地下水は,バングラデシュが社会経済的に発展していく上で非常に重要である.人口の97%に安全な飲料水を供給し,自給に十分な米を国内生産している現状は,地下水を有効利用できている二つの成功の証といえる.利用が容易で水質が良好であること,そして安価な開発を可能にした技術により,国中で地下水の取水が盛んとなり,過去30年にわたって取水量は増え続けた.この増加傾向は,これから数年先まで変化しないものと思われる.90%以上の飲料水と70%以上の灌概用水が,完新世の未固結堆積物と鮮新世のDupi Tila帯水層から供給されている.
国内の至る所で,地下水の利用を妨げる数多くの制約が存在する.推奨値を越える濃度のヒ素,過剰な鉄とマンガン,海岸部周辺及び内陸部の数箇所での高濃度塩化物,地下水位の低下,礫の存在,生物起源のメタンガスの存在,他の様々な汚染源による汚染といった要因が,バングラデシュ国内の地下水取水の主な制約となっている.
地下水に大きく依存しているにもかかわらず,地下水の管理は適切に行われていない.地下水の開発には多くの政府機関が関わっている.総合的な地下水管理を確実なものとするために,多くの戦略や政策も整っている.しかしながら,国の定める水質基準や地下水法のように鍵となる法体系が欠如していることが,政策を実行する上での制約となっている.国立の地下水開発・管理機構(National Groundwater Development and Management Authority)と,地下水研究に関するアジア国際センター(Asian/International Center for Groundwater Studies)が,国内の地下水開発を適切に確保するための非常に重要な機関である.現在の地下水に対する認識の欠如は克服されなければならない課題であり,持続可能な発展を可能にする総合的な水資源管理を実施するという目標を確実なものとするよう,人々に地下水へ積極的に関わってもらわねばならない.
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