地下水学会誌
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60 巻, 4 号
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論説
  • 千葉 知世
    2018 年 60 巻 4 号 p. 391-408
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー

    地下水法制度の整備における中心的役割を担ってきたのは地方自治体であるが,問題が複雑多様化する今日においては,国の役割を再検討する必要がある。そうした中で本稿は,わが国の地下水関連行政の変遷を地表水行政と対比しつつ概観すること,それを通して国家的な保全管理体制が十分に整備されてこなかった背景要因を考察することを目指した。結果,河川と比較した場合の治水・利水上のインフラ整備の不必要性,法による事前的規制の必要性に関する認識の欠如,地下水利用権は土地所有権に付随するという法的解釈の普及,経済界にとって不都合な学説の排斥,および河川事業の所管争いにより築かれた縦割り構造が,地下水保全制度整備の障害となったと推論した。

論文
  • Yoshihiko HIBI, Akira TOMIGASHI
    2018 年 60 巻 4 号 p. 409-434
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー

    We developed a numerical method (ASG method) for simulating a coupled atmospheric gas–surface water system, simulated by Navier–Stokes equations, and groundwater system, simulated by water saturation equations. Here, we derived dimensionless formulas for ASG method to avoid the influence of a dimension of analytical domain, in this study. Further we used the ASG method to simulate the configuration and movement of the infiltration front in an embankment composed of sand and obtained results similar to those obtained by a water tank experiment in another study. In addition, in a practice problem using non-dimensional values, we simulated the movement of gas and water when surface water flowed over an embankment expressed in dimensionless form.

    Consequently the ASG method could simulate the movement of water and gas across the interface between a surface system and a porous medium including the practice embankment.

  • -ナノ粒子分散液を用いた急性毒性評価試験による検討-
    杉田 創, 駒井 武
    2018 年 60 巻 4 号 p. 435-459
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー

    重金属等による地下水・土壌汚染の汚染評価手法として,発光バクテリアを用いた急性毒性試験を利用する場合,ナノ粒子が影響を及ぼす可能性がある一方,ナノ粒子の毒性評価にこの急性毒性試験を利用できる可能性もある。本研究では,CNT,Ag及び数種類の酸化金属ナノ粒子の各市販分散液を用いて発光バクテリアに及ぼす影響を調べた。その結果,CNT及びSiO2ナノ粒子は発光バクテリアに対して急性毒性影響を持たないことが確認された。Agナノ粒子については分散剤の影響を除外できなかったため評価できなかったが,Al2O3,TiO2,ZnO及びCuOナノ粒子が発光バクテリアに対して急性毒性影響を持つことが明らかになった。

特集「地下水と地熱・地中熱エネルギーの利用」
論説
  • 村岡 洋文
    2018 年 60 巻 4 号 p. 463-474
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー

    本稿は2017年10月12日に弘前大学で行われた日本地下水学会主催のシンポジウム「地下水と地熱・地中熱エネルギーの利用」の講演内容を手直ししたものである。本稿では地熱系の3要素である熱源,貯留構造および地熱流体についてレヴューした。わが国は世界有数の地熱資源大国であるにもかかわらず,異例なほどに地熱開発が低迷し,東日本大震災後,漸く地熱支援政策が復活したばかりに過ぎない。この復活においては,費用対効果の高い地熱開発を目指すことが急務であり,全国の地熱地域において,一条の断層の中で,熱水対流のリチャージ域やディスチャージ域を評価するような地下水化学や熱水水理学や熱水水文学の役割がますます重要になるだろう。

  • 内田 洋平, 吉岡 真弓, シュレスタ ガウラブ, 黒沼 覚
    2018 年 60 巻 4 号 p. 475-482
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー

    地中熱システムは,深度50~100m程度の地中に賦存している熱エネルギーを冷暖房や融雪等に利用する,再生可能エネルギー技術の一つである。もともと世界オイルショックを契機として,1980年代から欧米諸国で広まったシステムであるが,エネルギー源となる地下地質について,日本と欧米諸国とでは大きな違いがある。日本の第四紀層における熱伝導率は岩盤と比較すると小さいが,地下水流動による見かけ熱伝導率は高くなる場合が多い。したがって,日本で地中熱システムの普及を考える場合は,地域の地下水流動を考慮することにより,効率の良いシステム設計が可能となる。

