日本腹部救急医学会雑誌
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33 巻, 4 号
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原著
  • 淺野 博, 深野 敬之, 大原 泰宏, 篠塚 望
    2013 年 33 巻 4 号 p. 671-675
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:当科で施行した高齢者下部消化管穿孔症例における臨床的特徴と予後因子について検討した。2007年4月より2011年12月まで当科で施行した下部消化管穿孔は108例であった。それらを高齢群(80歳以上)37例,非高齢群(80歳未満)71例に分けて術前因子,予後因子,術後合併症について比較検討した。高齢群では非高齢群と比較して発症からの経過時間が短く,また白血球数が低値であった。また両群ともに死亡例はPOSSUMscoreが高値となっていた。両群の死亡率に有意差はみられなかったが,術後の呼吸器合併症が高齢群には高率に発症していた。生命予後は非高齢者とほぼ同等の結果が期待できているが,呼吸器合併症の対策が今後の課題である。
  • 山田 岳史, 内田 英二, 菅 隼人, 松本 智司, 金沢 義一, 小泉 岐博, 横井 公良
    2013 年 33 巻 4 号 p. 677-682
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:Bevacizumabはvascular endothelial growth factor(VEGF)に対する抗体であり,5-fluorouracil(5-FU)をベースにした化学療法に追加することで有意に生存期間を延長する。Bevacizumabは多くの症例においては比較的軽微な有害事象をきたすのみであり,使用しやすい薬剤である。しかし,一方では頻度は低いが,生命に直結する有害事象を生じるため注意が必要である。特に消化管穿孔と脳血管障害は速やかな対処が必要であり,つねに念頭におく必要がある。最も注意すべき有害事象は穿孔,膿瘍,瘻孔を含むgastro intestinal perforation events(GIP events)と脳血管障害であり,GIP eventsは2.2%,脳血管障害は3.2%に発症した。また,GIP eventsは投与開始後2コースと早期に,脳血管障害は5─10コースと晩期に発症した。
  • 中野 昌彦, 東舘 成希, 板垣 有亮, 黒田 久志, 田中 将也, 為廣 一仁, 島 弘志
    2013 年 33 巻 4 号 p. 683-686
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    2010年4月から2012年3月までに当院において緊急手術でストーマ造設した93例(男45例,女48例)のストーマ合併症を検討した。年齢は74.5歳(38~94歳)。疾患は大腸癌45例(イレウス36例,穿孔9例),良性疾患によるイレウス16例(S状結腸捻転8例,小腸絞扼8例),憩室や糞便等による良性腸管穿孔15例,術後縫合不全等9例,その他8例であった。ストーマタイプ別では大腸単孔式39例,大腸双孔式24例,小腸双孔式24例,その他6例であった。ストーマ合併症を28例,延べ34例に認めた。創感染が16例で最も多く,次いでストーマ周囲膿瘍が11例であった。ストーマ合併症は大腸穿孔で多かった。術死14例も含め死亡例が18例あったが,ストーマ合併症による死亡例はなかった。緊急ストーマ造設時はストーマ位置決めの原則を念頭に置き,手術部位感染(SSI)の予防に留意することが重要である。
  • 岡澤 裕, 那須 元美, 宮野 省三, 町田 理夫, 北畠 俊顕, 藤澤 稔, 浦尾 正彦, 児島 邦明
    2013 年 33 巻 4 号 p. 687-691
