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─透明フードの有用性─
千原 直人, 鈴木 英之, 渡辺 昌則, 大山 莉奈, 豊田 哲鎬, 野村 聡, 中田 亮輔, 内田 英二
2013 年 33 巻 3 号 p.
523-527
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
当院で2002年1月から2012年1月までの期間に大腸憩室出血と診断された85例を対象に性別,年齢,出血部位や治療法,特に内視鏡的止血を中心に検討した。出血部位は右側結腸が48.2%, 左側結腸が37.6%で不明が14.1%であった。全体のうちで自然止血は60症例(70.6%)で,内視鏡的に止血を行った症例は21症例(24.7%),手術症例は緊急手術2症例(2.4%),待機手術1症例(1.2%)でIVRは1症例(1.2%)であった。内視鏡的止血のうち,透明フード(先端アタッチメント)を用いた群では再出血率が0%であった。大腸憩室出血の内視鏡的止血において,透明フードと前方送水機能を備えたファイバーを使用することによって迅速に凝血塊の洗浄,除去を行い,責任憩室を確実に視認して止血操作を行うことが肝要であると考えられた。
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嶋田 仁, 小泉 哲, 野田 顕義, 根岸 宏行, 西尾 乾司, 吉田 有徳, 伊藤 弘昭, 大坪 毅人
2013 年 33 巻 3 号 p.
529-533
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
急性虫垂炎に対する虫垂切除術における,切開法の明確な選定基準は存在しない。今回交叉切開法と傍腹直筋切開法の2群間における術後創痛の比較を行い有用性の検討を行った。対象は25歳以上,意志疎通可能で,膿瘍形成性虫垂炎を除く急性虫垂炎の診断で開腹手術を施行した45症例(交叉切開24例,傍腹直筋切開21例)。(1)創長,(2)体表面積での換算創長,(3)modified Prince―Henry score(以下,PHS変法)を用いた累積疼痛点数,(4)PHS変法Grade B到達日数,(5)鎮痛剤必要期間(日数)を評価項目としアンケート法で調査した。結果は,交叉切開が『創が短く』((1)p<0.001,(2)p<0.001),『創痛は軽度』((3)p=0.016,(4)p=0.022)で,『鎮痛剤も少なかった』((5)p=0.042)。術後疼痛軽減のためには,極力交叉切開法を選択すべきである。
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─診療に役立つ治療法の研究─
篠田 昌宏, 田邉 稔, 大島 剛, 高野 公徳, 西山 亮, 田中 真之, 林田 哲, 八木 洋, 阿部 雄太, 北郷 実, 田中 克典, ...
2013 年 33 巻 3 号 p.
535-542
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
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われわれは,各種病態において炎症性メディエーターとして注目されているHigh─mobility group box 1(HMGB1)に着目し,劇症肝不全に対する新治療の開発を試みている。劇症肝不全患者,薬剤誘導性ラット劇症肝不全モデルにおいて血漿中HMGB1,肝組織中HMGB1は健常群に比較してそれぞれ有意な上昇,低下を認めた。HMGB1に対する特異的中和抗体を薬剤誘導性ラット劇症肝不全モデルに投与したところ著明な病態改善効果を認めた。さらに,HMGB1の阻害剤であるBox Aタンパクの遺伝子導入,リコンビナントトロンボモジュリン投与,HMGB1吸着カラムを用いた体外循環などの有効性を大小の動物モデルで検証した。遺伝子導入,体外循環治療では一定の効果が認められつつあり,診療に役立つ劇症肝不全に対する新治療の開発が期待された。
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─経肛門的イレウスチューブの有用性─
門野 潤, 田畑 峯雄, 大迫 政彦, 石崎 直樹, 井上 真岐, 渡邉 照彦, 井本 浩
2013 年 33 巻 3 号 p.
