これまで甲状腺がんに限らず,一般に発がんのメカニズムは,「多段階発がん説」に基づいて説明されてきた。すなわち,正常な体細胞(機能細胞)に変異が段階的に蓄積し,正常な体細胞が良性腫瘍となり,それががん化して次に悪性のがんに進展するというものである。しかし近年,“幹細胞ⅰ”の研究が進むにつれて,組織や臓器の細胞を生み出す組織幹細胞が,がんの主な発生母地であるといわれるようになってきた。本稿では,変異蓄積による「多段階発がん説」のモデルと,それでは説明できない子供に多く発生する血液がんの発症メカニズムのモデルについて解説する。
がんは複数の遺伝子に段階的に損傷および変異が蓄積することによって起こるという「多段階発がん説」が,唯一の発がんメカニズムとして定着していた。しかし近年,ある特定の遺伝子が一つ変異するだけで短期間に正常細胞ががん化してしまうというメカニズムが存在する可能性のあることが報告されてきている1)。このような遺伝子の変異を「ドライバー変異」と呼ぶ。このタイプのがんの発生は限られており,小児がんや,白血病のような血液がんに多く見られるといわれている。その一例として,チェルノブイリ事故で多発した小児甲状腺がんが注目されている。本稿ではチェルノブイリ事故後の小児甲状腺がん発症のモデル,すなわち放射線誘発による遺伝子変異した細胞が原因ではなく,放射線による細胞死の誘導と組織微小環境の攪乱により,自然発生(散発性)の遺伝子変異細胞が,増殖を開始して発がんするというモデルについて解説する。
本稿では脱分化(リプログラミング)というプロセスをとらずに,甲状腺がんの発症を説明する「芽細胞発がん説」を解説し,従来から一般的な発がんモデルとして使用されてきた脱分化に伴う甲状腺がん多段階発がんモデルとの相違性ならびに関連性について解説する。
WEO2017では,国連の持続可能な開発目標やパリ協定の発効により,地球・地域環境保全は国際社会が共有すべき重要な価値であるとされ,2℃目標と整合的なシナリオでは世界の原子力は今後も維持・増強されていることから,原子力は持続可能なエネルギーシステム実現において重要な技術オプションの一つであると示唆されている。しかし実際,革新技術普及の可能性など,エネルギー市場の将来の不確実性が高まっており,原子力への投資の意思決定は困難である可能性があり,投資の予見可能性を高める政策的支援等が重要であると考えられる。
北欧にノルウェーという小さな国があり,2017年に国連の調査で「世界で最も幸福な国」に,また英国のシンクタンクにより「世界で最も繁栄している国」に選ばれた(日本はそれぞれ51位と23位)。個人的見解では,この国は国土の美しさという点でも世界最高である。さらに地震も津波も火山も台風も豪雨も無い。そのノルウェーに住み着いて21年になる。その間,「ハルデン炉」として日本でも知られる研究所で仕事をした。仕事の仕方の(私が勤務した)日本企業との違いは極めて大きいが,日本からノルウェーに転職した最大の理由がまさにこの点にある。
サイバーセキュリティ対策は技術対策と考えられるが,実際には「人間」を考えることが重要である。システム/セキュリティ機器の作成も人間であり,それらの管理や利用するのも人間である。このような状況を考えれば,人間の問題として,セキュリティ対策を考えることが大切になる。このような観点から,人間の脆弱性を踏まえて考えたのが,セキュリティ心理学である。今後,ますます発展するIoTのセキュリティでも重要な要素になると考える。
粒子法は,計算精度と計算コストの面で格子法に劣るが,境界面が複雑に変形し合うような解析や,多数の接触判定が必要となる解析では,大きな力を発揮する。本稿では,粒子法が得意とする境界面が複雑に変形し合うような解析例として「複雑な内部構造を持つ地上構造物の津波浸水解析」と「車輪・レール間の水膜挙動解析」を紹介し,多数の接触判定が必要となる解析例として「浮遊物の挙動解析」と「着雪解析」を紹介する。
本稿では,核融合炉のトリチウム燃料循環システムにおけるトリチウムバランスの基本的な考え方とモデル化について概説する。また原型炉における評価例を紹介し,トリチウムインベントリの挙動,必要となる初期装荷トリチウム量,トリチウム倍増時間について説明する。その後,原型炉に向けた課題としてトリチウムバランスのモデル化に必要なトリチウム損失係数の重要性,原型炉のトリチウムインベントリ最小化に向けた燃料システム構成の提案例について紹介する。
新たな原子炉型として液体燃料を用いる溶融塩炉への関心が高まっている。これは特に,福島第一原発事故以降に顕著だが,エネルギー消費大国に成長した中国は福島事故の数ヶ月前,将来の商業化を目指した大規模な溶融塩炉開発計画を立ち上げた。日本国内とはやや温度差があるが,世界各国では中国の動きに触発されたかのようにその後溶融塩炉研究が活発化している。本稿では第4世代原子炉の一つである溶融塩炉の開発状況について解説する。
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