日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
38 巻, 7 号
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原著
  • 池内 浩基, 内野 基, 蝶野 晃弘, 佐々木 寛文, 堀尾 勇規, 桑原 隆一, 皆川 知洋
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1127-1131
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    【目的】炎症性腸疾患外科(IBD外科)における緊急手術の現状について検討した。【対象】IBD外科が設立された2014年4月から2017年3月までに手術を施行した1,094例のうち緊急手術であった197例(18.0%)を対象とした。【結果】1)主な対象疾患:潰瘍性大腸炎(以下,UC);102例,Crohn病(以下,CD);63例,ベーチェット病;9例。2)UCの手術の適応は疾患の増悪が73例(71.6%),そのうち2例が周術期死亡となっていた。また,術後合併症によるものが29例(28.4%)であった。3)CDの手術の適応は疾患の増悪によるものが47例(74.6%),術後合併症によるものが16例(25.4%)であった。原疾患の増悪病変部位は,腸管病変31例(66%),肛門病変16例(34%)であった。【結論】緊急手術の頻度は18.0%で,UCでは28.4%が,CDでは25.4%が術後合併症による緊急手術であった。

症例報告
  • 重留 一貴, 外山 和隆, 戸口 景介, 山口 拓也
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1133-1136
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    大腸癌が腹壁膿瘍を形成する例や胸壁の皮下気腫をきたす例は極めてまれである。今回穿通性のS状結腸癌から後腹膜気腫,胸壁の皮下気腫をきたした1例を経験した。症例は52歳男性。左下腹部痛,悪寒戦慄を訴え受診した。腹部CTで後腹膜に連続するS状結腸腫瘍と,後腹膜気腫,前胸部皮下気腫を認めたため,穿通性のS状結腸癌と診断し,緊急手術を行った。大腸癌が後腹膜穿通した場合,通常は後腹膜経路で食道裂孔から縦隔に至るが,皮下気腫はきたしにくい。本例は受診前にゴルフを行っており,その時の回旋運動により腹壁に貫通していた膿瘍が,腹腔内に穿破され,腹腔内感染を起こすとともに,ガス産生性嫌気性菌により,腹壁から胸壁に急速に皮下気腫形成をきたしたものと思われた。

  • 真鍋 高宏, 堀川 直樹, 所 智和, 宮永 章平, 馬渡 俊樹, 福島 亘, 薮下 和久
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1137-1140
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は88歳の男性で,48歳時に胃潰瘍の診断で幽門側胃切除術,Billroth Ⅰ法再建術を施行されていた。突然の嘔吐と腹痛を主訴に救急搬送された。造影CT検査でwhirl signおよび腹水の貯留を認め,絞扼性イレウスを疑い緊急手術を施行した。開腹すると小腸は上腸間膜動脈を軸に反時計回りに捻転しており,乳白色の腹水を伴っていた。捻転した小腸と腸間膜は乳白色に変化していたが虚血性の変化は認めず捻転を解除し手術を終了した。腹水中のtriglyceride値は1,192mg/dLと高値であり乳糜腹水を伴う小腸軸捻転と診断した。乳糜腹水を伴う絞扼性イレウスはまれな疾患で,しばしば上部消化管手術後の発生が報告されている。術後の体重減少や再建後の解剖学的変化が誘因となっている可能性が考えられた。

  • 阿左見 亜矢佳, 高野 祥直
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1141-1144
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    外傷性遅発性小腸狭窄(以下,本疾患)は腹部鈍的外傷後,遅発性に小腸狭窄をきたし腸閉塞となる疾患である。症例は64歳,男性。トラックに胸腹部を挟まれ受傷し,救急搬送された。内胸動脈損傷による縦隔血腫,肋骨骨折,肺挫傷,腹部打撲と診断され,同日内胸動脈塞栓術,開胸血腫除去術が施行された。受傷21日目に腹痛を呈し腸閉塞と診断され,イレウス管を挿入した。腸閉塞は改善されていたが,CTで回腸壁の限局性肥厚を認め,本疾患が疑われ手術の方針となった。小腸間膜と右内側臍襞が回腸に癒着し,同部位の回腸に狭窄を認めたため,腹腔鏡下癒着剝離および同部の小腸切除を施行した。本疾患では腸管狭窄の多くが非可逆的で手術加療を必要とするが,完全閉塞でなく腸閉塞発症から手術加療に至るまで時間を要することが多い。腹腔鏡を用いることにより低侵襲での腸閉塞の責任部位診断,治療が可能となるため腹腔鏡下手術は非常に有用であった。

