「原子力のように巨大かつ複雑な技術はシステムの特性上,長期的に見れば破局的な事故の発生は避けられず,まずはそのことを会員は語れ」という寿楽氏の論(2024年7月号掲載)は,大きな反響を呼んだ。学会誌編集委ではこの論を深めるために座談会を開催。その破局性の意味やそれがもたらす影響を広く議論した上で見極める必要性や,「安全」とは時々の社会的な議論を経た上で定義されるべきであり,それをもとに原発の安全対策は適切に資源配分されるべきであること,さらに原子力分野での取り組みが「公正性」や「未知のリスクに対する感覚」を十分に体現することで,それが社会を先導するようなものになることへの期待が示された。
土木学会エネルギー委員会は,東京電力福島第一原子力発電所(以下,「1F」)の事故対策において,主に土木分野の技術や技術者がどのような役割を果たしてきたかについて取りまとめを行った題記報告書(以下,「報告書」)を2024年4月12日に公開し,併せて報告書の概要報告会を実施した。事故発生直後よりわが国が一丸となって,さらには国際的に広範な支援・協力を得た総力を挙げての取り組みにより,比較的早期に1Fの安定化が達成されるとともに,継続的な汚染水処理対策,環境負荷低減・廃棄物対策の実施,さらに現在は廃止措置に向けての取り組みへと進展が図られてきている。本稿では,汚染水処理対策工などの汚染拡大防止対策工がほぼ全て完成して稼働を開始した2018年12月までに公表されている情報に基づき,主に土木分野の活動について体系的な調査・取りまとめを行った報告書の概要を紹介する。
量子科学技術研究開発機構(QST)における原型炉材料開発では,文部科学省核融合科学技術委員会が定める「原型炉開発に向けたアクションプラン」をベースとしつつ,原型炉開発に向けた課題の整理や解決に向けた研究開発を進めている。本稿においてはQSTにおける構造材料開発として①ブランケット構造材料,②ダイバータ材料,③モデリング・照射,④腐食の4つの項目について,今後10年における代表的な課題を示し,課題解決に向けたアプローチや大学・産業界等との協力,今後の展望について紹介する。
量子科学技術研究開発機構(QST)のフュージョンエネルギーの実現のためのトリチウムに関する研究開発として,原型炉における燃料循環システムの概要とこれからの10年で達成すべきトリチウム技術課題,そして課題解決に必要性不可欠な大量トリチウム取扱施設について述べる。
この10年で,わが国では原型炉開発総合戦略タスクフォース(以下,TF)や原型炉設計特別チームが発足し,最近では「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略(内閣府)」が策定され「2045年に原型炉の発電実証を目指すプラン(TF)」も提案された。そうした中で,核融合スタートアップ等による民間主導の技術開発も活発化し,核融合エネルギー実現に向けた機運が高まっている。核融合炉実現のために,これからの10年でわれわれは何をすべきなのか?核融合反応で生じた高エネルギー中性子を受け止めて燃料を増殖しつつ熱エネルギーを取り出すブランケットには,未来社会を豊かにするさまざまな可能性が満ちている。どのようなブランケットが,社会にどのような変革を与えるのか?本稿では,エネルギー資源の確保,エネルギー供給,カーボンニュートラルの観点から,これからの10年のブランケット開発研究の展望を纏めた。
社会の存立基盤である社会技術システムは,止まる気配のない複雑化を続けている。また現代社会は激動の時代である。原子力発電所を含む社会技術システムの安全探求の方法論には,この現実を踏まえた改善や洗練化が必要である。このような状況を俯瞰・整理して適切な安全探求方策を選択する指針としてカネヴィンフレームワークの活用が効果的である。Safety-Ⅱ安全概念とレジリエンスエンジニアリングの現場導入方策をこのフレームワークと関連づけて説明するとともに,安全探求をより広範な視野から捉えるシネシスの考え方についても紹介する。
わが国のような地震活動度が高く,かつ,近距離地殻内地震,中距離(~遠距離)海溝型地震と,揺れの特性が異なる地震に対して総合的に耐震安全性を高めるには,耐震構造と免震構造を適切に組み合わせて共通原因故障を回避することが有望な戦略である。しかしながら,多様な機器の導入による耐震安全性の向上に対する有効性は定性的には理解されるものの,定量的な評価はなされていない。そのため,本研究では確率論的地震リスク評価に基づき,損傷リスクを定量化することにより,耐震構造と免震構造の組み合わせの活用,すなわち耐震多様性の有効性を定量的に評価する手法を開発した。また,地域ごとの震源の分布状況を踏まえ,地震環境が各々やや異なる日本国内の11地点を対象に同手法を適用して耐震多様性の有効性を評価した。その結果,評価した全ての地点で耐震多様性は,多重化よりも効果的であり,国内原子力発電所の耐震性を向上させるうえで非常に有力な方法であることを確認した。
鉛等で隠匿された235Uに対する非破壊測定技術の開発は,長年,核セキュリティ上の最重要課題と言われてきたが,依然として現場レベルでの検知は困難な状況にある。我々は252Cf回転照射法と呼ばれる新たな核物質非破壊測定手法を提案し,252Cf線源回転装置と水チェレンコフ中性子検出器で構成される運搬性の高い現場検知システムを開発,本システムによる核物質検知を実証した。本報では,開発したシステムを概説するとともに今後の展望について解説する。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら