日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
42 巻, 3 号
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原著
  • 上野 修平, 沢井 博純, 栗本 昌明, 小出 修司, 葛谷 宙正
    原稿種別: 原著
    2022 年 42 巻 3 号 p. 349-354
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    【目的】大腸穿孔は依然として死亡率の高い疾患である。治療選択のため予後因子と,APACHE Ⅱ score,SOFA score による評価の有用性を検討した。【方法】2014 〜2021 年の期間に当院で緊急手術を施行した大腸穿孔28 例を救命群・死亡群,またPMX-DHP 施行群・非施行群に分け比較した。【結果】救命例は23 例,死亡例は5 例,各スコアによる評価では有意に死亡例の点数が高値であった。スコアに含まれない項目では腹腔内汚染度に有意差を認めた。また腎機能障害を有する症例で有意に死亡率が高かった。PMX-DHP 施行群と非施行群では,施行群で死亡率が高く,各スコアの点数も有意に高値であった。【結論】大腸穿孔症例にはAPACHE Ⅱ score,SOFA score,腹腔内汚染度,腎機能が予後予測に有用であると考えられた。重症患者やPMX-DHP を施行する症例の絞り込みに,各スコアが寄与する可能性が示唆された。

  • 和田 慎司, 濱口 真吾, 大杉 真也, 細井 康太郎, 藤塚 進司, 橋本 一樹, 小川 普久, 森本 毅, 松本 純一, 三村 秀文
    原稿種別: 原著
    2022 年 42 巻 3 号 p. 355-360
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    当院で2009 年から2019 年の間に経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:以下,TAE)を要した小腸出血16 患者17 症例23 手技を対象に,TAE の有効性と安全性を後方視的に検討した。小腸出血に対するTAE の技術的成功率は100.0%(23/23 手技)で,1 次的臨床的成功率は64.7%(11/17 症例),2 次的臨床的成功率は88.2%(15/17 症例)であった。2 回のTAE で4 本の直動脈を塞栓した1 例で小腸穿孔をきたした。臨床的成功群と不成功群の間に塞栓動脈,塞栓物質,塞栓された直動脈の本数に差はなかった。小腸出血に対するTAE は安全で効果的であると考えられた。

特集:術中偶発症に対するリカバリーショット
  • ─筆者の黎明期から現在までを振り返って─
    伊熊 健一郎, 丸尾 伸之, 岡田 隆幸, 三上 千尋, 柴田 綾子, 村上 暢子, 石原 あゆみ, 西舘 野阿, 田中 美喜歩, 川北 か ...
    原稿種別: 特集:術中偶発症に対するリカバリーショット
    2022 年 42 巻 3 号 p. 363-368
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    我が国の産婦人科領域における腹腔鏡手術は1990年頃にはじまり,2010年と2019年の手術件数は28,431 件から86,402 件へと3.0 倍に増加する一方,開腹移行頻度は0.64%から0.21%へと1/3 に減少している。ところが,「術中」偶発症と「術後」合併症の頻度は1.24%から3.97%へと3.2 倍に増加している。手術合併症を減らすには,トラブル発症時の適切で迅速なリカバリーが必要となる。手術合併症増加の要因には,①適応の拡大,②難度の高い症例の増加,③若手医師の育成などがあげられる。筆者は,黎明期より腹腔鏡手術を開始し,現在も術者と指導者として腹腔鏡手術に従事している。本稿では,筆者がこれまでにかかわった9,106 件の手術件数のうち,51 件(0.56%)の「術中」偶発症と「術後」合併症を検証し,その要因や対策法を明確化し,トラブルシューティングの参考になることを願い報告する。

  • 松本 知拓, 菊池 寛利, 羽田 綾馬, 曽根田 亘, 川田 三四郎, 村上 智洋, 坊岡 英祐, 平松 良浩, 竹内 裕也
    原稿種別: 特集:術中偶発症に対するリカバリーショット
    2022 年 42 巻 3 号 p. 369-372
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    食道癌に対する食道切除再建術は,手術手技や周術期管理が発展してきているが,いまだに侵襲が大きく合併症の多い手術である。とくに縫合不全や再建臓器壊死は,生命の危機に至ることがある重篤な術後合併症であり,予防には再建臓器の良好な血流の確保,胃管再建においては栄養血管である右胃大網動脈の血流維持が重要である。今回,食道切除胃管再建術中に血管損傷をきたした症例に対して血流動態に基づきトラブルシューティングを行った3 例を提示し,胃管作成時のトラブルシューティングについて考察する。

  • 原 良輔, 茂田 浩平, 水野 翔大, 松井 信平, 清島 亮, 岡林 剛史, 北川 雄光
    原稿種別: 特集:術中偶発症に対するリカバリーショット
    2022 年 42 巻 3 号 p. 373-377
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    【背景】大腸切除後の縫合不全は非常に重篤な合併症であり,さまざまな予防・対策がなされてきた。今回われわれは,これらの術後の予防策の有用性について後ろ向き研究を行った。【対象】2012 年から2019 年の期間において,当院でdouble stapling technique(DST)再建を行ったpStage I 〜Ⅲの大腸癌患者を対象とした。縫合不全の予防策として予防的人工肛門造設,術中内視鏡によるair leak test,経肛門ドレーン留置を用いた。統計学的手法として,logistic 回帰分析法を用いた。【結果】335 例のうち,結腸癌は223 例,直腸癌は112 例であり,縫合不全は26 例認めた。縫合不全のリスク因子の解析の結果,多変量解析よりair leak test が有意にリスクを軽減することが示された(P=0.025)。【結語】縫合不全に対する対策は比較的良好な結果であった。

  • 中平 伸, 前田 栄, 北川 彰洋
    原稿種別: 特集:術中偶発症に対するリカバリーショット
    2022 年 42 巻 3 号 p. 379-383
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    神経原性後腹膜腫瘍はその発生由来から大血管と広く接するため,腹腔鏡手術に際しては術前画像検査で周囲血管との位置関係を把握するとともに,術中に体位やポート配置により広い術野を確保して血管にはテーピングを行い大出血に常に備える必要がある。われわれの経験した3 症例を通して当科での腹腔鏡手術における視野展開とリカバリーの工夫について報告する。

  • 高屋敷 吏, 古川 勝規, 久保木 知, 高野 重紹, 鈴木 大亮, 酒井 望, 細川 勇, 大塚 将之
    原稿種別: 特集:術中偶発症に対するリカバリーショット
    2022 年 42 巻 3 号 p. 385-388
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    進行癌の広範な門脈浸潤症例の根治的切除には自家グラフトを用いた門脈再建が必要となることがあり,その際に用いられる種々のグラフトのうちの1 つに左腎静脈グラフトがある。左腎静脈グラフトには多くの利点があるが,特徴的な利点として,新たな皮膚切開を置く必要がなく,同一視野で容易に採取できることがあげられる。この利点は,癌手術のみならず,術中門脈損傷に対するすみやかな出血制御と血行確保といういわゆるリカバリーショットにおいても有効と考えられる。今回われわれは,左腎静脈グラフトの有用性とその実際の手技について詳述し,また術中門脈損傷に対するリカバリーショットの実例として,膵頭十二指腸切除における高度な術中門脈損傷に対して,左腎静脈グラフト再建を行った症例を報告する。

  • 川野 陽一, 金谷 洋平, 青木 悠人, 松本 智司, 吉岡 正人, 松下 晃, 清水 哲也, 上田 純志, 谷合 信彦, 平方 敦史, 鈴 ...
    原稿種別: 特集:術中偶発症に対するリカバリーショット
    2022 年 42 巻 3 号 p. 389-393
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    当科では2014 年10 月〜2021 年12 月まで184 例の腹腔鏡下肝切除術を施行してきた。部分切除や外側区域切除から開始し,著者が2016 年に日本内視鏡外科学会技術認定(肝)を取得した後から高難度手術を行うなど,step by step で適応も広げて来た。安全性を最優先させて来たつもりであるが,そのなかでも致死的となりうる術中合併症も経験してきた。その経験,対処法を共有することが今後の腹腔鏡下肝切除術(Lap-H)の普及と安全性の担保になると考えたため当科での経験を報告する。