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:【目的】当院における大腸穿孔症例の臨床的事項と予後を反映する因子について検討し,リスクマネージメントの観点から重要な事項について検討した。【対象】2005年7月~2011年1月までに経験した大腸穿孔43例を対象とした。【結果】SOFA score,APACHEII score,POSSUM score,Mannheim Peritonitis Indexによる評価では,死亡群で有意に高値であった。(1)術前BEが-5.0mmol/L未満,(2)術前ショック状態,(3)発症から手術開始までの時間が24時間以上の症例で有意に予後不良であった。また,近隣の医療機関からの紹介患者,重篤な基礎疾患を有する患者の死亡率が高かった。【考察】大腸穿孔の予後予測因子として,発症から手術開始までの時間を短縮することと,術前患者状態の評価を迅速に行うことが重要と考えられた。
特集:腹部救急治療におけるNSTの役割
  • 今井 健一郎, 安田 秀喜, 幸田 圭史, 山崎 将人, 鈴木 正人, 手塚 徹, 小杉 千弘, 村田 聡一郎, 平野 敦史, 白神 梨沙
    2013 年 33 巻 4 号 p. 695-699
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:NST対象患者の病状の理解の一助となることを目的として,栄養トリアージを考案したので報告する。(対象・方法)検討1:2011年1月~10月までに帝京大学ちば総合医療センターNSTの検討対象となった症例は71例であった。症例を「赤」,「黄」,「緑」,「青」の栄養トリアージに分類し,トリアージ別に病態改善率を検討した。栄養トリアージは次のように4つのカテゴリーに設定し,NSTメンバーが判定した。「赤」:低栄養が著しく全身状態に大きな影響を与え,緊急に栄養改善が必要と判断される症例,もしくは緊急の対応が必要と判断される症例 ,「黄」:「赤」と「緑」の中間の症例 ,「緑」:現在の治療を続行して改善が見込めると考えられる,緊急性に乏しい症例,「青」:緩和ケアが中心となる症例。検討2:栄養トリアージによる分類を開始後8ヵ月経過した時点で,NST メンバー15名を対象として,栄養トリアージ導入前後での病状の理解の変化について,アンケートを行った。(結果)結果1: 対象症例を栄養トリアージ別に分類すると,「赤」は21例,「黄」は31例,「緑」は10 例,「青」は9例であった。病態改善率は,「赤」は71.4%,「黄」は83.9%,「緑」は100%,「青」は22.2% で,平均病態改善率は74.6% であった。結果2:NST メンバーへのアンケート調査では,栄養トリアージの導入で「病状が理解しやすくなった」と回答したのは12名(80%)で,「変わらなかった」と回答したのは3名(20%)であった。(結論)栄養トリアージはNST における病状の理解の一助となる可能性があると思われた。
  • 丸山 常彦, 鴨志田 敏郎, 酒向 晃弘, 安部 訓子, 石川 祐一, 上田 和光, 奥村 稔
    2013 年 33 巻 4 号 p. 701-704
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:「栄養サポートチーム(NST)加算」が新設され,2010年6月より外科単科NST回診を開始した。従来のNST回診は依頼型としていたが,外科単科回診は血清Alb値3.0g/dL以下の中からハイリスク患者を管理栄養士が抽出した。NSTが介入した腹部緊急手術症例で,外科単科回診開始前の症例をA群,開始後の症例をB群としNST介入までの期間,効果,転帰,在院日数について検討した。A群:8例,B群:6例で介入数は有意にB群で増加した。介入までの期間はA群:15日,B群:12日でB群に短い傾向であり,効果はA群:改善4例(50%),不変2例(25%),悪化2例(25%)でB群:改善6例(100%)と有意にB群が良好であった。転帰はA群で死亡退院,B群で軽快退院が多く,介入後在院日数はA群:18日,B群:15.5日とB群で短い傾向であった。腹部緊急手術症例に対する外科単科NST回診は有用と思われた。
  • 古屋 智規, 岩崎 渉, 佐藤 公彦, 小棚木 圭, 大内 慎一郎, 小棚木 均
    2013 年 33 巻 4 号 p. 705-709
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:腹部救急における栄養サポートチーム(NST)の支援はしばしば困難である。筆者が所属した異なる2つの病院で行った支援法を検討し,支援は可能かつ有効であることを示した。総合病院A(2次救急)では,筆者がICU専従医かつNST director となって早期支援を行った。その後,消化器外科医として異動した救命救急センターを併設する総合病院B(3次救急)でも,既存のNST活動を発展させて早期支援体制を確立した。いずれの病院でも,活動の目標,評価を「消化管ルートから必要熱量を摂取出来ること」等として,ICU退室後も継続して支援した。目標達成率はいずれの施設でも70%に達し,NSTは有効と考えられた。院内の理解と協力やチームの栄養管理技術向上が今後の課題だが,病院全体での取組で解決し得るものと思われた。より早期にNST支援を開始し継続することで,腹部救急における治療効果改善が期待される。
  • 片山 寛次, 村上 真, 北山 冨士子, 早瀬 美香, 立平 宏美, 斎木 明子, 大中 博晶, 橋本 儀一, 小竹林 徳子, 山口 明夫
    2013 年 33 巻 4 号 p. 711-715
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:2002年4月から全学的にNST活動を開始した。医師の60人以上がTNT講習会を履修者で,NSTの対象はICU症例,臓器不全例が多い。9年間のサポート症例は940例,延べ5,470回で,腹部救急疾患は59症例に対し延べ481回行われた。消化管穿孔12例,縫合不全11例,腹部外傷6例,大動脈瘤破裂3例,短腸症候群5例,重症急性膵炎例7例,出血性腸炎2例,虚血性腸炎3例,偽膜性腸炎3例,急性肝炎6例であった。積極的に血糖を150mg/dL以下を目標にコントロールした。循環不全症例ではまずは中心静脈栄養が行われた。腸管が使える場合は早期経腸栄養を採用した。腎不全であっても透析と120%以上のアミノ酸を投与した。呼吸不全,重症感染症時には,n3系脂肪酸,抗酸化剤を多く配合しアルギニンを減量した抗炎症性機能性製剤を使用した。EN時の下痢では,検尿テステープによる潜血と蛋白検査,便中CD毒素検出が有用であった。
  • 石井 要, 八木 雅夫
    2013 年 33 巻 4 号 p. 717-721
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:今回,腹部救急疾患に対してNSTが関わりを持った症例を中心に,実際の栄養管理の流れとこれまでの活動状況,問題点について報告する。対象は,2010年4月から2012年3月までにNSTが栄養サポートを行った症例とした。男性9名,女性3名,平均76歳(35~100),平均のNST回診数は5.8回(2~20)であった。対象症例は,消化管穿孔が7例,腸閉塞が4例,腸間膜血栓に伴う短腸症候群が1例であった。NST介入時は中心静脈栄養投与が6名であったが,NST介入終了時には経口摂取が8名と増加していた。いずれの症例も軽快退院あるいは転院し得た。腹部救急疾患は,周術期には腸管が使用できないことが多く,静脈栄養が中心となることが多いが,腸管が使用可能と判断されれば積極的に経腸栄養への移行を提案している。問題点としては,関わりまでの期間までに少し時間を要していることがあげられた。
症例報告
  • 遠藤 久仁, 伊東 藤男, 佐藤 佳宏, 大谷 聡, 小出 紀正, 三浦 純一
    2013 年 33 巻 4 号 p. 723-726
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は76歳,女性。遷延する腹痛と腫瘤を認め,精査治療目的に入院した。腹部CT,腹部超音波検査(US)で魚骨による小腸穿孔,腹腔内膿瘍と診断した。特に,USで魚骨の腸管外への脱出を確認した。全身状態が安定していたので,絶食,抗生剤投与による保存的治療を行った。US,CTで経過観察を行い,保存的治療後4ヵ月目に腹腔鏡補助下の手術を行った。魚骨を含む腫瘤と癒着した小腸壁を全層切除した。自験例ではUSが診断・経過観察に有用で,腹腔鏡補助下による縮小手術を行うことができた。
  • 高橋 哲也
    2013 年 33 巻 4 号 p. 727-730
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は53歳,男性。転倒後の腹痛のため当院へ搬送された。腹部dynamic CTで膵尾部は造影効果不良でその周囲に広がる血腫がみられ,主膵管損傷を伴う膵損傷と考えられた。手術療法を勧めたが拒否されたため保存的治療を行った。第10病日のMRPで主膵管は尾部で不明瞭化しており,またCTで膵尾部に2ヵ所の嚢胞性病変を認めた。第12病日より発熱と腹痛が出現し,第16病日のCTで膵嚢胞は増大しており,感染性仮性膵嚢胞と考えられた。保存的治療の限界であり手術時の視野確保目的に内視鏡的ドレナージを行うこととした。第17病日の内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)では尾部主膵管は造影されなかった。嚢胞内へ経鼻的にpig─tailチューブを挿入したところ,ドレナージは効果的で嚢胞は消失した。第66病日にチューブを膵管ステントへ変更したが,腹痛や嚢胞の再燃はなく経過良好で第70病日に退院した。膵管損傷に対するステント治療は低侵襲で効果的であるが適応が不明確なためさらなる症例の集積が必要である。
  • 田中 寛, 寺西 智史, 平松 聖史, 鈴木 桜子, 杉田 静紀, 田中 綾, 長谷部 圭史, 新井 利幸
    2013 年 33 巻 4 号 p. 731-734
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は74歳女性,慢性関節リウマチ等の既往があり,ステロイドおよびメトトレキセートを内服していた。嘔吐と腹痛で受診,CT検査にて子宮右側で小腸壁の肥厚とcaliber changeを認めた。小腸腫瘍もしくは炎症によるイレウスを疑い,同日入院,腹腔鏡補助下に緊急手術を施行した。回腸末端から30cm口側で,回腸の狭窄とリンパ節腫大を認め,小開腹下に同部の切除と吻合,リンパ節郭清を行った。切除標本では単発性の小腸潰瘍が認められ,病理学的に単純性小腸潰瘍と診断した。術後経過は良好であり,術後9日に退院となった。小腸潰瘍はさまざまな原因により生じるが,その機序についてはいまだ不明な点が多い。
  • 武田 宗和, 名取 恵子, 諸井 隆一, 原田 知幸, 矢口 有乃, 稲垣 伸洋
    2013 年 33 巻 4 号 p. 735-739
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:【症例】37歳飲酒歴のない女性。意識障害で発見され救急搬送,既往は躁鬱病と境界型人格障害。来院時ショック状態で下血を認め,緊急下部内視鏡検査で直腸から左側結腸まで全周性・連続性の発赤とびらんを認めた。翌日,薄めたウオッカ約1L(推定アルコール濃度49%)を自ら注腸したことが判明,虚血性腸炎に準じ保存的治療を選択。8病日の内視鏡検査では直腸からS状結腸までは粘膜の修復が認められ保存的治療を継続した。4週間後,下行結腸の高度な腸管狭窄を合併したため,本人との話し合いの結果,横行結腸に人工肛門を造設することとなった。【考察】過去の報告では,アルコール注入による直腸結腸炎は保存的治療で治癒することが多いとされる。本例は高濃度のアルコールが大量に注入され広範囲に腸管が傷害された上にショック状態に陥り,腸管虚血をきたしその治癒過程で腸管狭窄を合併したものと推察された。本例における治療方針に関する問題点をふまえ文献的考察を加え報告する。
  • 佐藤 純, 佐々木 健二, 名久井 実, 吉野 泰啓
    2013 年 33 巻 4 号 p. 741-744
