日本原子力学会誌ATOMOΣ
Online ISSN : 2433-7285
Print ISSN : 1882-2606
54 巻, 7 号
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巻頭言
時論
解説
  • 「ポスト福島事故」をめぐる社会的課題
    佐田 務
    2012 年 54 巻 7 号 p. 436-440
    発行日: 2012年
    公開日: 2019/10/31
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     東京電力の福島第一原子力発電所で事故が起きて数ヶ月の間,官邸を中心とした政府当局の危機管理対応は混乱をきわめた。その多くは,対応すべき過大なタスクにこたえきれないことによる対応体制の不備によるものだったが,なかには情報発信の意図的な制限などのように,恣意的な作為も含まれていた。そこではエリートパニックが起こった可能性がある。また福島事故以前には,安全向上をめざすさまざまな対策や知見が提案されていたにも関わらず,それが反映されないままに放置された。そのことが,事故の影響を拡大した可能性がある。本稿では政府の危機管理体制の問題と,安全向上をめざす知見が反映されなかった原因およびその解決へ向けた提案を述べる。

  • 吉原 健介
    2012 年 54 巻 7 号 p. 441-446
    発行日: 2012年
    公開日: 2019/10/31
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     福島第一原子力発電所事故では,巨大な津波によって長期間にわたる全交流電源喪失,冷却機能喪失によって炉心損傷,大量の放射性物質の放出に至った。事故を受けて,各原子力発電所では直ちに緊急安全対策に着手し,その後も継続的に安全確保対策を実施してきたが,本稿では,原子力学会「2012年春の年会」の福島第一原子力発電所事故特別セッションで報告した内容をもとに,関西電力における安全確保対策の取組状況について説明する。

  • 地震安全ロードマップ策定の意義と重要性
    宮野 廣, 中村 隆夫, 成宮 祥介
    2012 年 54 巻 7 号 p. 447-451
    発行日: 2012年
    公開日: 2019/10/31
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     2007年7月に中越沖地震が発生し,更にその3年半後に東日本大震災が日本を襲った。いずれの場合にも震源近傍の原子力発電所は大きな地震動に見舞われたが,その後に大津波が発生したかどうかにより事故の明暗が大きく分かれることとなった。今,私達は今回の福島第一原子力発電所事故の未曽有の過酷さの前に,4年半前に起きた中越沖地震のことをともすると忘れがちになるが,2つの地震の共通点は,原子力発電所が設計の想定を大きく超えた地震動に見舞われたことにある。日本原子力学会は,中越沖地震の後,「原子力発電所地震安全特別専門委員会」を設置し,設計想定を超える地震に対してどのように安全を確保すべきかを検討してきた。そして東日本大震災が発生した昨年初めには,ほぼその検討結果が報告書としてまとまりつつある状況にあった。福島第一原子力発電所事故後の緊急事態からようやく立ち直りつつある現在,今回取りまとめた地震安全ロードマップに関する報告書の意味するところ,すなわち「原子力発電所の安全をいかに確保すべきか」を改めて問い直してみることが重要である。日本原子力学会は,この報告書の提言しているところを原点とし,引き続き「原子力安全」の確保のあり方について検討していくことが求められている。

     今回,4回のシリーズで,本委員会の活動に参加した日本原子力学会の委員,及びその検討に協力した日本地震工学会,日本機械学会の委員により,本委員会が取りまとめた地震安全ロードマップ報告書の内容と,中越沖地震及び東日本大震災を踏まえた原子力安全確保のあるべき方向について解説する。

  • 求められる客観的なメリット・デメリット比較
    矢島 正之
    2012 年 54 巻 7 号 p. 452-456
    発行日: 2012年
    公開日: 2019/10/31
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     わが国では,2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故を契機に,発送電分離についての議論が盛んになっているが,そもそも発送電分離に関しては内外で電力自由化が本格化した1990年代から2000年代初めにかけて散々議論されてきた課題であり,そのメリット・デメリットについても出尽くした感がある。その結論は,発送電分離には無視できないデメリットも存在しているということである。

     本稿では,まず,発送電分離が必要とされる理由と発送電分離の形態について述べた後,内外における発送電分離の経験を概観する。次に,発送電分離のメリット・デメリット比較について述べ,最後に,わが国における今後の発送電のあり方について考えてみたい。

  • 東海 邦博
    2012 年 54 巻 7 号 p. 457-462
    発行日: 2012年
    公開日: 2019/10/31
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新刊紹介
解説
  • 2011年版IEA世界エネルギー見通しから
    田中 伸男
    2012 年 54 巻 7 号 p. 463-468
    発行日: 2012年
    公開日: 2019/10/31
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     2035年までを見ると,エネルギー需要は中国,インドなどアジアで伸びる。限りある化石燃料を奪い合うことなく,持続可能性の制約のもと,風力太陽光などの再生可能エネルギー,より安全な原子力,シェールガス革命を経験しつつある天然ガスなどをどう組み合わせて使うことが経済発展によいのか。福島原発事故以後の日本に期待される貢献は何か。アジアでのエネルギー安全保障のあるべき姿は何か。IEA 2011年版(WEO 2011)見通しを読み解いてみた。

  • 第4回(最終回)シェールガスの動向―天然ガスの埋蔵量の急増とLNG需給への影響と展望
    伊原 賢
    2012 年 54 巻 7 号 p. 469-474
    発行日: 2012年
    公開日: 2019/10/31
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     国際エネルギー機関IEAは2011年6月,世界が「ガス黄金時代」を迎えたとするレポートを公表した。そのシナリオによれば,世界の天然ガス需要は2035年に08年比で62%も増加すると予測。エネルギー全体の需要が年率1.2%で増えるなか,天然ガスは年率2%と約2倍の勢いで伸び続け,世界のエネルギー構成での役割が飛躍するとの見方だ。それを支えるのが非在来型天然ガスの存在だと言われ,中でもシェールガスの登場により,世界の天然ガスの可採年数は在来型ガスの残存確認可採埋蔵量をベースとした60年から,少なくとも160年を超えるのは確実になった。政治や商業,技術リスクの低い資源開発になったシェールガスを展望する。

  • 科学と政策の応答と課題
    浅岡 美恵
    2012 年 54 巻 7 号 p. 475-479
    発行日: 2012年
    公開日: 2019/10/31
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     IPCCは気候変動・地球温暖化に関する科学的・技術的・社会経済学的な評価を行い,その知見が広く利用されることを任務として1988年に設立された。第1作業部会(自然科学的根拠),第2作業部会(影響,適応,脆弱性),第3作業部会(気候変動の緩和と適応)が既に発表されている論文を評価し,1990年(第1次),1995年(第2次),2001年(第3次)及び2007年(第4次)に評価報告書を作成・公表してきた。これらには「政策決定者向け要約」が付けられており,気候変動枠組み条約の採択,京都議定書の採択・発効,その後の交渉を後押し,温暖化の悪影響を最小化する取組みが進展してきたとはいえるものの,2013年以降の国際枠組み構築には至っておらず,科学が国際政治に十分に反映されているとはいえない。2020年以降のすべての国の枠組みは2015年までに採択するとされている。その成否は2013~14年に公表が予定されている第5次評価報告書と国際政治の受け止めにかかる。

  • 第1回 X線がん治療の現状,課題,展望
    平岡 真寛
    2012 年 54 巻 7 号 p. 480-483
    発行日: 2012年
    公開日: 2019/10/31
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     放射線療法には,(1) 機能・形態を温存しながら治癒に導ける,(2) いかなる部位でも自由に照射できる,(3) 体の負担が少なく,合併症を有する患者や,高齢者にも適応できる,という大きな利点を有している。他方,手術療法に比べて局所制御の点で劣るがんが少なくないこと,腫瘍周辺部の正常組織に放射線が照射されることに伴う放射線障害の出現が問題とされている。近年,根治性の向上を図る一方で,放射線障害の軽減を実現する新しい治療法が登場し,放射線治療は新たな時代に入った。IT技術を活用した定位放射線治療,強度変調放射線治療はその代表であり,更に動きに対応できる4次元放射線治療が実用化されつつある。

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