地すべり地域で施工された水抜きボーリングや集水井の中には,施工後短期間のうちに赤褐色のスケール(バイオマット)が形成され,排水機能に支障が現れているものがある.新潟県中越地方の3ヶ所の地すべり地域において,水抜きボーリング孔に形成されたバイオマットの観察事例を示し,その構成物や地質,地下水の水質との関連やその形成過程について検討を行った.これらのバイオマットは,
Toxothrix trichogenesや
L eptothrix ocheraceaなどの鉄バクテリアによって形成されている.第三紀層地すべり地域の水抜きボーリングにおいて,砂岩優勢の地質状況下では珪藻やシアノバクテリアの繁殖が見られ,粘土優勢の地質状況下において鉄細菌バイオマットの形成が著しいことが明らかになった.鉄細菌バイオマットの形成が見られる地下水の酸化還元電位(Eh)は+165-+244mVと比較的還元的で,かつ溶存酸素(DO)が2.7-7.4mg/Lの微好気的な環境を示していた.また,バイオマットは水抜きボーリングの孔口から約0-15m間程度の付近で多く形成されており,ボーリングの奥部ではあまり形成されていないことが明らかになった.
本研究の結果から,粘土・泥岩地域の還元的な地下水が大気に触れ,急激に酸化状態になるような環境下においてバイオマットの形成が著しいことが示された.バイオマットの形成は,鉄濃度や溶存酸素,酸化還元電位などの地下水環境の違いにより引き起こされ,それが2次的に溶存酸素や酸化還元電位などをさらに変化させているものと推定された.
現状におけるバイオマットの目詰まり対策として,高圧水による定期的な洗浄が行われているが,バイオマットの形成速度は速く,数ヶ月-1年程度で洗浄前の状況に戻ってしまうものが多い.
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