本稿は,福祉削減の時代-具体的には,1986∼95年-において,政権政党の党派性,経済システムの調整度,コーポラティズム,拒否権プレイヤーの数が,医療保険削減にどのようなインパクトを与えたかを検討する。OECD14ヵ国を対象とする交差比較分析からは,(1)政策過程における拒否権プレイヤーの数が多いほど,医療保険削減スピードは遅くなる,(2)コーポラティズム諸国では,医療保険が削減されるスピードが速い,(3)自由主義的市場経済(LME)より調整的市場経済(CME)で医療保険が削減されるスピードが速いことが明らかとされた。他方,政権政党の党派性は,医療保険削減スピードを左右しないことが確認された。特に,調整型市場経済では,医療保険の担い手である企業,労働組合は互いに対立するというより,一つの「利益共同体」を構成するため,医療保険削減は速いスピードで進んだと考えられる。
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