日本腹部救急医学会雑誌
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36 巻, 7 号
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原著
  • ―憩室の消失による止血効果および入院期間短縮による医療費削減効果―
    樋口 裕介, 谷川 祐二
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1159-1165
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    大腸憩室出血に対する内視鏡的止血術として,Endoscopic Band Ligation(EBL)の有用性を後方視的にクリップ法と比較検討した。対象は内視鏡下に活動性出血または露出血管を同定し,EBLを施行した37例とクリップ法を施行した11例。入院期間はEBL6.6日,クリップ法11.5日。輸血はEBL群37.8%に平均2.2単位,クリップ法群54.5%に平均3.6単位投与した。EBL後81%で憩室は消失した。再出血率はEBL後5.4%,クリップ法後36.4%で,入院医療費はEBL375,570円,クリップ法617,060円と有意差を認めた。EBLは憩室の消失により再出血率が低く,短い入院期間による医療費削減効果があり,有用である。

  • 遠藤 泰, 岸 真也, 大山 隆史, 星川 竜彦, 仲丸 誠, 諸角 強英
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1167-1172
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    緒言:腹腔鏡下虫垂切除術は開腹手術に比べて,鏡視下手術用の器材一式が必要となるなど煩雑な点が欠点とされてきた。Simple is bestの考えに基づいた手技の定型化を図り,2013年より原則全例に腹腔鏡下手術を導入した。手術手技:術者;若手外科医,助手;指導医の2名。臍部12mm,下腹部正中および右上腹部から5mmポートを挿入する3孔式。虫垂根部の処理はEndoloopでの結紮後に超音波凝固切開装置で切離。この方法は,Simpleな方法をとりいかなる症例に対しても対応できる手術手技であると考えられる。更なる工夫として切除虫垂の回収は独自に考案した糸付き回収袋の使用,カテーテルチップと5mmポートを利用した洗浄法により短時間での大量洗浄が可能となった。まとめ:腹腔鏡下虫垂切除を通常設備しかもたない一般市中病院でも容易な術式とする工夫を考案して導入した。

  • 大村 健史, 森 勇人, 幸田 朋也, 川下 陽一郎, 近清 素也, 井川 浩一, 倉立 真志, 八木 淑之
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1173-1176
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    当院を受診しシートベルトによる腸管穿孔と診断された14例について検討を行った。 男性11例,女性3例で,平均年齢は49歳。四輪車運転手が13例で助手席乗員が1例であった。全例受傷時シートベルトを着用しており,うち10例にシートベルト痕を認めた。病着時ショックになっていたものは5例で,すべて腸間膜損傷合併による腹腔内出血が原因であった。CT撮影は13例で行われ,うち2例でfree airを認めなかった。治療は全例に開腹手術が行われた。単発の腸管穿孔は5例,残り9例は多発損傷(うち4例は多発穿孔)であった。転帰では1例死亡例があった。シートベルト痕と腸管穿孔に強い関連が示唆された。Free airがすぐ出現しない症例や,時間が経ってから症状が出現する症例もあり,診断にあたっては慎重な判断,対応が必要である。また,腸管損傷は多発する傾向にあり,手術の際は見落としのないよう注意すべきである。

  • 高橋 遼, 石田 陽祐, 蟹江 恭和, 岡田 禎人
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1177-1181
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    当院では虫垂炎に対し2000年に腹腔鏡下手術を導入し,2013年からは臍部単孔式でアプローチし鏡視下に回盲部を授動した後,体腔外で直視下に虫垂切除を行う単孔式腹腔鏡補助下虫垂切除術を第一選択としている。今回われわれは本術式の安全性・有用性を,手術時間,合併症,医療コストの面から従来の体腔内切離による腹腔鏡下虫垂切除術と比較し後方視的に検討した。対象は2010年1月から2015年10月に当院で施行した腹腔鏡下虫垂切除術のうち従来法(体腔内切離期)69例と単孔式(体腔外切離期)250例の計319例で,両群を比較した結果,手術時間と在院日数に有意差はなく,合併症では単孔式は従来法に比べ創感染が多く認められたが,医療コストでは約2万9千円削減できた。本手法は医療経済的に優れ,また鏡視下による腹腔内操作が簡便であるため,虫垂切除が安全に施行でき,若手医師の教育にも有用な方法と考えられた。

