日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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32 巻, 7 号
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原著
  • ―経肛門的イレウス管の功罪―
    宇野 彰晋, 深澤 貴子, 福本 和彦, 神藤 修, 松本 圭五, 落合 秀人, 齋田 康彦, 鈴木 昌八
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1137-1142
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    大腸癌イレウスに対する経肛門的イレウス管による減圧術の臨床的有用性と治療成績について検討した。経肛門的イレウス管は75例中69例(92%)に留置可能であった。イレウス管留置例69例のうち1例(1.4%)に,減圧不良のため留置翌日に緊急減圧手術を施行した。また,減圧が可能であった68例中2例(2.9%)でイレウス管による穿孔が認められた。66例で待機手術が可能であり,61例(92.4%)で1期的吻合が可能であった。縫合不全を1例(1.64%)に認めた。経肛門的イレウス管による減圧は非常に有用であり,減圧後早期の手術をこころがけることにより,さらに安全で効果的な治療法として確立されていくものと考える。
  • 上田 城久朗, 明石 隆吉, 廣田 昌彦
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1143-1149
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    2006年1月から2010年12月までに内視鏡治療を施行した胆管結石による急性胆管炎症例の治療成績について述べた。対象は235例であった。呼吸器疾患を合併していた89歳の女性2例が死亡した。細径の胆管ステント留置による内視鏡治療で,救命率は99%以上であった。禁食の期間と相関する因子を検討した。胆石性膵炎を合併している症例や発熱を有する症例,Charcot 3徴やSIRSの陽性項目数が多い症例は禁食期間が長期になる傾向があった。改訂版のガイドラインでは,呼吸状態や胆石性膵炎などの合併病態を重症度判定基準として取り入れることが望ましいと考えられる。
  • 小泉 哲, 小林 慎二郎, 根岸 宏行, 三浦 和裕, 片山 真史, 松本 純一, 平 泰彦, 大坪 毅人
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1151-1156
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    【目的】外傷性膵・十二指腸損傷の治療成績を向上させるために当院では独自の治療アルゴリズムを作成し診療にあたっており,その妥当性を評価する。【方法】Primary surveyの段階において循環動態不安定であれば蘇生のための緊急開腹手術を行う。Secondary surveyの段階で損傷部の評価を行い,受傷機転が鈍的であり,“出血制御”,“感染・炎症の制御”,“臓器機能保持”が非手術的に可能であればNon-operative management(NOM)を選択する。膵損傷の場合は,膵管損傷を伴う場合(IIIb型)において,損傷が限局している(膵管の軸変位がなく膵被膜がおよそ保たれている:IIIb-Localized 〈IIIb-L型〉)か,損傷が限局していない(膵被膜が破綻し,時に膵管の軸変位を伴っている:IIIb-Spread 〈IIIb-S型〉)かをCTと腹部所見で判断し,IIIb-L型であればNOMを,IIIb-S型であれば原則手術を選択する。十二指腸損傷の場合では,管腔構造の破綻がなければNOMを選択している。2005年4月から2010年9月までに当院救命救急センターを受診された外傷患者を対象とした。【結果】外傷患者総数は3,886名,内腹部外傷患者は109名(2.8%),内,膵・十二指腸損傷症例は5名であり,外傷患者全体の0.13%であり,腹部外傷患者の4.6%であった。受傷機転は1例のみ刺創で,他4例はすべて鈍的外傷であった。行われた治療は,ダメージコントロール手術2例,根治的手術1例,NOM2例であった。治療成績は,ダメージコントロール手術が行われた1例のみ術後感染症死された他はすべて軽快退院されていた。【結論】当院における外傷性膵・十二指腸損傷に対する治療戦略アルゴリズムはさらに症例数を増やし検討する必要があるが有用である可能性があると考えられた。
特集:腹腔内臓器損傷(肝を除く)の治療戦略
  • 松本 純一, 服部 貴行, 山下 寛高, 濱口 真吾, 森本 公平, 一ノ瀬 嘉明, 田島 信哉, 中島 康雄, 平 泰彦
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1159-1162
