2016年アメリカ大統領選挙では, 選挙運動技術においてはヒラリー・クリントンが資金, 組織, 新技術で量的には優勢でありながらも, これらの側面で劣勢だったドナルド・トランプに敗北した。アメリカの政党や候補者陣営は, 1970年代以降の候補者中心選挙の浸透などの変化に選挙運動様式を対応させてきたが, 選挙運動技術がどのような状況でいかなる効果を発揮するのかは政治環境の変容に即して吟味する必要がある。本稿では,2016年大統領選挙の選挙運動の質的特徴に焦点を絞り, 特定の有権者集団向けの集票戦略であるアウトリーチの観点から対人の集票活動, マスメディア戦略, デジタルの新技術を考察する。その上で, 選挙運動が効果を発揮する条件としての候補者要因の重要性とともに二大政党を横断して顕在化する新たな対立軸の問題を指摘する。
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