症例報告
  • 西野 将矢, 岡野 美穂, 川田 純司, 金 鏞国
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1183-1186
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は81歳男性。右側腹部痛を主訴に近医を受診した。触診にて圧痛あり,同部に腹膜刺激症状を認めた。腹部単純CTにて,大網の脂肪織濃度の上昇あり,急性汎発性腹膜炎の疑いとして当院に紹介された。造影CTを含めた精査の結果大網梗塞と診断した。一旦は保存的に経過をみたが,第2病日に症状増悪あり緊急手術を施行した。腹腔鏡で観察を行ったところ大網脂肪組織の壊死あり,同部を腹腔鏡下に切除した。大網梗塞は急性腹症を呈するまれな疾患である。多くは保存的加療で軽快するとされるが,症状増悪を認める場合や大網捻転の場合は外科切除の適応とされる。外科手術に際しては,腹腔鏡を用いた低侵襲手術が有用である。

  • 若狭 悠介, 諸橋 一, 坂本 義之, 三浦 卓也, 神 寛之, 米内山 真之介, 一戸 大地, 袴田 健一
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1187-1191
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    上腸間膜静脈血栓症(superior mesenteric venous thrombosis:以下,SMVT)は腸間膜静脈の血流障害により,腸管のうっ血や肝機能障害をきたす比較的まれな疾患である。死亡率は0~23%とされており,初期対応が非常に重要とされる。症例は32歳女性。数日前からの嘔吐,発熱,腹痛を主訴に近医で抗生剤投与が行われていたが症状の改善を認めず,腹部CTで急性虫垂炎が疑われ当院へ救急搬送された。腹部CTで回結腸静脈から上腸間膜静脈にかけて血栓が認められ,急性虫垂炎に合併したSMVTと診断し,同日虫垂切除術を行った。術後は大きな合併症なく良好に経過し,速やかに抗凝固療法が開始され第8病日に退院された。虫垂炎にSMVTを合併した症例については,血栓形成の原因除去を目的とした虫垂切除術とSMVTの進展や波及を防ぐ抗凝固療法が重要であることが示唆された。

  • 山崎 祐樹, 久野 貴広, 岡崎 充善, 寺井 志郎, 渡邉 利史, 竹下 雅樹, 清水 康一
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1193-1196
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    要旨:症例は70歳男性。転落による腰椎L3破裂骨折の診断で整形外科に入院となった。腹痛が出現したため再検したCTで十二指腸穿孔および後腹膜膿瘍が疑われ,緊急手術を施行した。十二指腸水平脚の後腹膜側に穿孔部および後腹膜に広範囲の膿瘍腔を認め,ドレナージおよび穿孔部の単純閉鎖を行った。術後に縫合不全および後腹膜膿瘍が出現し,約半年間のドレナージを要した。外傷性十二指腸損傷はとくに後腹膜穿孔では手術のタイミングが遅れると縫合不全のリスクが高くなり,救命率は減少してしまう。このため,手術ではさまざまな付加手術が行われてきたが,最近は付加手術に否定的な意見も多い。今回われわれは受傷から手術まで時間が経過した外傷性十二指腸穿孔に対し単純縫合閉鎖を行ったが,術後に縫合不全を起こし治療に難渋した症例を経験した。本症例のように縫合不全のリスクが高いと考えられる場合には減圧・補強を加えた付加手術を行う必要があると考えられた。

  • 真鍋 高宏, 山下 巌, 吉川 渉, 安齋 明雅, 小島 淳夫, 渋谷 和人, 田澤 賢一, 塚田 一博
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1197-1200
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は38歳,女性。突然の激しい左季肋部痛のため,当院救急外来へ搬送された。造影CT検査で脾臓腹側に血腫を認めたが,出血源は同定できなかった。左季肋部痛は徐々に消失し,血腫も消退傾向となった。出血源検索目的に,待機的に出血源の検索を行い,3mm程度の左胃大網動脈瘤を認めたため,transcatheter arterial embolization(以下,TAE)を施行した。現在まで,4年が経過しているが,同動脈瘤の再破裂を認めていない。待機的に治療可能であった左胃大網動脈瘤破裂の1例を経験したので報告する。

