日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
30 巻, 1 号
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特集1
  • 吉田 明
    2013 年 30 巻 1 号 p. 1
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    1990年頃にGorgen Guyattにより提唱されたEvidence-based Medicine(EBM)という概念は,またたく間に臨床の場に浸透し,EBMを基本とした数多くの疾患診療ガイドラインが誕生いたしました。遅ればせながら2010年に「甲状腺瘍診療ガイドライン」も誕生し2年半が経過いたしました。甲状腺腫瘍関連の分野はもともと質の高いエビデンスが得られにくい分野でありますが,臨床医学の発展にはエビデンスの積み重ねが必須と考えます。このような観点から昨年の秋に横浜で行われた第45回日本甲状腺外科学会では学会のテーマを“新たなるエビデンスの蓄積を”とさせていただき,同名のシンポジウムを企画いたしました。本特集はこのシンポジウムを誌上で再現させたものであります。甲状腺腫瘍診療ガイドラインが出版された後,この分野で日本発の重要な論文が幾つか発表されております。その中からこのシンポジウムでは5編を厳選して発表していただきました。各演者の発表は論文発表後のデータや新たな考え方などを加えての発表であり大変分かりやすく示唆に富むものでありました。テーマは乳頭癌の発生率,濾胞癌,乳頭癌の予後予測因子,TSH抑制療法,放射性ヨード内用療法と多岐に及んでおりますが,各演者はそれぞれの立場で出来ることを最大限に利用して臨床研究を行っており,その態度は学ぶべきものがあると思います。甲状腺腫瘍診療ガイドラインは2014の改訂に向けて準備が進められております。ここに挙げた5編の論文は改訂時に検討すべき内容をもつものと思われます。すべての医療行為は何らかの根拠があって行われます。その根拠が信頼するに足りるものかを検証することが臨床研究の第一歩であると思います。また現在エビデンスとして挙げられているものでも約20%のものは2年以内に覆されているとの報告もなされております。われわれは今後も地道にエビデンスを追い求めなければなりません。本特集が単に知識の吸収に留まらず新たな臨床研究のヒントとなれば幸いです。
  • 菊地 勝一, 竹下 卓志, 柴田 浩, 長谷 和生, 松塚 文夫, Orlo. H Clark
    2013 年 30 巻 1 号 p. 2-6
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    目的:定年退職予定自衛官50歳日本男性自衛官の甲状腺疾患(甲状腺結節,甲状腺癌)の有病率について横断的検索をした。対象,方法:1990年から2012年まで,自衛隊病院(中央病院,阪神病院,熊本病院)において,6,422人の自衛隊員(男性,女性含む)を対象とし,甲状腺検診(問診,触診,超音波検査)を施行した。甲状腺結節(囊胞は除く)と甲状腺癌の有病率について検索した。対象はすべて無症状であり,明らかに症状を有する者は除外した。6,422人のうち,6,182人は50歳男性,47人は50歳女性,149人は40歳男性,44人は40歳女性であった。甲状腺癌の家族歴,放射線の被曝歴のあるものはなかった。甲状腺結節の最大径を計測し,5mm以上の結節で悪性を疑う者は超音波ガイド下穿刺吸引細胞診検査を行った。結果:50歳男性の甲状腺結節は924名(有病率は14.9%)であった。甲状腺癌は19名(有病率0.31%)であった。甲状腺癌の最大径の平均は12.5mm(1mm~30mm)であった。臨床的TNM分類ではStage Ⅰが8名,Stage Ⅱが4名,Stage Ⅲが6名であったのに対し,病理学的TNM分類では,Stage Ⅰが7名,Stage Ⅱが2名,Stage Ⅲが9名であった。40歳男性の甲状腺結節は12名(有病率8.1%),甲状腺癌は1名(有病率0.67%),50歳女性の甲状腺結節は5名(有病率10.6%),40歳女性甲状腺結節は5名(有病率11.3%)であった。甲状腺結節の有病率は,50歳男性が40歳男性より優位に多かった。50歳,40歳とも甲状腺結節の有病率に関し,男性女性間で有意差はなかった(p>0.05)。結論:50歳以上の日本男性自衛官の甲状腺癌の有病率は0.3%で文献で報告されている率とほぼ同じであった。甲状腺結節の有病率は男性では年齢の高いほど高かったが,同年齢での性差はなかった。超音波検査を用いた日本人50歳男性に対する甲状腺スクリーニングは早期甲状腺癌を発見するうえで有用であると考える。