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    脾臓は最も多く損傷を受ける腹腔内臓器である。肝臓と同様に上腹部を占める実質臓器であるが,内部の組織構造が粗であるために,損傷し易い上に,出血しても損傷部周辺の実質による圧迫効果が弱い。現在外傷初期診療において標準的に用いられているCTは,仮性動脈瘤や造影剤の血管外漏出像といった血管損傷の所見をより短時間で,より正確に評価することを可能としている。脾損傷の治療法選択は,循環動態や他の損傷の数と程度などから総合的に判断されるが,CTがもたらす情報は大変重要である。CTで造影剤の血管外漏出や仮性動脈瘤形成といった血管損傷の所見を認めた場合には,被膜断裂がなくても肝臓より積極的に経カテーテル的動脈塞栓術を考慮する必要がある。日本外傷学会臓器損傷分類2008では,血管損傷の有無を評価に含めていないが,中島らは2007年にCT所見に基づく肝,脾臓器損傷分類を提唱している。本分類では,血管損傷の有無を加味しており,治療方針決定に際し有用なgrading systemといえる。
  • 佐々木 純, 鈴木 涼平, 北村 陽平, 横溝 和晃, 難波 義知
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1163-1167
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    外傷性脾損傷の治療は手術療法から保存的治療や血管塞栓術(TAE)などのNOM(非手術治療)が多くなっている。MDCTの発達により,早く,高精度に診断でき,さらに動脈相,平衡相の撮影により,血管外漏出象の有無,仮性動脈瘤の検出が可能となった。そしてTAEの普及により,選択的に素早く止血できるようになっている。NOMの成功率は92.5%であった。しかしながら,手術治療も全体の22%で行われていた。形態的にはIIIb型では78%でTAEや手術が必要であった。バイタルサイン,造影CT検査,合併損傷などを総合的に判断し,診断,治療を行うことが重要である。
  • ―NOM失敗例と死亡例から学ぶ―
    新城 邦裕, 佐藤 浩一, 前川 博, 櫻田 睦, 折田 創, 伊藤 智彰, 齋田 将之, 杉本 起一, 吉田 悠子, 平田 史子
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1169-1173
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    血行動態の安定した外傷性脾損傷に対して非手術的治療(以下,NOM)が標準的治療になりつつあるが,その限界と問題点を明らかにするため,2000年1月から2009年12月までの10年間に当院にて加療した外傷性脾損傷患者38例を対象とし,後ろ向き研究を行った。初期治療では8例(21.1%)が手術となった。NOMを行った30例のうち8例は手術に移行した。NOMの成功率は73.3%と低く,初期治療に経カテーテル的動脈塞栓術でなく手術を選択すべき症例が含まれていた。さまざまな因子でNOM成功群と失敗群を比較すると,出血量の多少が重要と思われた。全38例のうち死亡例は5例(13.2%)で,うち4例は重篤な頭部外傷を伴っており,脾損傷自体が死因となった症例はなかった。脾損傷による出血自体はTAEや手術でかなり高い確率でコントロールし得るが,重篤な頭部外傷の有無が生死を大きく左右する。
  • 森本 公平, 松本 純一, 一ノ瀬 嘉明, 服部 貴行
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1175-1180
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    腹部鈍的外傷において脾臓は腹部臓器の中で最も損傷を受けやすい。Multi-detector row CT(MDCT)の普及,Interventional Radiology(IVR)の進歩や脾臓摘出に伴う免疫能低下への見直しなどにより,近年では脾損傷の際にNon-operative management(NOM)が選択される場面が増えてきた。脾損傷に伴う腹腔内出血,血管損傷に対する治療として,IVRはその侵襲度の低さの面からも非常に有用であるが,その施行に際しては適応,血管造影所見,塞栓物質,塞栓方法,塞栓に伴う合併症について熟知しておく必要がある。しかしIVRに固執するあまりいたずらに時間を浪費し,患者の生命を脅かすようなことはあってはならず,速やかにIVR手技を開始し,一刻も早く手技を終了させるための外傷IVRチームの編成,病院の体制づくりも重要である。
  • 小林 慎二郎, 小泉 哲, 野田 顕義, 片山 真史, 佐治 攻, 福永 哲, 宮島 伸宜, 大坪 毅人
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1181-1185