  • 油木 純一, 長谷川 均
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1145-1148
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は55歳,女性。2週間前から心窩部違和感あり,臍から右下腹部に急激な疼痛を認めたため救急外来を受診した。造影CTの所見から,急性虫垂炎と診断して腹腔鏡下に緊急手術を施行した。虫垂は全体が腫脹して盲腸と癒着していた。虫垂処理後,盲腸穿孔部から漏出した便と腹水の変色を認めたため,盲腸穿孔による二次性虫垂炎と診断した。下腹部正中切開で開腹し回盲部切除術を施行した。摘出標本では虫垂根部近傍の盲腸に約5mm大の穿孔を認めた。肉眼的所見と病理組織学的所見から特発性に盲腸穿孔が生じ,虫垂が被覆して二次性虫垂炎を呈したものと診断した。急性虫垂炎の手術において,虫垂処理後に盲腸を観察することは盲腸穿孔の存在を見落とさない点で重要である。腹腔鏡は術中変化の把握に有用であると考えられた。

  • 小林 実, 大沼 忍, 村上 恵, 鈴木 秀幸, 山村 明寛, 唐澤 秀明, 神山 篤史, 青木 豪, 渡辺 和宏, 武者 宏昭, 内藤 剛 ...
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1149-1152
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    絞扼性腸閉塞はさまざまな原因によって腸管が絞扼・壊死する疾患であり,緊急手術を要する。今回,尿管が索状物となり絞扼性腸閉塞を発症した1例を経験した。症例は60歳女性,膣悪性黒色腫に対して膣全摘,広汎子宮全摘,骨盤・鼠径リンパ節郭清術を施行した。手術1ヵ月半後に突然の上腹部痛を主訴に当院救急外来に搬送され,夜間帯に婦人科に入院となった。翌日になり絞扼性腸閉塞が疑われたため,緊急手術を行った。術中所見では,回腸が骨盤前面で索状物により絞扼され壊死に陥っていた。索状物が右尿管である可能性も考えられたが,用手的な絞扼の解除が不可能であり,索状物を切離することで絞扼を解除し,壊死に陥った腸管を切除・吻合した。その後の検索で,索状物は右尿管であることが確認されたため,尿路再建術を施行のうえ,手術を終了した。尿管が原因となって絞扼性腸閉塞を発症した症例は極めてまれであり,若干の文献的考察を加え報告する。

  • 升井 淳, 上田 正射, 池永 雅一, 太田 勝也, 知念 良直, 板倉 弘明, 高山 碩俊, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 遠藤 俊治, ...
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1153-1157
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は52歳女性。既往歴として胆囊結石症に対する手術歴と腸閉塞に対する保存的治療歴がある。当院受診7時間前に腹痛を認め,改善しないため当院へ救急搬送された。Vital signは異常なかった。下腹部に著明な圧痛を認めた。腹部CTで多量の腹水,右下腹部の小腸にCaliber changeを認め腸閉塞を呈していた。以上より,絞扼性腸閉塞を疑い,緊急開腹手術を行った。開腹時,多量の漿液性腹水を認めた。回腸末端から50cm口側に60×40mmのMeckel憩室を認め,肛門側の回腸間膜に癒着していた。憩室が肛門側の回腸とともに捻転したと考えられた。Meckel憩室捻転による腸閉塞と診断し,Meckel憩室を含めた小腸部分切除術を施行した。腸閉塞の原因として,Meckel憩室によるものは0.3~1.2%とまれである。われわれはMeckel憩室捻転により生じた腸閉塞の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

  • 箱田 浩之, 酒向 晃弘, 羽部 匠, 前野 竜平, 横溝 悠里子, 稲垣 勇紀, 丸山 岳人
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1159-1162
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    腹部鈍的外傷による腸間膜損傷は比較的まれであり,鈍的外傷の約1~5%に認められるに過ぎない。しかし,鈍的外傷後には腹壁損傷や腹腔内臓器損傷を合併していることもあり,診断には注意を要する。また,鈍的外傷による腸間膜損傷は高所からの転落や交通事故などの高エネルギー外傷の結果として生じることが多い。今回,牛の角による鈍的外傷性腹腔内出血に対して腹腔鏡下に診断し,止血術を施行した。症例は54歳男性。勤務先の畜産センターで種牛を引いていたところ,牛が急に暴れだし,牛と壁との間に挟まれ受傷。胸腹部痛・呼吸苦あり,ドクターヘリで当院へ搬送。造影CTで腹腔内出血を認め,S状結腸間膜損傷が疑われたため,同日緊急で腹腔鏡補助下止血術を施行した。術後経過は良好で,術後第9病日に退院した。今回,われわれは,動物による外傷性腹腔内出血に対して腹腔鏡下に診断し,止血術を行った1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

  • 國友 愛奈, 山本 博崇
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1163-1165
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は94歳女性。腹満と嘔気の精査加療目的で近医より紹介された。腹部X線とCTで上腹部に腹腔内遊離ガスを認めたが,腹膜刺激症状は認めず,血液検査上も炎症反応の上昇は認めなかったため,特発性気腹症の疑いで保存的加療とした。入院後も症状増悪はなく,第4病日の上部消化管内視鏡でも穿孔部位や潰瘍性病変は認めず,第8病日に退院となった。腹腔内遊離ガスは消化管穿孔を強く疑う所見である。しかし本症例では,腹膜刺激徴候がなく腹部所見が軽度であることを重視し,特発性気腹症も念頭に置き慎重に経過観察したことで,全身麻酔や手術の侵襲を回避できた。腹腔内遊離ガスを認めた場合でも,消化管穿孔以外の可能性も考慮し,腹部所見を十分に評価することが重要である。

  • 財津 雅昭, 村田 竜平, 大渕 佳祐, 今 裕史
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1167-1170
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    胆囊捻転症は比較的まれな疾患で,近年画像検査の進歩により特徴的な所見を見極めれば術前診断が可能な症例が増えてきているが,依然として術前診断が困難な症例がある。われわれは高齢女性の胆囊捻転症を急性胆囊炎と診断し早期に手術を施行した症例を経験したので報告する。症例は90歳の女性。右腹部痛が2日間持続したため精査目的に当院を受診。右上腹部から下腹部にかけて圧痛を伴う腫瘤を触知した。腹部USおよびCTで胆囊の腫大,壁肥厚,胆囊周囲液体貯留と,胆囊および総胆管に結石を認めた。これらの所見より中等症急性胆囊炎の診断で緊急で腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した。胆囊は頸部で360度反時計回り方向に捻転し,それより末梢側の胆囊壁は暗赤色に変化しており壊死に陥っていた。捻転解除後に胆囊を摘出した。術後経過は良好であった。胆囊捻転症は急性胆囊炎と一部同様の所見を呈するため慎重な術前診断が必要であると思われた。

  • 仲野 哲矢, 飯合 恒夫, 太田 宏信, 石塚 基成, 黒﨑 功
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1171-1174
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,男性。下痢,腹痛を主訴に当院消化器内科を受診した。腹部は膨満し下腹部に軽度の圧痛を認めた。腹部CT検査ではS状結腸に多量の便塊と腸管壁の菲薄化を認め,骨盤底には少量の腹水を認めた。血液検査ではCEA 42.4ng/mLと高値であったため,大腸癌による腸閉塞を疑い入院となった。腹部所見は排便後に軽快したため保存的治療で経過観察していたが,5日後に施行した下部消化管内視鏡検査でS状結腸から直腸S状部の腸管粘膜の壊死を認め,虚血性大腸炎の診断で緊急手術を行った。S状結腸の漿膜面に一部黒色調の変化を認め,全層性の壊死が疑われたためS状結腸切除ならびに下行結腸人工肛門造設術を施行した。術後に行った全身検索でも明らかな悪性腫瘍は認めなかった。術後第18病日に再検したCEAは1.8ng/mLと正常化しており,第28病日に軽快退院した。CEAが高値を示した急性腹症では悪性疾患のみでなく,虚血性大腸炎の可能性も念頭に置き精査治療にあたることが重要であると思われた。

  • 大谷 裕, 山田 敬教, 菅澤 健
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1175-1179
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は22歳の男性。腹痛,発熱を主訴に当院救急外来を受診した。左季肋部に反跳痛を認め,血液検査では炎症反応の上昇,腹部CTではTreitz靭帯近傍に囊胞性病変を指摘された。入院後次第に症状が軽快したが,囊胞性病変が増大して水腎症をきたしたため,外科的切除が検討された。しかし,合併症の危険性が高いと判断し保存的治療を継続したところ,自覚症状が劇的に改善して病変が縮小したため,後日根治手術を施行し,空腸間膜内の囊胞性病変を摘出した。病理組織検査では仮性腸間膜囊胞と確定診断された。腸間膜囊はまれな疾患で,成人例や仮性囊胞の報告例は少ない。腹腔鏡下手術は,腸間膜の血管や周辺臓器を損傷することなく手術を進めるのに有用であった。

  • 吉川 清, 山田 和宏
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1181-1184
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は57歳女性。ヘリコバクターピロリ除菌治療後,C型肝炎キャリア。2015年4月吐血およびタール便を主訴に当院に救急搬送され,出血性十二指腸潰瘍の診断で内視鏡的止血術を施行した。一次止血が得られ保存的加療中であったが,入院7日目に再出血から出血性ショック状態となり,緊急手術を施行した。術中所見から膵頭十二指腸切除術を施行し,術後39日目に退院となった。今回われわれは,ショック状態を伴う十二指腸潰瘍出血に対し,膵頭十二指腸切除術を施行し,救命し得た1例を経験した。良性潰瘍に対する外科的治療では,縮小手術が選択される傾向にあるが,症例によっては潰瘍全切除を目的とした拡大手術も念頭に置くべきと考えられた。

  • 三浦 孝之, 與那嶺 直人, 横山 忠明, 福原 賢治
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1185-1188
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は89歳,女性。子宮癌に対し子宮全摘術と放射線治療歴があり,これまで放射線性腸炎による腸閉塞で複数回の入院加療歴があった。今回も放射線性腸炎のため入院となった。入院3病日に発熱および腹膜炎症状が出現したため腹部CT検査を施行したところ腹腔内にfree airを認め,さらに入院時に留置した尿道カテーテルが膀胱壁を貫いていた。圧痛は下腹部に限局しておりカテーテル先端を膀胱内まで引き抜いて減圧と抗菌化学療法による保存的治療を行った。経過は良好で28病日に逆行性膀胱造影検査で穿孔部の閉鎖を確認し尿道カテーテルを抜去した。膀胱鏡検査では放射線性膀胱炎が判明し,本例は膀胱壁の脆弱性を背景にカテーテル挿入時の物理的な外力が加わって穿孔したと推察された。尿道カテーテル留置後に生じた急性腹症では膀胱穿孔を念頭に置き,保存的治療も選択肢の1つにすべきと思われた。

  • 山中 崇弘, 新木 健一郎, 石井 範洋, 塚越 真梨子, 五十嵐 隆通, 渡辺 亮, 久保 憲生, 播本 憲史, 渋谷 圭, 大嶋 清宏, ...
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1189-1193
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    肝膿瘍による門脈血栓症を,集学的治療で救命し得た貴重な1例を経験したので報告する。【症例】68歳男性。主訴は発熱。精査で肝膿瘍,敗血症の診断で経皮経肝膿瘍穿刺および抗菌薬治療を開始した。その後,播種性血管内凝固症候群(DIC)を発症し,抗凝固療法を行ったが,第2病日に門脈血栓症を発症した。抗凝固療法の継続で肝機能は改善傾向となったが,第11病日に仮性肝動脈瘤による胆管消化管出血を認め,コイルを用いた選択的肝動脈塞栓術を行った。第47病日にリハビリ転院となった。【考察】本邦での肝膿瘍による門脈血栓症の報告9例では,門脈本幹の血栓を6例(67%),上腸間膜静脈血栓を3例(33%)認めたが,死亡例は認めなかった。肝膿瘍に伴う門脈血栓症は,上腸間膜静脈血栓による腸管壊死・虚血を認めなければ,敗血症や肝膿瘍,併存症に対する集中治療を適切に行うことで救命しうると考えられた。

  • 余語 孝乃助, 平松 聖史, 関 崇, 藤枝 裕倫, 新井 利幸
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1195-1198
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は70代の男性で,頭頸部癌に対し化学療法中であった。化学療法開始10日目に胃内容排泄遅延あり経鼻胃管を留置していた。一旦軽快傾向にあったが,10日後,呼吸苦が出現し,CTにて左膿胸を認めたため,胸腔ドレナージを施行した。その2日後,ドレーンより食物残渣の流出を認めたため,緊急上部消化管内視鏡検査を施行すると,胃穹窿部を中心に多発潰瘍を認めた。造影すると胃内部から左胸腔への造影剤の流出を認めた。穿孔性胃潰瘍が胃胸腔瘻を形成し左胸腔へ穿破し膿胸をきたしたと診断し,同日緊急手術を施行した。左開胸開腹で術野を展開すると,左横隔膜に瘻孔の形成を認め,胃の潰瘍底が穿孔し胸腔内へ穿破していた。胃壁は横隔膜と強く癒着し,腹腔内の汚染は認めなかった。横隔膜と胃を剝離した後に,胃潰瘍穿孔部は縫合閉鎖し,大網で被覆した。横隔膜の瘻孔は縫合閉鎖し,左胸腔内を洗浄,ドレーンを留置し手術を終了した。

  • 三木 明寛, 大谷 剛, 石川 順英
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1199-1202
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は75歳,男性。2年前に胃癌に対して幽門側胃切除(D2),Roux-en-Y再建術を施行した。病理結果はpT4aN3M1(cy+),StageⅣで,術後からS1+Cisplatin療法1コース後,S1療法を継続し無再発で経過していた。今回,腹膜播種を認めたため,Paclitaxel+Ramucirumab療法を開始したが,1コースday5に強い腹痛を訴えた。CT検査で胃腸吻合部前壁の菲薄化と腹水,遊離ガスを認め,胃穿孔による汎発性腹膜炎と診断し緊急手術を行った。胃腸吻合部前壁に穿孔を認めたが,大網切除後かつ癌性腹膜炎による肝円索短縮や小腸の強い癒着もあり修復困難であった。そのため,穿孔部近傍の壁側腹膜をフラップ状に剝離し被覆した。術後21日目に独歩退院した。胃切除後や癌性腹膜炎における胃穿孔で被覆組織の選択に難渋する場合には壁側腹膜の使用が有用な手法の1つになると考えられた。

  • 荒川 敏, 浅野 之夫, 志村 正博, 清水 謙太郎, 林 千紘, 神尾 健士郎, 河合 永季, 安岡 宏展, 東口 貴彦, 石原 慎, 伊 ...
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1203-1207
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    上行結腸憩室出血に対して術中内視鏡を併施し腹腔鏡下手術を施行した2例を経験した。2例とも造影CT検査を行い,腸管内への造影剤の漏出が確認できた。症例1は一時緊急下部消化管内視鏡検査を行い止血したが,貧血進行し,造影CT検査で腸管内への造影剤の再漏出が確認され,下部消化管内視鏡検査を再度行うも憩室が多発しており出血部位の同定は困難であったため手術を施行した。症例2は造影CT検査で腸管内への造影剤の漏出が確認でき,IVRにより止血したが再出血のため手術を行った。術中内視鏡を併施することで残存予定腸管に出血点およびその原因となり得る病変がないことの確認ができ,切除範囲決定に有用であった。IVRが常時行えない施設では術中内視鏡を併施することで腹腔鏡下手術でも切除範囲を決定できる可能性があり,憩室出血に対して有効な治療法の1つになりうる。

