日本腹部救急医学会雑誌
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39 巻, 7 号
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原著
  • ―NOMの適応と限界に関する検討―
    吉屋 匠平, 皆川 亮介, 伊藤 心二, 赤星 朋比古, 梶山 潔
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1179-1183
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    【背景/目的】外傷性肝損傷治療の基本は非手術療法(以下,NOM)であり,その実際を明らかにする。【対象/方法】対象期間は2010年1月より2015年12月,16施設に対しアンケート調査を行い,鈍的肝損傷症例を抽出し,NOM選択例の治療経過を検討した。【結果】対象は239例,年齢39.6歳,男性155人,肝損傷分類Ⅰa:Ⅰb:Ⅱ:Ⅲa:Ⅲb=38:101:24:23:53,受傷機転は交通外傷が最多だった。NOM選択率は95.4%,NOM完遂率は94.7%,晩期合併症6例(2.5%),死亡19例(7.9%)であった。肝損傷による死亡は8例であり,うちNOM逸脱例が4例(出血死)を占めていた。またⅢ型肝損傷例におけるNOM逸脱の危険因子は輸血量とアシドーシスであった。【結語】出血が原因でNOM逸脱となった症例の予後は悪く,アシドーシスや輸血必要量を考慮した初期治療選択やNOM後の慎重な経過観察が予後改善に重要であると考えられた。

  • 西牟田 雅人, 福岡 秀敏, 荒井 淳一, 橋本 慎太郎
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1185-1189
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    下部消化管穿孔症例では手術部位感染(surgical site infection:以下,SSI)を生じると,入院期間の延長や医療費の増大につながるが,近年,予防的な局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:以下,NPWT)がSSI予防に有用との報告が散見される。当科では下部消化管穿孔症例に対して創部は一次閉鎖していたが,2013年1月から2017年12月でSSI発生率は21例/63例(33.3%)であった。高率にSSIを生じている背景から,2018年1月より予防的NPWTを導入し2018年8月までで8例施行した。予防的NPWT施行群8例のうち7例ではSSIは生じなかったが,1例ではSSIを認めた。下部消化管穿孔症例に対する予防的NPWTは有用な可能性もあるが,施行する症例の選択,適切なNPWTの管理法などはさらなる検討が必要である。

症例報告
  • 加藤 悠人, 佐藤 幸男, 金子 靖, 筒井 麻衣, 高野 公徳, 山本 聖一郎, 中川 基人, 葉 季久雄
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1191-1194
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    外傷による脾仮性動脈瘤形成の自然経過は明らかでない。今回,われわれは受傷後1週間で撮像した腹部造影CT検査で脾仮性動脈瘤を認めた症例を経験した。患者は8歳の女児で,遊戯施設で転倒して左側胸部を丸太で強打して受傷した。来院時の腹部造影CT検査で日本外傷学会損傷分類2008のⅢb型脾損傷と腹腔内出血があった。造影剤の血管外漏出はなく,循環動態は安定しており,非手術的治療(nonoperative management:NOM)の方針として入院した。入院後も循環動態は安定して推移した。受傷1週間後の腹部造影CT検査で脾内に仮性動脈瘤を認め,経カテーテル動脈塞栓術を施行した。受傷12日目に軽快退院し,2ヵ月間の運動制限を指示した。受傷後3ヵ月で外来通院を終了した。脾仮性動脈瘤の発生機序や自然経過は明らかでない点が多く,診断とその治療は定まっていない。今後も症例の蓄積が必要と考える。

  • 石原 伸朗, 河村 史朗, 原田 直樹
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1195-1198
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は77歳女性。54歳時に子宮頸癌に対して子宮全摘術と術後放射線療法の既往がある。2日前から発熱と腹痛,意識レベルの低下を認め救急搬送となった。来院時,39.0℃の発熱と腹部全体の腹膜刺激徴候を認め,腹部単純CT検査では大量の腹水と少量のfree airを認めた。消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断で緊急開腹手術の方針とした。腹腔内には大量の膿性腹水が存在したが,消化管には穿孔部位を認めなかった。膀胱頂部に直径3mmの穿孔部を認め,膀胱自然破裂と診断し穿孔部を単純閉鎖した後,大網を被覆し手術を終了した。術後は再発予防目的に膀胱内バルーンカテーテルを留置し退院した。適切な治療や管理が行われるために,骨盤内への放射線治療歴がある腹痛症例ではたとえ長期間が経過していても膀胱自然破裂を鑑別に入れた治療前検索が必要であるとともに,発症後の再発予防や発症を未然に防ぐための慎重な排尿症状の観察も重要であると考えられた。

