日本腹部救急医学会雑誌
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原著
  • 白石 卓也, 柴崎 雄太, 岡田 拓久, 調 憲, 佐伯 浩司
    原稿種別: 原著
    2025 年45 巻6 号 p. 544-550
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    絞扼性腸閉塞は緊急手術を要する疾患であるが,90歳以上の超高齢者に発症した場合には治療方針の決定に迷う場合がある。そこで,90歳以上の超高齢者に発症した絞扼性腸閉塞の治療成績を調査し,どのような課題があるのか検討した。2016年1月から2024年6月までに90歳以上の絞扼性腸閉塞で緊急手術を行った14例を対象に,臨床因子や術後治療成績を調査した。術後合併症を8例(57.1%)に認め,その内訳は肺炎が5例でもっとも多かった。絞扼性腸閉塞術後の転帰として6例(42.9%)は自宅退院できず,その原因として摂食嚥下機能障害の割合が有意に高かった(P=0.015)。90歳以上の絞扼性腸閉塞の術後合併症割合は高く,自宅退院できない症例が多かった。術後の摂食嚥下機能障害が転帰の悪化に大きく影響しており,術後早期から機能維持のための取り組みが課題である。

症例報告
  • 外村 俊平, 岩田 至紀, 桐山 俊弥, 多和田 翔, 末次 智成, 長尾 成敏, 河合 雅彦
    2025 年45 巻6 号 p. 551-554
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    症例は78歳の女性。下腹部痛を主訴に前医を受診した。虚血性腸炎として経過観察となっていたが,症状の改善乏しく,精査加療目的で当院に紹介となった。腹部CT検査で左付属器内の液体貯留と同部位へのS状結腸憩室の交通が考えられ,S状結腸憩室炎の左付属器への穿通,付属器における膿瘍形成と診断した。同日緊急でS状結腸切除,単純子宮全摘,両側付属器切除術を施行した。摘出標本よりS状結腸憩室炎の左卵管穿通,卵管膿瘍と診断した。術後合併症なく術後第16日目に退院となった。S状結腸憩室炎の付属器穿通は比較的まれな病態である。膿瘍を形成した場合,保存的治療のみでの治癒は困難であり,外科的治療の介入が重要である。

  • 服部 陽, 飯田 義人, 江川 由美, 間宮 俊太
    2025 年45 巻6 号 p. 555-559
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    近年,正中弓状靭帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome:以下,MALS)に対する腹腔鏡手術の報告が散見されるが,腹痛の鑑別疾患としての認知度はいまだ十分とはいいがたい。症例は52歳,女性,腹痛の精査として呼気時に撮影した造影CTでMALSの診断に至り,他の器質的疾患が否定的であったため待機的に腹腔鏡手術を実施した。小網を切開して正中弓状靭帯にアプローチし,靭帯切離の目安は腹部大動脈から腹腔動脈の外膜を視認することとした。術後腹部症状は改善し,造影CTで腹腔動脈狭窄の改善を認めた。MALSは消化器外科と血管外科との境界領域の疾患であり重篤な術中合併症として動脈損傷が起こり得るが,手術により症状の改善が期待できるため,安全な手術手技・合併症対策の確立に加え病態自体の周知・啓蒙が必要である。

  • 横山 翔平, 吉野 健史, 西崎 颯良, 土佐 明誠, 福井 彩香
    2025 年45 巻6 号 p. 560-563
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    症例は50歳台,男性。尿道癌に対して膀胱尿道全摘+回腸導管造設後であった。受診2日前より右下腹部痛を自覚し増悪してきたため当院救急外来を受診した。右下腹部に腹膜刺激症状を認め,腹部CT検査で虫垂腫大,虫垂根部に壁外に突出する石灰化像を認めたため,急性虫垂憩室炎と診断し,緊急手術の方針とした。当院での通常のポート配置では回腸導管が手術操作の妨げになるため,ポート位置を変更することで腹腔鏡下手術を完遂できた。術後経過は良好で術後5日目に退院となった。病理組織学的には虫垂憩室の粘膜面に潰瘍と穿孔を認めた。虫垂憩室炎はまれな疾患であるが,穿孔のリスクも高く切除を積極的に検討する必要がある。また回腸導管造設後の虫垂切除術は癒着や回腸導管との位置関係により手術操作が困難であることも想定されるが,工夫を行えば安全に腹腔鏡下手術は施行可能であると考えられた。

  • 曽我 真伍, 小林 雅子
    2025 年45 巻6 号 p. 564-566
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    症例は57歳,女性。脳出血後の水頭症に対して脳室腹腔シャントカテーテル(ventriculoperitoneal shunt catheter:以下,VPSC)留置中であった。発熱および右下腹部痛で救急搬送となり,複雑性虫垂炎と診断した。緊急手術によりVPSCへ感染が波及する可能性を考慮し,待機的虫垂切除を行う方針とした。3週間の保存的加療により症状の改善を認め,発症から2ヵ月後に腹腔鏡下虫垂切除術を施行した。VPSC留置患者の急性虫垂炎に対して,待機的手術を行うことが可能であった1例を経験したので報告する。

