日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
36 巻, 5 号
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原著
  • 山本 淳, 森 隆太郎, 松山 隆生, 大田 洋平, 熊本 宜文, 遠藤 格
    2016 年 36 巻 5 号 p. 835-841
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    目的:体表からの穿刺が困難な膵切除術後膵液瘻に対する内視鏡的経胃ドレナージ(ETGD)の意義を明らかにする。対象と方法:過去6年間に施行された膵切除304例を対象とした。ETGDは超音波内視鏡ガイド下,透視下に行い,経鼻外瘻チューブ,内瘻化チューブをそれぞれ留置した。結果:57例(18.8%)にGrade B以上の膵液瘻を認め,17例にドレーン抜去後の再穿刺を要し,うち5例にETGDを施行した。術後中央値19日目にETGDを施行し,穿刺後11日目で経口摂取を開始できた。穿刺による合併症は認めず,4例は初回のドレナージで液体貯留が減少し,他1例も追加ドレナージで改善した。穿刺後34日目に退院した。治療後の膵液瘻再燃は認めなかった。結語:膵切除術後膵液瘻に対するETGDは安全で効果は良好であり,体外からの穿刺困難症例に対するドレナージ法の一つとして有効である可能性が示唆された。

  • 片桐 聡, 有泉 俊一, 小寺 由人, 高橋 豊, 樋口 亮太, 江川 裕人, 新井田 達雄, 山本 雅一
    2016 年 36 巻 5 号 p. 843-847
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    肝切除術後腹腔内出血による再開腹例を検討して,問題点を明らかにした。2009年から2013年の肝切除882例中,術後腹腔内出血再開腹例は16例(1.8%)であった。肝硬変による生体肝移植recipient 4例,肝門部胆管癌3例,慢性肝炎+肝細胞癌3例,肝硬変+肝細胞癌2例,その他4例で,術式は右肝切除4例,左肝切除3例,左肝graftによる生体肝移植3例,その他6例であった。血行再建は動脈門脈が5例,門脈が1例,IVCが1例で7例(44%)に施行されていた。再開腹までの期間は24時間以内が12例(75%)であった。出血部位は,肝門板やグリソン鞘の動静脈叢4例,肝静脈系4例,動脈系3例,肝切離断端1例,右副腎静脈1例,不明3例で,肝切離断端や右副腎より主脈管処理部やその周囲が多かった。術後出血を回避するには患者側因子の選定はもとより,確実な脈管処理など手術手技をさらに向上させる必要がある。

  • 小西 健, 池永 雅一, 太田 勝也, 中島 慎介, 遠藤 俊治, 山田 晃正
    2016 年 36 巻 5 号 p. 849-856
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    目的:閉塞性大腸癌に対してステント留置後待機的に手術を行っておりその成績を報告する。対象:2012年1月から2014年12月までに閉塞性大腸癌に対しステント留置術を行った症例は31例あった。結果:男性16例女性15例,平均年齢は68歳であった。全例に留置可能であったが1例口側への逸脱を起こしステントを追加し留置は行えた。留置後,2例が穿孔のため緊急手術を行ったがいずれもステントが原因とは考えられず,1例が逸脱のため再度留置した。待機的に手術を施行した症例は食事摂取可能となった。術前留置期間は平均16日,開腹手術10例腹腔鏡手術21例で行い,腹腔鏡手術症例の2例が開腹移行となった。28例に一期的吻合を行い3例は人工肛門造設を行った。5例に術後合併症を認めるも縫合不全はなく,術後平均在院日数は19日であった。結語:より低侵襲な治療と患者QOL向上など良好な短期成績を可能とすることができた。

  • 石井 亘, 檜垣 聡, 飯塚 亮二
    2016 年 36 巻 5 号 p. 857-861
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    2012年4月から2014年3月まで当院に入院した80歳以上の急性腹症345例に関して臨床学的検討をした。合併症は手術例27/73例(37.0%),非手術例35/272例(12.9%)に認めた。死亡例は,手術例3/73例(4.1%),非手術例18/272例(6.6%)であった。自宅退院79.6%,転院20.4%であった。手術例73例の内訳は,絞扼性腸閉塞17例,消化管穿孔14例,ヘルニア嵌頓10例などであったが,合併症の発症率が高いため慎重な周術期の管理が必要であると考えられる。非手術例の内訳は,消化管出血84例,化膿性胆管炎58例,癒着性イレウス34例などであったが,死亡率も6.6%と比較的高く重症化を防ぐ対策が必要であると考えられる。今回の検討により,高齢者の急性腹症では既存の基礎疾患および今後のQOLなどもさらに考慮し治療法を選択すべきであり,結果をもとに今後のあり方を考察した。

  • 藤本 直己, 淺井 哲, 竹下 宏太郎, 加納 由貴, 中尾 栄祐, 一ノ名 巧, 赤峰 瑛介, 山口 拓也, 城田 哲哉
    2016 年 36 巻 5 号 p. 863-868
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    当院は急性胆管炎(AC)に対しTG13に基づき重症は緊急ドレナージ,中等症は24時間以内のドレナージ,軽症は保存的治療後に再評価し増悪時にドレナージを行うという院内ガイドライン(GL)を定めて治療してきた。今回はretrospectiveに院内GLの妥当性を検討した。対象は2013年4月から2015年8月の間でACと診断された145症例で,重症/中等症/軽症が9.0%/46.9%/44.1%であった。内視鏡的胆道ステンティング(EBS)の成功率は重症・中等症で92.3%・100%でEBS困難であった重症1例は経皮的処置にて救命できた。また,ドレナージまでの平均時間は重症3.4時間・中等症10.6時間であった。軽症例の10.9%は再評価時に増悪したが全例EBSで改善した。急性胆管炎が原因の死亡例は認めず院内GLで設定したドレナージのタイミングは妥当と考えられた。

特集:腹部救急疾患における抗血栓薬の取り扱い
  • 山本 孝
    2016 年 36 巻 5 号 p. 871-875
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    虚血性心疾患の治療において,抗血小板療法は必須である。抗血小板薬は主にステント血栓症の予防に使用される。冠動脈ステントは再狭窄抑制型の薬剤溶出性ステント(DES)が主流で,DES留置後12ヵ月間はアスピリン+チエノピリジン系抗血小板薬,その後はアスピリン単剤で投与することが推奨されている。これら薬剤には拮抗薬はなく,抗血小板作用の回避には血小板寿命を考慮した7~14日間の休薬しかない。一方,抗凝固薬は主に心房細動の脳梗塞予防に使用される。ワルファリンが使用されてきたが,最近では新規抗凝固薬(NOAC)の使用が増加してきている。NOACは半減期が短く,手術前の中止期間は短期間でよい。抗血栓薬内服中の患者のリスクは一様でないため,中止による合併症および出血リスクについて,関連する複数科の医師がコミュニケーションをとって検討し,適宜対処することが重要である。

  • 辻 篤司, 野崎 和彦
    2016 年 36 巻 5 号 p. 877-882
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    脳卒中は急速な高齢化社会が到来している日本において,発症・再発を防ぐことが求められる最重要疾患の一つである。脳卒中の多数を占める脳梗塞を治療・予防するため,抗血栓治療を実施する機会は年々増加している。抗血栓療法は血栓溶解療法,抗血小板療法,抗凝固療法で構成される。rt-PA静注による血栓溶解療法の危険性を減らすためにはプロトコールを遵守しすみやかに施行することが重要である。抗血小板剤では微小出血例でのDAPTを回避することが重要である。NVAFにはNOACによる抗凝固療法が勧められる。日本人の特性を考慮した,適正な抗血栓薬の選択・使用が重要である。頭蓋内出血,消化管出血などの重大な合併症発生時に,抗血栓薬継続・変更・中止を判断するため,それらのリスク・ベネフィットを客観的に評価する指標(スコア化など)の立案が急務である。

  • ―ガイドライン順守の結果―
    渡辺 昌則, 千原 直人, 三島 圭介, 清水 貴夫, 中田 亮輔, 山岸 征嗣, 前島 顕太郎, 水谷 聡, 鈴木 英之, 内田 英二
    2016 年 36 巻 5 号 p. 883-888
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    背景:2012年7月に発行された抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインに準拠し,2013年1月より生検以上の内視鏡処置を始めた。対象および方法:2013年1月~2014年10月の期間,抗血栓薬服用者に対する内視鏡を行った患者は730人(上部431人,下部299人),うち生検以上の処置を行った患者216人を対象とし,後出血について検討した。結果:後出血の発生頻度は生検0%(0/165),PEG 0%(0/10),EMR 0%(0/17),胃ESD 30%(3/10),その他0%(0/14)であった。胃ESD後出血の発生頻度は,抗血栓薬非服用者に行った胃ESDに比較して,有意に高かった(P<0.0001)。血栓塞栓症の発生はなかった。結論:同ガイドラインを順守して内視鏡処置を行う場合,抗血栓薬服用者の胃ESDは後出血の発生率が高く,抗血栓薬の再開後も注意が必要である。

  • 権 勉成, 成木 良瑛子, 徳久 順也, 齋藤 倫寛, 大牟田 繁文, 新後閑 弘章, 前谷 容
    2016 年 36 巻 5 号 p. 889-896
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    近年,人口の高齢化に伴い,脳血管疾患や循環器疾患の罹患率は上昇しており,2次予防として抗血栓薬を内服する患者は増加している。2012年に日本消化器内視鏡学会(JGES)より「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」(GL2012)が刊行され,胆膵内視鏡治療においても抗血栓薬の取り扱いが細分化された。緊急胆膵内視鏡では基本的にドレナージが最優先され,内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)は必ずしも付加しなくてもよいが,抗凝固薬やチエノピリジン誘導体内服患者での選択的胆管挿管困難におけるprecutなど課題は残る。

  • 高山 勝年, 吉川 公彦
    2016 年 36 巻 5 号 p. 897-900
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    抗血栓療法はIVR(画像下治療)にとってその手技内容により必要不可欠となる療法である。特にvascular IVRでは抗血栓療法(抗血小板療法)が基礎疾患や使用デバイスにより周術期だけでなく術後終生抗血小板薬投与が必要となる例もある。一方IVR後の抗血小板療法を受けている患者さんの中で外科手術,外傷や消化管出血などにより一時的に抗血小板療法を中止しなければならない例がある。しかしながら抗血小板薬の減量や中止により虚血性合併症やステント血栓症が報告されている。そのためIVR後の抗血小板療法の中止に伴うリスクや合併症を起こさずに抗血小板療法を中止する方法を熟知することは,IVR医だけでなく抗血小板薬を一時的に中止しなければならない疾患の治療に携わる医師にも求められる。vascular IVRに使用される抗血小板薬の種類と標準的な投与方法,用量,投与期間,休薬期間,中止に伴うリスクなどについて概説し,IVRに関連する抗血小板薬の最新のエビデンスについても述べる。

  • 吉本 匡志, 日置 勝義, 大川 広, 伊藤 雅典, 門田 一晃, 貞森 裕, 大野 聡, 高倉 範尚
    2016 年 36 巻 5 号 p. 901-904
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    <背景>高齢化により,抗血栓内服症例の緊急手術症例が増加している。急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2013では急性胆囊炎に対して早期または緊急胆囊摘出術を推奨している。<目的>抗血栓薬内服症例に対する急性胆囊炎時の緊急胆囊摘出術の妥当性の検討。<対象と方法>2007年1月~2014年8月に急性胆囊炎で緊急胆囊摘出術を施行した257例。抗血栓薬内服群・非内服群の周術期因子の比較。<結果>内服群:非内服群64:193例であり,高齢(P<.001),男性(P=.012),無石(P=.004),重症度(P<.001),ASAスコア3以上(P<.001)は有意に内服群で高かった。周術期因子は在院日数のみ内服群で延長を認めた(P=.030) が,手術時間,術中出血量,術中赤血球輸血率において有意差は認めなかった。<結語>抗血栓薬内服症例に対しても,TG13に則り緊急胆囊摘出術が推奨される。

  • 森 治樹, 金岡 祐次, 亀井 桂太郎, 前田 敦行, 高山 祐一, 深見 保之, 宇治 誠人, 千馬 耕亮
    2016 年 36 巻 5 号 p. 905-910
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    目的:抗血栓薬投与中の急性胆囊炎に対する緊急開腹胆囊摘出術の安全性について検討する。対象と方法:2007年1月から2015年12月までに急性胆囊炎に対して緊急開腹胆囊摘出術を施行した305例を,抗血栓薬投与中の75例(投与群),投与のない230例(非投与群)に分け,患者背景,手術成績を比較検討した。結果:投与群では非投与群と比べて平均年齢(歳)は有意に高く(74.5:68.0,P<0.01),心血管系,脳梗塞,糖尿病の併存疾患も多く認めた。手術成績では手術時間,出血量,輸血,術後合併症,術後在院日数に有意差を認めなかった。投与群では術後重篤な出血性合併症を認めず,また周術期の血栓性合併症も認めなかった。結語:抗血栓薬投与中の急性胆囊炎に対する緊急開腹胆囊摘出術は出血に留意した慎重な手術操作が望まれるが,重篤な合併症を認めず安全に施行可能であった。

症例報告
  • 村木 輝, 有田 淳, 小松 茂治, 高橋 和裕, 大山 莉奈, 三島 圭介, 黒田 誠司, 鈴木 英之, 内田 英二
    2016 年 36 巻 5 号 p. 911-914
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡下に修復した子宮広間膜裂孔ヘルニアによるイレウスの1例を経験したので報告する。症例は58歳,女性。数日前から持続する下腹部痛を主訴に来院。内科でイレウスの診断となり,イレウス管挿入で経過をみていたが改善せず外科コンサルトとなった。腹部骨盤CT所見により左側子宮広間膜欠損による子宮広間膜ヘルニアと診断し,イレウス管を挿入したまま待機的に腹腔鏡下修復術を行った。腸管減圧は良好であり,嵌頓した腸管を解除した後,子宮広間膜異常裂孔を腹腔鏡下に連続縫合にて閉鎖し修復した。腸管の循環障害は認めず,腸管切除は不要であった。術後経過良好で早期退院となった。子宮広間膜裂孔ヘルニアはまれな疾患ではあるが,特徴的なCT所見を理解していれば術前診断は可能である。イレウス管による腸管減圧が良好であれば,待機的腹腔鏡下手術で十分治療可能であると考えられた。

  • 尾本 健一郎, 西原 佑一, 菊池 弘人, 徳山 丞, 浦上 秀次郎, 大石 崇, 磯部 陽
    2016 年 36 巻 5 号 p. 915-918
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    要旨:31歳,女性。妊娠22週。臍上1横指に12mmカメラポート,右側腹部に5mmポートを挿入。虫垂を直接把持し右側腹部のポート創を3cmに延長し創より引き出し切除した。症例2:40歳,女性。妊娠20週。臍上5cmの部位に12mmカメラポート,右季肋部,恥骨上に5mmポートを挿入した。恥骨上ポートが子宮に近く,接触しないように注意が必要であった。症例3:30歳,女性。妊娠25週。臍上5cmの部位に12mmカメラポートを,右季肋部,右下腹部に5mmポートを挿入した。症例3のポート配置は子宮との接触がなくより安全に遂行でき,標準的ポジションとなり得ると考えられた。

  • 保武 雄真, 三毛門 佳彦, 衛藤 英一, 多賀 聡, 矢野 公一
    2016 年 36 巻 5 号 p. 919-922
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は59歳,男性。作業着の清掃に用いるエアコンプレッサーを作業着の上から肛門部に押し当てられた状態で空気を噴射され受傷した。腹部膨満感と腹痛が持続するため当院救急外来を受診。胸腹部単純X線および腹部CT検査にて腹腔内に大量の遊離ガス像を認め,下部消化管穿孔が疑われた。初診時は腹部症状軽度であったため,準緊急的に手術を施行した。腹膜翻転部より約5cm口側の直腸前壁に約3cmの裂創を認め,周囲に便汁の漏出を認めた。Hartmann手術を施行し,損傷範囲の大腸部分切除および人工肛門造設を行った。術後経過は良好で術後14日目に退院となった。圧搾空気による腸管穿孔はS状結腸穿孔の報告が最も多いが多発穿孔や遠隔部位穿孔も報告されている。本症例では直腸に穿孔を認めたが,便や憩室など腸管の状態,圧損傷の好発部位を念頭に下部消化管全域における慎重な穿孔部位検索が重要であると考えられた。

  • 滝沢 一泰, 皆川 昌広, 廣瀬 雄己, 堅田 朋大, 須藤 翔, 田島 陽介, 大橋 拓, 小林 隆, 若井 俊文
    2016 年 36 巻 5 号 p. 923-926
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は19歳,男性。7mの高所での作業中に誤って墜落した。受診時は意識清明でバイタルサインも安定していた。CTで肝外側区域の深在性損傷と造影剤の血管外漏出を認め,肝損傷Ⅲbと診断した。肝損傷に対し,カテーテル塞栓術を行い,出血源の責任肝動脈枝を塞栓した。受傷2病日に38℃の発熱を認め,CTで左横隔膜下から胃小弯近傍に貯留する血腫および腹腔内遊離ガスを認めた。受傷3病日には腹痛が増強し腹膜刺激症状を呈したため,消化管穿孔が否定できず緊急手術を施行した。術中所見では明らかな消化管穿孔を認めず,挫滅した肝S2の部分切除と洗浄ドレナージを施行した。気腹の原因は明らかではないが,肝損傷部の胆道系からのガスが腹腔内に入ったことなどが推測された。腹腔内遊離ガスの存在下では,肝損傷に由来する胆汁性腹膜炎と消化管穿孔による腹膜炎の鑑別は困難であった。