  • 伊藤 謙, 須郷 広之, 秋本 瑛吾, 関根 悠貴, 春山 優理恵, 河合 雅也, 宮野 省三, 渡野邉 郁雄, 町田 理夫, 北畠 俊顕, ...
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1201-1204
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例1は65歳男性。下腹部痛と嘔気を主訴に救急外来を受診し,腹部CTで虫垂の腫大を認め急性虫垂炎の診断となった。保存的加療が奏効せず翌日,緊急腹腔鏡下虫垂切除術施行となった。症例2は56歳男性。他院にで急性虫垂炎の診断で保存的に加療されたが,症状増悪あり当院へ紹介となった。腹部CTで虫垂の腫大と膿瘍形成を認め,穿孔性虫垂炎の診断で緊急開腹虫垂切除術施行となった。両症例とも術後病理所見で虫垂に真性憩室の多発と周囲の炎症細胞浸潤を認め,虫垂真性憩室に伴う虫垂憩室炎であった。虫垂真性憩室は非常にまれな疾患であり,これまで本邦報告16例を認めるのみである。過去報告例を含め,若干の文献的考察を加え報告する。

  • 久保 孝文, 村上 正和, 佃 和憲
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1205-1209
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は65歳,男性。右下腹部痛を主訴に来院。腹部造影CT検査で盲腸に腫瘤を認め,大腸内視鏡検査で同部に2型腫瘤と,横行結腸からS状結腸に多発潰瘍を認めたため,リンパ腫を疑い生検を施行した。翌日腹痛が増強し,腹部CT検査で盲腸腫瘤の腹壁穿通を認めたため,リンパ腫の穿通性腹膜炎の診断で緊急回盲部切除術を施行した。他の潰瘍病変は抗癌剤の効果に期待し,残存させた。術後腹腔内膿瘍をきたしたが,切除病理標本で劇症型アメーバ症と診断し,膿瘍,残存病変に対し抗アメーバ薬を投与した。その後膿瘍も改善し,術後2ヵ月後の大腸内視鏡検査で横行結腸の残存潰瘍は縮小し,その他は消失していた。6ヵ月後に同潰瘍は線状瘢痕化し,10ヵ月後に消失した。切除と抗アメーバ薬の投与で救命できた劇症型アメーバ症の術後の残存潰瘍病変に対し,内視鏡で経時的に評価できた1例を経験したため文献的考察を加え報告する。

  • 伊原 正幸, 下薗 崇宏, 植田 浩司, 美馬 裕之
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1211-1214
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は85歳男性。経皮的肝動脈塞栓術後9日目に腹痛・腹部膨満感の出現とともにショックとなった。腹部造影CT検査で門脈ガス像,小腸の壁肥厚や拡張を認めたが,明らかな血管閉塞像は認めなかったため,非閉塞性腸管虚血症(nonocclusive mesenteric ischemia:以下,NOMI)が疑われた。血管造影検査で典型的な血管れん縮像ではなかったものの,血管閉塞機転を認めなかったことからNOMIと診断し,塩酸パパベリン持続動注を開始した。第2病日にかけて血清乳酸値の著明な上昇を認めたが,その後全身状態が改善し第8病日にICU退室となった。NOMIは予後不良な疾患であり,典型的な血管れん縮像の有無にかかわらず,塩酸パパベリン持続動注療法が有効な治療オプションの1つとなり得ると考える。

  • 佐藤 啓太, 勅使河原 勝伸, 五木田 昌士
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1215-1217
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    IVRの技術進歩に伴うnon-operative managementの増加などで,外傷手術件数が減少している。外傷手術に関しては術前のトレーニングやシミュレーションが難しいため,外傷外科を志す若手医師にとっては手術手技の獲得に時間がかかる。われわれはこうした問題を解決する方法としてウェアラブルカメラでの手術野撮影を行い教育に用いている。つり下げ式ビデオカメラの欠点を補いつつ,さまざまな利点のあるウェアラブルカメラの使用経験を報告し,その学習効果の可能性について考察した。

