Journal of Applied Glycoscience
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57 巻, 3 号
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Review
  • 平良 東紀
    2010 年 57 巻 3 号 p. 167-176
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/17
    ジャーナル フリー
    さまざまな植物から多くのキチナーゼおよびその遺伝子が単離されている.その構造特性を理解するために,いくつかの研究グループによって複数のクラス分類が提案されている.しかしながら,複雑で複数あるクラス分類は本分野の多くの研究者に混乱を引き起こしている.本稿では,植物キチナーゼの構造とそのクラス分類についてレビューして,その問題点について議論する.一方,植物キチナーゼは病原性真菌のおもな細胞壁構成多糖であるキチンを分解することによって,その感染を抑制する生体防御タンパク質と考えられている.さまざまな植物キチナーゼの抗真菌活性が調べられているが,その構造と抗真菌活性の相関については明らかにされていない.キチナーゼが抗真菌活性を発揮するには,まず細胞壁に結合し,次にそこにあるキチンを分解しなくてはならない.本稿では植物キチナーゼのキチン結合ドメインと触媒ドメインの抗真菌活性における役割について議論する.
Regular Papers
  • 朝隈 貞樹, 横山 朋子, 木村 一雅, 渡邊 陽子, 中村 正, 福田 健二, 浦島 匡
    2010 年 57 巻 3 号 p. 177-183
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/17
    ジャーナル フリー
    ヒトミルクオリゴ糖は新生児の腸管において,病原菌や毒素に結合することで感染を防ぐという間接的作用が明らかになっている.一方,ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の腸管への直接的作用はほとんど研究されていない.そこで本研究は,主要なHMOである中性ヒトミルクオリゴ糖画分(nHMO),対照としての市販のガラクトオリゴ糖画分(GO),さらにはそれぞれの画分を構成するオリゴ糖単独の腸管免疫調節への直接的作用を検討するため,これらの投与がヒト腸管細胞株HT-29におけるToll様受容体2,4(TLR2,4)およびMD2の遺伝子発現に及ぼす影響について検討した.ヒト腸管細胞株HT-29を1 × 106/wellで培養し,それぞれのオリゴ糖画分を0.5 mg/mL,1.0 mg/mLで,単独のオリゴ糖では40 nMで投与し,24時間後に細胞を回収した.細胞におけるTLR2,4およびMD2 mRNA発現を,逆転写Real Time PCRを用いて比較検討した.グラム陽性菌の構成成分を認識するTLR 2遺伝子発現において,nHMO 1 mg/mL投与のみが有意な増加(p < 0.05)を示した.また,グラム陰性菌の構成成分を認識するTLR 4およびMD 2遺伝子発現においては,nHMO 1 mg/mLならびにGO 0.5および1.0 mg/mL投与により有意な増加(p < 0.05)がみられた.単独のオリゴ糖投与では,TLR2遺伝子発現においては,3'-シアリルラクトース(3'-SL),6'-シアリルラクトース(6'-SL)そして6'-ガラクトシルラクトース(6'-GL)が有意な増加を示した.TLR4遺伝子発現においては,ラクト-N-フコペンタオースI (LNFP I),3'-SL,6'-SL,6'-GLが有意な増加を示した.また,いずれのオリゴ糖投与においても,MD2遺伝子発現に対する影響は認められなかった.nHMOのTLR遺伝子発現への作用が明らかになり,このことはグラム陽性菌やグラム陰性菌に対する腸管免疫機能に関わる可能性も考えられる.
  • -馬鈴薯,サゴ,トウモロコシ澱粉との比較研究-
    廣瀬 理恵子, 手塚 尚子, 近堂 知子, 平尾 和子, 八田 珠郎, 根本 清子, 齋尾 恭子, 高橋 節子, 貝沼 圭二
    2010 年 57 巻 3 号 p. 185-192
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/17
    ジャーナル フリー
    エンセット(Ensete ventricosum)はバショウ科に属し,エチオピア南部および南西部においてのみ栽培されている植物である.植物の形状はバナナに似ているが,果実をつけず葉鞘および球茎(corm)に澱粉を蓄える.この澱粉は発酵させてパン状の食品(Cocho)として食されるほか,抽出された澱粉は広く食品として利用されたり,繊維や紙のサイジング(糊つけ)剤として用いられている.しかし,エンセット澱粉の物理化学的性質を調べた報告は非常に数少ない.本報では,広く用いられている馬鈴薯澱粉,トウモロコシ澱粉,エンセットと同様に幹に蓄積されるサゴ澱粉と比較する目的で,アミロース含量,粒度分布,糊化の際の挙動をラピッドビスコアノライザーおよびフォトペーストグラフィーを用いて測定した.また,得られたゲルについては保存中の白度の変化,ゲルの力学物性を測定した.これらの結果をStarch Diagram(Fig. 11)に表示した.X線回折図型,平均粒径,アミロース含量,加熱の際の糊化開始温度などは馬鈴薯澱粉に近いが,糊化した後の糊の最高粘度,冷却時のブレークダウンはサゴ澱粉に近い.ゲルの凝集性,粘りなどの数値はトウモロコシ澱粉に近く,一部トウモロコシ澱粉とサゴ澱粉の中間に位置した.以上のような糊化特性,迅速なゲル形成性,低温でのゲルの安定性,硬いゲル強度などは,ボディ形成剤としてブラマンジェ,葛餅などに適し,付着性は種々のソース,スープの増粘用に適している.以上のような特徴をもつエンセット澱粉は家庭用の調理澱粉,また食品産業において用途が広いものと考えられる.
  • 高橋 英樹, 文後 有里, 三國 克彦, 別府 秀彦, 尾崎 清香, 新保 寛, 井谷 功典, 園田 茂
    2010 年 57 巻 3 号 p. 193-197
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/17
    ジャーナル フリー
    サイクロデキストリン(CD)がコエンザイムQ10(CoQ10)の水への溶解性,融解熱,ヒトにおける吸収性に及ぼす影響を調べるため,CoQ10を20-24重量%含むCoQ10-CD複合体粉末を調製した.CoQ10の水溶性は,α-CD,デキストリンである程度の改善がみられた.一方,示差走査熱量計分析では,CoQ10の吸熱ピークがβ-CD,γ-CD,β-Iso®の存在でほぼ消失したことから,β-CD,γ-CD,β-Iso®は,粉末中のCoQ10をほぼ包接した不溶性複合体を形成することが確認された.吸収試験では,健康な成人女性20名を4群に分け,CoQ10原末,CoQ10-β-CD複合体粉末,CoQ10-γ-CD複合体粉末またはCoQ10-β-Iso®複合体粉末のCoQ10として0.30 g相当量が絶食下で単回摂取され,摂取前(0時間)および摂取2,4,6,8,24時間後の血漿中総CoQ10濃度をHPLCで測定した.CoQ10摂取後の血漿中総CoQ10濃度から摂取前の濃度を引いた血漿中外因性総CoQ10濃度を求めて吸収性を評価したとき,CoQ10-β-CD複合体摂取群,CoQ10-γ-CD複合体摂取群,CoQ10-β-Iso®複合体摂取群の摂取0-8時間における血漿中外因性総CoQ10濃度-時間曲線下面積は,CoQ10原末摂取群と比較して有意(p < 0.01)な増加が認められ,β-CD,γ-CD,β-Iso®がヒトにおけるCoQ10の吸収を促進することが示された.
  • 太田 雅也, 佐々 真吾, 井上 愛, 玉井 達也, 藤田 功, 守田 幸司, 松浦 史登
    2010 年 57 巻 3 号 p. 199-209
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/17
    ジャーナル フリー
    Stevia rebaudiana Moritaは,守田化学工業株式会社がS. rebaudiana Bertoniから選抜育種により得た新品種であり,味質の良いレバウディオサイドAを主成分として生産する.本論文では,S. rebaudiana Moritaの葉から熱水抽出により得たステビア甘味料画分中に含まれる物質の構造を調べた結果を報告する.甘味料画分は,Amide-80カラムを用いる高速液体クロマトグラフィーによりUV 210 nmの波長で検出される20画分に分画した(SG1-SG20,Fig. 2).すべての画分で糖とステビオールが認められ,ESI-MSで単一の分子イオンが検出されたことから,いずれの画分にも,ステビオール配糖体のみが存在することが示された.各ステビオール配糖体の構造は,ESI-MS,2段階のCID電圧を用いたESI-MS/MS,1H-,13C-NMRおよび弱酸水解,メチル化分析等の化学的方法により解析した(Table 1-3).その結果,S. rebaudiana Moritaの葉からの熱水抽出物中にはレバウディオサイドA(61.6%),ステビオサイド(9.2%),レバウディオサイドC(7.5%)等の11種の既知配糖体に加え,10種の新規ステビオール配糖体(約7%)を見いだし,それらの構造を決定した(Table 4).新規配糖体のうち比較的含量の高いSG17,SG19およびSG20は,ステビオール環の13位だけでなく,19位にも分岐糖鎖Glcβ1-2(Glcβ1-3)Glcβ1-,Rhaα1-2(Glcβ1-3)Glcβ1-,Glcβ1-3Rhaα1-2(Glcβ1-3)Glcβ1-がそれぞれ結合した構造であった.これらはレバウディオサイドAと同程度の高い甘味を呈することを見いだしたが,構造と甘味との相関について詳細な検討が必要である.本研究で用いた,Amide-80カラムを用いるHPLCはステビオール配糖体の分離定量に,多段階のCID電圧を用いるESI-MS/MSはステビオール配糖体の位置特異的糖鎖構造解析にきわめて有用な方法であることを見いだした.
報文
  • 小役丸 孝俊
    2010 年 57 巻 3 号 p. 211-217
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/17
    ジャーナル フリー
    段ボールシート製造用Stein-Hall(SH)型トウモロコシ澱粉接着剤とNo Carrier(NC)型同接着剤の物性について検討した.SH型接着剤はキャリヤー部とメイン部澱粉により構成され,NC型接着剤は少し膨潤した均質な澱粉粒の懸濁液から構成されていると報告されている.澱粉懸濁液とNC型接着剤とSH型接着剤(無水換算澱粉濃度21.6%)中の澱粉粒径分布の比較において,NC型接着剤では粒径29 μmから101.1 μm辺りの少し膨潤した粒が未化工トウモロコシ澱粉懸濁液に比べて全澱粉の16%相当存在比率が増加していた.また,SH型接着剤では澱粉懸濁液とモード径が同じで存在比率が高い主ピークと,存在比率が低い(10.5%)粒径44-101 μmのピークとの二つのピークとなった.しかし,両型共に糊化エンタルピーは,苛性ソーダ濃度0.54%から0.94%において差異はなく,苛性ソーダ濃度の増加により同様に減少し,苛性ソーダ濃度0.94%では苛性ソーダ無添加の同一濃度のトウモロコシ澱粉懸濁液と比較して70%に減少した.また,いずれの苛性ソーダ濃度でも糊化完了温度はNC型接着剤の方がSH型よりも高くなった.さまざまな澱粉濃度のNC型接着剤(無水換算14.4-34.4%)と,SH型接着剤(19.2-24.7%)において,40°Cでの同一B型粘度値に対するFC粘度値は,NC型接着剤がSH型に比較して約1/2と低く,糊付けロール上がり性が良好で流動性が高い粘性と思われた.また,40°CでのB型粘度が実用粘度範囲(540-2500 mPa・s)のさまざまな濃度のNC型接着剤では,調製時に溶出する溶解澱粉量は澱粉濃度が1.5倍水(無水換算34.4%)から5倍水(14.4%)に減少するに従って1.2%から19.0%に増加し,接着剤中の澱粉の膨潤度合は澱粉濃度の減少に従って増大し,風乾時体積の2.10倍から5.40倍になり,密度は逆に1.24 g/cm3から1.10 g/cm3へと減少した.さらに,40°Cでの3倍水(無水換算澱粉濃度21.6%)と2倍水(28.7%)のさまざまな粘度のNC型接着剤では,B型粘度が高い接着剤ほど溶解澱粉比率が高くなったが,澱粉粒の膨潤度合はほとんど変わらなかった.これらのことから,一定濃度のNC型接着剤の粘度は,膨潤度合いの違いに因るよりも溶解している澱粉量に左右されていると考えられ,接着剤調製時の高苛性ソーダ濃度での処理時間による仕上がり粘度の調節は,澱粉粒の膨潤程度を変えるというよりも溶出溶解澱粉量を変える調整と考えられた.また,澱粉粒径分布の測定結果から,NC型接着剤の澱粉粒の膨潤はすべての澱粉に均質に生じているのではなく,膨潤が進んだ粒と僅かな粒との混在と考えられ,期待された糊化エンタルピーの減少は,幾つかの苛性ソーダ濃度においてSH型接着剤と比較して差異がなく,SH型接着剤とNC型接着剤とは同様な糊化時の吸熱特性を有していると考えられた.
第17回糖質関連酵素化学シンポジウム
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