  • 室谷 研, 岩崎 茂
    2016 年 36 巻 5 号 p. 927-930
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,男性。40年前に胃潰瘍手術を施行されていた。嘔気で近医を受診し,胃内視鏡検査で残胃癌を認め,CT検査で輸入脚症候群の疑いで紹介となった。内視鏡的に輸入脚の減圧を試みるも癌による狭窄のため減圧不可能だった。緊急手術を回避するためにまず経皮経肝胆囊ドレナージチューブを留置した。その後胆囊管経由で内瘻用カテーテルを経乳頭的に十二指腸内に留置し輸入脚の減圧を行った。輸入脚の減圧成功後,残胃癌の手術的切除を行った。手術は残胃全摘,膵体尾脾,横行結腸,左副腎合併切除,D2郭清を行った。術後経過は良好で,術後第25日目に退院した。残胃癌による輸入脚症候群は癌による狭窄のため内視鏡的減圧が困難なことがある。その為輸入脚の穿孔の危険性がある場合は緊急手術が必要になることが多い。輸入脚症候群になった残胃癌に対して緊急手術を回避し,待機的に手術を行うために本手技は有効な方法と考えられた。

  • 吉田 祐, 森川 充洋, 小練 研司, 村上 真, 廣野 靖夫, 五井 孝憲, 片山 寛次, 山口 明夫
    2016 年 36 巻 5 号 p. 931-935
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は74歳,男性。既往症として胸椎破裂骨折にて手術後,化膿性椎体炎,胸腹部大動脈瘤をきたし,人工血管置換術を受けていた。今回,背部痛を主訴に当院受診し,化膿性椎体炎再燃と診断され整形外科に入院した。入院時CTで胃の左胸腔内脱出を認めていたが,消化器症状の訴えがなかったため経過観察されていた。入院4日目に食欲不振・嘔吐を認め外科紹介となり,胸部X線で胃の脱出が増大していた。非還納性左横隔膜ヘルニアによる消化管通過障害の診断で緊急手術を施行した。開腹すると横隔膜大動脈裂孔を通して胃の大部分が左胸腔内に脱出していた。胃の一部を切開し,胃内容物の吸引によって胃内減圧後腹腔内に還納し,横隔膜欠損部を縫合閉鎖した。今回の横隔膜ヘルニアは人工血管周囲を被覆した大網に牽引される形で大動脈裂孔から胃が胸腔内に脱出したと考えられ,非常にまれではあるが手術に伴う合併症の一つとして認識しておく必要があると考えられた。

  • 三浦 孝之, 吉田 寛, 橋本 明彦, 藤川 奈々子, 溝渕 大騎, 賀 亮, 浅野 重之, 新谷 史明
    2016 年 36 巻 5 号 p. 937-941
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は43歳,男性。下腹部痛を主訴に当院救急外来を受診した。下腹部全体に反跳痛を伴い,腹部CT検査で糞石を伴う虫垂の腫大を認めた。急性虫垂炎の診断で同日腹腔鏡下虫垂切除術を施行し,術後の病理組織検査で虫垂杯細胞カルチノイド(goblet cell carcinoid:以下, GCC)と診断された。腫瘍細胞は漿膜下層まで浸潤し,さらにリンパ管侵襲も認めたことから初回手術より32病日にリンパ節郭清を伴う腹腔鏡下回盲部切除を施行した。GCCは腺癌の一亜型と考えられており虫垂炎術後の病理組織検査にて診断されることが多い。必ずしも虫垂に明瞭な腫瘤を伴わず自験例のように部分的な壁肥厚像を呈することも多く切除標本の注意深い観察が重要である。本疾患に対し腹腔鏡下の追加切除も安全に施行可能と思われ文献的考察を加え報告する。

  • 北見 智恵, 河内 保之
    2016 年 36 巻 5 号 p. 943-946
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    胃石による十二指腸穿通の1例を経験したので報告する。症例は80歳,女性で,他院で1年前に上部消化管内視鏡で胃石と胃潰瘍を指摘されたが,処置せずに経過観察されていた。食欲低下,発熱が持続し,約1ヵ月の経過ののち,当院へ搬送された。CTで十二指腸球部に10cm大のスポンジ様腫瘤,および骨盤まで達する膿瘍を認め,胃石による十二指腸穿通,後腹膜膿瘍の診断で緊急手術を行った。胃石が十二指腸球部に嵌頓,圧迫壊死により十二指腸が後腹膜に穿通していた。胃石を摘出し,十二指腸空腸吻合,胆囊摘出,膿瘍ドレナージを行った。術中から血圧低下を認め,敗血症性ショックで術翌日に永眠された。胃石による消化管穿孔の報告は少なく,十二指腸穿孔の報告はない。胃石はときに重篤な転帰をたどる危険性があるため,診断後は内視鏡的破砕術や溶解療法などを試み,治療抵抗性の場合は外科的治療も考慮にいれて治療にあたるべきであると考えられた。

  • 佐藤 幸男, 篠崎 浩治, 寺内 寿彰, 石田 隆, 加瀬 建一, 小林 健二
    2016 年 36 巻 5 号 p. 947-951
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は33歳,男性。軽自動車を運転中に2tトラックと衝突し受傷,当院へ救急搬送された。造影CT検査にて右腎損傷および後腹膜血腫を認め,出血性ショックとなったため緊急開腹止血術および右腎摘出術を施行した。術中,明らかな胆管損傷は認めなかった。術後18日目,Luschka管からと思われる胆汁漏をきたし,ドレナージを施行した。術後27日目に総ビリルビン値が上昇したため,MRCPおよびERC検査を施行し下部胆管の著明な狭窄を認め,外傷性胆管狭窄と診断した。16日間の経過観察で,総ビリルビン値は正常化した。ERC再検査で下部胆管の狭窄の改善を確認し,術後79日目に軽快退院した。外傷性胆管狭窄は胆管裂傷の線維性瘢痕によって生ずることが多いが,本症例では経過観察により軽快しており,胆管壁の一過性浮腫がその成因と考えられた。

  • 小澤 直也, 富澤 直樹
    2016 年 36 巻 5 号 p. 953-956
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は27歳,男性。下肢に紫斑が出現し,血小板減少を指摘され,血小板減少性紫斑病(以下,ITP)として経過観察となった。約1年後に,下腹部痛,血便を主訴に来院。下部消化管内視鏡検査で肛門から連続した全結腸に全周性に炎症を認め潰瘍性大腸炎(以下,UC)と診断した。ステロイドをはじめとする内科的治療を開始したが,間欠的に下血は持続し血小板も1万/μLに低下した。治療抵抗性ITPとUC合併例として,当科を紹介された。UCとITPの根治性を高めるため大腸全摘と脾摘を施行した。若年例であり侵襲性,整容性を考え腹腔鏡手術を選択した。大腸全摘は抗原性を残さないため回腸囊肛門吻合を選択した。術後すみやかに血小板は増加し経過良好であった。3ヵ月後に人工肛門を閉鎖した。病理組織学的には全大腸型のUCであった。内科的治療抵抗性のUC合併ITP症例は,症例の重症度によって治療法の選択が異なることも多く,文献的考察をあわせて報告する。

  • 山田 哲, 多々内 暁光
    2016 年 36 巻 5 号 p. 957-961
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は22歳,女性。初回妊娠31週3日に近医から腹痛と嘔気,アミラーゼ高値で当院救急外来を紹介受診。横隔膜ヘルニアおよび急性膵炎の診断で入院となった。一旦は患者の状態が安定したため,胎児肺成熟を期待し保存的治療を試みたが,ヘルニア逸脱臓器による圧排で呼吸状態が悪化し,緊急帝王切開および横隔膜ヘルニア修復術施行となった。術中ヘルニア門はBochdalek孔と診断された。患者は術後順調に回復した。児は出生直後挿管され新生児集中治療室に入院となったがサーファクタント投与で回復した。妊婦の横隔膜ヘルニアはまれな疾患であるが,さらに膵炎を合併した希少な症例を経験した。妊婦の急性腹症は複数の専門領域が関連するため各科の協力の下で診療を進めていく必要がある。

  • 伊藤 慎吾, 武田 良平, 小久保 律雄, 杉本 起一, 小島 豊, 坂本 一博
    2016 年 36 巻 5 号 p. 963-967
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は75歳の女性で,食後に出現した間欠的な腹痛を主訴に当院を受診した。既往歴は特になく,腹部手術歴も認めない。腹部造影CT検査で横行結腸背側,十二指腸下行部の腹側に小腸の嵌入を認め,内ヘルニアの診断で緊急手術を施行した。手術所見では,横行結腸間膜裂孔をヘルニア門とする内ヘルニアであり,嵌頓した小腸を用手的に整復した。嵌頓腸管に壊死は認められず,ヘルニア門を縫合閉鎖し手術を終了した。術後の経過は良好で,第8病日に退院した。内ヘルニアのなかでも横行結腸間膜裂孔ヘルニアは比較的まれな疾患であるため,文献的考察を加えて報告する。

