日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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37 巻, 4 号
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原著
  • 山野 寿久, 河崎 健人, 工藤 泰崇, 黒田 雅利, 吉富 誠二, 高木 章司, 池田 英二, 辻 尚志
    2017 年 37 巻 4 号 p. 531-535
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    2009年から2015年に当院で経験した胆囊捻転症8例において術前診断に有用な所見について検討した。胆囊捻転症は,通常の急性胆囊炎症例と比較し低体重,高齢,女性に多くみられた。胆囊捻転症8例全例が,BMI 18.5未満の低体重症例であった。低体重症例は急性胆囊炎症例全体の8.1%であり,このうち34.8%が胆囊捻転症であり,診断の助けになる所見と思われた。画像所見では,胆囊壁の著明な肥厚,胆囊壁の造影不良,胆囊内の高吸収域,胆囊壁の高吸収域は捻転に伴う間接的所見であり,診断には捻転の直接的所見と考えられる胆囊頸部の捻転様構造の確認が重要と考えられた。低体重の急性胆囊炎症例では,胆囊捻転症を念頭に置き,CTでの読影を行うことが術前診断の大きな助けになると思われる。

  • 川嶋 太郎, 小山 隆司, 大石 達郎, 高橋 応典, 坂平 英樹, 金本 義明, 吉岡 佑太
    2017 年 37 巻 4 号 p. 537-541
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    2008年4月から2014年3月までの6年間に兵庫県立淡路医療センターで経験した80歳以上の高齢者腹部緊急手術301例について,その疾患構成の特徴,死亡率,入院期間などについて検討した。平均年齢は85.6歳(最高齢99歳)。疾患別ではイレウスが85例と最多であった。イレウス,ヘルニア嵌頓,消化管穿孔,虫垂炎を合わせると全体の85%となっていた。Oncologic emergency症例は52例(17.3%)であり,大部分は大腸癌が原因であった。周術期合併症は99例,術後死亡は30例で認めた。平均在院期間は26.1日であった。術後合併症を認めた症例では入院期間が長くなっていた。これから迎えるさらなる高齢化社会において,高齢者腹部緊急手術の増加は避けることができず,その特徴を十分に理解しておく必要がある。

  • 宇高 徹総, 松本 尚也, 山本 澄治, 久保 雅俊
    2017 年 37 巻 4 号 p. 543-548
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    大網裂孔ヘルニアは大網の異常裂孔に腸管が嵌入して起こる比較的まれな内ヘルニアの1つで,特徴的な臨床所見に乏しく術前診断は困難とされてきた。2009年から2016年の間に当科で術前診断にMD-CTが有用であった10例の大網裂孔ヘルニアを経験した。年齢は58~83歳(平均67歳)で,男性6人,女性4人であった。MD-CTによる術前診断は大網裂孔ヘルニアが6例,内ヘルニアが4例であった。MD-CTの画像上の特徴として,ヘルニア門から脱出する上行結腸や横行結腸の腹側に位置する拡張した小腸,closed-loop,腸間膜や小腸の収束像が有用な所見であった。開腹歴のないイレウス例では大網裂孔ヘルニアを念頭に置く必要がある。MPRを用いたMD-CT検査が有用であり,術前に大網裂孔ヘルニアを診断できる可能性がある。

特集:急性腹症ガイドラインの検証
  • 初期診療アルゴリズムが目指すもの
    小豆畑 丈夫, 前田 重信, 吉田 雅博, 真弓 俊彦
    2017 年 37 巻 4 号 p. 551-557
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    急性腹症診療ガイドライン2015(以下,本ガイドライン)は急性腹症診療を科学的に構築することにはじめて挑戦した。その過程で,本ガイドラインは腹痛患者の中には虚血性疾患・出血性疾患・汎発性腹膜炎といったlife-threateningな疾患があることを明らかにした。本ガイドラインの示す「初期診療アルゴリズム」はlife-threateningな病態を見逃さず適切な治療を行うことを目的に作成され,その結果,2 step methodを採用した。Step 1でvital signに異常を呈する緊急疾患を鑑別し,適切な蘇生と根治的治療の方法を示している。Vital signに異常のない患者はstep 2に進み,緊急手術が必要となる病態(出血,臓器の虚血,汎発性腹膜炎,臓器の急性炎症)の有無を鑑別する。われわれはこの「初期診療アルゴリズム」がめざすものを考えてみたい。

