原子力は社会と強い関わりを持って存在している。しかしながら, 近年に発生したいくつもの事故と不祥事によって, 原子力への人々の信頼感は大きく揺らいでおり, 原子力が不安な存在に化しつつある。この実態の分析と内在する問題の把握は, 原子力に従事するものにとって重要な課題となっている。原子力が適切に社会に利用されるためには, 一般公衆および原子力発電立地におけるコミュニケーションが, 一層重要性を増しており, 実情を把握し, 問題を克服する方策を探らなければならなくなっている。そのような分析を踏まえ, 原子力事業者, 研究者, 行政者において, 役割に応じた, 原子力の社会受容性を改善する様々な取組みが提起される。原子力の将来を肯定的なものにし得るためには, 確たる技術開発はもとより, それを支える人材の育成のための教育的・倫理的課題も産・学・官で取り組む必要がある。一方, 原子力をエネルギー・環境問題解決の担い手と位置付けるかどうかについて, 国際的なコンセンサスが成立し得ない状況がある。この原因を探るとともに, 原子力の役割を再確認し, わが国において世界をリードする核燃料サイクルの確立を果たしうるために, 政策的課題についても学会, 産業界から提言すべき事項は多い。
本特集では, 社会・環境部会の活動の中から, 各グループ等による議論・検討の行われたトピックス事項を中心に紹介することを通じて, 原子力の社会的状況について学会員と認識を共有し, それが個々の役割を考える手がかりとなることを期する。
核融合炉開発は進展し, 国際熱核融合実験炉ITERの工学設計が完成して建設活動を始めるべく準備が進められている。現在, 開発を進めている核融合炉は重水素とトリチウムを燃料とするが, トリチウムは放射性気体であり, また, 天然には稀少であるため, 核融合炉内で消費量に見合う量の生産を行う。このため, トリチウムの有効利用とその取り扱いに係る安全を確保するトリチウム・システムの開発は核融合炉の実現に必要不可欠である。本稿では, 核融合炉のトリチウム・システムについて, ITERのトリチウム・システムの設計とその技術基盤を中心に紹介するとともに, 今後の課題について述べる。
超伝導検出器は, 赤外線からγ線までの広い領域で単一光子のエネルギー測定 (エネルギー分散分光) を可能にする。どのエネルギー領域においても, 従来の半導体検出器では実現できない, 高い光子エネルギー測定精度 (エネルギー分解能) を達成できる。超伝導検出器は, エネルギー分解能, 広い対応エネルギー範囲といった特徴を活かして, 可視光域の天体観測, 軟X線領域の放射光利用材料分析, X線材料分析, X線天文衛星, 暗黒物質探索といった分野で, 従来は困難であった計測を可能とする。