日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会会員の皆様にご協力をいただきました「成人の甲状腺微小乳頭癌の取扱いに関する実態調査」の結果報告が英文誌Thyroid(2019 Sep 25. doi: 10.1089/thy.2019.0211. [Epub ahead of print])に掲載されました。
皆様の多大なるご協力に深く感謝申し上げるとともに,その要約を特別寄稿としてご報告いたします。
なお,原著につきましては,日本内分泌外科学会の予算より支出していただき,オープンアクセスとなっております。どなたでも全文をご覧いただけますので,是非お目通しください。
【背景】転移や浸潤が明らかでない成人の低リスク微小乳頭癌(cT1aN0M0)に対する積極的経過観察(active surveillance:AS)は,日本の2施設(隈病院,がん研病院)において1990年代より前向き臨床試験が行われ,その良好な結果により,妥当な治療方針として世界的にも受容されつつある。しかし現在,日本における実臨床の中で,本疾患がどのように診断され治療されているかは明らかでない。
【方法】2018年8月から11月に,日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学の会員が所属する全1,177施設を対象としたアンケート調査を行い,134施設(外科81,耳鼻科・頭頸部外科48,その他5)から回答を得た。
【結果】
1)超音波検査で本疾患を疑う場合の細胞診の適応
全例行うとした施設が13.4%,5mmを超える場合に行うとしたのが51.5%,1cmを超える場合としたのが27.8%であった。
2)低リスク微小乳頭癌と診断された場合の基本的な治療方針と患者への説明
即時手術を勧めるとしたのは1施設のみで,手術とASの両方の選択肢を提示するが医師の判断として手術を第一選択として勧めるのが26.1%,医師の判断は一切はさまないとしたのが38.8%,ASを第一選択として勧めるのが31.3%であった。
3)低リスク微小乳頭癌であっても,積極的に手術を勧める要件
腫瘍が背側被膜に近い場合が98施設,微小癌が多発している場合が91施設と多かった。次いで,腫瘍径が1cmに近い(45施設),家族歴(25施設),妊娠希望(24施設),年齢40歳以下(20施設),60歳以上(13施設)で,とくに条件はないとした施設は13施設のみであった。
4)手術件数に占める微小癌の割合
回答施設での2017年1年間の成人乳頭癌手術6,486例のうち低リスク微小乳頭癌は1,175例(18.1%)を占めた。
5)低リスク微小乳頭癌の実際の治療方針
最近の任意の3カ月間において取扱われたcT1aN0M0乳頭癌576例のうちASが採用されたのは310例(53.8%)で,即時手術が行われた266例を上回った。外科施設と耳鼻科施設で本疾患の取扱いに差はなかったが,専門医認定施設(関連施設を含む:55.4%)ではそれ以外の施設(41.5%)より,7大都市圏の施設(64.1%)ではそれ以外の施設(37.0%)より,6名以上の甲状腺外科医がいる施設(67.6%)では5名以下の人員の施設(40.1%)より,ASの採用率が有意に高かった。
そのほか,低リスク微小乳頭癌の診断,ASの適応や実際の方法,今後の研究課題などについて多くの有益な意見を頂戴した。
【結語】日本において,低リスク微小乳頭癌に対するASは過半数の症例に採用されており,一定の理解を得られていると考えられた。しかし,その適応については施設ごとのばらつきが大きかった。ASのさらなる普及のためには,患者や医療従事者の啓発,社会医学的環境の整備が重要と考えられた。
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