ニュートリノは基本粒子の中で最も捉えどころのない粒子である。その存在は比較的早く1930年代初頭にはほぼ受け入れられたが,存在が確証されるまでは四半世紀を要した。ニュートリノが質量を持つか否かと言う基本の基本が確定したのは更に40年後。その一方でこの謎の多い粒子は,素粒子論や天体核物理学のあらゆる局面に顔を出し,その発展の狂言回しの役割を演じて存在感を増し続けてきた。ニュートリノを遮るには鉛板にして数光年の厚さが必要だが,この物質との関わり(相互作用)が超絶的に弱いという性質が逆に原子炉運転遠隔監視への応用の道も開く。現在も謎の多いこの粒子を追って十指に余る大型実験が進行中であるが,それぞれ奇抜とも言えるユニークなアイデアが光る。
2018年11月にメートル条約にもとづいて開催された第26回国際度量衡総会において,国際単位系(SI)の定義を大幅に改定することが採択された。これによって,SIの根幹をなす7つのSI基本単位のうち,キログラム,アンペア,ケルビン,モルの定義が基礎物理定数にもとづく新しい定義へと移行した。特に,キログラムについては国際キログラム原器による定義が廃止され,130年ぶりにその定義が改定された。本稿ではプランク定数にもとづくキログラムの新しい定義の概要について解説し,定義改定の影響について述べる。
微小な電子プローブを用いて原子スケールの構造観察を行う走査型透過電子顕微鏡(STEM)は,収差補正技術の確立に伴ってここ10年で大きな進歩を遂げている。現在の世界最高分解能は50pm以下にまで達しており,原子サイズ以下の空間分解能が実現している。一方,最近ではSTEMの検出器開発にも大きな進展があり,従来は難しかった軽元素原子観察,原子スケール組成分析,超高分解能電磁場観察などが可能になりはじめている。本稿では,原子分解能STEMの現状と将来展望に関して報告する。
量研における核融合エネルギーの実用化に向けた研究開発の進展として,第5回の原型炉研究開発戦略およびITER計画,第6回の幅広いアプローチ活動(サテライト・トカマク計画)に続き,最終回の第7回は幅広いアプローチ活動の中でも六ヶ所核融合研究所で実施しているIFMIF/EVEDA,およびIFERCの各事業の研究開発の現状に加え,原型炉の材料開発に必要な先進核融合中性子源A-FNSについて紹介する。
臨界管理や原子炉の運転等において,体系の中性子実効増倍率は最も基本的な概念の一つである。実効増倍率が1のときを臨界,1未満のときを未臨界と呼ぶことは良く知られているが,実は両者は大きく異なる状態である。本連載講座では,核燃料サイクル施設の臨界安全,原子炉施設の臨界管理や福島第一原子力発電所のデブリ取り出し等で重要となる未臨界状態について,臨界状態の原子炉との違い,炉物理的な特徴,未臨界状態であることを評価・測定する手法などを解説する。第1回では,臨界・未臨界の炉物理的な違いについて紹介する。
新型炉部会では,「高速炉戦略ロードマップ検討会」を設置し,高速炉開発の方向性について,提言をまとめた。短期的ロードマップの検討を中心とする国の検討に対して,本提言は長期的視点と戦略を重視したものとしている。ここで,制約や不確実性の大きい環境下では長期開発に困難が予想される。このため最初に,現状の制約からは一定の距離を置いた普遍的目標からバックキャストで長期計画を考え,次に現在の制約から出発してフォアキャストで長期計画と整合する短期計画を検討した。
2019年6月に大阪で開催されたG20の中で日露首脳会談が開かれ,平和条約締結へ向け長年の懸念材料である北方領土問題等の交渉加速を継続することで一致した。原子力分野では,チェルノブイリ原子力発電所の事故のイメージが強い一方で,輸出も含む建設ラッシュ/洋上原子力発電施設/原子力砕氷船の開発といった情報が聞こえてくる。知っているようで知らない隣国「ロシア」,その一端を紹介する。
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