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    膵損傷の治療方針決定のポイントはCT所見と身体所見,さらに施行可能であればERP所見から総合的に膵管損傷の有無と程度を診断することである。出血性ショックであれば緊急開腹手術を行うが,循環動態が安定している場合には造影CTを施行して膵損傷の評価を行う。鈍的損傷の場合,主膵管損傷を伴わない症例は原則として保存的治療が可能であるが,継続した慎重な全身状態の観察が必要である。主膵管損傷を伴うIIIb型では手術を念頭に置く必要があるが,症例によっては膵管ステントによるnon operative managementが可能である。しかしこの場合,ステント挿入後も慎重に腹部および全身状態を観察し,手術治療への移行も躊躇してはいけない。
  • 船曵 知弘, 山崎 元靖, 折田 智彦, 清水 正幸, 松本 松圭, 豊田 幸樹年, 山元 良, 北野 光秀
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1187-1193
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    腸管腸間膜損傷に対する治療戦略に関して,自施設での28症例(54ヵ月間)を後方視的に検討した。19例の鈍的損傷のうち交通外傷が13例(68%)を占め,術前にCTが施行されているのは18例(95%)であり,腹腔内遊離ガスがみられたのは6例(33%)であった。腹腔内遊離ガスがみられなかった12例のうち6例は腸間膜からの血管外漏出像があり緊急開腹術を行った。3例はCT後の血行動態不安定から同様に緊急開腹術を行った。2例は診断的腹腔鏡検査で診断が確定し,1例は20時間後のCTの再検により確定に至った。また鋭的損傷9例のうち血行動態が安定していて,腹壁損傷が小さい2例においては診断的腹腔鏡検査を行った。血行動態が安定していれば,非治療的開腹を減らすためにCTや診断的腹腔洗浄・診断的腹腔鏡検査を行うべきである。
  • 浅桐 公男, 小松崎 尚子, 吉田 索, 古賀 義法, 小島 伸一郎, 七種 伸行, 石井 信二, 深堀 優, 疋田 茂樹, 田中 芳明, ...
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1195-1200
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    当院で過去10年間に経験した小児腹腔内臓器損傷の23症例27部位について治療経過をまとめ,最適な治療戦略について考察した。小児腹腔内臓器損傷症例においてもIVRは安全に施行可能であった。IVR施行群は非施行群と比較して有意に高い重症度が認められたが,IVR施行群のなかでTAE施行群と非施行群の重症度は両群間に有意差は認められなかった。しかし,TAE施行群は非施行群と比較して血管造影室搬入までの所要時間が有意に短く,さらに前医との連携でより迅速なTAEの施行が可能であった。小児腹腔内臓器損傷に対しては迅速かつ的確な判断が求められる。そのためには,救命救急医,小児外科医,放射線科医がそれぞれの専門知識と技術を終結し診療にあたることが肝要である。また,緊急時であっても24時間対応可能な組織づくりが必要である。
  • 太田 智之, 加納 宣康, 草薙 洋, 大橋 正樹, 葛西 猛
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1201-1207
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    シートベルト着用率の向上と共に致死的外傷は減少している。一方でシートベルト損傷(以下,本症)と称される,鈍的外傷が増加した。本症はサブマリン現象により,シートベルトが骨盤から腹部にずれ,腹部と椎体が挟まれ発生すると考えられる。本稿では,当院で経験したシートベルトによる鈍的外傷2例を提示し,本症について考察を加える。本症の発生機序,シートベルトの種類による損傷の違い,本邦におけるシートベルト関連の法律についても解説する。本症に対する治療戦略としては,腸管損傷を見逃さないこと,さらに,遅発性に腸管穿孔や腸管狭窄をきたす場合があることを理解することが重要である。本症は,腸管損傷以外に複数の臓器の損傷を招くこともある。特に十二指腸損傷,膵損傷,横隔膜損傷は見逃しやすく,治療に難渋しやすいため,日頃から諸臓器の外傷手術方法について理解を深めておくべきである。
症例報告
  • 竹谷 園生, 秦 史壯, 北川 真吾
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1209-1212
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,女性。自損行為によりナイフで腹部を刺傷し,当院に救急搬送された。造影CT検査では腹腔内に異常は認めなかったが,刺創路造影(stabography)を併用したCT検査により腹膜穿通が確認された。このため診断的腹腔鏡検査を行い,腹腔内臓器損傷のないことを確認し,開腹手術を回避した。腹部刺創症例の診断,治療方針の決定は困難であるが,低侵襲で正確な診断と加療を行うために,stabography併用CT検査と診断的腹腔鏡検査を行うことは有用と思われた。
  • 遠藤 健, 福田 千文, 篠原 克浩, 伊藤 眞史
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1213-1215
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例は50歳女性で,既往歴に特記すべきことはなく,自然分娩で一子の出産歴があった。心窩部痛を主訴に近医を受診し投薬を受けるも改善せず,嘔吐が出現したため当院夜間救急を受診した。腹部単純X線写真で腸液の溜まった小腸ループを認め,腹部CTでは,子宮左側に子宮と連続する索状物と拡張した小腸およびDouglas窩にかけて拡張のない小腸を認めた。開腹歴がないことより,左側子宮広間膜裂孔付近に存在する内ヘルニアによるイレウスと診断し開腹手術を行った。開腹すると大量の血性腹水と左子宮広間膜に約3cmの全層の欠損があり,約90cmの回腸が侵入し壊死に陥っていた。壊死腸管を切除し,子宮広間膜の欠損部を閉鎖した。術後第10病日に退院した。
  • 森岡 広嗣, 三木 明寛, 福山 啓太, 石川 順英
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1217-1219
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    スピーゲルヘルニアは,腹壁ヘルニアの0.12~2.0%にみられる比較的まれな疾患である。症例は75歳,男性。突然の左下腹部痛で近医を受診し,CT検査で腹壁ヘルニア嵌頓と診断され当院に紹介された。非観血的に還納できず,スピーゲルヘルニア嵌頓の診断で緊急手術を施行した。ヘルニアは,スピーゲル腱膜から内腹斜筋にかけて形成された,ヘルニア門に嵌頓していた。還納後,ウルトラプロヘルニアシステム(UHS)を用いたヘルニア修復術を行った。Underlay patchを腹横筋とスピーゲル腱膜および腹直筋の背側面に展開し,onlay patchを内腹斜筋とスピーゲル腱膜,および腹直筋上に固定した。術後疼痛は軽微であり,light-weight large pore meshであるUHSは,形状および材質面で,スピーゲルヘルニアの修復に有用であると考えられた。
  • ─非外傷性脾破裂本邦報告53例の検討─
    福本 和彦, 坂口 孝宣, 平出 貴乗, 柴崎 泰, 鈴木 淳司, 稲葉 圭介, 岩下 寿秀, 鈴木 昌八, 今野 弘之
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1221-1225
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例は外傷既往のない53歳,男性。突然の左季肋部痛で来院したが,血液生化学検査では軽度の肝酵素の上昇以外に異常はなかった。腹部造影CT検査にて脾下極の断裂による腹腔内出血と造影剤血管外漏出を認めた。腹部血管造影検査で脾内に小さな動脈瘤を認め,非外傷性脾破裂の診断で緊急脾摘出術を施行した。開腹時に脾背面の被膜断裂からの出血を確認した。組織学的には脾内の仮性動脈瘤とこれに連続する動脈中膜の断裂をみるものの,今回の脾破裂を惹起する背景疾患が不明なため,自然脾破裂と診断した。経過良好で術後9日目に退院した。原因が明らかでない非外傷性脾破裂のうち,本症例のような小さな動脈病変が潜んでいる可能性がある。今回,血管造影による評価を行った上で脾摘を施行し,自然脾破裂と診断した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。
  • 佐々木 妙子, 亀山 哲章, 冨田 眞人, 三橋 宏章, 松本 伸明, 大渕 徹, 吉川 祐輔
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1227-1230
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    鼠径部ヘルニアは比較的頻度の高い良性疾患だが,嵌頓し絞扼すると生命に関わることがある。今回当院で手術を施行した鼠径部ヘルニア嵌頓例を検討し,嵌頓例への対応を考察したので報告する。2007年1月から2011年6月までの当院で手術を施行した鼠径部ヘルニアは586例であり,このうち嵌頓例は37例(6.3%)であった。診断内訳は外鼠径ヘルニア23例(62.2%),内鼠径ヘルニア2例(5.4%),大腿ヘルニア11例(29.7%),不明1例(2.7%)であった。緊急手術を要した例は31例(83.8%)で,このうち臓器切除を要した例は11例(35.5%)で,腸管切除が7例,大網切除が4例であった。嵌頓例37例のなかで自覚症状発現から来院まで1日以上経過している例が17例(46.0%)存在した。医療者は急性腹症の原因にヘルニア嵌頓がないかを確認すること,また嵌頓時には速やかに受診するように啓蒙していく必要がある。
  • 松村 勝, 高橋 賢一, 舟山 裕士, 安本 明浩, 武藤 満完, 生澤 史江, 野村 良平, 松村 直樹, 西條 文人, 武者 宏昭, 徳 ...