  • 菅野 仁士, 内田 英二
    2017 年 37 巻 4 号 p. 559-563
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    消化器疾患による急性腹症は緊急手術を必要とすることが多く,術後早期の経腸栄養が実施できないなど困難を伴う。今回,腹部緊急手術後の栄養管理について検討した。腹部緊急手術を受けた550例を対象とし,術直後からの絶食期間,集中治療室管理の有無,術後第7病日(以下,7POD)における栄養量についてretrospectiveに検討した。術後7日間以上絶食であった67例のうち,集中治療室管理となったのは25例(37.3%)であった。集中治療室管理の有無にかかわらず,絶食期間はいずれも8日であり,7PODでの静脈栄養による投与熱量はいずれも500kcalを下回っていた。腹部緊急手術後は集中治療を必要とすることが多い。低エネルギー投与が許容されるのは術後早期であり,適正な栄養管理を行わなければ急速に栄養状態が悪化するため,病態に応じて栄養投与経路,各栄養素を含むエネルギー投与量を慎重に決定しなければならない。

  • 高山 祐一, 金岡 祐次, 前田 敦行, 深見 保之, 高橋 崇真, 尾上 俊介, 宇治 誠人
    2017 年 37 巻 4 号 p. 565-570
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    【目的】小腸閉塞症の診断と治療方針決定のため水溶性造影剤(ガストログラフィン®)での消化管造影検査の有用性を検討した。【対象と方法】:2008年1月より2015年12月までに単純性小腸閉塞症で,保存的治療後ガストログラフィン®による消化管造影検査を施行した連続した878例を対象とし,臨床経過を検討した。造影所見により完全型小腸閉塞症(Ⅰ型・Ⅱ型;手術療法),不完全型小腸閉塞症(ⅢA型・ⅢB型;保存治療)に分類した。【結果】:Ⅰ型+Ⅱ型は135例(15%),ⅢA型+ⅢB型は743例(85%)。手術症例の手術までの平均日数は2.1日。ⅢA型の経口摂取開始日,入院日数は2.6日,10.6日,ⅢB型は2.1日,8.5日であった。【結語】:ガストログラフィン®による造影検査で,完全小腸閉塞症は早期に手術を行うことができた。不完全小腸閉塞症は早期に腸閉塞が解除され,早期経口摂取開始,在院日数の短縮につながった。

  • 村岡 孝幸, 松岡 裕士, 村上 正和
    2017 年 37 巻 4 号 p. 571-574
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    急性腹症診療ガイドライン2015が発刊され実臨床への応用が開始された。有意義なガイドラインとするためにこれを広く周知する必要があるが,その実態を把握する目的で当院の常勤医師38名にアンケート調査を行った(回答率100%)。本ガイドラインを知っている5名(13%),知らない33名(87%)であった。また発刊から2ヵ月が経過した時点では2名が知っており,院内講演会で本ガイドラインの概要を解説したところ3名が増加していた。本ガイドライン策定に携わった日本腹部救急医学会,日本医学放射線学会,日本プライマリ・ケア連合学会,日本産科婦人科学会,日本血管外科学会の5学会へ所属しているのはこの5名中2名で,院内全体では6名が所属していた。本ガイドラインの周知が進んでおらず,広く恩恵を受ける段階に至っていない。学会側からの啓発活動を推進していただきたい。また院内での勉強会も反復する必要性があると考えた。5学会の会員数も多くはなく,より構成人員の多い学会と連携して本ガイドラインを策定・啓発していくことも一手段である。

  • 三原 弘
    2017 年 37 巻 4 号 p. 575-579
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    【目的】急性腹症診療ガイドライン2015の教育プログラムの章に,「AbdEMetコースが開催されているが,教育プログラムを受けたものの能力の向上について報告されていない」とある。①世界初のガイドライン発刊が,教育プログラムに与えた影響と,②腹部診療能力の向上を測定しうる具体的実施能力の抽出を行うことを目的とした。【方法】①発刊前後の指導要綱を比較し,②暫定的に23項目の腹部診療能力を医学生から消化器専門医にアンケート調査した。【結果】①鎮痛剤使用方針などが追記され,②腹部診療能力の平均評点は医学部高学年,消化器専門医で他群に比較して有意に低値と高値であった。消化器専門医で能力の高い項目(腹部超音波の実施能力など)と,差のない項目(月経の問診など)が判明した。【結論】発刊によりコース指導要綱は改訂され,暫定的評価項目の一定の妥当性が確認された。評価項目の改善と訓練による能力向上の評価が課題である。

  • 山田 岳史, 青木 悠人, 小泉 岐博, 進士 誠一, 高橋 吾郎, 岩井 琢磨, 武田 幸樹, 横山 康行, 堀田 正啓, 原 敬介, 松 ...
    2017 年 37 巻 4 号 p. 581-585
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    【背景】絞扼性腸閉塞の本態は消化管の虚血であるため,診断には造影CTが重要である。しかし,どのような所見が有用であるか明らかではない。【方法】術前に造影CTが施行された壊死性絞扼性腸閉塞21例と非壊死性絞扼性腸閉塞33例を対象に造影CT所見を検討した。【結果】70%以上の頻度で認められたものはbeak sign,flower bouquet sign,腸管壁の肥厚,腸間膜混濁であった。beak sign,腸管壁の肥厚,腸間膜混濁は非壊死性に限っても高い頻度で同定された。造影低下は壊死性では52%に同定されたが,非壊死性では6%と発現頻度が低かった。【考察】腸管壊死をきたす前に絞扼性腸閉塞を造影CTで診断するために有用な所見はbeak sign,腸管壁の肥厚,腸間膜混濁であり,造影低下の発現頻度は低いことに注意が必要である。

症例報告
  • 山根 宏昭, 加納 幹浩, 大森 一郎, 金子 真弓
    2017 年 37 巻 4 号 p. 587-591
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は24歳女性。腹痛と嘔吐を主訴に入院。Multi Detector Computed Tomography(以下,MDCT)で骨盤内に腫大した盲端腸管と拡張した小腸を認め,Meckel憩室によるイレウスと診断した。イレウス管を留置し,減圧後に腹腔鏡手術を行った。腹腔内に盲端腸管を認め,同腸管から小腸腸間膜に走行する索状物を認めた。索状物と小腸腸間膜がヘルニア門を形成し近傍小腸が嵌頓し内ヘルニアを呈していた。索状物を切離し,憩室に対し楔状切除術を施行した。病理組織検査から索状物をMesodiverticular bandと診断した。さまざまな症状を呈するMeckel憩室の術前診断は困難だが近年はMDCTの有用性が報告されている。またイレウスを呈する症例の腹腔鏡手術は術野の確保が困難となることが多いが,術前イレウス管留置による腸管内減圧は腹腔鏡手術完遂のために有用であった。

  • 三木 明寛, 大谷 剛, 石川 順英
    2017 年 37 巻 4 号 p. 593-597
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    58歳,女性。右腰部から大腿部の疼痛と便臭を伴う排膿で当院へ紹介された。体温39℃,WBC 19,800/μL,CRP 28.5mg/dLであった。造影CTで右後腎傍腔に8×8cm大の膿瘍と大腿部皮下までの炎症の波及を認め,全身麻酔下に腹膜外アプローチでの緊急ドレナージ術を施行した。術後に大腸内視鏡検査を施行したが異常を認めず,腹部超音波検査で虫垂先端から連続する膿瘍腔を認めたためドレナージ11日目に単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を施行した。病理検査で虫垂憩室穿通と診断した。術後経過は良好であった。虫垂憩室穿通による後腹膜膿瘍は報告例が少なくまれと考えられる。治療方法に関して,一期的治療を行うかドレナージ後に二期的治療を行うかは一定の見解が得られていないが,自験例ではドレナージを先行することで腹腔鏡下手術を行い,合併症などなく良好に経過できたため有用な治療戦略と考え報告した。

  • 淺野 彩, 淺野 博, 深野 敬之, 大原 泰宏, 篠塚 望
    2017 年 37 巻 4 号 p. 599-602
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は53歳男性。1週間前より上腹部の違和感を自覚していたが,急激に痛みが増悪したため当院へ救急搬送された。腹部所見では臍上部右側に筋性防御を伴う圧痛を認めるとともに,腹部CTでは同部位に一致した壁肥厚を伴う小腸と上腸間膜静脈内に血栓を認めた。上腸間膜静脈血栓症および小腸壊死の診断で緊急手術を施行した。術中所見では小腸は約70cmにわたり壊死していたため部分切除術を行った。壊死腸管周囲の腸間膜を切開すると血栓の形成が確認できた。腸間膜のうっ血所見は限局していたため血栓除去は施行していない。血液凝固異常をきたす原因疾患は認められず,特発性上腸間膜静脈血栓症およびそれに伴う小腸壊死と診断した。術後ワーファリンによる抗凝固療法を開始し,現在再発なく経過観察中である。

  • 高 和英, 吉田 寛, 進士 誠一, 菅 隼人, 山田 岳史, 内田 英二
    2017 年 37 巻 4 号 p. 603-606
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は50歳,女性。子宮内膜癌の術後第15病日目に腹部膨満,嘔吐を主訴に当院女性診療科に入院となった。単純性腸閉塞の診断で経鼻胃管による減圧を試みたが改善なく当科紹介となった。同日イレウス管を挿入し間歇的吸引減圧を開始した。イレウス管挿入後3日目に嘔吐,腹痛が増強し,CT検査を施行した。イレウス管の中間部の小腸に同心円状の多層構造が認められ,小腸内に腸間膜脂肪および腸管が陥入していた。腸重積と診断し,緊急手術を施行した。Treitz靭帯近傍の近位空腸が逆行性に約10cm陥入していたが,壊死はなく自然整復が可能であった。また回盲部近傍の回腸が後腹膜に癒着しており,これが腸閉塞の原因と考えられ,癒着剝離を行った。イレウス管留置中の逆行性に陥入した腸重積は比較的まれであり,文献的考察を加えて報告する。

  • 上江洌 一平, 髙宮城 陽栄, 知念 順樹, 長濱 正吉, 宮里 浩, 友利 寛文, 又吉 隆
    2017 年 37 巻 4 号 p. 607-610
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    内ヘルニアは腸閉塞の原因の約10%を占めるといわれており,そのうち子宮広間膜ヘルニアの頻度は低く,まれな疾患である。特異的な臨床所見に乏しく,術前に確定診断をつけるのは困難といわれていたが,近年の画像診断の進歩に伴い,術前診断しえた症例の報告が増加している。当院では,2010年から2016年の間にCTで術前診断しえた子宮広間膜ヘルニアを5例経験した。全例腹痛を主訴に来院し,精査のCTで拡張した小腸ループをDouglas窩に認め,それに子宮が圧排され偏位していた。拡張した腸管壁は造影効果を認め,腸管壊死の可能性は低いと判断した。子宮広間膜ヘルニアの診断で手術が施行され,そのうち3例は腹腔鏡で完遂した。腸管壊死はなく全例腸管を温存できた。術後経過は良好で,子宮広間膜ヘルニアの診断にはCTが有用であること,また,腹腔鏡手術が治療選択肢の1つとなりうることが考えられた。