  • 近藤 優, 石川 衛, 森 美樹, 宮本 康二
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1219-1222
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は80歳女性,3経産婦。数日前より発熱,食欲不振が出現したため前医でCT施行,消化管穿孔と診断され当院へ救急搬送された。当院の腹部単純CTでも腹腔内遊離ガスを認め,子宮内腔に少量のガスおよび液体が充満していたことから子宮穿孔もしくは消化管穿孔性腹膜炎と診断し緊急手術を施行した。開腹すると子宮底に20mmと30mm大の穿孔部を2ヵ所認めたため子宮腟上部切除術,腹腔洗浄ドレナージ術を施行した。病理結果では腫瘍性病変・悪性所見は認めなかった。腹水培養からは嫌気性菌が検出された。術後は人工呼吸管理とし,術後3日目にはacute respiratory distress syndrome(急性呼吸窮迫症候群:以下, ARDS)を発症した。全身状態は徐々に悪化し腎不全のため術後15日目に死亡した。腹腔内遊離ガスを呈した子宮留膿腫による穿孔性腹膜炎の1例を経験したので報告する。

  • 片桐 美和, 石井 浩統, 萩原 純, 新井 正徳, 金 史英, 横田 裕行
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1223-1226
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    非閉塞性腸間膜虚血(non-occlusive mesenteric ischemia:以下,NOMI)は主幹動静脈に閉塞がない腸管虚血である。近年保存的治療の報告が散見されるが,不可逆性の壊死については,その切除範囲決定にしばしば苦慮する。今回,術中内視鏡が切除範囲決定に有用であった症例を経験したので報告する。症例は79歳男性。意識障害,消化管出血を主訴に搬送され,造影CT検査でNOMIと診断し,緊急開腹術を施行した。術中所見では直腸から横行結腸中央部までと回腸の一部が壊死しており,これを切除した。翌日のsecond look operationで,術中大腸内視鏡を施行した。横行結腸断端は全周性の粘膜壊死を認めたが,約4cm口側に正常粘膜が1/2周ほど残存しており,同部でストーマ造設とした。NOMIは,虚血が粘膜側より広がるため,漿膜側の観察から粘膜側の虚血性変化の判断ができないことがある。NOMIにおける切除範囲の判断に術中内視鏡は有用であると考えられた。

  • 良永 康雄, 吉田 純
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1227-1230
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は21歳,男性。搭乗中の軽乗用車が前方の車両へ追突し救急搬送となった。事故時,患者は助手席で3点式シートベルトを着用していた。来院時,心窩部から右側腹部にかけて斜走するシートベルトサインと,右側腹部に圧痛を認めた。反跳痛は認めなかった。血液検査で白血球の増多と軽度の肝障害を認めた。腹部造影CTで,上腹部を中心に散在するfree airと,横行結腸肝弯曲部に壁肥厚を認めた。Shoulder beltによる横行結腸穿孔を疑い,緊急開腹した。横行結腸肝弯曲部には壁内血種と漿膜損傷を認めたが,穿孔は認めなかった。十二指腸球部前壁に10mmの穿孔を認め,これを単閉鎖した。術後,速やかに腹部症状は消失し,術後12日目に退院となった。術後4ヵ月の時点で合併症を認めていない。3点式シートベルトによる腹部臓器の損傷で,十二指腸球部の穿孔は比較的まれである。文献的考察を加えて報告した。

  • 梶岡 裕紀, 岩川 和秀
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1231-1234
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    腸間膜脂肪織炎は非特異的炎症性疾患で予後良好な疾患である。今回,われわれは膿瘍形成をきたした直腸間膜脂肪織炎の1例を経験したので報告する。症例は41歳の女性で下腹部痛を主訴に近医を受診し,炎症反応の高値と造影CTで直腸背側に膿瘍を認めたため,当院紹介受診となった。膿瘍形成の原因は不明であったが,腹膜刺激症状を認めたことや炎症反応高値であることから緊急ドレナージの適応と判断し,手術の方針とした。開腹所見では子宮付属器には異常を認めなかったが,直腸の浮腫と直腸間膜に限局した脂肪織炎,さらに挙筋上腔に液体貯留を認めたため,これをドレナージした。現在術後7ヵ月経過しているが,再燃は認めていない。高度な炎症反応を伴う腸間膜脂肪織炎の場合には膿瘍形成する場合があるため,注意が必要である。

  • 島田 和典
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1235-1238
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は75歳,男性。腹痛のため前医に入院となったが,症状が増悪したため当院に転院となった。開腹手術の既往はなく,腹部CT検査で多量の腹水,広範囲に拡張した小腸,腸間膜の集束像を認めたため,内ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断し緊急手術を施行した。手術所見では,大網の右側に異常裂孔を認め,小腸が裂孔部で絞扼され約200cmにわたり 壊死していた。大網裂孔を開放した後,壊死腸管に対して小腸切除術を行った。術後の経過は良好であった。内ヘルニアのなかでも大網裂孔ヘルニアはまれであり,若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 鈴木 紳祐, 山岸 茂, 田中 淑恵, 中本 礼良, 清水 康博, 仲野 明
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1239-1242
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は21歳の女性で神経性食思不振症を他院で治療されていた。下腹部痛を主訴に当院の救急外来を受診し,血液生化学検査所見で汎血球減少を,腹部造影CT検査で直腸周囲に腹腔内遊離ガス像を指摘された。下部消化管穿孔と診断し,腹腔鏡で腹腔内を観察したところ直腸穿孔を認めた。小開腹下で穿孔部を縫合閉鎖,大網被覆した。手術後は神経性食思不振症に伴う汎血球減少によりDIC scoreが高値で遷延したものの全身状態は良好であった。また,神経性食思不振症により低リン血症も認めたが,適宜補正したことで致死的な不整脈をきたすことはなかった。術後合併症なく,術後29日目に神経性食思不振症の加療目的で転院となった。現在,手術後6ヵ月が経過し穿孔の再発はきたしていない。神経性食思不振症患者の消化管穿孔はまれで,自験例を含めて6例の報告を認めるのみであった。文献的考察を加え,これを報告する。

  • 望月 哲矢, 平田 雄三, 佐藤 幸毅, 先本 秀人, 江藤 高陽
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1243-1247
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    消化器外科周術期において静脈血栓塞栓症(以下,VTE)に対するスクリーニングや予防処置に対する意識が高まっている。今回,可溶性フィブリンモノマー複合体(以下,SFMC)の異常高値持続が肺血栓塞栓症(以下,PTE)早期発見の契機になった症例を経験した。症例は70歳代男性。上行結腸癌手術の麻酔導入時に血圧,酸素飽和度低下を認めたがカテコラミン投与などで改善し手術遂行した。術中のSFMCが129.8μg/mLと高値でVTEを疑ったが,経食道心エコーではPTEを示唆する所見はなく手術続行した。術終了時SFMCが361.6μg/mLとさらに上昇したため造影CT検査を施行したところ左大腿静脈,右肺動脈に血栓を認めPTEと診断した。IVC filterを留置し翌日より抗凝固療法を開始,以後軽快し術後31日目に退院した。SFMCの測定・異常高値はPTE早期発見の有用な検査になり得ることが示唆された。

  • 中島 誠一郎, 竹林 徹郎, 蔦保 暁生, 坂本 沙織, 作原 祐介, 平野 聡
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1249-1253
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    Segmental arterial mediolysis (以下,SAM)が原因と思われる右結腸動脈由来の腹腔内出血に対し緊急開腹手術を行い救命し得たので報告する。症例は58歳男性,主訴は腹痛および意識消失。当院搬送後もショックによる意識消失を繰り返し,腹部造影CT上巨大腸管膜内血腫および腹水貯留,右結腸動脈からの血管外漏出を認めた。腹腔内出血の診断で緊急開腹術を行い同部位の出血点を結紮止血した。術後3D─CT angiographyで残存血管に数珠状の不整な拡張と狭小化を認めSAMを疑ったが,遠隔期に消失を確認した。近年SAMの概念が広まるにつれ本疾患の症例報告は増えてきたが,いまだその発症メカニズムは特定されていない。SAMの特徴的な病変の検索およびフォローアップには3D-CTAが有用であり,本例では病変の消退が確認できた。

