近年,国内外において革新炉導入に向けた活発な動きが見られる。米国では,2020年に「新型炉実証プログラム(ARDP)」を開始し,高速炉,高温ガス炉,マイクロ炉,溶融塩炉,軽水型小型モジュール炉(SMR)のプロジェクトが進められている。カナダ,英国,ロシア,中国でも同様に新型炉開発が盛んになってきている。わが国においても,経済産業省により,2019年度から「社会的要請に応える革新的な原子力技術開発支援事業」が開始され,民間の活力を活かした革新炉の開発に繋がる研究開発の促進に向けて事業成立性に関する調査(フィージビリティスタディ)が進められている。新型炉開発は原子力研究・開発の将来を開拓する技術分野であり,現在,原子力業界に求められているイノベーションの実現を目標としていることから,若い世代を原子力研究・開発へと惹きつけるもっとも魅力的な分野のひとつである。本稿では,主要な開発国を対象に最新の国外の開発動向を紹介するとともに,国内においては2050年カーボンニュートラルに向けた原子力イノベーションに係る革新炉開発の動向を主に紹介する。
東芝エネルギーシステムズと富士電機が共同開発している小型モジュール高温ガス炉は,固有安全性を活用して原子炉格納施設を簡素化すると共に,プラントを4モジュール構成とすることで大型軽水炉並みの電気出力を得るコンセプトである。また,早期実用化のため成熟技術である蒸気タービンを採用し,蓄熱設備との接続により電力需給変動を吸収する機動的運用を検討している。本稿では本高温ガス炉のプラント概要と,実用化に向けた取り組みについて紹介する。
福島原発事故初期の大気中濃度,放出源情報,気象データ等の大気環境に関するデータセットが整備された。これらは2011年3月中の主要プルームの国内での動態を網羅するものである。大気拡散数値モデルの国際比較により,事故後モデル性能が向上し事故初期のプルーム動態予測が可能であることが示され,計算結果の不確かさを踏まえた緊急時利用法が提案された。
理化学研究所では,スーパーコンピュータ「富岳」の共用を2021年3月から開始している。富岳本体の消費電力は最大で30 MWを超え,その変動幅は10 MW以上に達するため,安定した運用を継続するためには膨大な熱負荷変動を冷却制御することが必要不可欠となる。本稿では,ベンチマーク試験時の状況をもとに富岳施設の冷却システムの概要について紹介する。
エネルギー価格高騰への対応,脱炭素化への移行過程におけるエネルギー安定供給確保,再生可能エネルギー大量導入に伴うリスクへの対応,国際的な化石燃料市場と再生可能エネルギー市場や鉱物資源市場における中国の台頭など,国際エネルギー情勢は新たな局面を迎えている。原子力エネルギーは,これらの諸課題に対して,エネルギーセキュリティ強化,エネルギーコストの抑制,脱炭素化,再エネとの共存,経済成長の実現,国際的なエネルギー技術協力の機会の創出など,多様な社会的価値を提供しうる技術である。
加圧水型軽水炉(PWR)ではNi基合金が多く用いられ,今迄にNi基合金の一次系水中での応力腐食割れ(PWSCC)を多く経験した。その対策材としてTT690合金やX-750合金高温溶体化1段時効材などが開発・実用化され,問題解決が図られた。しかし,未だ多くの研究者がTT690合金は高経年化に伴い環境助長割れ感受性が増大しないか,SCCき裂進展速度が増大しないか等,懸念を抱いている。本稿ではTT690合金の高経年化に伴う環境助長割れ感受性増大等の可能性について内外の研究動向,規制当局の対応等を踏まえ論評する。
地層処分の実現に向けた第一歩となる文献調査が開始されたことを機として,わが国の地層処分がこれからどのように進められていくのか,これまでの経緯といまをながめながら考えてみたい。第3回では,処分場の設計の基本的な考え方や,設計と建設・操業のための技術開発のうち,人工バリアに関する取組みの現状について紹介する。
原子力分野における基礎教育および基盤研究に不可欠な,大学等における核燃およびRI研究施設は,老朽化対策とともに,新規制基準への対応が求められている。原子力学会アゴラ調査専門委員会「大学等核燃およびRI研究施設検討・提言分科会」において検討してきた大学等核燃およびRI研究施設に関する課題を取り上げ,解決のための取り組みを提言する。
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