  • 江口 真平, 前田 清, 中尾 重富, 渋谷 雅常, 永原 央, 六車 一哉, 豊川 貴弘, 平川 弘聖, 大平 雅一
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1209-1212
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は67歳,男性。頭部血管肉腫に対して当院皮膚科で放射線療法中に腹部膨満および腹痛が出現した。腹部CTで,回腸の壁肥厚と,同部より口側小腸の拡張が認められた。腸閉塞と診断し,イレウス管による保存的治療を行うも改善が認められないため手術を施行した。腹腔鏡下に腹腔内を観察したところ回腸に約5cm大の暗赤色の腫瘍を認め,口側小腸の拡張を伴っており,同部位が閉塞起点と考えられた。小開腹をおき,小腸部分切除術を施行した。病理組織学的検査では頭頂部血管肉腫からの小腸転移と診断された。血管肉腫からの小腸転移はまれであり,文献的考察を加えて報告する。

  • 青柳 武史, 大西 惠美, 押領司 篤宣, 円城寺 貴浩, 猿渡 彰洋, 北里 雄平, 岩永 彩子, 緒方 俊郎, 爲廣 一仁, 靏 知光, ...
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1213-1218
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は29歳男性,重度の精神発達遅滞で元来意思疎通が困難な状態であった。突然の血圧低下と腹部膨満を主訴とし,腸閉塞の診断で当科紹介となった。腹部CTで下腹部腹壁直下の囊胞性病変と遊離ガスのない腹水貯留,明らかな閉塞起点のない腸管拡張を認めた。囊胞穿刺液よりムコイド型Klebsiella pneumoniaeが同定され,感染性尿膜管囊胞を伴った腹膜炎と麻痺性腸閉塞の診断となった。抗生剤投与による保存的加療で状態が改善しなかったため,腹腔鏡下に尿膜管囊胞の切除と腹腔内ドレナージを施行し症状の改善を得た。同菌を起因菌とした膿瘍は難治性であることを念頭に置き,抗生剤投与や経皮的ドレナージのみならず膿瘍の開窓術や感染臓器の摘除を含めた加療も検討すべきである。

  • 赤井 正明, 岩川 和秀, 稲垣 優, 岩垣 博巳
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1219-1222
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,腸管皮膚瘻とメッシュ感染を伴う腹壁創離開に対して,components separation法が有用であった症例を経験したので報告する。症例は61歳,男性。前医で右尿管結石症に対して経尿道的尿路結石除去術を施行し,術中に尿管を損傷し開腹術となる。術後腹壁創離開あり,メッシュを用いた腹壁瘢痕ヘルニア修復術を施行した。術後,メッシュに癒着した小腸が穿孔を起こし,腸管皮膚瘻を形成し,当院へ紹介となった。保存的加療を行ったが改善せず,小腸部分切除,メッシュ除去術,components separation法による腹壁再建を施行した。腹壁には8×6cmの欠損部分があり,components separation法のみで閉腹することができた。感染を伴う症例や,大きな筋膜欠損を伴う腹壁創離開に対して,components separation法は有用であると思われる。

  • 犬飼 公一, 北上 英彦, 野々山 敬介, 原田 真之資, 藤幡 士郎, 宮井 博隆, 髙嶋 伸宏, 山本 稔, 早川 哲史
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1223-1227
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    今回,われわれは十二指腸嵌頓の胆石イレウスを2例経験したので報告する。症例1は69歳の女性で頻回の嘔吐を主訴に当院受診した。CTで胆囊十二指腸瘻および十二指腸水平脚に胆石の嵌頓を認めた。自然排石を期待した保存的治療では結石は移動せず,手術を施行した。手術は用手的に空腸まで胆石を移動させたうえで空腸を切開して摘出し,胆囊摘出術,十二指腸瘻孔閉鎖術を一期的に施行した。症例2は69歳の女性で胆石症の既往があり,嘔吐を主訴に当院受診した。CTで胆囊十二指腸瘻および十二指腸球部に胆石の嵌頓を認め,3日後に手術を施行した。瘻孔部を切開して胆石を摘出,胆囊摘出術と十二指腸瘻孔閉鎖および胃空腸吻合術を施行した。2例とも一期的手術により良好な結果を得た。

  • 飯高 大介, 小西 智規, 中島 晋, 藤山 准真, 増山 守
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1229-1234
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は60歳台の男性で食事摂取後に乗馬した際に落馬し,胸腹部打撲のため当院に救急搬送された。腹部は板状硬であった。腹部CT検査で腹腔内遊離ガス像,胃前壁の不連続性および左腎動脈の血流途絶を認めた。外傷性胃破裂による汎発性腹膜炎が疑われたため緊急手術を施行した。腹腔内の腹水は汚染されており,胃体部前壁から大弯にかけて約5cmの長さにわたって破裂していた。これを縫合閉鎖した。患者は術後に腎周囲膿瘍を発症したが,ドレナージで軽快し,術後39日目に退院となった。腹部外傷において胃破裂の頻度は決して高くはないが,文献的考察ではfull stomachの状態では起こりやすいため,十分な問診をしたうえで可能性があれば常に念頭に置くべきであると考えられた。

  • 三橋 佑人, 木村 憲央, 石戸 圭之輔, 工藤 大輔, 掛端 伸也, 袴田 健一
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1235-1239
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    上腸間膜動脈塞栓症(以下,SMA塞栓症)は,発症後短時間で腸管壊死をきたし広範な腸管切除を要することが多い予後不良な疾患である。症例は69歳男性。既往歴に未治療の心房細動があった。腹痛を主訴に前医を受診し,CTでSMA塞栓症が疑われ当院へ救急搬送された。受診時意識清明,腹壁は軟で,筋性防御は認めなかった。CTでSMA本幹に血栓を認めるも腸管壊死を示唆する所見はみられず,放射線科にコンサルトし,血管造影検査を施行した。同様にSMA本幹に血栓を認め,続いてウロキナーゼによる血栓溶解療法を施行した。トータル72万単位の動注によりSMAの完全な開通が得られた。抗凝固療法を開始し,経過良好で第12病日に退院した。熟練した放射線科医と早急な連携を図り,開腹術を回避しつつ救命し得た症例であった。本症に対する血栓溶解療法は,腸管虚血の可逆性を慎重に判断したうえで,緊急手術にも対応可能な施設環境の下で選択すべき治療法である。

  • 倉田 徹, 片野 薫, 東海 竜太朗, 萩野 茂太, 庄司 泰弘, 佐々木 省三, 北川 裕久, 藤村 隆
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1241-1245
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は49歳,男性。近医で約2週間前に右鼠径ヘルニア(日本ヘルニア学会分類:Ⅱ–2型)に対しDirect Kugel法で修復術を施行された。前日からの腹部膨満感を主訴に当院受診し,ヘルニア修復のメッシュ部位への癒着が起点となった癒着性イレウスと診断し,緊急で腹腔鏡下手術を施行した。ヘルニア修復部に腹膜欠損を認め,同部位で小腸がメッシュに強固に癒着し腹膜前腔へ脱出し,イレウスを呈していた。メッシュごと腸管周囲剝離を行い,transabdominal preperitoneal hernia repair(TAPP法)に準じて再修復を行った。メッシュが癒着した小腸は小開腹下に切除した。初回手術時の腹膜損傷が原因と考えられ,腹膜前腔の剝離操作は慎重に行う必要があった。鼠径ヘルニア術後のイレウスはまれだが,腹膜欠損による発症形態を念頭に置き,早期診断と積極的な手術加療が重要であると考えられた。

  • 宮永 章平, 森 和也, 尾島 英介, 道輪 良男, 中野 達夫
    2018 年 38 巻 7 号 p. 1247-1251
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2020/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は91歳,女性。腹部膨満,嘔吐を主訴に当院へ紹介となる。腹部CTで口側腸管の著明な拡張を伴う右閉鎖孔ヘルニアと診断した。緊急手術を予定するも,術前嘔吐が持続したため,イレウス管を挿入し腸管減圧を行った後,腹腔鏡下に嵌頓解除,ヘルニア門修復を施行した。閉鎖孔ヘルニアは高齢女性に好発しイレウスを伴っていることが多いが,イレウス管挿入による術前減圧で腹腔内視野確保が良好となり,比較的低侵襲と考えられる鏡視下手術をより安全に施行し得ると考えられた。

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