  • 小原 有一朗, 桂 彦太郎, 口分田 亘
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1199-1203
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    成人臍ヘルニアは高度肥満や肝硬変などの基礎疾患を有することが多いため,嵌頓例は重症化することがある。今回われわれは,臍ヘルニア嵌頓で緊急手術を施行した4例を経験したので報告する。症例は男性3例,女性1例で,年齢は54から92歳(中央値63.5歳)であり,BMIが20.3から27.4kg/m2(中央値24.1)であった。3例に肝硬変の既往を認めた。手術は全例,全身麻酔下で行った。術式は単純閉鎖が2例,メッシュによる修復が2例であった。腸管切除を行った症例は1例であった。術後,呼吸不全のため人工呼吸管理を要した症例を2例認めた。入院日数は8日から37日(中央値13日)で,死亡例,再発例は認めていない。基礎疾患を有する症例が多く,術前の全身状態が良好であっても,術後に人工呼吸管理を要する症例がみられた。全身麻酔リスクが高い症例では,局所麻酔下での手術も検討する必要があると考えられた。

  • 橋本 昌幸
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1205-1208
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    精神発達遅滞のある47歳女性が,1週間前に裁縫針を飲み込んだと訴えた。これまでに針の異食による4回の開腹歴があった。近医で撮影した腹部単純X線で異物が確認され当科紹介となった。自覚症状はなく,腹膜刺激症状もなかった。腹部CT検査では計16本の針が確認され,一部管腔外へ脱出していたが,腹腔内遊離ガス像や腹水はなかった。手術治療の同意が得られず,自然排泄を期待し経過観察のため入院とした。第17病日に精神科入院施設へ転院するまで,自覚的・他覚的異常所見を認めなかった。転院後,当科外来に2年間無症状で通院している。腹部単純X線で確認できる針の数は減少し,管腔外へ遊走した針は固定されたままである。鋭利な異物の誤飲は,自然排泄されるまでに長期間を要することがある。異物が感染しにくい無機物で,無症状で固定されている場合は保存的加療も可能であると考えられた。

  • 多田羅 敬, 直 聖一郎, 中島 幸一, 佐竹 信祐, 山崎 良定
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1209-1212
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は73歳女性。9ヵ月前に転倒し,右肩から右胸部を強打して右肩腱板断裂で手術を受けた。前日夜からの心窩部痛の増悪を主訴に当院救急搬送された。造影CTで腸管の右胸腔内への脱出,腸管拡張,および横隔膜を起点とした脱出腸管のclosed loop sign,造影不良を認めたため,右横隔膜ヘルニア嵌頓による絞扼性腸閉塞の疑いで緊急手術を行った。移動性盲腸の所見であり右横隔膜のヘルニア門を通じて,回腸末端から約10cmの回腸が約30cmにわたり胸腔内へ脱出,嵌頓していた。横隔膜はヘルニア門以外にも亀裂がみられ脆弱であった。ヘルニア門を切開し絞扼を解除したところ,嵌頓腸管は壊死していたため,壊死腸管切除と横隔膜修復を施行,手術を終了した。術後経過は良好であった。今回われわれは外傷の9ヵ月後に発症した遅発性外傷性横隔膜ヘルニアの1例を経験したので報告する。

  • 大樂 勝司, 船水 尚武, 中林 幸夫, 矢永 勝彦
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1213-1216
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は57歳男性で,右下腹部痛を主訴に当院内科を受診し,腸閉塞疑いで保存加療に不応のため当科へ紹介。腹部造影CTで盲腸背側にclosed loopを呈する小腸を認め,絞扼性腸閉塞が疑われ,翌日,緊急手術を施行した。盲腸背側に約2cmの裂孔を認め,Treitz靭帯より140cm肛門側の小腸が10cmにわたり陥入しており,盲腸後窩ヘルニア嵌頓と診断した。裂孔を開放後,嵌頓を解除し,腸管を切除することなく手術を終了した。術後経過は良好で,術後8日目に退院となった。盲腸後窩ヘルニアは内ヘルニアのなかでも比較的まれであるが,緊急手術を要することがある。今回,われわれは盲腸後窩ヘルニアの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 桜井 博仁, 梅谷 直亨, 金井 信恭, 北川 祐資, 阿部 真也, 田村 徳康
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1217-1220
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は51歳女性。1週間持続する嘔吐・下痢と脱力で救急搬送となった。敗血症性ショック状態で,腹部単純CT検査では腸管浮腫と大量の腹水を認め,腸管壊死を疑い緊急手術を施行した。開腹すると2,000mLに及ぶ乳白色調の膿性腹水を認めた。腹腔内をすべて観察したが,腸管壊死や腸管穿孔などの所見を認めず,腹腔洗浄ドレナージ術のみを施行し手術を終了した。帯下培養,血液培養,腹水培養からStreptococcus pyogenes(Group A)が検出された。透析治療などを含めた急性期治療で感染コントロールができているにもかかわらず,筋力低下や末梢神経障害を認め,敗血症によるcritical illness polyneuropathy(CIP)と診断した。今回,劇症型A群溶連菌による骨盤腹膜炎で多彩な症状を呈したが,手術・急性期治療・リハビリテーションで救命し得た1例を経験したため若干の文献的考察を加え報告する。

  • 黨 和夫, 白石 斗士雄, 田上 幸憲, 髙村 祐磨, 荒井 淳一, 稲村 幸雄, 岩崎 啓介, 石川 啓
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1221-1225
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    空腸憩室穿孔は術前診断が困難なまれな疾患である。68歳のアメリカ人男性が上腹部痛と炎症所見高値のため当院を紹介受診となった。上腹部に圧痛を認めるも筋性防御は認めなかった。腹部CTでは小腸間膜内に膿瘍形成と30mm大の内部に含気を有する構造物を認めた。空腸GISTの穿孔も否定できず,空腸穿孔,腹腔内膿瘍の診断で緊急手術を施行した。上部空腸の癒着を剝離すると膿汁が流出した。Treitz靭帯から約75cmの空腸の腸間膜側に憩室の穿孔を認めた。穿孔部を含めて約20cmの小腸を部分切除した。切除標本の憩室内にはセロファンと思われる膜様物が3枚迷入しており穿孔との関連が示唆された。異物が穿孔に関与していると考えられた空腸憩室穿孔の1例を経験した。消化管穿孔の原因としてはまれな疾患であるが,画像診断機器の進歩もあり近年では術前に診断できる報告が増えている。

  • 豊田 和宏, 矢野 雷太
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1227-1229
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は50代の女性。近医で盲腸腫瘍に対して内視鏡的切除術を受けた4日後に右下腹部痛を主訴に受診された。腹部CTでは虫垂内に内視鏡クリップを認め,それとは別に盲腸腫瘍切除部に炎症所見を認めた。腹痛の原因および治療方針の判断に悩んだが,抗生剤投与を選択し,翌日には症状が軽快した。切除した盲腸腫瘍の病理診断結果が腺腫であったことを確認した後,クリップは比較的鋭利で後に穿孔をきたすリスクがあると考えて第3病日に単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を施行した。術中所見では盲腸腺腫切除部の発赤と腫脹および大網の癒着を認め,同部の炎症が腹痛の原因と考えられた。虫垂にはクリップが遺残していたが,炎症所見を認めなかった。虫垂への内視鏡クリップの迷入はまれで,虫垂炎を伴っていない状況で発見された報告はなく,本症例では近傍の炎症による腹痛も合併しており対応に悩んだ症例を経験したのでこれを報告する。

  • 有働 竜太郎, 渡邊 充, 土田 明彦
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1231-1234
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は48歳の男性で,右鼠径部膨隆と疼痛を主訴に当院救急外来へ転送された。右鼠径ヘルニア嵌頓と診断し徒手整復で還納した。疼痛は改善したが,腹部CTで小腸の浮腫と少量の腹水を認め,経過観察目的で入院した。第3病日に行った経過観察目的の腹部CTで小腸浮腫の増悪と腹水の増加を認めたので腹膜炎を疑い審査腹腔鏡を行った。回腸腸間膜対側に漿膜損傷を認め,ヘルニア嵌頓整復によるものと判断し腹腔鏡下小腸部分切除術を施行した。腹腔内の汚染は軽度であったため,前方アプローチで根治術を行い経過は良好で,術後第10病日に退院した。鼠径ヘルニア嵌頓の徒手整復は腸管損傷を起こす可能性があることを念頭に置くべきと考え報告する。