  • 杉野 公則, 亀山 香織, 長浜 充二, 北川 亘, 渋谷 洋, 大桑 恵子, 矢野 由希子, 宇留野 隆, 伊藤 公一
    2013 年 30 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    甲状腺乳頭癌に比して甲状腺濾胞癌は術前診断が困難であるため切除後の病理組織検査で判明することが多く,遠隔転移を起こす頻度が高く,予後も悪いとされている。標準的な治療戦略として病理診断判明後,補完全摘術,アブレ-ションを行い,血中サイログロブリン値を指標とし,その上昇時にはI131内用療法を行う。しかし全ての濾胞癌症例にこの戦略が必要なのか疑問が残る。本腫瘍の予後因子および遠隔転移の危険因子を求めることで,上記戦略が必要な症例を明らかにした。甲状腺濾胞癌初回手術症例134例(1989年から1998年まで)に対し無遠隔転移生存率(DMFS)に関与する因子を検討した結果,年齢,原発腫瘍径,浸潤形式(広範浸潤型)であった。さらに,予後良好とされている微少浸潤型濾胞癌初回手術症例251例(1989年から2006年)に対して同様にDMFSに関与する因子を検討した結果,年齢が有意な因子であった。これらの危険因子を加味し,治療戦略を勘案すべきと考えられた。
  • 宮内 昭, 工藤 工, 都島 由希子, 宮 章博, 小林 薫, 伊藤 康弘, 高村 勇貴, 木原 実, 東山 卓也, 福島 光浩, 藪田 智 ...
    2013 年 30 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    現在,甲状腺乳頭癌に対しては,腫瘍径,Ex,N,Mの評価に基づいて手術術式が選択され,術後は病理学的所見や術後の血清サイログロブリン(Tg)値に基づき,術後療法が選択されている。本論文では,Tg抗体(TgAb)陰性の乳頭癌においては甲状腺全摘後のTSH抑制下のTg値の変動から求めたTgダブリングタイム(TgDT)が多変量解析において最強の予後因子であることを紹介する。Tg値の変動が重要である。しかし,TgAb陽性患者においてはTg値の信頼性は低い。そこで,TgAb陽性の乳頭癌225症例の甲状腺全摘後のTgAb値の変動と予後との関係を調べると,術後2年以内に50%以上低下した症例は非低下症例より有意に良好であり,多変量解析において優れた予後因子であることが判明した。今後は,旧来のTNM,病理学的分化度による予後予測の時代から,血清Tg,TgAb値の経時的変動分析に基づく動的予後予測の時代へとパラダイムシフトが起こるものと予想される。
  • 杉谷 巌, 藤本 吉秀
    2013 年 30 巻 1 号 p. 18-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    一般的に予後の良い甲状腺乳頭癌に対しては可及的に甲状腺を温存する手術を行って甲状腺機能を維持し,骨密度低下の懸念もあるTSH抑制療法は積極的には行わないという治療方針は,日本では主流であったが,欧米のガイドラインとは相反する。われわれの方針の妥当性を立証するためにTSH抑制療法の乳頭癌に対する再発抑制効果についてのランダム化比較試験を行った。患者登録開始から13年を要したが,無再発生存率においてTSH抑制療法非施行群の成績は,施行群に比較して10%以上劣っていないことが証明され,5%以上劣っていないことが示された。また,ランダム化試験に並行してTSH抑制の骨密度に及ぼす影響についての前向き比較試験を施行した。その結果,とくに閉経後女性ではTSH抑制による骨密度低下が顕著となる傾向があることが示された。これらの研究を通じて気づいた,高位のエビデンスを得るための研究を日本から世界に発信するうえで必要なことについて述べる。
  • 東 達也
    2013 年 30 巻 1 号 p. 23-25
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    甲状腺分化癌に対するアイソトープ治療の有用性はすでに確立され,予後因子としての解析も数多く報告されている。我が国でも2010年版甲状腺腫瘍診療ガイドラインが出版されたが,直前の2009年に米国甲状腺協会(American Thyroid Association/ ATA)の甲状腺癌診療ガイドライン改訂版も出版され,我が国のガイドラインには反映されていない新知見が掲載されている。本稿では甲状腺分化癌アイソトープ治療後の予後において,アブレーションに関連する予後因子,転移癌に関する予後因子,FDG-PETに関する予後因子の解析などを取りまとめて,2009年以降を中心とする文献的な検索結果として報告する。
特集2
  • 笹野 公伸
    2013 年 30 巻 1 号 p. 26
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    副腎疾患は従来皮質,髄質由来の疾患双方共に比較的稀な病変と考えられ,何らかの内分泌学的異常を呈してから外科手術の適応になると考えられていた。しかし近年のCT,MRI,超音波などの画像診断および腹腔鏡などの外科手術手技の進歩によりほとんど有意の内分泌学的異常所見を呈さない患者で副腎に腫瘤が認められ外科手術的に摘出される患者が非常に増加してきている。加えて副腎は血流が比較的豊富なことから他臓器由来の悪性腫瘍の転移が多いことは従来から剖検のデータなどから知られていた。しかし近年副腎の転移病変で初めて肺などの他臓器での原発病変が認められる症例も少なからず報告されてきている。特に片側性の副腎転移性病変の場合術前に診断が得られず外科手術検体で初めて診断される症例も増加してきており臨床,放射線,病理にとって重要な課題となってきている。このようなことから副腎の外科手術に従事する者も皮質,髄質双方に由来する副腎病変の病理所見を的確に理解しておくことが望まれる。しかし同時に副腎病理,特に腫瘍性病変は他の内分泌臓器由来の腫瘍と比較しても良悪性の病理組織学的鑑別が極めて困難であることは知られており,特に副腎髄質腫瘍は未だ基準が確立していない現状である。加えて同じ悪性腫瘍でも患者によっては術後の臨床経過あるいは生物学的悪性度がかなり異なることも副腎腫瘍では知られており,摘出した検体での精査が何よりも求められている。更に摘出された病変の由来を規範するに際して種々の細胞生物学的マーカーを免疫組織化学的に用いての精査も現在では欠かせない検討技法となっている。そこで本特集では副腎疾患の外科手術に従事する内分泌外科医を対象に皮質,髄質双方を含む副腎疾患並びに転移性病変の臨床病理に関して分かりやすく解説を加えた。是非今後の副腎疾患の外科手術に参考になるようにしていただければ幸いである。
  • 宮嶋 哲
    2013 年 30 巻 1 号 p. 27-31
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    1992年に副腎腫瘍に対する腹腔鏡下副腎摘除術が登場して以来,約20年が経過した。術後の疼痛,美容上の問題,在院期間,社会復帰について満足行く結果であり,腹腔鏡下副腎摘除術がもたらした恩恵は大きい。しかし,ここ数年副腎腫瘍に対する手術方法にも多様性が増し,さらなる整容性の獲得と機能温存に向けて様々な努力が払われてきている。整容性の観点からは単孔式腹腔鏡下手術が導入され,多くの医療機器の改良に伴って副腎腫瘍に対する治療方法の選択肢の一つになりつつある。また,機能温存の観点からすれば,原発性アルドステロン症の微小腺腫に対しては副腎部分切除術の有用性が注目されつつある。その両者ともに技術的難度は高く,幅広く普及するかについては議論の余地がある。以上,本稿では最近の副腎疾患に対する手術の動向について述べる。
  • 中村 保宏, 鈴木 貴, 渡辺 みか, 笹野 公伸
    2013 年 30 巻 1 号 p. 32-35
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    原発性アルドステロン症(PA)は,副腎組織からのアルドステロン過剰産生に伴い高血圧や重症な合併症を引き起こす病態である。通常,PAのうち術前にアルドステロン産生副腎皮質腺腫(APA)と診断された症例において手術が行われ,その後病理学的診断がなされる場合がほとんどであるが,時に腫瘍径が非常に小さいためその病理学的診断が困難なケースも決して稀ではない。その場合,免疫組織化学的検討による病変の同定が有用となる。また,APAとの鑑別診断ではアルドステロン過剰産生を伴う原発性副腎皮質過形成,すなわち特発性アルドステロン症(IHA)の病理学的診断についても十分理解しておくことが重要である。
  • 鈴木 貴, 中村 保宏, 渡辺 みか, 笹野 公伸
    2013 年 30 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    副腎皮質癌は稀な疾患である一方多彩な組織像を示すため,病理診断に苦慮する場合が少なくない。そこで本稿では副腎皮質癌の病理的特徴を概説する。副腎皮質癌の診断は複数の指標を組み合わせたスコアリングシステムでなされ,なかでもWeissのCriteriaが最もよく用いられている。また細胞増殖能のマーカーであるKi-67に対する免疫染色も診断の一助となる。副腎は転移性癌の多い臓器であり,時に副腎皮質癌なのか転移性癌なのか鑑別を要する場合があるが,この場合は副腎皮質細胞のマーカーであるAd4BP/SF-1に対する免疫染色が有用である。また副腎皮質癌は系統的なステロイド合成酵素発現が失われる傾向にあり,多彩な内分泌症状を呈しやすい。副腎皮質癌を疑う症例では臨床医と病理医が密に連携し,疾患の全体像を把握しながら診断することが重要である。
  • 渡辺 みか
    2013 年 30 巻 1 号 p. 41-44
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    褐色細胞腫 pheochromocytomaは副腎髄質に発生する神経内分泌腫瘍である。褐色細胞腫は良性の経過をたどるものほど強い多形性を示し,組織学的に悪性度を判断することが難しい腫瘍の一つとされる。組織学的に悪性の可能性を判断する手段としてPheochromocytoma of the adrenal gland score(PASS)が一般的に知られている。PASSは悪性度判定に有用性が高いとされるが,問題点も指摘されており,それらについて言及する。免疫染色では有用なものは少なく,増殖能を表すKi67はその中でも比較的有用性の高いマーカーである。しかしcut off値に統一見解がなく,やはり良悪性をクリアカットに分ける指標とはならない。褐色細胞腫は10年以上の長い経過で再発してくる症例もあり,組織学的に良悪性を明確に区別できない点も併せて,良性の範疇と考えられても厳重な経過観察が必要といえる。
  • 石戸谷 滋人, 海法 康裕, 荒井 陽一
    2013 年 30 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    副腎は肺癌,腎細胞癌,大腸癌,乳癌からの転移をきたしやすい。副腎外の悪性疾患が存在し,かつ,副腎に腫瘤が認められる場合には1)機能性副腎腫瘍,2)非機能性副腎腺腫,3)転移性副腎腫瘍,4)副腎皮質癌の4通りを考える。種々の内分泌学的検索が陰性でCTで内部や辺縁が不整,FDG-PETでSUVMaxが亢進していれば転移性副腎腫瘍を疑う。単発・孤立性であること,摘出により治癒または延命がある程度期待されること,外科的侵襲が許容される範囲内に留まること,の三要件が満たされれば手術を考慮する。腹腔鏡手術適応のコンセンサスは定まっていない。副腎腫瘍組織は被膜が脆弱であるため術中播種をきたしやすく,熟練した術者以外は腹腔鏡手術を避けるべきである。国内外より転移性副腎腫瘍に対する外科治療のアウトカムが報告されているが,5年生存率は概ね20%前後で,原疾患による癌死が多い。更なる取り組みが必要である。
特別寄稿