  • 小嶋 忠浩, 丸尾 啓敏
    2017 年 37 巻 4 号 p. 611-616
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は58歳男性。右上葉肺癌に対して胸腔鏡下右上葉切除術を他院で施行した。病理診断は低分化腺房腺癌,pT2a,pN2,pM0,pStage Ⅲaであった。術後2年後よりリンパ節再発をはじめとして,多発性肺転移を認め,各種化学療法,放射線治療を行い経過観察していた。術後3年9ヵ月に突然の呼吸困難と腹痛が出現し,当院を受診した。心窩部を中心に著明な圧痛を認め,腹部CTでは腹腔内遊離ガスがみられた。胃腫瘤による穿孔性腹膜炎と診断し,広範囲胃切除術を施行した。病理組織所見では腺癌であり,免疫組織化学的検査の結果,肺腺癌からの胃転移と診断した。肺癌からの胃転移例は非常に少なく,予後は不良である。本症例はなかでもまれな穿孔例であり,若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 和久 利彦
    2017 年 37 巻 4 号 p. 617-620
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は79歳の女性。7日前から続く右肋弓下痛のため当院を受診した。腹部造影CTやDIC-CTで,胆囊の腫大と壁肥厚,らせん状になった胆囊頸部がみられた。胆囊壁の造影効果は失われていなかった。胆囊は総胆管に圧排され,胆囊頸部腹側を走行する像がみられた。血流障害の程度が軽度な胆囊捻転症が疑われ腹腔鏡下に緊急手術を行った。胆囊は暗赤色で緊満しており,胆囊頸部はWinslow孔へ嵌頓し大網・十二指腸・大腸・肝十二指腸間膜が癒着していた。癒着剝離,頸部嵌頓整復で,胆囊頸部を中心に反時計回りに360°捻転した胆囊捻転症が判明した。胆囊はGross Ⅱ型の遊走胆囊であった。胆囊の粘膜面の一部には虚血による壊死もみられた。胆囊捻転症は,血流障害から胆囊壊死を生じる場合もあり緊急手術の適応である。さらに内ヘルニアを伴う場合は血流障害が加速される可能性があり,一層迅速な診断と緊急手術が必要になると考えられた。

  • 丹波 和也, 民上 真也, 榎本 武治, 勝又 健太, 塚本 芳嗣, 井田 圭亮, 天神 和美, 佐々木 奈津子, 佐治 攻, 松下 恒久, ...
    2017 年 37 巻 4 号 p. 621-625
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は51歳,男性。腹痛と嘔吐を主訴に紹介受診となった。腹部造影CT所見では,低吸収の腫瘤性病変を先進とする腸重積像および小腸にwhirl signを認めた。小腸腫瘍による腸重積症および小腸軸捻転症と診断し緊急手術を施行した。開腹所見ではTreitz靭帯より口側70cmに小腸腸間膜が270°捻転し腸管の虚血性変化を認めた。さらに小腸に重積腸管を認め,Hutchinson手技で整復すると先進部に約4cmの腫瘤を触知した。手術は重積した腸管を含む小腸部分切除術を施行した。切除標本では空腸に40×30×30mmの黄色調の有茎性腫瘍を認め,病理組織検査で脂肪腫と診断された。術後経過は良好で術後8日目に退院となった。小腸脂肪腫による腸重積が誘因となった続発性小腸軸捻転症の報告例はなく,極めてまれな病態と考えられた。

  • 石川 衛, 岩本 久幸, 近藤 優, 森 美樹, 宮本 康二
    2017 年 37 巻 4 号 p. 627-630
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    経肛門的直腸異物を2例経験したので報告する。症例1:62歳男性。受診2日前に肛門より異物挿入し,摘出困難を主訴に当院受診。腹部X線検査で骨盤内に円筒状異物を認め,腹部CTでは異物先端は直腸Rs付近に達しており外来での抜去困難なため,脊椎硬膜外麻酔下に手術を施行。手術直前,異物はすでに経肛門的に触診されない部位に移動していたため,開腹して用手的経肛門的に携帯用ガスボンベを除去した。症例2:26歳男性。直腸異物の摘出困難を主訴に当院受診。外来での摘出困難であったため,脊椎硬膜外麻酔下に緊急手術を施行。腹部を愛護的に圧迫しつつ経肛門的にバイブレーターを除去した。直腸異物の摘出にあたっては,なるべく低侵襲な治療が望まれるが,詳細な病歴聴取や画像診断により異物の形体も考慮した適切な治療法を選択する必要がある。

  • 松倉 史朗, 橋口 和義
    2017 年 37 巻 4 号 p. 631-635
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は55歳の男性。夜にサバの刺身を生食した。その3日後に腹痛,嘔吐・下痢を主訴に当科へ受診した。腹部所見では,臍周囲の圧痛と腹部膨満を認めたが腹膜刺激症状は顕著ではなかった。血液検査で白血球増多と炎症所見の上昇,腹部単純X線で腸閉塞像を認めた。腹部造影CTでは,造影効果を伴う限局性・全周性の小腸壁の肥厚と内腔の狭小化および口側小腸の拡張,さらに腹水の貯留を認めた。小腸アニサキス症早期診断基準により同症による腸閉塞と診断し,入院後ただちに高気圧酸素治療を施行した。入院翌日には自他覚症状は軽快し,腹部単純X線でも腸閉塞像は改善した。アニサキス特異IgE抗体は40.80UA/mL(基準値0.34以下)と高値を示した。小腸アニサキス症は比較的まれな疾患であるが,小腸壊死・穿孔,腸重積や腸閉塞をきたすことがあり注意を要する。今回,本症による腸閉塞に対し高気圧酸素治療を施行し奏効した興味深い1例を経験したので報告する。

  • 鯨岡 学, 斎藤 智明, 浅井 浩司, 渡邉 学, 松清 大, 石井 智貴, 中村 陽一, 片田 夏也, 斉田 芳久, 原 英彦, 前谷 容 ...
    2017 年 37 巻 4 号 p. 637-641
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy:以下,PD)術後の膵液瘻に続発した繰り返す仮性動脈瘤出血および門脈内血栓に対して動脈・門脈stent留置などの血管内治療を施行し,救命し得た1例を経験したので報告する。症例は67歳の女性で,膵頭部癌に対してPDを施行した。術後第14病日に膵液瘻の診断に至り,第16病日にドレーンより出血を認めた。血管造影を施行したところ,胃十二指腸動脈断端に仮性動脈瘤を認め,この部分にcovered stentを留置した。術後第38病日,第51病日,第75病日にも仮性動脈瘤からの出血を認め動脈stent留置とcoil塞栓を併施し止血し得た。また,経過中に門脈内血栓も認め門脈stentを留置した。最終的には門脈は完全閉塞に至ったが,肝内の肝動脈-門脈シャントにより肝不全に至ることはなく,第146病日に軽快退院となった。

  • 深田 真宏, 長尾 成敏, 木山 茂, 河合 雅彦, 國枝 克行
    2017 年 37 巻 4 号 p. 643-646
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は87歳,女性。早期胃癌に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した。術中約10mm程度の横行結腸間膜損傷をきたしたが,修復は不要と判断し手術を終了した。術後3ヵ月に嘔気が出現し,CTで横行結腸間膜への内ヘルニアによる腸閉塞と診断し緊急手術を施行した。術中所見では横行結腸間膜にヘルニア門を認め,小腸の陥入を認めた。腸管を引き抜き結腸間膜のヘルニア門を縫合閉鎖して終了した。初回手術での間膜損傷部と一致した部位にヘルニア門が生じていたことから,間膜損傷が原因と判断した。腹腔鏡下胃切除における結腸間膜の小損傷でも,ときとして内ヘルニアを惹起することがあるため術後合併症の原因となりうる可能性を認識し,腸間膜損傷の回避・修復が必要と考えられた。

  • 奥村 哲, 豊田 翔, 水村 直人, 今川 敦夫, 小川 雅生, 川崎 誠康
    2017 年 37 巻 4 号 p. 647-650
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は32歳女性。既往歴に子宮内膜症に対する開腹卵巣囊腫摘出術がある。妊娠7週3日に腹痛,嘔吐を主訴に当院へ救急搬送された。腹部エコー検査でキーボードサイン,腹部単純X線検査で鏡面像を認め腸閉塞と診断した。血液検査では腸管壊死を示唆する所見は認めなかったため,絶飲食,胃管留置による保存的加療を行った。しかし入院後も症状の改善を認めず,翌日に単純CT検査を施行し,内視鏡補助下にイレウス管を挿入した。その後は腹痛などの症状は軽減したが,イレウス管排液量の減少はみられず第10病日に腸閉塞解除術を施行した。術中所見で小腸と小腸間膜との間に線維性の癒着を認め,今回の腸閉塞の原因と考えた。癒着を剝離し手術を終了した。術後合併症はなく術後10日目に退院した。退院後の妊娠経過に問題はなく妊娠38週6日に2,840gの児を経腟分娩した。妊娠時の腸閉塞では診断の遅れが母児双方の命にかかわるため,むやみに放射線被曝を避けず早期に確実に診断することが重要と考えられた。

  • 鍵谷 卓司, 石戸 圭之輔, 工藤 大輔, 木村 憲央, 堤 伸二, 木村 俊郎, 内田 知顕, 小田切 理, 袴田 健一
    2017 年 37 巻 4 号 p. 651-656
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は75歳の女性で,吐血を主訴に近医へ救急搬送された。上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行脚に出血を伴う潰瘍性病変を認めた。CT上は膵頭部から十二指腸へ連続する腫瘍が認められ,膵頭部癌の十二指腸への浸潤と考えられた。当院へ緊急入院後に,大量吐血による出血性ショックを呈したが,輸液・輸血による治療を行い全身状態が改善した後,膵頭十二指腸切除術を施行した。腫瘍は病理組織学的に十二指腸浸潤を伴う低分化腺癌の診断であった。膵癌は乏血性の腫瘤であり,十二指腸浸潤からの消化管出血で出血性ショックへ至った報告はまれであるため,文献的考察を加え報告する。

  • 田中 雄亮, 呉林 秀崇, 杉田 浩章, 斎藤 健一郎, 高嶋 吉浩, 宗本 義則, 三井 毅
    2017 年 37 巻 4 号 p. 657-660
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は62歳,女性。2日前からの間欠的腹痛を主訴に受診した。腹部超音波検査や造影CT検査で横行結腸に腸管の嵌入像を認め腸重積症と診断した。大腸内視鏡検査では,重積腸管の先進部にびらんを認めるものの,明らかな腫瘍性病変は認めなかった。注腸造影検査で容易に整復が得られた。整復から7日後に施行した大腸内視鏡検査では,重積部には全周性の潰瘍を認めるのみであり,成人特発性腸重積症と診断し経過観察とした。以後9年間,腸重積の再発は認めていない。成人腸重積症の約90%は器質的疾患を伴うとされ,特発性腸重積症はまれな病態である。整復後に器質的疾患を認めなければ,追加治療は不要である。腸重積症は可能な限り内視鏡検査や注腸造影検査といった原因検索を行い,治療方針を検討するべきと考えられた。

  • 石毛 孔明, 里見 大介, 山本 海介, 福冨 聡, 森嶋 友一
    2017 年 37 巻 4 号 p. 661-665
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    腹部救急疾患と同時に,虚血性心疾患を発症している症例にときには遭遇する。このような症例の場合,治療の優先順位に苦慮し,その中で適切な治療方針を立てる必要に迫られる。今回,われわれは不安定狭心症に急性胆囊炎を併発し,治療方針に苦慮した1例を経験したので報告する。症例は79歳男性。安静時胸痛を主訴に来院。精査で,不安定狭心症と急性胆囊炎の併発の診断となる。狭心症の治療を優先するため専門機関転院としたが,諸検査の結果から緊急カテーテル検査は適応外と判断され,急性胆囊炎の治療のため当院再転院となった。来院後の腹部CT検査では胆囊内および胆道に気腫を認め,気腫性胆囊炎の診断となる。緊急手術の方針とし,開腹胆囊摘出術を施行。術後は集中治療室で各科連携した全身管理を開始し,経過良好で軽快退院された。

  • 野々村 遼, 木戸川 秀生, 上原 智仁, 野口 純也, 山吉 隆友, 岡本 好司, 伊藤 重彦
    2017 年 37 巻 4 号 p. 667-671
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は33歳男性。上腹部痛を主訴に当院救命センターを受診した。術前の腹部造影CTで虫垂粘液囊腫捻転症と診断し緊急で腹腔鏡補助下虫垂切除術を施行した。切除標本では虫垂は9.5×2.5cmに腫大し,内部より黄白色ゼリー状の内容物を認めた。病理診断では低異型度虫垂粘液性腫瘍(low-grade appendiceal mucinous neoplasm:以下,LAMN)の診断で粘液は粘膜下層までの深達度であった。LAMNは大腸癌取扱い規約で新たに分類された腫瘍である。現在,LAMNの治療法に関して明確な基準はないが,良性悪性両方の性格をもつため,十分なmarginを確保した切除を行った後は厳重な経過観察が必要であると考える。LAMN捻転症例はわれわれが検索した範囲では本邦では15例しか報告がなく,さらに術前に捻転症を診断し得たものは本症例も含めて2例であり極めてまれな症例と思われた。

