東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故に関する日米科学アカデミーおよびIAEAとOECD/NEAによる事故調査報告書の教訓と提言を中心に総括する。内容は事故の要因,安全対策と緊急時への備え,緊急時サイト外対応,放射線の影響,事故後の復旧および国際的課題で,最後に米国科学アカデミーの使用済燃料貯蔵プール問題を記す。
原子力発電所の安全上の脅威や問題について将来にわたり安全確保を継続していくには,リスク評価とそこからの情報の扱いを前向きに捉えて取り組む必要がある。原子力学会標準委員会では,現在までにPRA(確率論的リスク評価)手法やリスク活用のための技術基盤整備を行ってきた。ただ,現在鋭意議論されている検査制度の見直し検討においてリスク情報活用がうたわれているように,今後様々な実務に適用するためにはリスクの情報をどう活用して意思決定するかの標準が必要である。震災前にも標準委員会はリスク情報活用実施基準を発行しているが,より具体的な標準の策定を進めることとした。
本稿は,国際リスクガバナンス協議会(IRGC)の報告書を参照しつつ「リスクガバナンスの枠組み」,「適切なリスク管理」について理解を深めることを目的とする。リスクガバナンスの枠組みは,リスクの事前評価,リスクの評定,リスクの特性化と査定(受容性判断),リスク管理,そしてリスクコミュニケーションからなる。福島第一事故の教訓を踏まえ,安全神話から脱却することを誓ったが,あわせてリスクゼロを求めてはならないことも学んだ。リスク管理を適切に行うには,リスクから目を背けてはならないが,同時に便益を適正に評価しなければならない。それが,安全を確保しつつ科学技術の恩恵を受ける,あるべき姿である。
原子力安全部会では,2012年に福島第一原子力発電所事故について8回にわたる公開セミナーを開催して以降,そこで同定された重要な課題について,継続的な議論を行っている。本稿では,同部会による2016年8月の夏期セミナー,および,9月の秋の大会における企画セッションの講演と討論から,「継続的安全性向上」に関わる標準委員会,電力中央研究所原子力リスク研究センター,並びに事業者における活動を報告する。また,「安全目標」に関して,その策定経緯や日本学術会議での検討状況,今後の利活用の考え方について報告し,主な議論をともにまとめる。
2011年3月11日の東日本大震災後,福島県の住民の中には,原発事故に関する情報を直ぐに入手することは困難で,相反する情報でどの情報を信じて良いのか分からないといった住民もいた。その様な中,自主避難することを選択した住民も多く,5年近く過ぎても約2万5000人もの人が県内外に自主避難している。そこで,住民が得られた情報をどの様に理解し,行動したかを知ることは,今後のリスクコミュニケーションを円滑に進めるうえで,重要であると考えられる。そこで,福島市在住の住民12名と関西に自主避難した人6名にグループインタビューを実施し,共通点や相違点に着目して,課題を検討した。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら