ヒトミルクオリゴ糖は新生児の腸管において,病原菌や毒素に結合することで感染を防ぐという間接的作用が明らかになっている.一方,ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の腸管への直接的作用はほとんど研究されていない.そこで本研究は,主要なHMOである中性ヒトミルクオリゴ糖画分(nHMO),対照としての市販のガラクトオリゴ糖画分(GO),さらにはそれぞれの画分を構成するオリゴ糖単独の腸管免疫調節への直接的作用を検討するため,これらの投与がヒト腸管細胞株HT-29におけるToll様受容体2,4(TLR2,4)およびMD2の遺伝子発現に及ぼす影響について検討した.ヒト腸管細胞株HT-29を1 × 10
6/wellで培養し,それぞれのオリゴ糖画分を0.5 mg/mL,1.0 mg/mLで,単独のオリゴ糖では40 n
Mで投与し,24時間後に細胞を回収した.細胞におけるTLR2,4およびMD2 mRNA発現を,逆転写Real Time PCRを用いて比較検討した.グラム陽性菌の構成成分を認識するTLR 2遺伝子発現において,nHMO 1 mg/mL投与のみが有意な増加(
p < 0.05)を示した.また,グラム陰性菌の構成成分を認識するTLR 4およびMD 2遺伝子発現においては,nHMO 1 mg/mLならびにGO 0.5および1.0 mg/mL投与により有意な増加(
p < 0.05)がみられた.単独のオリゴ糖投与では,TLR2遺伝子発現においては,3'-シアリルラクトース(3'-SL),6'-シアリルラクトース(6'-SL)そして6'-ガラクトシルラクトース(6'-GL)が有意な増加を示した.TLR4遺伝子発現においては,ラクト-
N-フコペンタオースI (LNFP I),3'-SL,6'-SL,6'-GLが有意な増加を示した.また,いずれのオリゴ糖投与においても,MD2遺伝子発現に対する影響は認められなかった.nHMOのTLR遺伝子発現への作用が明らかになり,このことはグラム陽性菌やグラム陰性菌に対する腸管免疫機能に関わる可能性も考えられる.
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