  • 海氣 勇気, 桒田 亜希, 内藤 浩之, 平野 利典
    2017 年 37 巻 4 号 p. 673-676
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は104歳,女性。食思不振を主訴に近医を受診し,イレウスを疑われ精査目的に当院紹介受診した。腹部造影CT検査でS状結腸に全周性の不整壁肥厚像を認め,口側結腸は拡張をきたしていた。大腸癌イレウスと診断し,自己拡張型金属ステント(self-expandable metallic stent:以下,ステント)を留置した。ステント留置4日後に腹痛,腹部膨満を認めた。腹部造影CTを撮影したところステント内異物によるイレウスが疑われた。下部消化管内視鏡を施行し異物除去を行ったところ梅の種子であった。近年,大腸癌イレウスに対するステント留置が普及してきているが,これまでステント留置後に食餌性イレウスをきたした症例の報告はない。また,大腸食餌性イレウスに対する治療法として,内視鏡的治療が奏効した例はまれである。今後高齢化が進むにつれ同様の症例が増加すると思われ,治療法も含め本症例は貴重と考えられた。

  • 小野 仁, 野村 克, 佐々木 彩実, 大森 一吉
    2017 年 37 巻 4 号 p. 677-680
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は20歳男性。既往歴なし。腹痛を主訴に,当院受診した。腹部全体に自発痛強く,右下腹部に圧痛あり,急性腹症で当科入院した。腹部CTで,骨盤腔の正中から右側に,限局性に造影増強効果の低下した小腸のclosed loopと血管の集束像を認め,小腸の絞扼および捻転を疑い,審査腹腔鏡を施行した。腹腔内には拡張し変色壊死した小腸がみられ,腸管切除を考え開腹手術に移行した。骨盤底に落ち込んだ小腸を手繰りだすと,回盲部腸間膜の3cmの欠損孔に,回腸が嵌り込み絞扼していた。腸管壊死と診断し,欠損孔も含め回盲部末端より5cmの所から口側約45cmの小腸部分切除を施行した。成人小腸間膜裂孔ヘルニアはまれな疾患で,術前診断が困難である。開腹歴や外傷のない絞扼性腸閉塞の症例では,小腸間膜裂孔ヘルニアも念頭に置き,迅速な対応が重要であり,その際に審査腹腔鏡を実施することは有用である。

  • 井上 真帆, 福田 賢一郎
    2017 年 37 巻 4 号 p. 681-685
    発行日: 2017/05/31
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー

    症例は64歳男性,食後からの心窩部痛を主訴に当院を救急受診した。腹部CTで十二指腸水平脚に石灰化を伴う線状陰影を認め,形状と食事摂取歴から魚骨による十二指腸穿通と診断した。管腔に対し垂直方向に穿通しており,穿通部位は上腸間膜静脈(Superior Mesenteric Vein:以下,SMV)より右側で膵頭部に近接していた。腹腔鏡下手術を施行し魚骨を摘出した。回結腸動静脈より頭側,SMVより右側の腸間膜を切開して腸間膜を頭側へ剝離し十二指腸前面に至った。水平脚の前壁に魚骨が穿孔しており鉗子で把持して摘出した。穿孔部は単純縫合閉鎖した。膿瘍や血腫形成は認めなかった。術後経過良好で術後5日目に退院となった。十二指腸魚骨穿通はまれな疾患であり,腹腔鏡での十二指腸異物摘出はこれまで報告がないが,腹腔鏡下の右側結腸手術と同様の操作で施行可能であり,安全かつ有用な治療方法と考えられた。

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