543-548
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
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大腸癌イレウスの治療について,経肛門的イレウスチューブの有効性を中心に検討した。2005年1月から2010年9月に経験した大腸癌イレウス39例を,経肛門的イレウスチューブ挿入群(挿入群)21例と非挿入群16例に分けた。チューブが挿入困難であった2例を除外した。患者背景,重症度,腫瘍因子,手術結果を検討した。挿入群/非挿入群で,年齢は70歳/80.5歳,PNIは43.8±5.6/33.7±6.1,CRP1.3±1.7/13.0±9.9と,非挿入群は,高齢,栄養状態不良で,炎症が高度であった。左側大腸癌は,挿入群は20/21例,非挿入群が5/16例で,一期的再建も,挿入群16/21例,非挿入群5/16例と挿入群に多くなされていた。挿入による穿孔を1例に認めたが,縫合不全はなく,非挿入群に在院死亡を4例認めた。左側大腸癌で全身状態良好であれば経肛門的イレウスチューブが有効であった。
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三浦 文彦, 佐野 圭二, 天野 穂高, 豊田 真之, 和田 慶太, 青柳 賀子, 高田 忠敬, 吉田 雅博
2013 年 33 巻 3 号 p.
551-556
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
急性胆道炎ガイドラインと急性膵炎ガイドラインの国際的な認知度,活用度を検証するために文献的に検討を加えた。国際版急性胆道炎ガイドラインと英語版急性膵炎ガイドラインは,世界中の著者によってさまざまな分野の雑誌に掲載された論文に引用されていた。国際版急性胆道炎ガイドラインは,2006年のInternational Consensus Meetingを介して海外の多数のエキスパートと共同で制作されたもので,世界で初めての急性胆道炎の国際基準である。国際版急性胆道炎ガイドラインが提唱した診断基準と重症度判定基準は,多くの臨床研究で利用されるようになってきている。一方,英語版急性膵炎ガイドラインについては,世界中で普及しているガイドライン・診断基準・重症度判定基準がすでに存在するためか,臨床研究への利用は限定的だった。本年2月に改訂された急性胆道炎ガイドラインでは,新しい診断基準と重症度判定基準の精度がさらに向上している。また,重症度別の治療方針(flowchart)と推奨抗菌薬の改訂およびbundleの導入などにより臨床に即したものになっている。実地臨床での利用度と普及度のさらなる向上を目指して,改訂版急性胆道炎ガイドラインのモバイルアプリを開発した。
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木村 康利, 平田 公一, 吉田 雅博, 真弓 俊彦, 高田 忠敬
2013 年 33 巻 3 号 p.
557-562
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
急性膵炎の診療ガイドラインについての報告を検索し,それらから得られた情報より診療内容の変遷を検討したところ,以下のごとくであった。(1)診断基準については,厚生省(当時)特定疾患難治性膵疾患調査研究班により変更提案した急性膵炎臨床診断基準が2008年に確定し,第3版ではこれを採用した。血液・尿検査では当初,血中膵酵素としてアミラーゼを推奨したが,改訂とともにリパーゼを第一に推奨するに至った。(2)重症度診断については,従来法では,臨床徴候(5項目),血液検査成績(10項目),CTグレード,全身性炎症反応症候群(SIRS),年齢の18項目からなっていたが,大きく簡略化された。すなわち,9因子による予後因子とともに,造影CTによる重症例の診断(CTグレード分類)を採用するとともに,重症度を3分類から「軽症」と「重症」の2分類に変更した。(3)搬送基準については,第1,2版でのスコア2点以上から,第3版ではスコア基準が改定された。搬送施設については「重症急性膵炎に対応可能な施設」となった。
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武田 和憲
2013 年 33 巻 3 号 p.
