高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
10 巻
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特集 高等教育研究の10年
  • 組織編成と知識形成
    橋本 鉱市
    2007 年 10 巻 p. 7-29
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     日本高等教育学会は創設から10年を迎える.本稿では,その節目に当たって,これまで本学会が高等教育研究に果たしてきた役割を,集団(組織)面と知識面の2つのディメンジョンにおいて考察する.

     本学会は設立趣意書に記されているように,集団(組織)面では高等教育研究に従事する大学教員のネットワーク化と大学院生の養成ならびに大学職員層の包摂,また知識面では「学」としてのdiscipline の形成と実践応用的な問題解決への援用,というそれぞれ2つの志向性を内在化させていた.本稿は,創設目的に内在化されていたこれらの志向性について,他の学会との比較を軸にこの10年間の活動を総括し,今後の方向性に関する議論の基礎的なデータを提供することを目的としている.

  • 羽田 貴史, 大塚 豊, 安原 義仁
    2007 年 10 巻 p. 31-49
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     日本の高等教育を対象にした歴史研究は,10年間で約1,000点が公刊され,活況を呈した.新たな資料の発掘や研究体制の構築が進み,自校史教育も発展している.また占領文書の公開など新たな史料群は研究の発展を促進してきた.しかし,高等教育の変動を把握する理論的検討は十分ではなく,学会の活動は実践面に傾斜して,歴史研究とは乖離がある.

     日本におけるアジアを対象にした歴史研究は,高等教育研究全体が急成長しているのに比べ,あまり発展しなかった.特に,前近代の研究成果は乏しい.歴史研究が一般に低調とはいっても,中国国内では際立った発展をとげ,植民地教育に関する研究会などの組織化を背景に,東南アジアの高等教育史や植民地高等教育史,国際教育交流史は比較的発展した.また,アジアからの留学生の研究が増加し,アジア高等教育史の担い手として期待できる.

     欧米においては,欧州全体を視野に入れた比較史研究や社会史的大学史が活況を呈しているが,日本の欧米研究はやや停滞し,溝ができてしまった.新自由主義的な高等教育改革が広がって,歴史研究のような基礎学問への関心が薄れている.実践的な大学教育センターは拡大したが,教育学部の教育史ポストは,削減の対象となっている.高等教育の歴史研究が近視眼的な実践志向によって衰退し始めているとしたら,高等教育の未来も不確かなものでしかない.

  • 紀要掲載論文を中心にして
    川嶋 太津夫
    2007 年 10 巻 p. 51-61
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,過去10年間の高等教育学会における比較研究の動向と,それらがわが国の高等教育研究に果たした貢献,及び今後の課題と展望を検討することである.そのために,まず比較研究とは何か,さらに高等教育研究における比較研究の意味と意義を検討し,高等教育の歴史的経緯と現代的趨勢が比較研究を不可欠のものにすること.また,比較研究をその志向性の観点から3つに類型化し,そのような分析を通じて,10年間の比較研究の特色を明らかにし,次の10年の課題を提起することとしたい.

     なお,今回具体的に取り上げた比較研究は,学会紀要である『高等教育研究』(以下,学会紀要とする)に所収の論文に限定した.というのも,学会紀要への掲載論文は,それが依頼原稿であれ,投稿論文であれ,学会という研究者集団のその時々の「集合的価値」を多かれ少なかれ反映していると考えられるからである.

  • 小林 雅之
    2007 年 10 巻 p. 63-81
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本論文では,今後の10年の研究の方向性を考えるために,欧米の研究動向を合わせ鏡にして,4つのトピックから,日本の高等教育の経済分析の特質を考察する.第1に,日本の高等教育の経済学的分析は,経済学モデルの援用によるものがほとんどであるが,大学の特性を考慮した分析や,経済学アプローチ以外の,たとえば,社会学的アプローチによる教育の経済的側面の分析が現れてきている.第2に教育の市場化論は,高等教育においても一部の経済学者を中心に主張された.しかし,日本では,これに対する反論や懐疑も根強く,高等教育の特性を考慮した研究が求められている.第3に,研究が精緻化・細分化する傾向にあるが,より空間的時間的にズームアウトした研究が必要である.第4に,証拠に基づく政策志向の実証研究の蓄積が重要となっている.

