CTで小腸に著明な拡張が認められたが,あきらかな閉塞起点は同定できなかった。イレウス管挿入し,小腸造影を行うと下腹部正中にループ状の小腸が描出された。1週間経過するも症状改善せず,病歴および画像所見より内ヘルニア嵌頓の診断で緊急手術施行。術中所見では回腸がS状結腸間膜右葉の欠損部に嵌入しており,S状結腸間膜内ヘルニアと診断した。愛護的に小腸を整復し,腸管切除は行わず,S状結腸間膜右葉の欠損部を縫合閉鎖した。術後経過は良好で,術後7日目に退院した。術前にS状結腸間膜内ヘルニアを疑い,開腹手術で治癒した1例を経験した。内ヘルニアの治療は近年,腹腔鏡による手術症例も散見されるため,術式の検討も視野にいれ術前検査を行う必要がある。
  • 久保 孝文, 岡 智, 佃 和憲, 治田 賢, 万代 康弘, 大橋 龍一郎
    2012 年 32 巻 4 号 p. 827-831
    発行日: 2012/05/31
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,女性。横行結腸癌,胆石症に対し腹腔鏡下結腸部分切除,D2郭清,胆嚢摘出術を施行した。右下側腹部の5mmポート創から8mmマルチドレーンを挿入留置した。術後3日目にドレーンを抜去し,術後7日目に退院となった。術後11日目にイレウス症状を呈し当科へ救急搬送された。腹部CTにて右下側腹部5mmポート創の皮下に小腸の一部が嵌頓した像を認めたため,細径ポートサイトヘルニア嵌頓の診断にて即日緊急手術となった。手術を施行すると,5mmポート創下の腹膜,筋膜欠損部をヘルニア門に小腸が嵌頓したRichter型ヘルニアであった。ポート創を延長しヘルニア門を切開し嵌頓を解除した。絞扼小腸を切除,吻合しヘルニア門を閉鎖し手術終了した。ドレーン挿入操作によるポート創の開大が主原因と考えられた。5mm以下の細径ポートサイトヘルニアは非常にまれな疾患とされるが,細径ポートを用いた腹腔鏡下手術の増加に伴い増加が予想され,発生防止と発生時の適切な処置が重要である。
feedback
Top