  • 川本 裕介, 本田 五郎
    原稿種別: 特集:術中偶発症に対するリカバリーショット
    2022 年 42 巻 3 号 p. 395-398
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    出血を制御してドライな術野を維持しながら肝離断を進めるためには,熟達した手術手技だけでなく肝流入血および肝静脈圧(中心静脈圧)の適確な制御が必要である。肝流入血の制御にはPringle 手技が有効であり,中心静脈圧の制御のためには輸液を絞る,頭高位にする,肝臓をもち上げる,肝下部下大静脈を遮断する,そして人工呼吸の換気圧(気道内圧)を低く保つといった手段がある。腹腔鏡下肝切除術においてはさらに気腹圧により肝静脈性出血が抑制されるが,気腹圧を上げることが常に安全かつ有効というわけではない。気道内圧が高い状態で気腹圧を上げると中心静脈圧も上昇するため出血制御は困難であり,気道内圧が高くない状態で気腹圧を上げ過ぎると気腹ガスの肝静脈内流入によりガス塞栓が生じる。肝静脈性出血を制御するには,中心静脈圧,気腹圧,気道内圧の相互関係を理解して適確なpressure management を行う必要がある。

症例報告
  • 和田 英雄, 黨 和夫, 田場 充, 内藤 愼二
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 399-402
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は59 歳の女性。長期間続く腹痛のため近医で下部消化管内視鏡が行われ,上部直腸に腫瘍性狭窄が認められた。3 日後に腹痛の増強と高熱が出現し,精査加療の目的で当院に紹介された。腹部CT で子宮留膿腫と診断し,抗菌薬治療を開始したが,入院翌日にバイタルサインの増悪と腹痛の増強,炎症反応の著明な亢進が認められた。骨盤MRI で子宮留膿腫穿孔に起因する汎発性腹膜炎と診断され,緊急手術が施行された。腹腔内全体に膿が貯留しており子宮底部には穿孔が認められ,子宮体部は上部直腸と癒着していた。子宮全摘術,両側付属器切除術,ハルトマン手術,腹腔内洗浄ドレナージを施行した。病理組織学的に癒着部は直腸癌の子宮浸潤と診断され,子宮留膿腫の成因と示唆された。直腸癌の子宮浸潤により子宮留膿腫を発症し,子宮穿孔と汎発性腹膜炎に至った本症例について文献的考察を加えて報告する。

  • 田村 周太, 小田原 一哉, 岩野 祥子, 平田 雅昭
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 403-407
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は68 歳,男性。出血性胃潰瘍で入院歴があったが,胃酸分泌抑制薬の内服やピロリ菌除菌は拒否されていた。大量吐血し当院へ救急搬送された。来院直後に心肺停止状態に陥ったが,蘇生処置により自己心拍再開が得られ,緊急血管造影を施行した。固有肝動脈に動脈瘤が形成されており,術中に大量の血管外漏出像が確認できた。シアノアクリレート系薬剤(n-butyl-2-cyanoacrylate:NBCA)で動脈瘤と固有肝動脈を塞栓した。以後,再出血は認められず,側副血行路の発達により肝臓内の動脈血流も保たれていたが,胃角部から幽門にかけて変形が強く,経口摂取が不良であった。気腫性膀胱炎,腎盂腎炎,肝膿瘍を発症したが,抗生物質投与とドレナージで軽快した。後日,腹腔鏡下胃空腸バイパス術を施行した。術後経過は良好であり,ピロリ菌除菌は施行できた。固有肝動脈に動脈瘤が形成され,それが胃潰瘍出血の原因となった報告例は極めてまれであり,文献的考察を加えて報告する。

  • 田中 保平, 猪瀬 悟史, 千葉 小夜, 堀越 崚平, 利府 数馬, 田原 真紀子, 栗原 克己
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 409-412
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は74 歳,女性。虫垂炎による腹部手術歴あり。腹痛を主訴に受診され,CT で子宮の左外側で小腸のcaliber change を認めた。腸管壁の造影効果は保たれていた。癒着性腸閉塞と子宮広間膜裂孔ヘルニアを鑑別にあげ,イレウス管による保存的治療を行った。減圧は良好であったが,通過障害が改善しなかったため腹腔鏡下手術を行った。子宮広間膜裂孔ヘルニアと診断し,子宮広間膜の一部を開放して小腸の嵌頓を解除した。腸管の虚血は認めなかった。ヘルニア門は縫合閉鎖した。術後経過は良好で術後6 日目に退院した。術後約1 年再発を認めていない。子宮広間膜裂孔ヘルニアは内ヘルニアのなかでまれな疾患である。ヘルニアの原因となる子宮広間膜裂孔の処理について,過去の報告では開放例と閉鎖例があるが,年齢やヘルニア門の大きさ,子宮広間膜組織の脆弱化などを確認したうえで閉鎖するか開放するかを選択するべきであると考えられた。