  • 丸山 文裕
    2007 年 10 巻 p. 83-95
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     政府の高等教育への資金配分は,機関配分方式と個人配分方式がある.機関配分方式では,大学は政府から資金を受け取り,それで教育研究を行う.個人配分方式は,研究者もしくはプロジェクトチームが政府から資金を受け取る.日本では機関配分方式から個人配分方式にシフトしている.この状況で,本論は高等教育の財政財務および経営管理の研究動向を整理した.この研究分野は,政府財政の逼迫と18歳人口の減少の時代に,教育と研究の質を維持する国立私立大学の双方に重要である.

  • 高等教育社会学における理論と方法の今日的課題
    中村 高康
    2007 年 10 巻 p. 97-109
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     今日の日本の高等教育研究は,政策的・実践的課題解決の意識が強く,理論的・方法論的に必ずしも「社会学的想像力」が生かせる状況になっていない.<誇大ターム>と<通俗化された経験主義>が,高等教育研究における「社会学的想像力」の障害となっているのである.これに対して本稿では,理論的には,社会学理論一般との接点を確保し,社会学概念をうまく活用していくことが有効だとする見方を示す.また,方法論的には,データ収集や方法を現状より丁寧に行っていく努力とともに,新しい方向としてパネル調査や質的調査をからめた総合的な調査研究も有効ではないか,との見解を示す.

  • 大学評価・FD 実践の体験を通して
    大塚 雄作
    2007 年 10 巻 p. 111-127
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学教育は,大学評価の導入やFaculty Development(FD)義務化の法制化など,激動の時代を迎えており,大学の教職員は,常に向上を目指して,さまざまな工夫を講じていくことが求められている.その個々の活動は多岐にわたるが,一方で,それをより普遍的な表現にまとめたり,理論的に統合したりする必要性も増大している。そのために,さまざまなデータが収集されることになる.量的データの場合には,統計量に要約されることになるが,教育実践の領域では,個々のデータの統計量からのズレの情報が有用となる場合もある.また,質的データは,一般化可能性という点で難しさがあるが,同様の文脈において同様の実践を行う場合は有用な示唆が得られることから,質的研究法の共有へのニーズが増大していくであろう.いずれも,個々のデータの個別性は,全学的な文脈や,理論的モデルといった,共有され得る高次の枠組に位置づけられることを通して,普遍的な有効性を発揮し得る.

  • 濱名 篤
    2007 年 10 巻 p. 129-150
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本学会が発足して10年目を迎えようとしている.本稿で扱う大学評価というテーマは橋本鉱市論文でも述べられているように,過去10年の間で最も会員各位の関心を集めたテーマのひとつである.しかし,1998年の学会発足当時から大学評価が一貫して中心的テーマであったとまではいえない.本稿では,本学会において大学評価という課題が,研究と実践上の両面でどのように扱われてきたかについて,『高等教育研究』と学会大会報告を主な材料として概観・整理する.その上で,わが国における大学評価の研究と実践の現状と課題について論じたい.

  • 塚原 修一
    2007 年 10 巻 p. 151-163
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     日本の現在の大学改革は,トロウのいうエリート型からユニバーサル型へと,2段階にちかい大幅な変革を行うものである.大学改革に関する和書の刊行が急増していて,日本は大学改革の時代にある.本学会の会員には,改革の中核人材として活躍している者が多いと推察される.本学会の大会発表は,大学改革の構成要素をとりあげるものが多かった.そのなかから,大学評価(個別大学の評価,高等教育システムの評価),科学技術政策と大学(研究開発活動,高度人材養成),政策過程とその変容(高等教育から職業への移行,他府県など外部との関係,政策過程分析の展開)をとりあげ研究動向と課題を整理した.今後,本学会が政策にとくに貢献する活動として,高等教育に関する包括的な調査研究と,府省などにまたがる課題の調査研究があることを述べた.