  • 宮田 隆司, 松井 大輔, 二上 文夫
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1235-1238
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例1は74歳,男性。腹痛を主訴に救急受診し,画像検査でS状結腸軸捻転症と診断し緊急大腸内視鏡下に捻転を解除した。6ヵ月,11ヵ月後にも再発を認め,内視鏡下に整復した。その後,単孔式腹腔鏡補助下に約30cmのS状結腸切除を行った。第9病日に軽快退院した。症例2は86歳,女性。腹痛を主訴に救急受診し,画像検査でS状結腸軸捻転症と診断し緊急大腸内視鏡下に捻転を解除した。3ヵ月後にも再発を認め,内視鏡下に整復した。その後,単孔式腹腔鏡補助下に約35cmのS状結腸切除を行った。第13病日に軽快退院した。本症に対する単孔式手術は低侵襲かつ安全に施行可能であり,治療選択肢の1つになりうると考えられた。

  • 有竹 典, 宇野 雅紀, 小林 龍太朗, 髙木 健司
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1239-1242
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は13歳,男児。早朝の運動中に腹痛が出現し,昼食後に増悪して当院へ救急搬送された。腹部は平坦・軟で臍上部に限局した強い圧痛を認めた。腹部造影CT検査で上腸間膜動脈を軸とした時計回りのねじれを認め,腸捻転を強く疑って緊急手術を施行した。腹腔鏡で観察すると,上行結腸が後腹膜に固定されておらず左側に捻転していた。鏡視下での整復は困難であり,開腹へ移行した。上行結腸および小腸が時計回りに180度捻転していた。腸管に壊死や穿孔は認めなかった。以上の所見より腸回転異常に伴う腸軸捻転症と診断した。捻転を整復し,上行結腸を後腹膜に固定した。術後経過は良好で,術後6日目に軽快退院となった。若年期以降の腹痛の原因として腸回転異常に伴う腸軸捻転症はまれであり報告する。

  • 松友 寛和, 宮崎 龍彦
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1243-1246
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は82歳,女性。下腹部違和感を主訴に当科を受診した。初診時に左下腹部に圧痛を認め,直腸診で弾性硬,鶏卵大の腫瘤を触知した。CT検査ではS状結腸に重積と考えられるtarget sign,直腸に先進病変と思われる類円形腫瘤影を認めた。内視鏡検査では重積の整復が行えず緊急手術を行った。Hutchinson手技により用手的に重積を解除した後,結腸癌に準じてリンパ節郭清を伴う結腸切除と人工肛門造設を行った。組織学的検査で高分化型結腸脂肪肉腫と診断された。消化管原発脂肪肉腫症例は少なく非常にまれな症例と考えられたので文献的考察を加えて報告する。

  • 石川 諄武, 神藤 修, 宇野 彰晋, 高木 徹, 川端 俊貴, 稲葉 圭介, 松本 圭五, 落合 秀人, 鈴木 昌八
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1247-1250
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は48歳男性。乗用車同士の衝突事故で救急搬送された。ショックを示唆するバイタルサインであったが,急速補液と輸血で循環動態が安定した。腹部CTで腹腔内出血を伴う外傷性腹壁ヘルニアと診断し,緊急手術とした。ヘルニア門に絞扼された腸管,腸間膜を開放すると腸間膜血管断裂部からの出血が確認できた。破綻血管を結紮して止血し,虚血に陥った小腸を切除吻合したところで心室細動となった。蘇生により容易に洞調律に復した。逆L字型開腹創は,腹壁ヘルニアとなっていた腹斜筋断裂部も含めて腹壁を縫合閉鎖し閉腹した。術後5日目に遅発性上行結腸穿孔が発生して再開腹を要したが,術後現在まで14ヵ月間,腹壁ヘルニアの再発なく経過している。循環動態が不安定な外傷性腹壁ヘルニアの緊急手術で,十分な腹腔内検索ができずに閉腹すべきと判断された場合,遅発性臓器損傷の可能性があるので,ヘルニア門は直接縫合閉鎖するのが妥当と考える。