  • 元木 宣孝, 奥村 隆志, 久保 進祐, 豊田 秀一, 石川 奈美
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 413-415
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は39 歳女性。突然発症した激しい腹痛のため当院へ救急搬送された。来院時,腹部全体に圧痛を認めたが,血液検査では異常を認めなかった。腹部造影CT 検査では腹部正中〜左側に著明な腸管拡張像と右下腹部にwhirl sign を認めた。絞扼性イレウスを疑い,来院後3 時間で緊急手術を行う方針とした。腹腔鏡下に観察を行うと,拡張した腸管は右側結腸であり,盲腸捻転症と診断した。腸管壊死を認めなかったため,捻転腸管の整復と虫垂切除を施行した。術後経過は良好で術後5 日目に退院した。術後1 年経過したが再発を認めていない。盲腸捻転症は比較的まれな疾患であり,救急外来で正確な診断に至るのはときに困難と思われる。今回われわれは診断と治療を兼ねた緊急の腹腔鏡下手術が有用であった症例を経験したため,CT 検査の3D 画像構築での検討も加えて報告する。

  • 根本 明喜, 吉川 美侑子, 藤村 侑, 勝峰 康夫
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 417-420
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は79 歳女性で,突然の心窩部痛で当院救急外来に救急搬送。入院時造影CT で胆囊の腫大,壁肥厚,頸部の低吸収像を認めたが,胆囊壁は造影された。急性胆囊炎,不完全型胆囊捻転症疑いで当院内科入院。入院後心窩部痛は改善傾向であったが,MRCP で胆囊頸部の変形,欠損像を認め,不完全型胆囊捻転症の診断で,入院3 日目に単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した。胆囊はGross 1 型胆囊捻転症で,胆囊頸部で時計回りに約135 度捻転していた。術後経過は良好であった。胆囊捻転症は遊離胆囊に発症するため腹腔鏡下胆囊摘出術のよい適応との報告が多く,補助鉗子の使用や開腹移行を前提としたうえで単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術は有用な術式と考えられた。今回われわれは術前診断し得た不完全型胆囊捻転症に対し単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した1 例を経験したので報告する。

  • 太田 依璃子, 白幡 康弘, 鈴木 聡
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 421-423
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    膵solid-pseudopapillary neoplasm(以下,SPN)は,膵腫瘍のなかで0.17 〜2.7%を占めるまれな腫瘍である。若年女性に多く,膵体尾部に発生し,厚い被膜を有する充実性腫瘍である。上皮性,低悪性度腫瘍とされているが,一部で悪性化の報告もある。今回われわれは胃癌検診で異常を指摘され,腫瘍圧迫による脾静脈閉塞のために胃静脈瘤,脾腎シャント,脾腫を伴った巨大SPN の症例を経験した。腫瘍性による左側門脈圧亢進症を呈し,胃静脈瘤はRC+で,手術時の出血などのリスクは高かったが根本的原因の除去が必要と考え,手術での腫瘍含む膵体尾部切除を行った。術後,胃静脈瘤は消失した。現在,2 年経過し,無再発生存である。

  • 武澤 衛, 稲村 幸雄, 寺田 剛, 穐山 竣, 森 千浩, 森川 彰貴, 上畑 恭平
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 425-428
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    下部消化管穿孔は腹膜炎による敗血症性ショックを併発している例が多く,短時間に手術を終了することが原則であり,開腹手術を選択することが多い。経肛門的直腸内異物による腸管穿孔に対して腹腔鏡下手術を選択した例を報告する。患者は91 歳,男性。受診4 日前,歯ブラシの柄で痔核に軟膏を塗っていた際,転倒した。その後,排便がなく,受診前日に下剤を内服したところ,右下腹部痛をきたし救急外来を受診した。身体所見と画像所見より経肛門的に迷入した歯ブラシによる直腸穿孔と診断し,腹腔鏡下で緊急手術を施行した。腹腔内を観察すると,直腸から腹腔内に歯ブラシの柄が貫通していた。鉗子で歯ブラシを直腸内に戻し,経肛門的に摘出した。穿孔部を縫合閉鎖し,S 状結腸双孔式人工肛門を造設した。術後経過は良好で,術後13 日で退院した。全身状態が安定している症例では,経肛門異物による下部消化管穿孔に対して腹腔鏡下手術は選択肢の1 つになり得る。

  • 中本 健太郎, 小川 正文, 中尾 重富, 西山 毅, 三木 友一朗
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 429-432
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は68 歳男性。排便困難,腹部膨満を主訴に救急搬送された。精査で完全内臓逆位を伴う閉塞性直腸S 状部癌と診断した。大腸ステントを留置し,減圧後に根治を目的とした腹腔鏡下低位前方切除術を施行した。術後minor leakage を生じたが,保存的加療のみで治癒し,軽快退院した。完全内臓逆位を伴った閉塞性大腸癌に対し,大腸ステントによる減圧後に腹腔鏡下手術を行った本邦報告例はなく,文献的考察を加えて報告する。

  • 和田 義人, 宗 宏伸, 谷脇 智
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 433-436
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は72 歳,男性,吐血を主訴に搬送された。上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部後壁に持続的出血を伴う潰瘍を認めたが,止血困難と判断し検査を終了した。直後に心室細動となり蘇生し救命した。その後緊急手術を行った。開腹後胃前庭部で胃を離断,前庭部から十二指腸球部前壁に横切開を加えると球部後壁に拍動性出血と巨大潰瘍を認めた。止血困難のため潰瘍底をくり抜き切除範囲を十二指腸球部として自動縫合器を用いて離断して胃切除を行った。潰瘍底の露出血管の縫合止血,粘膜焼灼後に十二指腸断端にLemmbert 縫合を追加,器械吻合によるBillrothⅡ法再建を行った。術後はとくに大きな合併症もなく経過し,術後21 日目に治癒退院となった。止血困難な出血性巨大十二指腸潰瘍に対し,潰瘍底をくり抜く胃切除,残存潰瘍底の縫合止血,粘膜焼灼を行う方法は全身状態の悪い症例では低侵襲であり有用であると考えた。

  • 中村 優紀
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 437-441
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は51 歳女性。3 日前からの臍部を中心とした腹痛を主訴に受診した。CT で臍部に腸管様の管状構造物を認め,小腸の臍ヘルニア嵌頓と診断した。発症から3 日経過しており,嵌頓による腸管壊死の可能性が否定できず,また,用手整復不能であったため,緊急で開腹ヘルニア修復術を施行する方針とした。ヘルニア内容は先端が壊死したMeckel 憩室であった。Meckel 憩室根部に壊死の所見は認められなかったため,憩室の根部からlinear stapler で切除し,ヘルニア門は直接閉鎖とした。組織代用人工線維布(以下,メッシュ)は使用しなかった。術後経過良好で第10 病日に退院とした。先端が盲端となる管腔構造が嵌頓した場合,腸管自体の交通は保たれるため,腸閉塞症状,画像所見を呈することは少ないと考えられる。腸管の狭窄症状や画像所見に乏しいヘルニア嵌頓の症例では,ヘルニア内容としてMeckel 憩室,すなわちLittre ヘルニアを鑑別にあげる必要があると考えられた。

  • 山尾 幸平, 前村 公成, 永田 祐貴, 飯野 聡, 勝江 達治, 基 俊介, 柳 政行, 濵田 信男
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 443-446
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は62 歳男性,発熱を主訴に近医を受診した。右鼠径部の腫脹を認め右鼠径ヘルニアに対する手術歴があったため,メッシュ感染を疑われて当科紹介となった。CT では虫垂腫大および右鼠径部腹壁膿瘍を認めた。急性虫垂炎およびメッシュ感染による腹壁膿瘍と診断し,抗生剤と膿瘍ドレナージによる治療を行った。ドレナージの際の造影では膿瘍腔と虫垂との交通を認めた。治療により炎症は改善し,自宅退院,待期的に腹腔鏡下虫垂切除術を施行した。虫垂は腹壁に強固に癒着していたため腹膜合併切除を行い,洗浄の後にメッシュは温存し,鼠径部を切開して開放創として手術を終了した。創洗浄を継続し,創部治癒が得られた術後16 日目に自宅退院となった。現在,術後1 年6 ヵ月を経過しているが炎症の再燃はない。メッシュ除去術による合併症のリスクがあることから,メッシュ感染に対する抗生剤および膿瘍ドレナージは治療の選択肢として考慮されるべきである。