563-568
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
造影CTは急性膵炎の重症度判定や予後予測に有用である。急性膵炎の国際基準であるAtlanta分類改訂版では,造影CT所見が膵炎の形態分類の標準となっている。実験的研究では急性膵炎において造影剤が膵の微小循環を障害する可能性が指摘されているが,臨床的には造影剤が明らかに急性膵炎の病態を悪化させるまたは死亡率を増加させるエビデンスはない。わが国では造影剤は急性膵炎において原則禁忌であったが,2012年,慎重投与に改訂された。一方,腎障害を有する場合には「腎障害患者におけるヨード造影剤の使用に関するガイドライン2012」が発刊されており,腎障害が認められる患者にはこのガイドラインに準拠しながら造影CTの必要性とリスクを勘案し,必要な説明と同意を得ておくこともまた重要である。
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真弓 俊彦, 吉田 雅博, 平田 公一, 高田 忠敬
2013 年 33 巻 3 号 p.
569-572
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
関連する望ましい診療内容をまとめて行った場合には,個々の介入のみを行った場合よりも患者の予後が改善すると考えられており,診療ガイドラインでのbundleは,ガイドライン内の重要点を列挙し,ガイドライン内容の普及,遵守の向上だけではなく,ガイドラインの普及や有用性の評価にも使用される。Pancreatitis bundleは,日本の診療ガイドラインとしては初めてのbundleであるとともに,急性膵炎のbundleとしては世界初のものである。いずれの項目も推奨度AまたはBの内容で,特殊な状況以外では原則的にすべての項が実施されることが望ましく,診療録等に記録する。今後の課題として,pancreatitis bundleの意義,実施率(ガイドラインの遵守率:普及の指標),実施率による生命予後の変化(ガイドラインの効果)等の検討必要で,これらはガイドラインの改訂の際に反映されるであろう。
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桐山 勢生, 高田 忠敬, 吉田 雅博, 真弓 俊彦
2013 年 33 巻 3 号 p.
573-578
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
現在,Tokyo guidelines(TG07):急性胆管炎,胆嚢炎診断基準は,国際的な標準として普及している。しかし,TG07改訂委員会によって多施設症例集積研究による実地臨床の検証が行われた結果,いくつかの問題点が確認された。急性胆管炎診断基準は,life─threateningな疾患の診断基準としては十分な診断能はなく,これには不適切な診断項目の組み合わせが原因と考えられた。その結果,臨床徴候もしくは血液検査によって炎症と胆汁うっ滞,そして画像所見によって胆管病変の3つを確認して診断するものに修正された。急性胆嚢炎診断基準は,良好な診断能を有することが確認されたが,確診の定義が曖昧で不適切と考えられた。その結果,臨床徴候と血液検査の所見によって急性胆嚢炎を疑い,画像診断で確認するという診断基準に改訂された。改訂された新しい診断基準は,より良好な診断能を有し実地臨床での使用に適したものになった。
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横江 正道, 桐山 勢生, 真弓 俊彦, 吉田 雅博, 高田 忠敬
2013 年 33 巻 3 号 p.
579-585
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
急性胆管炎・急性胆嚢炎の重症度判定基準は国内版と国際版(Tokyo Guidelines 2007:TG07)で,一部,設定が異なる部分があり,その使用にあたって,どちらが適切かわからないといった臨床上の問題をはらんでいた。今回,国内版・国際版の同時改訂という作業の中で,それぞれの疾患の予後不良因子を検索するとともに,予後改善のために重症度判定基準がどうあるべきかをガイドライン改訂出版委員会で検討し,改訂案を作成した。その結果,急性胆管炎では,中等症の設定を検討し,早期胆管ドレナージが適切なタイミングで行えるような判定因子を設定することが改訂のポイントであった。また,急性胆嚢炎では,重症の位置付けを壊疽性胆嚢炎などの局所の重症とはせず,生命予後に影響する臓器不全の因子が陽性であるものを重症と判定することが,改訂のポイントであった。今回の国内版・国際版同時改訂により,日本国内でのダブルスタンダード状態は解消し,また,胆管ドレナージや胆嚢摘出術を行う上でも,より臨床に近い重症度判定基準として活用されていくことが予想される。国際版はTG07からUpdated Tokyo Guidelines(TG13)に改訂され,日本から世界に発信するガイドラインとして新たなステージを迎えることになる。
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露口 利夫, 糸井 隆夫, 高田 忠敬
2013 年 33 巻 3 号 p.
