地理空間
Online ISSN : 2433-4715
Print ISSN : 1882-9872
17 巻, 2 号
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  • カナダの農村空間の商品化,日本農業の存続・発展戦略,日本の農業地域区分
    田林 明
    2024 年 17 巻 2 号 p. 55-82
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2025/03/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は2013年以降に筆者が実施した「カナダの農村空間の商品化」と「日本農業の存続・発展戦略」,「日本の農業地域区分」という三つの研究課題に関する調査・研究の体験を通して,フィールドワークに基づく農業・農村地理学の手順と方法を再考した。三つの研究課題に関する調査・研究は相互に密接に関連しており,それぞれ「伏線」,「着想・準備」,「実行」,「反復」,「展開」の5段階を踏んだことが確認できた。研究を持続するには, フィールドで考えフィールドから発想するという基本的な姿勢が不可欠である。外国との比較,応用的側面の導入,小地域での研究成果を広い地域の研究課題に広げること,長期にわたる調査・研究の継続の必要性がわかった。フィードワークの手順としては,既発表のものに加えて,研究者同士の連携や被調査者の人権への配慮,調査者と被調査者の良好な人間関係の確立とともに,研究成果の調査地域への還元が重要である。
  • 外的要因がもたらす変化への宿泊施設の対応
    治部 憲良, 矢ケ﨑 太洋
    2024 年 17 巻 2 号 p. 83-100
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2025/03/31
    ジャーナル オープンアクセス
    日本の山村地域では,スキー場の開発をきっかけに各地に観光地域が成立した。一方で,スキーブームの盛衰は観光地域の多様化をもたらし,教育旅行や外国人を受け入れる地域が現れた。今日,教育旅行が見直されて,縮小を余儀なくされつつある。また,新型コロナウイルス感染症の流行も観光業に負の影響を与えた。本稿では,兵庫県養父市に位置し,教育旅行を数多く受け入れるハチ高原を事例に,その展開と外的要因によってもたらされた変化への宿泊施設の対応を検討した。ハチ高原は山岳スキーの場となり,集落部から観光業が発展したが,開発の進行に伴って,観光業の重心は高原部へ移行した。ハチ高原における宿泊施設は独自性が強く,外的要因に対する対応は多様なことが明らかになった。また,ハチ高原では,教育旅行の縮小や新型コロナウイルス感染症の流行の影響は限定的であった。
  • 西 隼平, 𠮷田 国光
    2024 年 17 巻 2 号 p. 101-117
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2025/03/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,非大都市圏に位置するX県の児童養護施設の退所者が,施設外でどのように生活を営んでいるのかを明らかにすることを目的としている。とくに退所後の生活で,どのような苦労や困難があるのか,それらをどのように解決しようとしているのかを分析し,困難の固定化や生きづらさを生じさせてきた要因が社会のどのスケールで生じてきたのかに注目して整理し,他者との様々なスケールでの結びつきが退所者の生活に果たす役割を考察した。 その結果,困難や苦労,生きづらさとしてお金を無計画に使ってしまった失敗や施設生活と社会人生活の差による消費の反動,他者との比較によって生じる孤独感,家族とのつながりがネガティブに作用することが挙げられた。行政や民間団体が実施する奨学金制度の利用や友人,職場の人,施設職員,家族といった様々な広がりを有する社会との結びつきは,退所者の困難や苦労,生きづらさを軽減させる部分とそれらを固定化させ,新たな困難を生じさせていた。
  • 鈴木 修斗, 坂本 優紀
    2024 年 17 巻 2 号 p. 119-129
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2025/03/31
    ジャーナル オープンアクセス
    日本ワインの消費量の増加を反映して,日本各地に新たなワイン産地が形成されている。本稿では2000年代後半以降にワイン産地の形成が進んだ長野県高山村を事例に,行政の取組みによるワイン産地の形成プロセスを明らかにした。高山村では1996年よりワイン用ブドウが一戸の農家によって栽培され始めた。その後,2004年に村内のブドウで作られたワインが国内のコンクールで評価されたことを契機に,行政による産業振興策の一環としてワイン用ブドウ栽培が推進されるようになった。その際,行政が主導的な役割を担いつつも,地域内外の多様な主体を巻き込みながら産地形成が進められた。こうした新たなネットワークの形成が,新興産地において重要な役割を果たすことが示された。現在,ワインは高山村を象徴する資源として村内外に認識されるようになりつつあるものの,伝統的ワイン産地と比較すると萌芽的であり,今後の活用が期待される。
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