チェルノブイリ事故による死者は, 数万とも数十万とも報道されたが, 2005年9月にウィーンで開催された国際会議では, 「事故の放射線による死亡は4,000」と発表された。事故20周年にあたる2006年4月には世界保健機関 (WHO) が, 9,000というがん死亡予測数を発表するなど, 事故の影響については議論が絶えない。国連8機関とベラルーシ, ロシア連邦, ウクライナ3ヵ国で構成する「チェルノブイリ・フォーラム」の調査報告は, 100人以上の国際的専門家がまとめたもので, 科学的であり妥当なものと考えられるが, 事故影響が過小評価されているとの批判がある。しかしながら, 事故の影響とされる健康障害の原因は放射線そのものではないことが明らかになりつつある。
昨今の原子力平和利用と核不拡散の国際情勢には2つの大きな潮流がある。1つは「原子力ルネサンス」と呼ばれる状況, すなわち米国での原子力回帰, 欧州での脱原子力政策の見直しやアジアの原子力利用拡大等であり, もう1つは北朝鮮の核実験実施, イランの核開発問題, カーン博士の「核の闇市場」, そして核テロの現実化等の核拡散の懸念が一層深刻化していることである。
原子力平和利用と核不拡散という視点で過去を振り返ってみると, 約50年前の“Atoms for Peace”に始まる原子力平和利用の国際的なスタート, 約30年前のインドの核実験, カーター大統領の核不拡散政策の強化と国際核燃料サイクル評価 (INFCE) 等国際的な秩序形成の動きがあった。そして現在は, 核兵器不拡散条約 (NPT, 米, 露, 英, 仏, 中の5ヶ国を「核兵器国」と定め, 「核兵器国」以外への核兵器の拡散を防止することを目的とする条約) の「抜け穴」を繕うために, 再び核燃料供給保証等の「新たな秩序への模索」が始まっている。このように, 「新たな秩序への模索」は, 現在とは時代背景も環境も異なるが, 実は30年前にも類似の検討が行われていた。本稿では, これらの動向を概括した上で, 過去の結果と現在の状況を比較検討しつつ, 現在の「新たな秩序への模索」について解説してみたい。
なお, 本稿は, 日本原子力学会「2006年秋の大会」の講演内容をもとに筆者を加え, 加筆したものである。
2005年2月に京都議定書が発効し, 二酸化炭素などの温暖化ガスを極力排出しないエネルギー供給システムの確立が急務となっています。さらに, エネルギーセキュリティーの観点からも, エネルギー資源の効率の良い利用が重要な視点となっています。原子力発電システムは, これらの観点からは優れたシステムであり, 日本の電気エネルギーの重要な供給源となっています。米国や欧州をはじめとする, 世界各国の原子力発電プラントにおいては, 原子炉出力向上を実施した数多くの事例があります。原子炉出力向上とは, 原子力発電プラントの安全を損なうことなく, 発電出力を1~20%程度増大することです。このような原子炉出力向上は, 上述の温暖化ガス削減やエネルギーセキュリティーの観点からも有効な手段であり, 海外では積極的に導入されています。日本においても, 給水流量計として超音波流量計を用いる計測不確かさ改善 (MU) 型の原子炉出力向上 (Measurement Uncertainty Recapture) を行うことで, 安全性は全く変わらずに, 0.5~1.7%の原子炉出力向上ができる可能性が高いと考えています。もし, すべてのプラントに約1%原子炉出力向上を適用すれば, 約50万kW (約0.5機分) の電力を生み出すことができます。これは, 二酸化炭素削減の観点からも無視できない量です。
放射線誘起表面活性 (Radiation Induced Surface Activation ; RISA) は, 今世紀初頭に我が国で初めて確認された金属酸化皮膜への放射線照射によって生じる表面活性効果であり, その効果により放射線環境下の伝熱・防食特性向上をはかることができる。本稿では, 現在行われている経済産業省革新的実用原子力技術開発費補助事業「放射線誘起表面活性効果による高性能原子炉に関する技術開発」で行われているRISAによる防食・伝熱特性向上およびメカニズム解明などの研究の現状を概説する。