地下水学会誌
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63 巻, 4 号
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特集「地下水と農業の関わり」
技術報告
  • -静岡県牧之原台地周辺地域における1995年〜2018年の水質調査を事例として-
    廣野 祐平
    2021 年 63 巻 4 号 p. 213-225
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/05/17
    ジャーナル フリー

    茶樹の吸収量を大幅に超えた窒素施肥により,茶園周辺水系の硝酸態窒素(NO3-N)汚染等の問題が顕在化した。これらの問題を受けて,茶生産現場では1990年頃から窒素施肥量の削減が進められてきた。本研究では,茶栽培地域である静岡県牧之原台地周辺を調査地域とした,1995年~2018年の23年間の水質調査データについて,茶園周辺の排水路,地下水,湧水,小河川中のNO3-N濃度,pH,電気伝導度(EC)にSeasonal Mann-Kendall法を適用して,水質のトレンドを解析した。その結果,すべての地点のNO3-N濃度とECについて,有意な減少傾向が見られた。排水路や湧水では早くから減少し,小河川では遅れて減少した。また,排水路のpHは,調査期間を通じて酸性化傾向が認められた。

論説
  • -地域分布を中心に-
    遠藤 崇浩
    2021 年 63 巻 4 号 p. 227-239
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/05/17
    ジャーナル フリー

    日本では地震被害が頻発するが,その度に飲用水あるいは生活用水の確保が大きな社会問題となっている。その方策は多岐にわたるが近ごろ非常時における地下水利用,いわゆる災害用井戸(防災井戸)が注目を集めている。主に河川水に依存する水道システムは水の長距離輸送を前提としていることが多い。しかしその関連施設は必ずしも耐震化されていないため地震被害に脆弱である。これに対して地下水は面として流動しているため需要地に近い資源であり,緊急時の代替水源として有望視されている。災害用井戸は過去の震災で活用された例があるが,日本全体でどれくらい普及しているのか調査されてこなかった。そこで本稿では国内1741市区町村の地域防災計画を基に,日本の災害用井戸の地域分布を明らかにした。

  • -用途分析を中心に-
    遠藤 崇浩
    2021 年 63 巻 4 号 p. 241-252
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/05/17
    ジャーナル フリー

    震災時の断水は今なお大きな社会課題である。全国で水道施設の耐震化が進められているが,他方でそれを補完する代替給水の必要性も指摘されている。本稿の扱う災害用井戸はその一つである。本稿では地域防災計画を活用して災害用井戸の全国的な普及状況を明らかにしつつ,それを「用途」という視点から分類した。その結果,それは飲用と生活用を中心としつつも,防火,医療,畜産と従来の指摘よりも幅広いことを明らかにした。また消雪用井戸と農業用井戸の防災転用を想定する自治体の存在を明らかにした。そしてそれら想定用途の空間分布を地図化し,その地域的多様性を明確にした。

  • -所有形態と補助政策を中心に-
    遠藤 崇浩
    2021 年 63 巻 4 号 p. 253-265
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/05/17
    ジャーナル フリー

    災害用井戸は自然災害などにより既存の水道施設が機能不全に陥った際に用いる代替給水の一つである。本稿では市町村地域防災計画を基に全国の災害用井戸の所有形態と補助政策の分類を行った。まずこの調査により災害用井戸に民間井戸の占める割合が多いことが明らかとなった。次に自治体の災害用井戸に対する補助政策が設置維持,水質検査,水供給を対象とする多様なものであることが判明した。さらに民間井戸の活用,事前規則,補助制度,位置情報公開といった要素に注目し,各自治体における災害用井戸の制度的充実度評価を行い,先進事例となる自治体を特定した。

論文
  • -SF6年代に与えるExcess air の影響-
    浅井 和由, 辻村 真貴, 浅井 和見
    2021 年 63 巻 4 号 p. 267-277
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/05/17
    ジャーナル フリー

    地下水のSF6年代に対するExcess airの影響を評価するために,中部地方の70地点の地下水を対象として溶存窒素濃度と溶存アルゴン濃度の測定を行い,Excess airの見積もりを実施した。すべての地下水は窒素とアルゴンが過飽和状態にあり,地下水涵養時にExcess airが生成されたことを示した。溶存窒素に基づいて算出されたExcess airの平均値は,山地小流域湧水で2.2 cc STP/kg, 第四紀火山山麓湧水で2.8 cc STP/kg, 扇状地地下水で3.7 cc STP/kgであった。SF6に基づく地下水の滞留時間は,Excess airの補正によって,4年から18年長く見積もられた。補正された滞留時間は,他の年代トレーサーや水文地質特性から推定される滞留時間と整合的であった。これらの結果は,日本においてSF6年代測定を実施する際にはExcess airによる年代補正が不可欠であり,特に透水性が高い第四紀火山や扇状地では重要になることを示している。

技術報告
  • 中村 美月, 梅田 浩司, 井岡 聖一郎
    2021 年 63 巻 4 号 p. 279-286
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/05/17
    ジャーナル フリー

    本研究では,青森県の大和沢川扇状地に位置する河川水,湧水や井戸水の採水・分析を行ない水質の季節変動を検討し,併せて空間分布を調べた。各採水地点の主要溶存成分はCa-HCO3型とNa-Cl型が支配的であり,このうち,NO3濃度は扇頂部の座頭石から扇端部の富田の清水にかけて高くなり,市街地では明瞭に高くなることを示した。また,主要溶存成分の季節変動によると,NO3濃度は梅雨期よりも初春に高い傾向が認められる。地下水中の窒素は一般的に施肥起源と考えられるが,弘前市のりんご果樹園では晩秋から初春にかけて基肥が行なわれる。そのため,初春の著しいNO3濃度の上昇は,積雪期に降下浸透がほとんど発生せず融雪期に地表水が一気に涵養されたことから生じた可能性がある。

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