  • 田中 宗伸, 皆川 結明, 舩津屋 拓人
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 447-450
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    小腸Dieulafoy’s lesion は出血点の同定が困難であり,内視鏡的治療困難症例では侵襲度の高い広範囲小腸切除となることもある。今回,術前造影CT 検査後に小開腹下に術野での細径内視鏡が部位同定に有用で,小腸切除の範囲を限定し得た症例を経験したので報告する。症例は骨髄異形成症候群を合併した80 歳男性。下血を主訴に救急搬送され,Hb 6.7mg/dL の貧血を認めた。造影CT 検査で回腸内に造影剤のextravasation があり,小腸出血の診断で緊急経肛門的小腸内視鏡が施行された。出血源は特定されず,翌日再出血したため,緊急開腹手術が施行された。肛門側回腸の観察で腸管内に血液貯留が透見された終末回腸から60cm の位置で細径内視鏡が挿入され,口側と肛門側の回腸内の観察では,肛門側に出血病変が認められた。同部位を含めて回腸を11cm切除された。術後の病理組織学的診断ではDeiulafoy’s lesion と診断された。

  • 茂内 康友, 岩下 幸平, 平方 敦史
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 451-454
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は71 歳女性。右下腹部痛を主訴に来院した。右下腹部に圧痛を伴う腫瘤が触知され,血液検査では軽度の炎症反応を認めた。造影CT 検査では,虫垂の造影効果を伴う壁肥厚と播種を疑う結節影,所属リンパ転移を疑うリンパ節腫大を認めた。大腸内視鏡検査を施行したが,盲腸の壁外圧排像を認めるのみで虫垂入口部は確認できなかった。以上より虫垂癌と診断し外科的切除の方針となった。術中所見では,虫垂の後腹膜浸潤を疑う所見を認めたため,D3 郭清を伴う回盲部切除術に加え,一部後腹膜合併切除を施行しen-bloc に病巣を切除した。切除標本の病理検査では虫垂の漿膜下に黄色肉芽腫の形成を認め黄色肉芽腫性虫垂炎の診断となった。黄色肉芽腫性虫垂炎は極めてまれな疾患であるが,虫垂悪性腫瘍を疑う画像所見であった場合は,本疾患の可能性も考慮する必要がある。

  • 藤井 友夏里, 大司 俊郎, 安野 正道, 密田 亜希, 根本 哲生
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 455-458
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は48 歳男性。心窩部・右下腹部圧痛,39℃で受診した。WBC 14,700/μL,CRP 30.9mg/dL で,CT で多房性構造に液体を伴っているようにみえ,小腸腫瘍の微小穿孔を疑い開腹手術を施行した。穿孔は認めなかったが空腸に5cm 大の腫瘍と周囲に滲出液を認めた。内腔に粘膜下腫瘍様の隆起があり,乳白色の液体を認めた。病理組織学的検査で,炎症を伴う小腸リンパ管腫と診断された。リンパ管腫は炎症で見つかることもあり,文献的考察を加えて報告する。

  • 川端 一美, 宮本 勇人, 宮﨑 純一, 李 兆亮, 阿部 孝
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 459-463
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は75 歳女性。心窩部痛と腹部腫瘤を主訴に当院へ紹介となった。胸部単純X 線,腹部造影CT では完全内臓逆位症(situs inversus totalis:以下,SIT)を示し横行結腸癌に腹壁膿瘍を伴っていた。腹部血管は逆位以外の走行異常はみられなかった。大腸内視鏡検査で狭窄を伴う全周性2 型腫瘍を認めた。生検結果は高分化型腺癌であった。腹壁膿瘍に対し経皮的ドレナージで炎症が改善した後に腹腔鏡下結腸切除術を施行した。執刀医は患者の左側に立ち,ポート位置を通常と左右対称にして手術を行った。術後経過は良好で術後12 日に軽快退院となった。SIT を伴う横行結腸癌に腹壁膿瘍を合併したというまれな症例を経験したので報告した。