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は80歳女性。1週間持続する便秘,嘔気を主訴に腸閉塞の診断で近医より紹介となった。骨盤部CTにて左閉鎖孔ヘルニア嵌頓による腸閉塞と診断し緊急手術を施行した。小腸がRichter型に嵌頓しており小腸部分切除を行った。ヘルニア嚢は炎症が高度のため翻転処理を行えずヘルニア門に子宮を縫着し手術を終了した。術後4日より発熱が持続し同9日左大腿部痛と同部位の皮下気種が出現しCTにて左閉鎖筋,恥骨筋から大腿にかけて膿瘍形成が認められた。同12日CTガイド下ドレナージ術を施行したところ膿瘍の縮小を認め約2ヵ月後後遺症なく退院となった。腸管の壊死・穿孔を伴う閉鎖孔ヘルニアでは術後大腿部膿瘍を合併することがまれにみられる。そのため大腿部の観察を怠らず慎重に術後管理を行うとともに,発症した場合はCTや超音波などの画像をガイドとして安全かつ速やかにドレナージをする必要がある。
  • 黒田 晶, 大野 耕一, 猪子 和穂, 山村 喜之, 鯉沼 潤吉, 村川 力彦
    2013 年 33 巻 4 号 p. 745-748
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は80代女性。下痢と粘血便,著明な脱水所見を認めショック状態で当院へ救急搬送された。腹部造影CTで下腸間膜動脈支配領域の腸管の造影不良を認め広範な腸管壊死を疑い緊急手術を施行した。開腹すると横行結腸脾彎曲部から直腸S状部までの壊死を認め,結腸左半切除および人工肛門造設術を施行した。敗血症性および循環血漿量減少性ショック,播種性血管内凝固症候群を認めたが徐々に軽快した。術後10日目にサイトメガロウイルス腸炎を合併したが術後64日目に軽快退院した。急性腸間膜動脈閉塞症の多くは上腸間膜動脈塞栓症であり下腸間膜動脈閉塞症は稀である。その約半数が死亡という不良な転帰をとっているが,造影CTによる診断後の早期加療により救命し得た貴重な1例を経験したので報告する。
  • 高尾 嘉宗, 松谷 毅, 丸山 弘, 横山 正, 吉田 寛, 内田 英二
    2013 年 33 巻 4 号 p. 749-753
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は,73歳の男性。主訴は嚥下困難。既往歴は2年前に慢性閉塞性肺疾患(COPD)と診断された。上部消化管内視鏡検査にて胸部下部食道に腫瘍を認め,生検で扁平上皮癌であった。胸部CT検査にて食道壁肥厚とリンパ節転移を認め,cT2N1M0,cStageIIIの進行食道癌と診断した。COPDによる呼吸機能の低下から食道切除術は困難と判断し,化学放射線療法を施行した。治療終了後,腫瘍は縮小したが,著明な食道狭窄が残存した。内視鏡下拡張術および化学療法を施行中に,胆嚢結石による急性胆嚢炎を繰り返し併発した。腹腔鏡補助下食道バイパス手術と腹腔鏡下胆嚢摘出術を一期的に施行した。術後はCOPDの軽度悪化とminorな縫合不全を認めたが,保存的治療にて改善し軽快退院となった。死亡するまでの術後12ヵ月のうち約11ヵ月の間,固形物の摂取が可能であった。
  • 和久 利彦
    2013 年 33 巻 4 号 p. 755-758
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は63歳,男性。1年前から腹痛が継続していたが放置していた。腹痛が増強したため当院受診。腹部CTで,胃前庭部から十二指腸下行脚にかけて壁肥厚・周囲脂肪織の毛羽立ちを示し,十二指腸球部の腹側に限局したair-fluid levelがみられた。十二指腸潰瘍穿孔が疑われ開腹下に手術を行った。十二指腸球部上壁から後壁にかけての部分が4cm大の潰瘍穿孔をきたしていた。潰瘍穿孔部よりTチューブを挿入し大網で被覆した。術直後から術後第12病日までPPIとSMSの同時投与を行ったが,投与直後より消化液分泌が抑制された。術後第13病日にTチューブ造影で球部からの造影剤漏出がないのを確認し経口摂取を開始した。術後第26病日Tチューブを抜去し,術後第39病日に退院とした。4cm大の十二指腸球部潰瘍穿孔とそれに伴う慢性炎症のため予後不良となることが予測されたが,SMS,PPI,Tチューブ,大網被覆により良好な経過が得られた。
  • 久保 孝文, 佃 和憲, 万代 康弘, 大橋 龍一郎
    2013 年 33 巻 4 号 p. 759-762
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:83歳,男性。急性上腸間膜動脈塞栓症による腸管壊死で,大量腸管切除施行後,在宅中心静脈栄養管理中であった。術後5年半後に著明な鉄剤不応性大球性正色素性貧血と,白血球,好中球の減少を認めた。上,下部消化管内視鏡検査と骨髄検査で異常所見は認められなかった。採血検査で著明な亜鉛,銅,アルカリフォスファターゼ,セルロプラスミン濃度の低下を認めたため,亜鉛,銅欠乏性貧血と診断した。 ポラプレジンクの内服と,微量元素製剤の高カロリー輸液への混注を開始し,約1ヵ月後に亜鉛,銅濃度は正常化し,貧血も改善し,白血球数,好中球数も正常範囲まで回復した。以後再発は認められない。短腸症候群の長期在宅中心静脈栄養管理中に発症した亜鉛,銅欠乏性貧血の1例を経験したため,文献的考察を加え報告する。
  • 大野 由夏子, 上田 順彦, 野口 美樹, 舟木 洋, 木南 伸一, 表 和彦, 中野 泰治, 小坂 健夫
    2013 年 33 巻 4 号 p. 763-766
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は86歳,女性。急性胆嚢炎の診断で当院に紹介となったが,腹部USではPTGBDの安全な穿刺ルートがないため経過観察となった。翌日,腹部膨満と右季肋部に軽度の反跳痛を認めるようになり当科に紹介となった。MDCTの冠状断では胆嚢は腫大し底部は右外側に偏位していた。水平断では胆嚢管は肥厚した胆嚢頸部の背側を走行し,くちばし状に途絶していた。また胆嚢壁は一部造影効果が不良であった。以上の所見より胆嚢捻転症で不完全な血流途絶状態であると診断し,同日緊急手術を施行した。胆嚢は緊満し,体底部は全層性の壊死に陥っていた。胆嚢管の間膜のみ固定されており,これを軸に胆嚢が時計方向に360度回転していた。GrossII型の胆嚢捻転症と診断した。捻転を解除した後,胆嚢摘出術を施行した。病理では底部は全層性の壊死に陥っていた。術後経過は良好で術後第10病日で退院となった。
  • 山田 秀久
    2013 年 33 巻 4 号 p. 767-771
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は84歳男性で脳梗塞,心筋梗塞後のためワルファリンカリウムとアスピリンの抗凝固療法を受けていた。2日前から腹痛,血便を認め近医を受診し,前月までPT─INRは1.59と管理されていたが,16.11と異常高値を認め当院紹介となった。腹部CTでは小腸壁と腸間膜の肥厚,腹腔内液体貯留を認め,急激な凝固能低下によって発症した小腸壁内および腸間膜内血腫と診断した。凝固能改善目的にビタミンK投与,新鮮凍結血漿,赤血球,血小板輸血を行いPT─INRは3.43に低下したが,腹痛増強と血圧低下を認め入院6時間後に緊急開腹術を行った。小腸全体にわたって散在性に壁内出血を認め,血腫により血流不全になっていた部分のみ切除した。抗凝固療法中の消化管壁内血腫に対しては凝固能改善の後,全身状態が安定していれば保存的治療が第一選択となるが,改善がみられない場合は迅速に外科的治療を判断すべきと考える。
  • 岩田 力, 磯谷 正敏, 原田 徹, 金岡 祐次, 亀井 桂太郎, 前田 敦行, 高山 祐一
    2013 年 33 巻 4 号 p. 773-776
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:経肛門的直腸異物は,精神障害や性的嗜好あるいは事故により肛門から異物が挿入され,抜去不能となったものである。瓶類,玩具や缶の蓋などの報告例は多いが,石膏による直腸異物の本邦報告例はない。今回,われわれは石膏を経肛門的に注入し,全身麻酔下にS状結腸に切開を加え異物を摘出した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。症例は32歳男性,既往歴は特になし。10年以上前より自慰行為にて肛門より液体状の石膏を注入していた。2011年6月に液体状の石膏500mLを注入,排出困難のために当院救急外来受診した。血液検査では炎症反応の高値を,腹部CTでは直腸からS状結腸におよぶ高吸収体を認めた。石膏注入後約15時間後に全身麻酔下に経肛門的に摘出を試みたが不可能であり,開腹手術へと移行した。開腹して腹腔内よりS状結腸の異物を肛門側に押し出そうとしたが押し出せず,S状結腸に切開を加え18×6×6cmの石膏を摘出した。直腸粘膜の損傷を認めたために低位前方切除術を施行した。術後経過は良好で第11病日に退院した。