  • 山田 敬教, 木内 誠, 山根 哲美
    2025 年45 巻6 号 p. 567-569
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    症例は11歳,女児。発熱,右下腹部痛,嘔吐のため,当院紹介となった。血液検査で炎症反応が軽度高値を示し,CTで骨盤内に腹水を少量認め,虫垂は内腔に糞便貯留を認めるが腫大はわずかであった。腹痛増悪に対して診断目的に審査腹腔鏡を施行したところ,右卵管に3つの小さな有茎性や亜有茎性傍卵巣囊胞を認め,有茎性囊胞,亜有茎性囊胞,卵管采の一部が互いに絡み合って絞扼していた。卵管茎捻転は合併していなかった。絞扼を解除して囊胞を切除した。左卵管にも類似した囊胞が多発しており,焼灼して内容液を吸引除去した。虫垂には炎症はなく,切除しなかった。婦人科疾患による急性腹症として大きな傍卵巣囊胞による卵管茎捻転の報告例は比較的多いが,卵管茎捻転を伴わない,複数の小さな傍卵巣囊胞が互いに絡み合って絞扼した報告例は非常にまれであり,診断および治療に腹腔鏡が有用であったため,報告する。

  • 恒松 雅, 山本 一博, 柳垣 充, 山口 輝之, 井川 聡, 小林 直史, 山本 晴希, 河合 俊輔, 谷合 智彦
    2025 年45 巻6 号 p. 570-572
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    高度の側弯症・重症心身障碍を有する26歳,男性の癒着性腸閉塞術後の腸重積に対して緊急手術を行った。術後の体位変換を契機に心拍数増加を認め,術後6時間で心室頻拍から心停止へ移行した。蘇生処置を行うも死亡退院となった。急激な貧血の進行を認めたが,体表の診察・ドレーン色調から出血を示唆する所見はなかった。病理解剖で左側腹部に腹壁損傷・腹腔内凝血塊を確認し,左側臥位への体位変換時に変形の強い脊椎による腹壁損傷を生じたと推察された。成人期重症心身障碍児の外科的救急疾患に対する診療は,複雑な背景疾患により健常者と予備能・全身状態が異なることを認識し,予期せぬ偶発症が起こり得ると構えておくが肝要である。

  • 寺谷内 泰, 大野 崇, 上田 達夫, 白井 清香, 吉田 寛
    2025 年45 巻6 号 p. 573-576
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:以下,SMA)寒栓症は,比較的まれな疾患であるが,発症早期に特異的な所見に乏しく,死亡率が高い疾患である。今回,われわれは発症から約24時間が経過したものの,ハイブリッド手術で腸管温存し得た症例を経験したため報告する。症例は72歳の男性,X−1日に突然の腹痛を訴えるも,所見に乏しく経過観察としていたが,X日に血便を認め,造影CTでSMA塞栓症と診断しハイブリッド手術を施行した。血管造影ではSMA本幹の閉塞を認めるも,辺縁動脈を介して腸管血流は保たれていた。開腹したところ,全層壊死には至っておらず血栓回収を先行し,SMAの再開通を得た。血栓回収後,腸管の色調が改善し腸切除は行わずに手術終了,術後経過良好であった。ハイブリッド手術は,リアルタイムに治療効果を評価し不要な腸切除を避け,予後改善に寄与する可能性がある。

  • 延廣 征典, 須藤 翔, 佐藤 幸平, 堅田 朋大
    2025 年45 巻6 号 p. 577-581
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    上腸間膜静脈血栓症(superior mesenteric venous thrombosis:以下,SMVT)はまれな疾患であるが,腸管のうっ血や壊死をきたすことがあり,重篤な経過をたどることもある。症例は56歳,男性。腹痛を主訴に受診し,腹部造影CTで急性虫垂炎および回結腸静脈と上腸間膜静脈に血栓を認めた。SMVTを合併した急性虫垂炎と診断し,抗菌薬投与と抗凝固療法を施行した。虫垂炎の増悪や再燃なく,血栓症による腸管うっ血の所見なく経過した。腹部造影CTでSMVTの消失を確認した後に,虫垂炎の再燃とともにSMVTが再発する可能性を考慮して,待機的に腹腔鏡下虫垂切除術を施行し,抗凝固療法を終了した。SMVTを合併した急性虫垂炎の治療において,SMVTによる腸管うっ血や壊死を認めなければ,抗凝固療法を行いながら,通常の急性虫垂炎と同様の治療選択が可能と考えられた。

  • 矢作 竜太, 香月 優亮, 濱崎 佐和子, 小金井 雄太, 神 雄太, 西山 亮, 江川 智久
    2025 年45 巻6 号 p. 582-585
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/10/10
    ジャーナル 認証あり

    症例は70歳台,男性。膵頭部癌に対し膵頭十二指腸切除,門脈合併切除を施行した。当初門脈再建は端端吻合の予定であったが,再建時に門脈が裂け込み吻合困難となった。長時間の門脈血流遮断による腸管血流うっ滞予防目的で一時的上腸間膜静脈-下大静脈シャントを作成後,右浅大腿静脈グラフトで再建を行った。術後5日目に門脈血栓を認め,13日目にグラフトは完全閉塞したため緊急で血栓除去と門脈再再建を施行した。腹腔内膿瘍などの内科的治療を経て,術後66日目に退院となった。使用報告が少ない浅大腿静脈グラフトを用いた門脈再建,術後早期の門脈血栓症に関し,文献的考察を加え報告する。

編集後記
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