  • 岡本 高宏, 小野田 尚佳, 伊藤 康弘, 吉田 明, 高見 博, 甲状腺腫瘍診療ガイドライン作成委員会
    2013 年 30 巻 1 号 p. 50-54
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
    ジャーナル フリー HTML
  • 覚道 健一
    2013 年 30 巻 1 号 p. 55-61
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    WHO分類は2004年に改訂されてから9年が経過し,その間に病理診断の分野で問題とされ,多くの論議がなされたものに,被包型乳頭癌,濾胞亜型がある。次回の改定で,これがどのように扱われるかを占うために,この1群の腫瘍の問題点を整理し,われわれの提唱している甲状腺腫瘍分類を紹介したい。T1N0M0で発見される微小乳頭癌,被包型乳頭癌,被膜浸潤のみの濾胞癌やウイリアムらの提唱したWDT-UMP(well differentiated tumour of uncertain malignant potential),FT-UMP(follicular tumour of uncertain malignant potential)は,悪性腫瘍としての特色は明らかでなく,摘出のみで多くの場合再発せず,患者の腫瘍死も起こらない。分子遺伝学的特色も,転移のある乳頭癌や濾胞癌(臨床的癌)と異なるとの発表もある。これらの例は形態学的にも良性と悪性の中間的特色を示すものが多く,われわれは転移,浸潤のある高分化癌と区別して,境界悪性腫瘍と呼ぶことを提唱した。これら1群の腫瘍が,良性に準ずる性格を持つことを日本の外科医たちは既に日常診療から体験している。そのため日本の内分泌外科医,甲状腺外科医たちは,欧米の標準治療である甲状腺全摘出術+予防的リンパ節郭清+放射性ヨードによる内照射療法+TSH抑制療法をこれら患者に適応せず,T1N0M0甲状腺癌患者に対し葉切除術を行ってきた。これら腫瘍が真の意味での悪性腫瘍(高頻度に再発,転移し,過半数の患者が腫瘍死する腫瘍)に属さず,境界悪性腫瘍(ごく一部の例外的な症例のみが臨床的癌に進行する腫瘍)とすれば,日本の甲状腺外科医たちの治療方針(縮小手術や,経過観察)を正当化することができると考えている。
  • 高見 博, 伊藤 公一
    2013 年 30 巻 1 号 p. 62-67
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    これまで進行甲状腺癌に対し有望な治療薬はなかったが,腫瘍増殖シグナルや血管新生を阻害する分子標的薬の登場により新規治療薬の開発が期待されている。数多くの分子標的薬がグローバルで進行甲状腺癌に対する開発を進めている中で,Sorafenib,VandetanibおよびLenvatinibは国内における開発も進行中である。いずれの化合物も第3相試験実施中又は海外で承認済みであり,国内開発の最終段階にあることから臨床現場への早期導入が期待される。導入された後は,これらの化合物の違いを理解し適切に患者に投与することが求められる。
原著
  • 児島 康行, 高比 優子, 市丸 直嗣, 奥見 雅由, 矢澤 浩治, 高原 史郎, 野々村 祝夫
    2013 年 30 巻 1 号 p. 68-71
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    腎移植後,腎機能の改善とともに,腎性副甲状腺機能亢進症(腎性HPT)により上昇していたintact PTHは低下する。しかし腎移植前に透析歴が長い症例では移植後も高カルシウム(Ca)血症を呈する例が少なくない。特に腎移植前に著しい副甲状腺の腫大を認める場合,腎移植後も持続性HPTを呈する可能性が高いことは想像できる。この場合,腎移植後も副甲状腺摘出術(PTx)を考慮する必要があると考える。今回腎移植後も遷延する24例のHPTに対してPTxを施行した。術後血清Ca,P,ALP,intact PTHは全て統計学的に有意に改善した。PTxは腎移植後のHPTの治療に有効であると考えた。また推算GFR(eGFR)は,術後3カ月では統計学的に有意差は認めなかったが,1年後ではeGFRの低下を認めた。移植腎喪失は認めなかったが,透析期にPTxの適応のある症例では移植前にPTxを積極的に推奨する必要があると考えた。