587-590
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
2005年9月に「急性胆管炎,胆嚢炎の診療ガイドライン第一版」が発刊され,2007年2月に国際ガイドラインである「Tokyo Guidelines for the management of acute cholangitis and cholecystitis」が公開された。両者は臨床現場に大きなインパクトを与え,早期腹腔鏡下胆摘術の普及など役立った。一方で画一的な早期手術推奨は胆道損傷のリスクをあげることにつながり,慎重な対応が必要な実臨床との解離がみられていた。また,小腸内視鏡や超音波内視鏡による胆管ドレナージなど新たな内視鏡的ドレナージ法の普及に伴い,現時点でのエビデンスを整理して内容をup-to-dateする必要があった。従来のガイドラインの推奨度(recommendation)はエビデンスのレベルだけで画一的に決定される弱点があった。そこでTG13(Updated Tokyo Guidelines)ではエビデンスの評価,推奨を公式化し明確かつ透明性の高い基準を具現化したGrading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation(GRADE)Systemを用いて推奨度が決定された。本稿では「急性胆管炎,胆嚢炎に対するドレナージ」のTG13における改訂の理由とその根拠について概説した。
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岡本 好司, 高田 忠敬, 吉田 雅博, 真弓 俊彦, 三浦 文彦
2013 年 33 巻 3 号 p.
591-596
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
Management Bundleとは,診療上遵守されるべき項目をまとめて表示し,集学的に効率よく診療を行えるように束=Bundleにして設定される。ガイドラインは単に作成されるだけでなく,適切な使用により該当疾患の予後を改善する。Tokyo Guidelines 2007(TG07)ではBundleの設定はなかったが,今回改訂のTokyo Guidelines 2013(TG13)ではBundleを新規に設定した。診断と重症度の評価,検査法の指定,初期治療と重症度別の治療の推奨と時間的制約,搬送基準,原疾患の扱い等について急性胆管炎Bundle,急性胆嚢炎Bundleを設定した。これらをもとに,遵守率と予後や入院日数,合併症の前向き評価を行う計画を提案した。Bundle遵守が本疾患の予後を改善する。Bundleの遵守がどれほどの予後を改善するか,今後のさまざまな施設からの報告が期待される。
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神賀 貴大
2013 年 33 巻 3 号 p.
597-600
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
症例は72歳の男性で,下部胆管癌に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。術後第14病日に行った造影腹部CT検査にて,総肝動脈に仮性動脈瘤を認めた。造影剤の血管外への漏出はなく,血行動態も安定していたため未破裂の仮性動脈瘤と判断して,待機的に治療を行った。総肝動脈の塞栓による合併症を回避するため肝動脈の血流温存を第一に考えて治療法を選択し,冠動脈用ステントグラフトを総肝動脈に留置して仮性動脈瘤を閉塞した。ステント留置後約3ヵ月の腹部造影CT検査では左右肝動脈が描出され,肝臓実質の造影も良好であり,ステントの開存が確認できた。冠動脈用ステントグラフトを腹腔動脈領域に用いるのは保険適応外であるが,仮性動脈瘤の閉塞と臓器血流の温存を両立することができるため,門脈閉塞が認められる症例では動脈塞栓術に代わる非常に有用な治療法である。
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岡崎 充善, 須藤 隆一郎, 日高 匡章, 松尾 光敏
2013 年 33 巻 3 号 p.
601-605
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
症例は60歳代男性。腹痛,発熱を認め当院受診し,腹部全体に圧痛,反跳痛,筋性防御を認めた。造影CTで腹水および腹腔内遊離ガス像がありS状結腸穿孔と診断。多数の肝腫瘍も認めS状結腸癌多発肝転移が疑われた。緊急手術が必要であったが,胸痛の既往と心電図,心臓超音波検査より不安定狭心症と診断され,まず冠動脈造影検査を行い,2病変に対し冠動脈形成術を行った。来院4時間後開腹手術を行い,S状結腸穿孔部に腫瘍を確認し,洗浄ドレナージ,人工肛門造設術を行った。術後ICU入室し11日目にICU退室,87日目に軽快退院した。大腸穿孔は死亡率が高く緊急手術の適応となるが,自験例は不安定狭心症に対しても緊急に治療が必要であった。今回,冠動脈形成術後開腹手術を施行し救命し得たため,文献的考察を加え報告する。
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手島 仁
2013 年 33 巻 3 号 p.