  • 山田 衣里佳, 関根 悠貴, 市川 亮介, 宮野 省三, 渡野邉 郁雄, 町田 理夫, 須郷 広之, 児島 邦明
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1251-1254
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    器械吻合後の吻合部出血はまれな合併症であり,術直後の吻合部出血に対する内視鏡的止血術は縫合不全惹起のリスクから,これまで報告は少ない。今回,大腸切除後早期の器械吻合部からの出血に対し内視鏡的止血術を施行した3例を経験した。症例1は74歳女性で開腹横行結腸切除術後,第1病日に内視鏡的止血術を施行。症例2は57歳女性で腹腔鏡下S状結腸切除術後,第2病日に施行。症例3は49歳男性で開腹回盲部切除術後,第3病日に施行された。3例とも吻合は機能的端々吻合であり,クリッピングによる止血を行った。3例とも止血後,再出血や縫合不全を認めず良好な結果であった。今回の経験から術直後であっても内視鏡的検査は安全に施行可能であり,吻合部出血に対する有用な止血法になるものと思われた。

  • 中村 学, 石坂 克彦
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1255-1258
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    既往に認知症を認める91歳女性が,嘔吐と腹痛を主訴に救急搬送された。バイタルサインは安定し,腹部診察と血液検査では重篤な腹腔内感染症を示唆する所見に乏しかった。腹部CTでは著明な門脈内ガスを認め,胃から十二指腸下行部および近位空腸には泡状壁内気腫像を認めた。CTでは気腫性胃炎に特徴的な気泡像を認めたが,臨床所見から嘔吐に伴う胃壁内気腫症を疑い抗生剤投与による保存的治療を開始した。翌日の腹部CTでは門脈内および腸管壁ガス像の改善と同腸管の壁肥厚を認めた。入院時の血性胃液の培養では,数種類のガス産生腸内菌が検出された。細菌検査や第7病日の上部消化管内視鏡検査の所見および家人の情報から,最終的に認知症に伴う不潔行動を起因とする気腫性胃炎と診断した。保存的治療で症状は改善した。自験例は,気腫性胃炎の起炎菌であるガス産生菌の感染経路において興味ある症例と考えられた。

  • 鎌田 哲平, 伊藤 隆介, 石田 航太, 中林 幸夫
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1259-1262
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は70歳台,男性。右下腹部痛,黒色便で受診した。血液生化学検査上炎症反応高値,腹部造影CT検査でS状結腸に接して周囲に造影効果,内部に含気を伴う13cm大の囊胞状構造を認めた。腫瘍は鑑別にあがるも二次性の腹腔内膿瘍と診断し,エコーガイド下経皮的ドレナージを施行,臨床症状は軽快するも,膿瘍の縮小に乏しく確定診断も困難であった。透視下下部消化管内視鏡検査でS状結腸に約5mm大の瘻孔を認めた。同日,腹部所見悪化,汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した。小腸腸間膜に自壊し壊死を伴う巨大腫瘍を認め,小腸,S状結腸に浸潤をきたしており,小腸広範切除,S状結腸部分切除・単孔式人工肛門造設,洗浄ドレナージ術を施行した。病理組織学的診断は小腸腸間膜GISTの診断であった。腫瘍はS状結腸に瘻孔形成を認めた。特異な症候を呈した小腸腸間膜GISTの1例を経験した。

  • 田中 優衣, 伊藤 康博, 上村 翔, 杉浦 清昭, 岸田 憲弘, 瀨尾 雄樹, 田中 求, 戸倉 英之, 御須 学, 高橋 孝行
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1263-1266
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    【はじめに】腹膜垂炎は保存的加療で軽快する予後良好な疾患である。今回われわれは,腹膜垂炎と診断された7例を経験したので,文献的考察を加え報告する。【対象と方法】当院でCTで腹膜垂炎と診断された7例の臨床所見および画像的特徴について検討した。【結果】男性1例,女性6例で,年齢は中央値36歳(22~83歳)。全例腹痛を認め,白血球数とCRPは正常値もしくは軽度上昇を認める程度であった。発症部位は下行結腸4例,上行結腸2例,S状結腸1例で左側結腸に多くみられた。原因としては,原発性を6例,続発性を1例に認めた。続発性腹膜垂炎の症例では,血液検査所見で他症例と比較し炎症反応が高値であった。治療は6例で保存的加療を行ったが,術前虫垂炎と診断された1例では手術を行った。【考察】腹膜垂炎は発症部位または続発性腹膜垂炎の場合の鑑別に難渋することがあるため,本疾患を念頭に置き適切な加療を行うことが重要である。