症例報告
  • 大石 一行, 内野 眞也, 渡邉 紳, 高橋 広, 山下 裕人, 野口 志郎
    2013 年 30 巻 1 号 p. 72-76
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    甲状腺左葉に髄様癌,両葉に乳頭癌を同時性に認めた症例を経験したので報告する。症例は73歳女性。2012年3月左側頸部腫瘤を主訴に前医を受診し,CEA,カルシトニン高値,穿刺吸引細胞診で髄様癌が疑われたため精査加療目的に当院を紹介受診した。当院で穿刺吸引細胞診を追加し,最終的に髄様癌と乳頭癌の併発と診断された。RET遺伝学的検査では変異は認めず,髄様癌は散発性と診断した。甲状腺亜全摘術を行い,中央区域,両側外側区域リンパ節を郭清した。左葉の腫瘤は免疫染色上カルシトニン,CEA陽性を示す髄様癌で,両葉に微小乳頭癌を併発していた。リンパ節には髄様癌,乳頭癌それぞれの転移を認めた。髄様癌と乳頭癌は発生学的に起源が異なるため,同一患者に同時性に両者を認めることが知られているが,ここではその発生機序の考察も含め報告する。
  • 坪井 光弘, 露口 勝, 山崎 眞一, 青山 万理子, 三好 孝典, 日野 直樹
    2013 年 30 巻 1 号 p. 77-81
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    甲状腺左葉より発生した縦隔内甲状腺腫のために左内頸静脈から腕頭静脈の血栓性閉塞をきたした症例を経験したので報告する。患者は92歳女性。3週間前から急速に進行する左上肢の腫脹を主訴に近医を受診し,精査加療目的に当科に紹介された。胸部CT検査では甲状腺左葉と連続する縦隔内甲状腺腫を認め,左内頸静脈および腕頭静脈は腫瘤により圧排され血栓性閉塞をきたしており,周囲の側副血行路の発達を伴っていた。術前にSVCフィルターを留置し,手術では襟状切開下に頸部から上縦隔へアプローチし胸骨切開を行うことなく腫瘤を摘出した。縦隔内甲状腺腫は無症状であることが多いが,増大に伴い周囲組織への圧迫症状をきたすことがある。自験例では静脈血栓を伴っていたが,術前に上大静脈フィルターを留置することにより安全に腫瘤を摘出することが可能であった。
  • 青山 万理子, 山崎 眞一, 露口 勝, 日野 直樹, 三好 孝典, 坪井 光弘
    2013 年 30 巻 1 号 p. 82-86
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/05/31
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    Marine-Lenhart症候群に対し手術を施行し,機能性結節内に乳頭癌を合併した非常に稀な症例を経験したので,報告する。症例は62歳,女性。胸苦,動悸を自覚し,紹介医を受診した。甲状腺はびまん性に腫大し,右葉に腫瘤を触知した。血液検査でfT3,fT4の上昇,TSHの抑制,TBII陽性を認め,超音波検査で,右葉に直径約1.5cmの内部に石灰化を有する腫瘤を認めた。99mTc-O4シンチグラムでは,右葉腫瘤に一致した強い集積と左葉に淡い集積がみられた。Marine-Lenhart症候群と診断され,治療目的に当科へ紹介受診となった。右葉腫瘤は悪性疾患の可能性も考えられたため,手術の方針とした。術中,右葉腫瘤のほか,峡部にも白色の小結節を認め,いずれも迅速病理検査でPapillary carcinomaであったため,甲状腺全摘およびD2a郭清を施行した。病理組織所見では,右葉腫瘤は腺腫様甲状腺腫の像を呈し,内部に異型細胞が乳頭状に増殖する直径0.5cmの腫瘤を認めた。Marine-Lenhart症候群に合併した甲状腺乳頭癌,TNM分類でpT1N0M0 stageⅠを最終診断とした。
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