  • 萩原 正弘, 青木 貴徳, 高橋 裕之, 北 健吾, 橋本 道紀, 稲葉 聡, 矢吹 英彦
    2013 年 33 巻 4 号 p. 777-780
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:症例1は37歳男性。腹痛,腹部膨満感,下痢を主訴に当院受診。下腹部に圧痛,反跳痛,筋性防御を認めた。腹部CTで骨盤部の小腸の限局性壁肥厚と直腸右側に直線状の高吸収域像を確認した。以上より異物による大腸穿孔の診断で緊急手術施行。直腸S状部の前壁右側より爪楊枝が露出していた。直腸S状部切除,S状結腸単孔式人工肛門造設術施行。症例2は75歳,男性。下腹部痛を自覚し,近医受診。汎発性腹膜炎の診断で当院に搬送。腹部全体に圧痛,筋性防御を認めた。腹部CT検査でS状結腸壁肥厚および内部に弧状の高吸収域像を確認した。魚骨によるS状結腸穿孔の診断で緊急手術施行。S状結腸より魚骨が飛び出していた。S状結腸部分切除,下行結腸単孔式人工肛門造設術施行。今回,術前CTで診断可能であった異物による大腸穿孔の2例を経験したので報告する。
  • 西野 仁惠, 亀高 尚, 高橋 誠, 鈴木 崇之, 牧野 裕庸, 清家 和裕, 小山 隆史, 安野 憲一
    2013 年 33 巻 4 号 p. 781-785
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:遅発性外傷性横隔膜ヘルニアはまれな疾患で,本邦では鈍的外傷後に多く発症する。今回われわれは,PTFEパッチを用いて修復した遅発性外傷性横隔膜ヘルニアの1例を経験したので報告する。43歳男性,刺傷による胸部外傷から5年後に,腹部膨満感,腹痛を主訴に来院した。胸腹部単純X線・CTにて左横隔膜のヘルニア門と大網・横行結腸の左胸腔内脱出を認め,左遅発性外傷性横隔膜ヘルニア嵌頓と診断し,緊急手術を施行した。左胸腹連続斜切開にて開胸開腹し,左横隔膜欠損部から左胸腔内に脱出する横行結腸および大網を腹腔内へ還納した。左横隔膜欠損部は直径5cmの円形にトリミングしたPTFEパッチを用い修復した。術後1年3ヵ月経過し,再発兆候を認めない。横隔膜欠損部の直接縫合閉鎖が困難な症例において,PTFEパッチによる修復術は有用であると考えられた。
  • 谷崎 裕志, 松倉 聡, 河野 至明
    2013 年 33 巻 4 号 p. 787-790
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2013/07/26
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は77歳の女性で,切除不能胆管癌に対する胆道ステント挿入約1ヵ月後より食後に頻繁な右季肋部痛が認められるようになり,精査目的で入院となった。入院時の腹部US,CTで胆嚢は著明に腫大し,胆嚢壁の高度な肥厚が認められ,胆管癌に併発した急性胆嚢炎と診断された。入院後は絶食とし,抗生剤投与行なったが, 症状の改善がみられず,入院後3日目の腹部CTで胆嚢周囲に膿瘍形成を認めたため,外科的手術を選択した。開腹時,高度な急性胆嚢炎の所見であった。胆嚢摘出は困難と判断し,胆嚢底部に小切開を加え,tube挿入による胆嚢外瘻術を施行した。術後20日目に胆嚢外瘻tubeから胆嚢造影を行い,術後21日目より5日間連日で胆嚢外瘻tubeより無水エタノールを注入した。術後28日目に胆嚢外瘻tubeを抜去した。退院後は急性胆嚢炎の再燃はみられず,1年6ヵ月の間外来にて抗癌剤の投与が可能となった。
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