607-610
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
近年,内視鏡診断・治療件数の増加により医原性の消化管穿孔の報告が増えてきている。なかでも食道穿孔は死亡率が高く,特発性食道破裂と同様に迅速かつ適切な診断・治療が必要である。今回われわれは肝硬変に伴う食道静脈瘤出血の止血操作時に医原性食道破裂をきたした1例を経験した。はじめ保存的加療を選択したが病状が悪化したため,発症から約12時間後に外科的治療を行った。穿孔部が大きく肝硬変を合併し縫合不全が高率に予想されたので穿孔部縫合閉鎖とTチューブ留置による外瘻化,腸瘻造設を行った。術後は縫合不全や膿瘍形成などを合併することなく第92病日に退院となった。早急な外科的治療,Tチューブによる外瘻化,経管栄養などにより良好な結果を得たと考えられた。肝硬変を合併した食道破裂はその死亡率・術後合併症の高さから外科的治療が躊躇されるが,全身状態が悪化する前に早期に手術を行うことが有用である可能性が示唆された。
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根岸 宏行, 小林 慎二郎, 森 修三, 天神 和美, 西尾 乾司, 京井 玲奈, 嶋田 仁, 大島 隆一, 小野田 恵一郎, 櫻井 丈, ...
2013 年 33 巻 3 号 p.
611-614
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
症例は70歳代,女性。発熱,腹痛を主訴に近医を受診し,精査にて上腸間膜静脈血栓症と診断され紹介となった。CT検査で回結腸静脈から始まり,脾静脈との合流部におよぶ広範囲な血栓を上腸間膜静脈に認めた。また,回盲部に浮腫性変化と腸管外ガス像を認め,同部位の消化管穿孔が疑われた。以上から,上腸間膜静脈血栓症および消化管穿孔と診断し,緊急手術を施行した。バウヒン弁から約3cm口側の回腸に腸間膜への穿通を認めた。回腸はほぼ全域において軽度の浮腫を認めたが色調は正常であった。空腸と結腸に異常は認めなかった。手術は回盲部切除,人工肛門造設術を行った。術後1日目よりヘパリンの持続静注を開始。12日目よりワルファリン内服に変更し,現在も抗凝固療法を継続中である。来院時の血液検査にてプロテインCおよびSの低下が認められた。プロテインCおよびS両者の欠乏を伴う上腸間膜静脈血栓はまれであったため報告する。
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矢田 達朗, 東 幸宏, 平出 貴乗, 丸尾 啓敏
2013 年 33 巻 3 号 p.
615-619
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
症例は87歳,女性。嘔吐を主訴に当科を受診した。精査でBochdalek孔ヘルニアに合併した胃軸捻転症と診断した。全身状態を考慮し,まず上部消化管内視鏡による胃軸捻転症の整復を試みたが,不可能であったため手術を施行した。開腹するとBochdalek孔の大部分に結腸脾弯曲部と結腸間膜の脱出を認めたが,大網がBochdalek孔の一部をヘルニア門として陥入し,胃は大網に牽引され胃軸捻転症をきたしていた。開胸は行わず,陥入していた大網を腹腔内に還納し,大網の陥入していたヘルニア門の一部のみを胃の穹隆部で覆った。結腸脾弯曲部は陥入したままとした。胃固定術を併施し手術を終了した。術後経過は順調であった。本症例は高齢で全身状態が不良であり治療法の選択に苦慮した。ヘルニア根治術が標準術式とされるBochdalek孔ヘルニアだが,過大侵襲を避け軽快に導く術式も選択肢の一つとして念頭におくべきと考える。
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杉田 静紀, 平松 聖史, 岡田 禎人, 田中 寛, 鈴木 桜子, 井田 英臣, 新井 利幸
2013 年 33 巻 3 号 p.