  • 諸藤 教彰
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1267-1269
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    患者は胆石症の既往のある88歳女性。腹痛,嘔吐で当院紹介。CT検査で小腸内に3.5cm大の結石像,その口側腸管の拡張,胆囊内に結石像を認めないことから胆石性腸閉塞と診断した。患者は3年前のCT検査でも小腸内の結石像を指摘されていたが,高齢で無症状のため経過観察とされていた。自然排石は困難と考え,緊急手術を施行した。Bauhin弁から約50cmの部位で5cm大の腫瘤形成を認め,小腸部分切除術を施行。摘出小腸を切開し嵌頓した胆石を除去したところ,小腸壁に陥凹性病変を認め,病理検査でリンパ節転移を伴う原発性小腸癌と診断された。胆石性腸閉塞に小腸癌を合併した症例は非常にまれで,小腸内で胆石が長期的に停滞した刺激が発癌を促し,結石増大に伴い胆石性腸閉塞を発症したと推測され,自然排石されなければ無症状でも腸管内結石は積極的に治療を行うべきと思われた。

  • 立田 協太, 林 忠毅, 原田 岳
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1271-1274
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は63歳男性。S状結腸軸捻転症に対してHartmann手術後。受診3日前より便秘を認め,腹部膨満が出現し当院を受診した。腹部CTで腸管異常拡張と腹水を認め,絞扼性腸閉塞の診断で緊急手術を施行した。人工肛門挙上腸管と側腹壁の間に間隙が存在し,小腸が挙上腸管に巻絡していた。巻絡に伴う絞扼を解除後に壊死した小腸を切除,原因となった間隙を閉鎖し手術を終了した。退院後9ヵ月再燃なく経過している。自験例は,挙上腸管と腹壁との間の広い間隙を経由し,挙上腸管に小腸が巻絡し絞扼を生じた。結腸人工肛門造設の際に腹膜内経路を選択した場合は,自験例のような特殊な絞扼性腸閉塞が生じ得ることを考慮し,間隙を作らない配慮が必要であった。人工肛門造設手技を再考させられる教訓的な症例であると考える。

  • 花岡 俊晴, 岡﨑 靖史, 平田 篤史, 水藤 広, 佐藤 公太, 篠藤 浩一, 尾崎 正彦, 松原 久裕
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1275-1278
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は71歳女性。腹痛,嘔吐を主訴に当院受診,来院時Murphy sign陽性。右側結腸切除の既往があり15cmの右側腹部縦切開創を認めた。CTで胆囊の浮腫状変化,総胆管拡張,乳頭部の造影効果を認めたためMRCP,ENBD造影を施行。総胆管結石を認めず,胆囊管の途絶を認め胆囊捻転症と診断。同日緊急手術を行った。右側腹部~上腹部の高度癒着を認め,ポート位置を臍,心窩部,左季肋下,左下腹部とした。胆囊はうっ血し,反時計回りに180度捻転していた。胆囊床と癒着しておらずGrossⅡ型の胆囊捻転症と診断。捻転を解除し腹腔鏡下で胆囊摘出を行った。手術時間は92分,出血は少量であった。術後経過良好で第6病日退院となった。胆囊捻転症は比較的まれな疾患であり,今回われわれは高度癒着を認めたがポート位置を工夫し腹腔鏡下に胆囊摘出し得た胆囊捻転症の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 加藤 嘉一郎, 俵 広樹, 羽田 匡宏, 原 拓央
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1279-1282
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は51歳女性で肝炎症性偽腫瘍に対し右開胸開腹肝右葉切除術を施行された。術後9ヵ月目に上腹部痛,嘔吐を認め腹部CTを施行したところ,右横隔膜ヘルニアおよび腸閉塞の診断で腹腔鏡下ヘルニア修復術を行った。ヘルニア門は前回手術時の横隔膜切開線の遠位端にあり,縫合不全が原因と考えられた。腸管は虚血所見なく温存可能であり,ヘルニア門はメッシュを用いて修復を行った。肝切除術後の横隔膜ヘルニアは晩期合併症として念頭に置く必要があり,腹腔鏡下でのメッシュを用いた修復術は有用であると考えられた。

