長引く国内低金利環境に直面する本邦金融機関は,利鞘確保のため,海外での貸出や海外クレジット商品への投資を積極化してきた.特に2019年前半にかけて,CLO (Collateralized Loan Obligation) を中心に残高が大きく伸びている.これとともに,海外クレジット投融資にかかる金融機関における適切なリスク管理と,その金融安定面への影響が注目されるようになっている.CLOは相対的にレバレッジが高く信用力の低い企業向けの貸付であるレバレッジド・ローンを裏付け資産とする証券化商品であるが,裏付け資産の価格を含む市場データの入手の難しさなどから,近年の注目度の高まりに対して,その市場価格を実証的に分析した学術研究は少ない.また,一般的な1ファクター・ガウシアンコピュラモデルによるデフォルト判定と確定的な回収率の下でモデルのキャリブレーションを試みると,多くのトランチの市場価格を整合的に説明できないことが分かる.そこで本研究では,デフォルト判定と依存関係のある確率的な回収率モデルを導入し,CDOのトランチ価格を評価する.確率的な回収率モデルを導入することで,確定的な回収率モデルに比べて市場価格へのキャリブレーション能力が向上することを確認する.また,キャリブレーションの結果からは,密度関数がバスタブ型の極端な回収率分布がCLO市場に織り込まれている可能性が示唆される.
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