621-623
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
症例は,25歳,男性。2年前からCrohn病にて内服加療中であった。自動車運転中,衝突事故により腹部を打撲。受傷当時は無症状であったが,次第に腹痛が高度となり,受傷6時間後に当院救急外来を受診した。初診時,腹部全体に圧痛,腹膜刺激症状を認めた。腹部造影CT検査で,少量の腹水貯留とfree air,限局性の小腸間膜脂肪織の濃度上昇を認めた。外傷性腸管穿孔性腹膜炎と診断,受傷より12時間経過後緊急手術を施行した。回腸末端から約70cm口側小腸の腸管膜側に穿孔を認め腸管部分切除を施行した。切除標本では穿孔部には,Crohn病の線状潰瘍の形成を認め,交通外傷による腹部打撲によって同部位が穿孔したと考えられた。Crohn病の患者では比較的低エネルギーの外傷でも腸管穿孔をおこし得ると考えられ,腹部打撲診察の際には穿孔も念頭に置きながら診察を行う必要がある。
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小嶌 慶太, 青木 真彦, 石井 智, 田村 光, 小島 正夫
2013 年 33 巻 3 号 p.
625-629
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
フリー
巨大な直腸異物の2例を経験したので報告する。症例1は65歳,男性。肛門痛,腹痛を主訴に近医を受診し腹部単純X線写真上,約30cmの針金を腹部に認め当院に紹介された。腹膜刺激徴候は認めず,CTでは腹腔内遊離ガス像およびS状結腸内に靴べらとS状結腸壁を貫通する針金を認めた。同日緊急手術を施行したところ,針金はS状結腸壁を貫通しS状結腸間膜内に迷入していた。靴べらはS状結腸内に認めた。靴べらと針金は経肛門的に摘出した。穿孔部位を含め腸管切除を施行した。術後13日目に退院となった。症例2は58歳,男性。主訴は直腸異物の摘出困難。CTで直腸からS状結腸に棒状異物を認めた。穿孔所見もなく,腰椎麻酔下に異物を鉗子で摘出した。術後1日目に退院した。直腸異物では腹部症状も軽度にあらわれる可能性があり,治療方針決定においては詳細な病歴聴取,理学所見,そして画像診断も重要であることが認識された。
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小林 克巳, 富沢 直樹, 荒川 和久, 須納瀬 豊, 竹吉 泉
2013 年 33 巻 3 号 p.
631-635
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
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フリー
中結腸動脈瘤破裂により腹腔内出血をきたした2症例を報告する。症例1は60歳男性。腹痛で救急搬送され,腹部CTで腹腔内出血を認めた。血管造影検査で中結腸動脈瘤からの造影剤漏出があり,緊急手術を行った。腹腔内に多量の血液貯留と横行結腸間膜に巨大な血腫を認めた。中結腸動脈左枝より出血があり,同部を結紮し横行結腸切除術を行った。症例2は55歳女性。上腹部痛で前医を受診中にショックとなり,当院へ緊急搬送された。初期輸液に反応し血圧が上昇したため造影CTを行ったが,その後再びショックとなり,挿管後大動脈遮断バルーンを挿入し,緊急手術となった。出血部位の同定は困難であったが,横行結腸間膜付近が巨大血腫となっており,中結腸動脈根部を結紮し結腸間膜を左半結腸とともに切除した。2症例とも病理組織検査で,中結腸動脈の内弾性板の破壊と解離があり,周囲に血腫を伴っていたため,SAMによる動脈瘤破裂と診断し得た。
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大上 博章, 坪島 顕司, 小林 巌, 的場 保巳, 渡部 宜久, 大野 徹
2013 年 33 巻 3 号 p.