  • タイヒラー ウルリッヒ
    2007 年 10 巻 p. 165-177
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー
  • 10周年特集の総括
    荒井 克弘
    2007 年 10 巻 p. 179-191
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     高等教育学会創設10年を記念し,特集のタイトルを「高等教育研究の10年」とした.本学会の創設以来の研究活動とその成果を概括し,つぎの10年間の学会活動を展望する企画である.特集の構成は4部からなり,内容は1)学会創設からの10年の活動を分析した「日本高等教育学会の10年」,2)研究の方法論,アプローチに着目して企画した「専門ディシプリンからみた研究動向」,3)高等教育研究の主要なトピックに注目した「論点別にみた高等教育研究の動向」,4)「日本の高等教育研究―海外からの視点―」である.本稿はこれらの最後として特集の総括を意図したものである.前段で筆者の見解を述べ,中段で特集の議論を集約し,最後に高等教育研究の課題を述べる.

論稿
  • 東部・中西部の研究大学の事例から
    阿曽沼 明裕
    2007 年 10 巻 p. 195-216
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     近年,専門職大学院や専門職的な大学院プログラムの増加,外部研究資金の増加で,大学院は多様化が進みつつあり,そうした多様性に応じた財政基盤の構築を考えるべき時期に来ている.しかし,大学院の財政基盤についてはこれまで十分な検討がなされてきたとは言いがたく,分析の枠組もない.そこで本研究は,今後の日本の大学院の財政基盤を考える基礎を得るために,大学院先進国である米国における研究大学の大学院について,その財務運営の特徴と,財政基盤の多様性の一端を明らかにする.検討の結果,学士課程の大学院への貢献,学生援助におけるプログラムごとの違い,大学院プログラムの分権的な財務運営,さらに財政基盤から見た大学院プログラムの多様性のいくつかのパターンが示された.

  • Diamond のモデルとその適用事例を中心に
    鳥居 朋子, 夏目 達也, 近田 政博, 中井 俊樹
    2007 年 10 巻 p. 217-235
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学のカリキュラム開発に有効な指針を提供するDiamond の「教育プログラム開発のプロセス」を現場に適用するためには,教員や専門家等によるカリキュラム開発の共同作業の促進が鍵になる.米国ミシガン大学におけるDiamond モデルの適用事例では,カリキュラム開発の過程における仲介者の役割を参考にしつつ,相談業務に有効な調査ツールや評価のためのデータ収集の方法等が工夫されていた.今日,日本では各大学の取り組みによる教育の質向上が期待されている.こうした状況で大学のカリキュラム設計および評価の手法を開発する場合,学内の合意形成や意思決定につながる対話の促進に有効な調査方法の開発・提供や人的支援の方法の改善を図ることが有効な方策の一つになると考えられる.

  • 教育成果を根拠とした評価の採否と有効性
    串本 剛
    2007 年 10 巻 p. 237-255
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,わが国の学士課程教育の自己評価における,成果準拠型の評価方法の採用状況,採用条件および教育改善への寄与を明らかにし,その方法を採用することの意義を検討することである.成果準拠型アプローチの必要性は近年,第三者評価の取組等により広く認識されるようになってきている.本稿では,全国1,871学部を対象とした質問紙調査の結果から,成果準拠の評価方法は,①他の評価方法に比べて普及が遅れている,②職業との繋がりが明確な学部で多く採用されている,③教育に関する複数の領域の改善確率を有意に高めている,等の点が実証される.

  • 理工系学部に着目して
    藤森 宏明
    2007 年 10 巻 p. 257-277
    発行日: 2007/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,1999年の日本育英会奨学金制度の改革によって,どのような学生に新たに支給されるようになったかを,理工系の学生に着目して実証分析を行ったものである.

     日本育英会は,これまで「育英」と「奨学」を両立させるという制度理念で事業を行ってきたが,教育機会の均等の側面から,より「奨学」の面に重点を移行させ,有利子貸与奨学金による大幅な増員を1999年度より行った.この改革によって奨学金の受給率は上昇し,全体としては家計負担が抑制されることになった.しかし,改革当初の理念であった「奨学」としての効果を必ずしも達成したものではないことが実証分析により明らかになり,さらに改革の余地があることが示された.

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