  • 太白 健一, 小泉 大, 丸山 博行
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1255-1259
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は86歳の女性で,腹痛と頻回の嘔吐で発症し,絞扼性イレウスの疑いで当院へ搬送された。搬送時の腹部所見と腹部CT検査から,緊急手術の適応と判断した。術中所見では,空腸が内容物で閉塞し,同部位を起点に捻転していた。捻転解除後,腸管を切開すると,嵌頓していた内容物は結び昆布であった。腸管に虚血や壊死を疑う所見はなく,切開部を閉鎖し手術終了した。術後,発症前の食事内容を確認すると,直前の夕食で結び昆布を丸呑みしていたことが判明した。食餌性イレウスは全イレウスの0.3~1.0%と比較的まれで,そのうち,昆布によるものは約12%と報告されている。食餌性イレウスは診断が困難なうえ,保存的治療が無効なことが多く,自験例のように緊急手術が施行される症例も散見される。本疾患を念頭にした詳細な食事歴の問診をもとに術前診断を行い,適切なタイミングで手術を行うことが重要である。

  • 溝口 公士, 石黒 秀行, 松尾 洋一, 寺下 幸夫, 佐川 弘之, 竹山 廣光
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1261-1264
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は72歳男性,右下腹部痛と腹部膨満を主訴に近医受診。腸閉塞症の診断で紹介受診された。腹部所見で反跳痛を認めたが,筋性防御は認めなかった。腹部単純,造影CTにおいて下腹部正中から右側の小腸は拡張し,限局性の浮腫状壁肥厚を,肝表面と,骨盤内に腹水を認めた。造影効果不良部位は認めず,closed loopは認めなかった。以上より腸閉塞症と診断し,原因が明らかでないが腹膜刺激症状を認めたため,原因精査,治療目的で同日緊急手術を施行した。手術は腹腔鏡で開始した。腹腔内を観察するも,腸閉塞症の原因が明らかでなく小開腹した。回腸末端より口側に40cmの部位から口側に10cmにかけ小腸の浮腫は高度であった。この部位を部分切除した。病理検査結果では粘膜下層にアニサキス虫体の断面を認め,周囲は寄生虫肉芽腫を認めた。以上より回腸アニサキス症による著しい腸管浮腫が腸閉塞症の原因と考えられた。

  • 深江 政秀, 吉田 陽一郎, 愛洲 尚哉, 小島 大望, 星野 誠一郎, 山下 裕一
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1265-1269
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    肝膿瘍は通常,何らかの疾患に合併して発生する。まれに肝膿瘍を契機に大腸癌が発見されることがある。上行結腸癌の化学療法中に肝膿瘍を合併した1例を報告する。症例は64歳の男性で,上行結腸の腫瘤性病変のため当院へ紹介となり,進行上行結腸癌と診断した。術後再発リスクを下げる目的でCapecitabine/Oxaliplatin plus Bevacizumabによる化学療法を開始した。3コース目に発熱を認めていたが,全身状態は良好であった。4コース後の造影CTで肝右葉に肝膿瘍が指摘された。肝膿瘍は経皮経肝膿瘍ドレナージと抗生剤治療で改善した。膿瘍の細菌培養ではStreptococcus anginosusが検出された。大腸癌の化学療法中の肝膿瘍の発生はこれまでに報告がなく,非常にまれであるが,発熱を認めたときは肝膿瘍の可能性を念頭において診療を行う必要がある。

  • 網木 学, 山崎 将人
    2016 年 36 巻 7 号 p. 1271-1275
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は76歳の男性で,腹痛を主訴に救急外来を受診した。来院時,腹膜刺激症状を伴うショック状態であり,腹部CT検査で門脈ガスを認めたため,腸管壊死を疑い緊急手術を施行した。回腸に非連続性の暗赤色の色調変化を認め,非閉塞性腸間膜虚血症(non─occlusive mesenteric ischemia:以下,NOMI)と診断した。腸管壊死には至っていなかったため,second look operationの方針とした。12時間後,再開腹術を行ったが,腸管の色調が改善していたため,切除は行わずに閉腹した。しかし,術後,腹痛,嘔吐を繰り返すようになり,第31病日に試験開腹術となった。回腸に約5cmの狭窄部位を認め,小腸部分切除を行った。病理組織学的所見では腸管全層に繊維化をきたしており,虚血に伴う遅発性腸管狭窄と診断された。NOMIによる遅発性腸管狭窄の報告はまれであり,文献的考察を加えて報告する。

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