論文
  • 戸建て住宅を例として
    阪田 義隆, 葛 隆生, 長野 克則
    2018 年 60 巻 4 号 p. 483-494
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,戸建て住宅に地中熱ヒートポンプ暖冷房システムを導入する場合にライフサイクルコストを最小とする地中熱交換器長さを算定し,その地下水流れによる削減効果を分析した。気候区分した全国7地域の内,3地域(盛岡市)における削減効果は,ダルシー流速が10 m/yから現れ,そのオーダー変化と相関し,200 m/y以上で有効熱伝導率に関わらず一定値に収束する。また算定結果は各地域の暖冷房熱負荷に強く依存し,地域間で異なる結果となる。本研究で提案するイニシャルコスト目標削減率から,寒冷な1, 2地域に加え,比較的温暖な3, 4地域でもダルシー流速100 m/y以上の場合,従来システムに対して経済的なシステムになることを示した。

  • 宮越 昭暢, 林 武司, 濱元 栄起, 八戸 昭一
    2018 年 60 巻 4 号 p. 495-510
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー

    都市域における地下温暖化の実態の把握と成因の検討を目的として,埼玉県南東部に位置する川口地盤沈下・地下水位観測井において,2000年5月から2015年12月まで8回の地下温度プロファイルの測定を実施するとともに,2007年4月から地下温度モニタリングを実施して,地下温度の長期変化を観測した。深度40m以浅の観測結果には継続的な温度上昇が確認され,地下温暖化が進行していることが明らかとなった。モニタリング結果に基づく地下温度の上昇率は,深度20m:3.4×10-2 ℃/year,深度30m:2.30×10-2 ℃/year,深度40m:1.93×10-2 ℃/yearであり,浅部ほど大きい。鉛直一次元の地下温度解析の結果と観測値の比較から,2003年以降の地下温暖化の成因として,過去20年の地表面温度上昇の影響が考えられた。

技術報告
  • 井岡 聖一郎, 村岡 洋文, 柳澤 教雄, 杉田 創, 佐々木 宗健, 宮越 昭暢, 佐藤 真丈, 大里 和己
    2018 年 60 巻 4 号 p. 511-516
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,新潟県十日町市松之山光間地区において5カ所の地すべり対策用集水井を利用して温泉流出量評価を実施した。本地区の地すべり対策用集水井2本から採水された試料は,Na-Cl型で酸素,水素安定同位体比が高い値を示した。酸素,水素安定同位体比の結果から,その試料は,温泉水と天水起源の地下水との混合により形成されたと考えられた。そして,温泉水と天水起源の地下水との混合率をCl濃度を用いた二成分混合モデルにより評価した結果,温泉水の混合率は約5~14%であった。さらに,その混合率に計測した集水井の排水量をかけると2本の集水井からの年間温泉流出量は,約4.5×105Lであると推定された。

  • 吉田 広人, 冨樫 聡 , 高橋 努, 舘野 正之 , 小間 憲彦, 高杉 真司, 後藤 眞宏
    2018 年 60 巻 4 号 p. 517-528
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2019/03/01
    ジャーナル フリー

    地中熱利用システムの導入コスト削減を目指し,浅層地下水を熱源とする地中熱交換ユニットを開発した。開発した地中熱交換ユニットは,透水性のよいフレコンバッグ内にシート型熱交換器をらせん状に配置し,隙間を透水性の高い砂利で充填したシステムである。これらを用いて室内水路実験を行った結果,水路流速および熱媒流量と熱交換量に相関が認められた。また,実機を用いた実証試験にて,重機による掘削によりGL-3 mまでの深度に設置が可能であるとともに,冷房利用時のユニット1器当りの日平均熱交換量は3.1 kW(標準偏差0.8 kW)が期待できることが把握された。このため,開発した熱交換ユニットを効率よく設置することで,これまで熱交換器設置に要した導入コストの大幅な削減が期待できる可能性がある。さらに,実証試験にて把握した重機による掘削限界と作成した地下水面等高線を用いて,当該ユニットの導入可能エリアの抽出を行った。その結果,当該ユニットは地下水面が地下浅部に位置する扇端域にて導入が可能であることが把握された。

資料
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