637-640
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
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症例は70代男性。出血性内痔核の手術目的で入院され,内痔核結紮切除術を施行した。術後5日目より発熱,白血球増多,11日目より下痢,14日目より手術創が感染し洗浄消毒を継続していたが,20日目から腹痛を自覚し,27日目にCTで腹腔内遊離ガス像がみられ腹膜炎の診断で緊急手術となった。回腸が5ヵ所で打ち抜き状に穿孔しており,回盲部を含め回腸を110cm切除した。既往に口腔内アフタ,陰部潰瘍があったため腸管ベーチェット病を疑ったが,穿孔した回腸の組織標本では非特異的な炎症像のみであった。また,術後サイトメガロウイルス抗体価が急上昇して下降する典型的な変化が認められたため,サイトメガロウイルス腸炎による回腸多発穿孔と診断した。現在術後4年以上が経過しているが再発の徴候はみられない。本症例は痔核術後にサイトメガロウイルスの初感染を起こしたと考えられ,痔核手術により免疫力が低下した結果発症したのではないかと推察された。
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大嶋 清宏, 萩原 周一, 村田 将人, 青木 誠, 金子 稔, 古川 和美, 中村 卓郎, 大山 良雄, 田村 遵一
2013 年 33 巻 3 号 p.
641-645
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
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症例は63歳,女性。交通事故で受傷し,精査で開放性頭蓋骨骨折,第二頸椎骨折,左多発肋骨骨折・血気胸,外傷性脾損傷(IIIa型),左大腿骨骨折と診断した。外傷性脾損傷について同日緊急で血管造影を行ったが血管外漏出像はなく保存的加療とした。第9病日,排便後に気分不快あり,収縮期血圧60台/mmHg,脈拍40台/分であったため,ただちに輸液負荷と硫酸アトロピン投与したところ状態は改善した。直後に行った超音波検査で脾周囲の血腫増大はなかったが脾内の仮性動脈瘤が疑われた。第11病日に行った造影CT検査で脾内に直径約8mm大の仮性動脈瘤形成を認めたため同日緊急で塞栓術を施行した。近年,安定した循環動態の鈍的脾損傷に対しては非手術的管理(nonoperative management:NOM)が広く行われているが,NOMの重篤な合併症に遅発性脾破裂があり,その原因として脾仮性動脈瘤が注目されている。脾仮性動脈瘤は破裂すれば危機的状況に陥る可能性が高く,時機を逸しない処置が肝要である。
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─救命のために求められることは?─
河野 文彰, 水野 隆之, 川越 勝也, 中村 都英, 鬼塚 敏男
2013 年 33 巻 3 号 p.
647-651
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
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症例は53歳,男性。骨盤部後腹膜腫瘍の局所再発で腫瘍摘出が施行された。術後12日目に突然の大量下血でショック状態に陥った。急速輸液を行ったがショックを離脱できず,下顎呼吸および対光反射も微弱になったため心肺蘇生が開始された。濃厚赤血球の急速輸血で一時状態の改善がえられ血管造影検査が施行され,左外腸骨動脈から腸管内へextravasationが認められ左外腸骨動脈腸管瘻と診断しcovered stentを留置し止血した。ステントグラフト留置後に血圧は一時上昇したが数時間後に多臓器不全に陥り永眠された。動脈腸管瘻はまれな疾患であるが,時として急激な出血性ショックで死に至らしめることを念頭に置くべきである。本症例を経験し医師やコメディカルの救急医療に対する日頃からの技術と知識の習得や緊急時の院内のシステムの定期的な見直しと改善が,救急患者の救命に寄与できると考えられた。
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阿部 勇人, 入江 彰一, 南村 圭亮, 真船 健一
2013 年 33 巻 3 号 p.
653-655
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
ジャーナル
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症例は,60歳のB型肝硬変を有する男性。既往歴に胃切除術とイレウス解除術,肝切除術2回の計4回の手術歴がある。大量下血を主訴に受診し,出血性のプレショックの状態であった。上部消化管内視鏡検査では,明らかな出血源は認められなかったが,造影CT検査で腹壁に癒着した小腸の腸間膜静脈瘤が認められ,流出路は主に右下腹壁静脈であった。同静脈瘤の破裂による小腸内出血と診断し,緊急手術を行った。手術所見はCT検査所見と一致しており,右下腹壁動静脈を結紮切離し,癒着を含めた小腸部分切除術を行った。術後経過は,再出血もなく良好であった。門脈圧亢進症患者の消化管出血の原因として,特に開腹歴のある症例では小腸静脈瘤破裂も念頭に置く必要があり,本症例に若干の文献的考察を加え報告する。
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細見 早苗, 塚本 忠司, 金沢 景繁, 林下 浩士, 池原 照幸
2013 年 33 巻 3 号 p.
657-660
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
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症例は62歳,男性。肝細胞癌に対する胸腔鏡下肝S8部分切除術の1年9ヵ月後に,間欠的な上腹部痛を主訴に救急搬送された。腹部単純X線写真では,小腸ガスおよび右横隔膜にそって異常ガス像を認めた。単純性イレウスと診断し保存的に経過をみていたが,第4病日に右季肋部に圧痛を認めるようになった。同日の腹部単純X線検査では右横隔膜上の異常ガス像は拡大し,腹腔内腸管にニボー像を認めたため,横隔膜ヘルニア嵌頓によるイレウスの診断のもと緊急手術を施行した。右横隔膜の頂部に欠損を認め,ここから横行結腸が右胸腔内に脱出し嵌頓していた。ヘルニア門は胸腔鏡下肝切除術の横隔膜切開部に一致し,横隔膜ヘルニアの発症の原因と考えられた。横隔膜切開の手術の既往がある場合には横隔膜ヘルニアを晩期合併症として念頭におく必要がある。
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山本 博崇, 高橋 善明, 渡部 広明, 松岡 哲也
2013 年 33 巻 3 号 p.
661-665
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
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症例は60歳代,男性。塩酸を内服し,救急搬送となった。精査にて腐食性食道・胃・十二指腸炎,重症急性膵炎,溶血性貧血と診断し,ICUにて集中治療を行った。膵炎と溶血性貧血は大量輸液,ハプトグロビン,膵酵素阻害剤,抗潰瘍薬の投与を行い改善したが,食道と幽門の瘢痕狭窄が徐々に進行した。第149病日には幽門の完全閉鎖を認めたが,経過中に重度の肺線維症を併発したため根治術を断念し,胃空腸吻合術を施行した。しかし,その後も瘢痕狭窄は進行し,第302病日には食道の完全閉鎖を認めた。塩酸内服後の消化管瘢痕狭窄に対する手術や内視鏡治療は6ヵ月後以降に行うべきとされているが,本症例のように10ヵ月まで狭窄が進行する症例も存在するため,瘢痕狭窄に対する治療も10ヵ月以降まで延期すべきである。また,手術術式は消化管障害の範囲と程度,および全身状態に左右されるため,初期の全身管理も重要である。
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渡邉 利史, 寺田 逸郎, 東 勇気, 山本 精一, 加治 正英, 前田 基一, 清水 康一
2013 年 33 巻 3 号 p.
667-669
発行日: 2013/03/31
公開日: 2013/06/07
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成人腸重積症の原因は器質的疾患の割合が高く,外科的治療が選択されることが多い。今回われわれは保冷シートの誤飲により発症した腸閉塞が,腸重積様の画像所見を呈したため緊急手術に至った例を経験したので報告する。症例は90歳男性。嘔吐, 発熱, 意識障害のため当院に救急搬送された。腹部は著名に膨満し,CT検査で小腸にtarget sign様所見を呈する浮腫状腸管を認めたため,腸重積症の診断で緊急手術を行った。術中所見では腸重積を認めなかったが,触診で回腸に異物が疑われたため切開し摘出した。異物は解熱用保冷シートであり,腸管内で管腔状に包まったため,重積様の画像所見を呈したと考えられた。
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