  • 西原 聖仁, 松田 律史, 齋藤 博哉
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 465-468
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は44 歳女性。早朝,心窩部痛で救急搬送された。全身状態は安定しており腹部所見は軽度圧痛を認めるのみであった。造影CT で分節性動脈中膜融解による左胃大網動脈瘤破裂が疑われたが,造影剤の血管外漏出は認めなかった。また膵背面に強い造影効果を伴い内部に造影不良を有する直径38mm の類円形腫瘤を認め傍神経節腫が疑われた。胃大網動脈瘤は自然止血しており保存的加療の目的で入院した。入院後の各種検査において尿中カテコラミン代謝産物および血中カテコラミンが高値であり傍神経節腫と診断した。後日,開腹腫瘍切除を行い病理組織学的に傍神経節腫であることが確認された。傍神経節腫は造影剤を含め禁忌薬剤が多数ある。分節性動脈中膜融解の治療として血管内治療が選択肢としてあげられるが,造影剤禁忌とされる傍神経節腫を合併しており治療方針に難渋したため文献的考察を加え報告する。

  • 川本 潤一郎, 藤田 晃司, 三浦 弘志, 北郷 実
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 469-472
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は両側鼠径ヘルニア術後の56 歳男性で,左下腹部痛を主訴に当院受診した。身体所見では左下腹部に圧痛を認め,左鼠径部から陰囊に達する手拳大の再々発ヘルニアを認めた。血液検査では炎症反応の上昇を認め,腹部造影CT でS 状結腸を中心に脂肪織濃度の上昇と腸間膜内に微細な遊離ガスを認めた。S 状結腸憩室穿通による汎発性腹膜炎と診断し,ハルトマン手術および洗浄ドレナージ術を施行した。左鼠径ヘルニアのヘルニア門は大きく,修復術は行わなかった。術後,発熱と炎症反応が持続し,左陰囊の腫大・硬結を認めた。術後7 日目に再度腹部造影CT を施行したところ,左鼠径ヘルニア囊内に遺残膿瘍を認めた。局所麻酔下で陰囊を切開し,ドレナージを施行してフィルム型ドレーンを3 本留置した。その後,発熱や炎症反応は著明に改善し,術後29 日目に退院となった。

  • 中川 将視, 梅谷 有希, 平湯 恒久, 中村 篤雄, 藤田 文彦, 高須 修, 赤木 由人
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 473-476
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は68 歳男性。55 歳時に胸部中部食道癌に対して右開胸開腹食道亜全摘,後縦隔胃管再建,空腸瘻造設術を施行,67 歳時に左下咽頭癌に対して咽頭喉頭頸部食道切除,遊離空腸再建術を施行されている。術後,頸部リンパ節再発,肺転移に対し,化学療法を施行中である。今回,左側腹部痛で当院救命救急センターへ救急搬送された。絞扼性腸閉塞の診断で同日緊急手術を施行した。開腹すると乳白色の腹水を認めた。挙上した空腸とS 状結腸間膜に索状物を認めた。索状物の切除を行い迷入した小腸を整復後,小腸に壊死所見は認めなかったため,小腸切除は施行せず,手術を終了した。絞扼性腸閉塞が疑われる場合には緊急手術が必要である。しかし,乳糜腹水を伴う小腸捻転の場合には小腸切除を回避できる可能性が高いため,乳糜腹水が術前に評価が可能であれば,低侵襲手術の可能性が示唆される。

  • 和田 大和, 小林 誠人
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 3 号 p. 477-482
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は78 歳女性,腹痛を主訴に近医を受診した。宿便による閉塞性大腸炎が疑われ当院に紹介となった。バイタルサインは安定していた。CT で直腸からS 状結腸にかけての便塊貯留と,それより口側の腸管拡張が顕著で閉塞性大腸炎の診断で緊急手術となった。開腹するとS 状結腸下行結腸移行部から横行結腸肝弯曲まで壊死を認めた。上行結腸も拡張が顕著であり,初回手術ではS 状結腸から回盲部回腸まで切除した。循環動態が不安定となり,腸吻合は行わず一時的閉腹とした。術後敗血症性ショックに陥ったが集中治療により循環は回復し,術翌日に回腸とS 状結腸を吻合し閉創した。術後経過は良好で,第14 病日に自宅退院となった。宿便性閉塞性大腸炎に対する治療戦略は,壊死腸管の切除範囲決定が困難であることが多く,人工肛門造設が一般的である。しかしopen abdomen management からの二期的消化管再建も有効な治療戦略である。

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