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1231-1234
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性。2010年12月下旬夜より腹痛と嘔吐があり当院救急外来を受診した。来院時の腹部は膨隆し腹膜刺激症状を認めた。腹部単純写真ではniveauの形成があり,腹部CTでは小腸の壁肥厚と口側小腸の拡張,中等量の腹水を認めた。イレウスの診断で緊急開腹手術を施行した。腹腔内には漿液性の腹水を認め,小腸は著明に拡張し,Treitz靱帯から306~404cmの間で3ヵ所の壁肥厚を認めた。うち1ヵ所で食物残渣が嵌頓しており食餌性イレウスの状態であり約1mの小腸部分切除術を行った。術後に生イカの摂取歴を確認し,血清で抗アニサキスIgG+IgA抗体価の陽性と病理組織診断でアニサキスの虫体を確認できた。術後経過は特に問題なく術後14日目に退院した。小腸アニサキス症はアニサキス症の中でも比較的まれで確定診断が困難である。イレウスを伴う急性腹症の場合には本症例も鑑別診断に加え,外科的手術も考慮する必要があると考える。
  • 岡村 淳, 北川 美智子, 住永 佳久
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1235-1238
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    腹部鈍的外傷による胆嚢の単独損傷はまれであるが,そのなかでも胆嚢壁内血腫の報告は数例のみである。報告例では,いずれも手術が選択されていたが,今回われわれは保存的治療にて治癒した1例を経験したので報告する。症例は15歳の男子で,サッカーの試合中に転倒し,腹部を強打した。来院時のバイタルサインは安定しており,右季肋部に軽度の圧痛を認めたが,筋性防御などの腹膜刺激症状は認めなかった。血液検査では軽度の肝胆道系酵素の上昇を認めたが,他の異常所見は認めなかった。腹部CT検査では胆嚢壁の浮腫状肥厚,壁内の高吸収を示す陰影を認め,胆嚢壁内血腫と診断した。臨床所見が安定していたため,保存的治療を行った。保存的治療で右季肋部の圧痛は消失し,検査所見の悪化も認めず,受傷後6日目に退院となった。受傷後1ヵ月のCT検査では,壁の肥厚は残存していたが血腫は消失していた。受傷後3ヵ月のCT検査では,異常所見を認めなかった。
  • 皆川 幸洋, 下沖 収, 遠野 千尋, 藤社 勉, 高橋 正統, 阿部 正
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1239-1242
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    Non-occulusive mesenteric ischemia(NOMI)は,主幹動脈に器質的な閉塞が認められないにも関わらず,腸管に虚血性病変が生じる病態であり,予後不良な疾患である。今回われわれは,S状結腸穿孔に併存した症例を経験し救命し得たので報告する。症例は76歳女性,腹痛を主訴に受診した。腹部CT検査にて遊離ガスと腹水貯留を認めたが,上腸間膜動脈の閉塞所見は認めなかった。消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断で,緊急開腹手術を施行した。術中所見では,腹腔内には多量の便汁が漏出しS状結腸の穿孔を認め,S状結腸,子宮,膀胱漿膜に虚血の存在が疑われた。また,回腸末端部より約30cm口側から小腸全域に,非連続性の漿膜の虚血性変化を認めた。病理組織学的所見では,小腸は漿膜下の出血,粘膜下層のうっ血,壊死性変化を認めたが,血管内に血栓や閉塞性所見を認めなかったことからNOMIと診断した。
  • 山村 英治, 山崎 元靖, 伊藤 康博, 船曵 知弘, 江川 智久, 長島 敦, 北野 光秀
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1243-1245
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例は74歳の女性。既往に子宮体癌に対して広汎子宮全摘術が施行されている。繰り返す嘔吐を主訴に救急外来を受診した。右下腹部に軽度圧痛があり,腹部X線写真で限局的な小腸の拡張を認めた。腹部造影CTで絞扼性イレウスと診断し,緊急手術を施行した。索状物を起点として小腸がループを形成し,拡張していた。索状物が右外腸骨動脈に伴走する右外腸骨静脈であることが判明した。嵌頓し拡張した腸管は用手的に整復することができた。外腸骨静脈と外腸骨動脈の間隙に小腸が迷入し内ヘルニアとなり,絞扼性イレウスを発症したと考えられた。術後経過は良好で術後7日目に退院した。術後の露出した血管を原因としたイレウスの報告はまれであり,若干の文献的考察を加えて報告する。
  • 松本 寿健, 水野 伸一, 日比野 正幸, 西垣 英治, 藤枝 裕倫, 玉内 登志雄
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1247-1250
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例は36歳の女性。発熱,右下腹部痛を主訴に受診した。右下腹部に強い圧痛と筋性防御を認めた。血液生化学検査ではCRPが上昇していた。腹部超音波像にて高エコーと低エコーの混在する腫瘤が右下腹部に認められ,腹部CT検査では脂肪成分を含む腫瘤として描出された。画像検査で腫大した虫垂は描出できなかったが臨床所見より虫垂炎を疑い緊急手術を施行した。開腹すると,多量の血性腹水が認められ,大網の右側の一部が捻転し壊死に陥っていた。虫垂の炎症は軽度であり大網捻転と診断し大網部分切除術を施行した。捻転を誘発する癒着などの原因は特に認めず,特発性大網捻転症と考えられた。
  • 箸方 紘子, 島田 謙, 山本 公一, 朝隈 禎隆, 片岡 祐一, 相馬 一亥
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1251-1254
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    患者は61歳,男性。大量飲酒後自宅屋外階段から転落し近医に搬送された。同院での腹部CTで腹腔内出血が疑われ,当院救命救急センターに転送された。検査上,胆嚢損傷,contusionと診断,保存的治療を選択した。第5病日に腹膜刺激症状が出現し,腹部造影CTで遅発性胆嚢穿孔(laceration)を疑い緊急開腹手術を施行した。開腹所見では胆汁性腹水がみられ胆嚢摘出術と術中胆道造影を施行したが胆嚢穿孔や胆管損傷はみられずいわゆるtraumatic BPWORと診断した。胆汁性腹膜炎は胆嚢粘膜剥離による胆汁の浸み出しが原因と考えられた。胆嚢は解剖学的位置関係から損傷を受け難いとされている。本症例では泥酔状態による腹壁緊張の低下に加え,転落時に十分な防御姿勢がとられなかったことが推測され,さらに飲酒後で胆嚢の緊満やOddi括約筋緊張亢進により胆嚢・胆管内圧上昇が胆嚢損傷に影響したものと考えられた。
  • 田中 香織, 山田 誠, 波頭 経明, 松井 聡
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1255-1258
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例は81歳の男性。半月前から出現した便秘と腹痛の増悪を主訴に当院救急外来に搬送された。腹部CT検査にて便秘症と診断され一旦帰宅するも症状軽快せず,翌朝に再度救急搬送された。腹部CT検査にて全結腸の拡張を認め,イレウスの疑いにて内科入院となるも,腹痛は増悪し,S状結腸内視鏡検査を施行したところ,S状結腸に縦走する白色調変化を認めた。内視鏡検査後にショックに至ったため,同日緊急手術を施行した。盲腸からS状結腸までの全結腸が壊死しており,全結腸切除術を施行した。また,術中に回腸末端に壊死が拡大したため,回腸末端を追加切除し,回腸人工肛門造設術を施行した。病理所見より壊死型虚血性大腸炎と診断した。術後経過は比較的良好で,術後40日目に退院した。外科的治療にて救命可能であった全結腸型壊死型虚血性大腸炎1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。
  • 今 裕史
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1259-1262
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例1は透析歴5年の70歳代女性。冠動脈石灰化,胸部大動脈瘤の精査目的に当院循環器科を受診した。胸部X線検査でfree airを指摘され腹部CT検査を施行,S状結腸に多発する憩室とfree airを認めS状結腸憩室穿孔と診断し緊急手術を施行した。術中所見ではS状結腸に膿苔の付着した憩室穿孔部を認め,S状結腸部分切除,ストマ造設術を行った。術後は良好に経過し30日目に軽快退院した。症例2は透析歴9年の70歳代男性。冠動脈バイパス術後の定期受診時に発熱,全身倦怠感の訴えがあり当院心臓血管外科に入院した。精査目的に行ったCT検査で虚脱したS状結腸に憩室を認め,直腸膀胱窩にはairの混在した液体が貯留していたためS状結腸憩室穿孔を疑い緊急手術を施行した。術中所見ではS状結腸に膿苔の付着した憩室穿孔部を認めS状結腸部分切除,ストマ造設術を施行した。術後は持続的血液濾過透析,エンドトキシン吸着を行い,長期の人工呼吸管理を要したが104日目に退院となった。本2例は共に大腸憩室穿孔例であったが腹部所見に乏しく当初は消化管穿孔を疑っていなかった。透析患者,特に高齢者では腹痛などの臨床症状に乏しいこともあり注意を要すると思われた。
  • 佐藤 渉, 山岸 茂, 春田 浩一, 石部 敦士, 松尾 憲一, 仲野 明
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1263-1266
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,女性。多発肝嚢胞,多発腎嚢胞の既往があり,慢性腎不全に対して血液透析を施行していた。嘔吐を主訴に救急外来を受診し,来院時著明な肝腫大に加えて腹部膨満,Howship-Romberg signが認められた。腹部CT検査で右閉鎖孔に陥入する軟部陰影,小腸の拡張を認め,右閉鎖孔ヘルニア嵌頓による腸閉塞の診断で緊急手術を施行した。開腹時,多発肝嚢胞,多発腎嚢胞により術野の展開が不良であったため,用手的整復のみ施行しヘルニア門の修復を行わず手術を終了した。退院後23日目に再度下腹部痛を認め,腹部CT検査で右閉鎖孔ヘルニアの再発を認めたため同日緊急手術を施行した。腹膜前腔からアプローチし,Kugel Patchにより閉鎖孔,Myopectineal orificeを覆い手術を終了した。閉鎖孔ヘルニアに対するKugel Patchを用いた根治術は,再発症例に対する有用な手術と考えられた。
  • 稲岡 健一, 三輪 高也, 福岡 伴樹
    2012 年 32 巻 7 号 p. 1267-1269
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    症例は77歳の女性。精神発達遅滞にて施設入所していたが,右下腹部腫瘤を指摘され,当科を紹介受診した。右下腹部に圧痛と熱感を伴う手拳大の硬い腫瘤を認めた。血液検査で炎症反応を認め,腹部造影CTでは右下腹部腹壁内に7cm大の不整低吸収腫瘤と腹腔内にも多発膿瘍を認めた。腹壁膿瘍に対して経皮的ドレナージを施行したところ,虫垂炎から波及した腹壁膿瘍と診断できた。ドレナージ治療により,膿瘍腔の著明な縮小を認め,第14病日根治術として手術を施行した。開腹すると虫垂先端が鼠径ヘルニア孔に埋没しており,鼠径管内へ嵌入した穿孔性虫垂炎により腹壁膿瘍を形成していた。虫垂切除術とドレナージ術を施行し,経過は良好であった。虫垂炎が鼠径ヘルニアを経路として前腹壁に膿瘍を形成することはまれであり,文献的考察を含めて報告する。
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