  • 中川 暢彦, 佐藤 敏
    2016 年 36 巻 5 号 p. 969-971
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は44歳,女性。起床時からの腹痛,嘔気を主訴に当院へ救急搬送された。腹部CT検査で,肝下面に著明に拡張した腸管を認めた。連続する小腸も拡張強く,また虚脱した上行結腸との連続性も確認できた。CT所見から盲腸捻転症と診断し,同日緊急手術施行した。手術は3ポートで盲腸捻転整復を行い,その後右側結腸と腹壁を非吸収糸で固定し終了した。術後すみやかに症状改善し,術後第3病日に退院となった。以降再発は認めていない。盲腸捻転症に対し緊急腹腔鏡手術が有用であった1例を経験したため,鏡視下手術における手技の考察を加え報告する。

  • 白井 太一朗, 安 炳九, 松川 浩之, 松本 卓也, 高原 秀典, 菅原 安章, 三井 康裕, 勝谷 誠, 高尾 雄二郎, 小野 成樹, ...
    2016 年 36 巻 5 号 p. 973-977
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は77歳,女性。上行結腸癌の手術目的に当院入院中であった。術前に1度腸重積をきたしたが,内視鏡的に整復できたため,待機的に手術予定とした。しかし手術前日に,突然の嘔吐と腹痛を訴えた。腹部単純CT検査で,上行結腸に層構造と腸間膜の浮腫状変化を認め,上行結腸癌に起因した腸重積症と診断し,同日,緊急開腹手術を施行した。術中所見では,上行結腸に腫瘍を先進部とした腸重積症を認めたが,腸管壊死や穿孔の所見は認めず,右半結腸切除術を施行した。術後経過は良好で,術後17日目に退院した。

  • 蛯原 健, 中田 健, 臼井 章浩, 清水 克修, 川田 真大, 尾崎 貴洋, 加藤 文崇, 天野 浩司, 常俊 雄介, 中田 康城
    2016 年 36 巻 5 号 p. 979-982
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡下手術は多くの急性腹症病態で行われているが,外傷分野では限られている。今回外傷性直腸損傷に対して腹腔鏡下手術が有用であった症例を経験した。症例1は80歳,男性。「孫の手」に座りこみ直腸,前立腺,膀胱損傷をきたした。経肛門的に直腸損傷部の縫合閉鎖,圧迫止血を行った。腹腔鏡を用いて腹膜の破綻がないことを確認したのち,回腸ループ式人工肛門を造設した。前立腺を介した直腸膀胱瘻が閉鎖したのち,術後128日に人工肛門を閉鎖した。症例2は79歳,男性。浣腸による直腸損傷に対して腹腔鏡を用いて腹腔内臓器損傷がないことを確認したのちS状結腸ループ式人工肛門を造設した。術後86日目に人工肛門を閉鎖した。外傷性直腸損傷において,大きな開腹操作を伴わず腹腔内の検索ならびに排便経路の変更を行うことができる腹腔鏡下手術は有用な術式である。

  • 荒川 信一郎, 阪本 研一, 上松 孝
    2016 年 36 巻 5 号 p. 983-987
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は42歳の女性。統合失調症で他院通院加療中に突然の希死念慮のため文化包丁で自分の腹部を刺し受傷1時間45分後に救急搬送された。来院時包丁は腹部に刺さったまま固定された状態であった。造影CT検査で膵頭部,胃前庭部~十二指腸の損傷を疑い受傷4時間15分後に緊急開腹術を施行した。包丁先端は十二指腸球部を穿通し膵頭部上縁実質を約5mm幅で穿通し椎体腹側に達していた。助手が包丁を固定した状態で慎重に損傷部位の検索を行い主膵管・胆管・主要血管の損傷がないと判断した時点で包丁を抜去し,穿孔部を含む胃十二指腸切除+膵頭部縫合閉鎖を行った。術後経過は良好で術後17日目にかかりつけ精神科に転院となった。本邦の腹部外傷は鈍的外傷が多く刺創に遭遇する機会は少ない。自験例では成傷器が残存した状態にあり詳細な術前評価は困難であったが,注意深い手術操作のもと検索を行うことで良好な経過を得ることができた。

  • 小澤 広輝, 寺内 寿彰, 松岡 義, 石田 隆, 篠崎 浩治
    2016 年 36 巻 5 号 p. 989-992
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,男性。右季肋部痛と嘔吐で当院を受診した。精査の結果,軽症急性胆囊炎の診断で保存的加療目的に入院となった。入院第2病日に発熱,炎症反応上昇,黄疸,胆道系酵素の上昇を認め,急性胆囊炎の増悪と診断しPTGBDを施行した。数日で炎症反応は改善したが留置後3日目に突然PTGBDtubeからの胆汁排液量が増加した。PTGBDtube造影検査では下部胆管が閉塞し主膵管が造影された。排液中のアミラーゼが68,600IU/Lと異常高値を示したため,膵胆管合流異常の存在を疑い,EUSを施行したが明らかな膵胆管合流異常はなく共通管内に嵌頓結石を認めた。ERCPにてEST施行後に採石術を行い,PTGBDtube造影では膵管は描出されず,排液中のアミラーゼ値も正常化した。以上から共通管への嵌頓結石による膵液の胆管内への逆流と判断した。共通管の嵌頓結石による膵液胆道逆流現象を認めた1例を報告する。

  • 郷右近 祐介
    2016 年 36 巻 5 号 p. 993-996
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,女性。既往としてvon Recklinghausen病がある。4年前より下血やふらつきなどを主訴に受診を繰り返していた。複数回の上部・下部内視鏡検査,カプセル内視鏡,および出血シンチでは明らかな出血源を認めず,計14回の輸血が行われていた。経過観察されていたが,再度下血と貧血を認めたため当院紹介受診された。造影CTを施行したところ腹腔内に40mm大の造影効果を伴う腫瘤を認めた。手術を施行したところ,Treiz靭帯から50cmの空腸に腫瘍を確認し,小腸部分切除術を施行した。切除標本では最大径45mm大の粘膜下腫瘍を認めた。病理組織検査にて低リスクの小腸gastrointestinal stromal tumorと診断した。術後は下血や貧血なく,経過観察中である。

  • 富田 剛治, 今井 哲也, 龍澤 泰彦
    2016 年 36 巻 5 号 p. 997-1000
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は34歳,女性。主訴は腹痛で,急性腹症疑いに当科紹介受診となった。腹部CTで回盲部が上行結腸に入り込む腸重積を認めた。腫瘤性病変は認めなかった。下部消化管内視鏡で重積の先進部と思われる発赤調の隆起性病変を上行結腸に認めた。回腸末端の炎症,または粘膜下腫瘍による腸重積と考えられた。送気で重積の整復を試みたが,整復し得なかったため,緊急手術を施行した。開腹時,回腸末端から上行結腸への重積は解除されていた。漿膜面にも発赤等の異常を認めなかったが触診上,盲腸に腫瘤を認め,回盲部切除を施行した。術後病理で盲腸の海綿状リンパ管腫と診断された。経過は良好で術後第6病日に退院となった。術前に確診できず,腹腔鏡観察のみでは術式選択が困難であったと思われる。術前情報の限られた緊急時の腹腔鏡下手術には慎重を期すべきと思われた。

  • 和田 幸也, 平松 和洋, 加藤 岳人
    2016 年 36 巻 5 号 p. 1001-1004
    発行日: 2016/07/31
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は84歳,女性。2年前に盲腸癌にて回盲部切除術を施行,同時に右鼠径ヘルニアの修復術をした既往がある。1年前から鼠径部の膨隆を自覚し,右鼠径ヘルニアの再発を認めていた。1週間前から右鼠径部の膨隆が還納できなくなり,徐々に増大してきたため当院を受診した。右鼠径部が手拳大に膨隆し,腹部造影CTで内部にhigh density areaを伴う11cm大の腫瘤を認めた。出血を伴う卵巣腫瘍による右鼠径ヘルニア嵌頓と診断し,緊急手術を施行した。卵巣腫瘍を摘出し,PHS(prolene hernia system)法でヘルニア修復を行った。病理組織学的検査でCK7陰性, CK20陽性であったことから盲腸癌の卵巣転移と診断した。転移性卵巣癌をヘルニア内容物とした鼠径ヘルニア嵌頓症例は,過去に報告例がなく極めてまれであるため,文献的考察を加え報告する。

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