地下水学会誌
Online ISSN : 2185-5943
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62 巻, 4 号
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創立60周年記念特集「地下水学の未来(その2)」
論説
  • 阪田 義隆, 長野 克則
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 62 巻 4 号 p. 515-524
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2021/02/11
    ジャーナル フリー

    地中熱利用への関心の高まりに対し,設備導入件数が伸び悩む現状の課題に依然コスト削減があるとし,近年の研究動向を踏まえた地下水学からの解決アプローチを論じた。クローズドループシステムでは熱移流を考慮した地中熱交換器規模の削減を挙げ,このための設計性能予測ツール,設計に必要な地下水流速のデータベースや原位置試験法を紹介した。オープンループシステムは,帯水層蓄熱に対する規制緩和の動きから今後導入拡大が期待される中,井戸の目詰まりリスク等の導入指標とその評価法の確立,設計に用いる帯水層データベース構築を課題とした。最後に海外先進事例を紹介し,わが国の地下水資源を活かす積極的な地中熱利用への期待を述べた。

  • これまでの研究動向と今後の展開
    齋藤 光代, 安元 純, 杉山 歩
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 62 巻 4 号 p. 525-545
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2021/02/11
    ジャーナル フリー

    本稿では,地下水と生態系との関係についての既存研究の動向を把握するとともに,今後の課題や展開を明らかにすることを目的とし,あらゆる物質循環および生態系に関与する「微生物」の地下水中での動態に加え,地下水に影響を受ける生態系(Groundwater Dependent Ecosystems: GDEs)のうち,特に,地下水流出域に相当する沿岸海域に分布し,物質循環や生物多様性の保全にとって重要な役割を果たす「藻場」と「サンゴ礁」生態系に着目し整理した。微生物については,従来地下水の飲料水適用や汚染浄化を主要な観点とした研究が多く行われてきたが,近年では地下水流動と微生物動態の関係などに着目した研究も徐々に進んできている。また,藻場やサンゴ礁については,海底湧水(Submarine Groundwater Discharge: SGD)の影響が顕著な地域を対象とした研究により,藻場に対しては,SGDが栄養塩の供給源として海草や海藻類の存在量増加に寄与する反面,種の多様性は低下させる傾向にあること,また,サンゴ礁に対しては,SGD経由の栄養塩供給が増加して海域の富栄養化を招いた場合,ある種の藻類の増殖やサンゴの骨格密度や繁殖能の低下を引き起こし,結果としてサンゴ礁の脆弱性を高めることが報告されている。ただし,いずれについても,地下水との関係については未だ科学的に未解明な部分が多く,多様なサイトにおける調査結果の蓄積や新たな手法の適用に加え,生物地球化学,微生物学,および生態学などの分野の研究者が地下水学を通じて連携し,更なる理解を深めていくことが重要である。

資料
論文
  • -アルカン構造異性体に関する急性毒性評価-
    杉田 創, 駒井 武
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 62 巻 4 号 p. 573-587
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2021/02/11
    ジャーナル フリー

    石油系炭化水素を対象とした発光バクテリアを用いた簡易土壌汚染評価手法の開発を目的として,既往の研究においてガソリン等の主要な構成成分であるn-アルカンの急性毒性影響が調べられた。しかしながら,ガソリン等多くの石油系炭化水素製品には分岐アルカンも多く含まれている。本研究では,試験対象物質としてアルカン構造異性体であるペンタンの構造異性体2種類及びヘキサンの構造異性体5種類に加えて環状アルカンであるシクロヘキサンを用い,分子構造による発光バクテリアに及ぼす急性毒性影響の差異の有無を調べた。メタノールに溶解したアルカン構造異性体を検液とした試験における急性毒性影響の強さは,反応時間60分での相対発光強度比が50%となるアルカン濃度の推測値を基準にすると,2-メチルブタン<n-ペンタン<2,2-ジメチルブタン<シクロヘキサン<3-メチルペンタン≦2,3-ジメチルブタン≦2-メチルペンタン<n-ヘキサンであった。構造異性体間の試験結果の比較から,分岐アルカンよりも直鎖アルカンの方が発光バクテリアに対して強い急性毒性影響を持つと評価された。加えて,直鎖部分の炭素数が多い物質ほど急性毒性影響が強いことが示唆された。

技術報告
  • -温度変動がCFCs, SF6濃度に与える影響-
    浅井 和由, 辻村 真貴, 加藤 勇治
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 62 巻 4 号 p. 589-599
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2021/02/11
    ジャーナル フリー

    小規模な湧水における年代トレーサーの挙動を把握するために,名古屋市内の里山湧水を対象として,1年間にわたって毎週の試料採取と主要溶存化学成分・安定同位体比・CFCs・SF6の分析を実施した。化学成分と安定同位体比の結果は,湧水は滞留時間が数年以内の比較的若い地下水によって形成されていることを示唆した。一方湧水のCFC-12とSF6濃度は,冬期において顕著に低下する明瞭な季節変動を示し,これらに基づき滞留時間を推定すると,夏季のそれは,冬季よりも少なくとも10年以上長くなると見積もられた。この滞留時間の変動は,化学成分および安定同位体比から考察される流域の水文プロセスとは整合的ではなかった。湧水のCFC-12とSF6濃度は水温と明瞭な負の相関が認められ,これは流出時において大気と接触することにより生じているものと判断された。これらの結果は,ガス態のトレーサーを水温が変動する小規模な湧水に適用する際には,注意が必要であることを示唆している。

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