  • 船水 尚武, 中林 幸夫
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1283-1285
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は76歳女性。2日間持続する右下腹部痛を主訴に当科を受診した。腹部造影CTで右下腹部に4cm大の腹腔内膿瘍を認めた。25歳時にMayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群による腟欠損に対し,腸管による造腟術を受けたが,その腟形成に用いた回腸盲端と思われる部位に膿瘍形成を認め,入院とし,SBT/ABPCによる保存的加療を施行した。炎症反応,および腹部所見の改善を認め,入院後10日で抗菌薬を終了し,経過良好で翌日に退院となった。その24ヵ月後の現在,再発を認めていない。造腟術で腸管を用いる場合は結腸を用いた再建が多く,回腸を用いた報告例は少ない。また,その合併症としての膿瘍形成の報告例もなく,回腸を含む腸管を用いた造腟術においては長期的な合併症として考慮する必要があると思われた。

  • 江藤 亮大郎, 野島 広之, 鈴木 大亮, 高橋 誠, 吉富 秀幸, 高屋敷 吏, 大塚 将之
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1287-1291
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は41歳,男性。腹痛を主訴に前医受診。腹腔内腫瘤と門脈血栓症の疑いで当院へ転院し,ヘパリン投与下で経過観察となった。治療開始後,Hb低下および腹腔内腫瘤の増大を認め,MDCTで腹腔内出血による血腫の圧排に起因する門脈血栓,腹腔動脈起始部圧迫症候群の診断となった。IVRで膵十二指腸動脈瘤に対し,動脈塞栓術を施行した。その後,血腫形成に起因する門脈血流不全に対し,開腹血腫除去術,門脈血栓除去術を施行した。術後経過は良好で,術後第40病日に退院した。術後2年の現在,門脈血流は良好に保たれており,外来経過観察中である。腹腔動脈起始部圧迫症候群に起因する膵十二指腸動脈瘤破裂の報告は多数認めるが,血腫形成に起因する門脈血栓の報告例は極めてまれである。IVRによる止血術後に外科的手術による血腫除去と門脈血流改善を適切なタイミングで行ったことで救命し得た膵十二指腸動脈瘤破裂の1例を経験した。

  • 小野 武, 比嘉 聡, 平田 勇一朗, 加藤 航司, 川上 浩司, 仲地 広美智
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1293-1295
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は77歳,男性。腹痛を主訴に当院へ救急搬送された。来院時,血圧低下を認めショック状態であった。血液検査で貧血と腎機能障害を認めた。腹部造影CTで腹腔内全体に広がる血性腹水とS状結腸間膜近傍からのextravasationを認め,S状結腸間膜からの腹腔内出血と診断し緊急手術を施行した。開腹すると腹腔内に多量の血腫を認め,出血部位はS状結腸の腹膜垂であった。出血している腹膜垂を刺通結紮し止血を得た。術後肺炎を併発し,人工呼吸器管理となったが軽快。第20病日,前医へ転院となった。腹膜垂から腹腔内のfree spaceへの出血が主病態となる症例は,本邦での報告例はなく,極めてまれな症例であるため報告する。

  • 上村 翔, 伊藤 康博, 田中 優衣, 岸田 憲弘, 瀬尾 雄樹, 戸倉 英之, 高橋 孝行
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1297-1301
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,女性。1週間前から咳嗽を認め,前日から持続する左側腹部痛を主訴に当院受診した。腹壁瘢痕ヘルニア手術歴があり,降圧薬のみ内服していた。左側腹部に可動性不良な圧痛を伴う弾性硬の腫瘤を認め,血液検査所見ではCRP 0.58mg/dLと軽度上昇,Hb 11.5g/dLと軽度低下するも凝固系の異常は認めなかった。腹部造影CT検査では左側腹壁に約4cm大の血腫を認め,内部に血管外漏出を伴う所見を認めた。以上から非外傷性の腹直筋血腫と診断した。バイタル安定しており経過観察目的に入院とした。入院後,徐々に自覚症状は改善し,血腫の増大も認めなかったため第4病日に退院とした。腹直筋血腫は急激な腹直筋の収縮による上下腹壁動静脈の破綻により腹直筋鞘内に血腫を生じる比較的まれな疾患である。今回われわれは咳嗽を契機に発症した非外傷性腹直筋血腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を踏まえて報告する。

  • 勝又 健太, 小林 慎二郎, 小泉 哲, 天野 優希, 井田 圭亮, 丹波 和也, 土屋 淳一, 小野 龍宣, 瀬上 航平, 星野 博之, ...
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1303-1305
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は67歳男性。右側腹部痛を主訴に当院へ救急搬送,十二指腸穿孔の診断で緊急手術を施行した。十二指腸球部に約半周性の穿孔部を認め,単純閉鎖を施行した。術後4日目にドレーンから腸液の排出を認め,汎発性腹膜炎を呈し,緊急での再手術となった。単純閉鎖した縫合部は完全に離開しており,穿孔部周囲の汚染が高度であったので再縫合は危険と判断し,十二指腸憩室化を行った。再手術後6日目に前上膵十二指腸動脈からの出血をきたし,緊急血管内治療を行った。その後,ドレーン管理に時間を要したが再手術後第78病日で退院となった。胃十二指腸潰瘍穿孔はプロトンポンプ阻害薬が普及した現在,穿孔部縫合閉鎖および大網被覆で軽快する症例も多いが,ときとしてこれらの術式のみでは良好な経過が得られない症例が存在する。今回われわれは,十二指腸潰瘍穿孔術後縫合不全に対する再手術として十二指腸憩室化が有効であった症例を経験したため報告する。

  • 原田 学, 青笹 季文, 曽我 茂義, 新本 弘, 辻本 広紀, 上野 秀樹
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1307-1311
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例1は54歳男性。腹痛を主訴に前医を受診し,腹部CTで肝腫瘍破裂の診断となり当院へ救急搬送された。原因不明の肝破裂で計2回の経カテーテル的動脈塞栓術を施行した後,入院後12日目に腹部打撲歴が判明し,肝損傷後66日目の遅発性肝損傷(Ⅰb)と診断した。症例2は59歳女性。膵癌術後179日目に交通事故で,救急搬送されたが左肋骨骨折,右肋軟骨損傷の診断で帰宅となり,以降症状は消退していた。受傷後29日目に呼吸困難感が出現し,当院受診。腹部CTで遅発性肝損傷(Ⅰb)の診断で入院加療となった。肝損傷のうち肝被膜下破裂症例では受傷後早期に症状や所見が認められないことがある。受傷後4週間以上無症状で経過し,その後肝損傷が発覚し,集学的な治療介入が必要な場合がある。受診直前の外傷歴のない肝腫瘍破裂様や肝損傷様の画像を見た際は,4週以上遡っての外傷歴の詳細な聴取が重要である。

  • 河北 一誠, 武冨 紹信
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1313-1316
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    小児固形がんには腹腔内出血によりOncologic emergencyをきたす症例が存在する。今回,腫瘍破裂による腹腔内出血でショックをきたしたが,IVRによる止血後に待機的肝切除を施行し得た肝芽腫混在成人型肝癌の1例を経験したので報告する。症例は10歳男児で,突然の腹痛と嘔吐を主訴に前医を受診した。CT検査で8cm大の肝腫瘍と腹腔内に液貯留を認め,後にショックバイタルを呈したことから,腫瘍破裂による腹腔内出血の診断で当科紹介となった。緊急IVRで止血し,全身状態の改善を待って入院7日目に肝切除術を施行した。病理所見から肝芽腫混在成人型肝癌の診断となり,小児科で化学療法による治療を継続している。ショックバイタルを伴う腫瘍破裂による腹腔内出血は,迅速な判断による治療介入が必要だが,年齢や病態に応じて手術やIVRなど,適切な治療を選択しなければならない。

  • 増尾 仁志, 久保 直樹, 古澤 徳彦
    2019 年 39 巻 7 号 p. 1317-1321
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/08/29
    ジャーナル フリー

    症例は18歳女性。軽自動車右後部座席に搭乗中,対向車と正面衝突し受傷した。受傷時は3点式シートベルトを着用しており,右頸部から前胸部と中腹部にシートベルト痕を認めた。腹部は平坦,軟で右側腹部に圧痛を認めた。造影CT検査で十二指腸下行脚腸管壁の造影不良と同部位外側のfree air,液体貯留を認めたため十二指腸穿孔と診断した。その他,肝損傷と肺挫傷,肋骨骨折,左脛骨骨幹部骨折を認めた。緊急手術を施行したところ,十二指腸下行脚の亜全周性の腸管損傷と水平脚にかけて挫滅していたため,十二指腸部分切除術,十二指腸空腸端側吻合による再建と胆囊摘出術,C-tube留置術を行った。十二指腸損傷に対する手術後に,脛骨骨折に対しては髄内釘固定を行った。経過良好で術後21日目に退院となった。シートベルトによる十二指腸損傷は比較的まれであり,文献的考察を加えて報告する。

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