高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
11 巻
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特集 大学生論
  • 武内 清
    2008 年 11 巻 p. 7-23
    発行日: 2008/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     学生や学生文化の特質に関する実証的データをもとに大学教育の議論を展開する必要がある.

     大学の組織・集団,カリキュラムや教育活動及び大学外の活動が,個々の学生の知識や技術の獲得,そしてキャリア形成や価値観を形づくっている.また,学生の性別,出身階層,親の教育期待,学生の入学以前の特性(成績,アスピレーション,価値観等),そして学生の動機や態度によっても,大学生の社会化(socialization)や大学教育の効果は違ってくる.

     最近の傾向として大学の授業は学生に対する影響を強めている.同時に,多くの学生達は,今でも大学4年間を自分の時間を自分の好きなことに自由に使い,自己を試すモラトリアム期間と位置づけたいと思っている.また,学生達はさまざまなことが体験できる「コミュニティとしての大学」も求めている.

     現代の学生は生徒化し素直な傾向があり,大学や教師の教育や支援次第で,どのようにも変りうる可能性を有している.同時に,大学生の自主性の形成も大学教育の目的である.

     学生が,自分のライフコースの中で,大学時代をどのように位置づけているのか.個人的な側面と,社会的経済的な側面の両面に渡って,学生の実態と学生文化に関する実証的なデータを積み重ねて,大学教育の政策に生かしていく必要がある.

  • 大前 敦巳
    2008 年 11 巻 p. 25-44
    発行日: 2008/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,文化資本の形成という観点から,今日の大学進学者が過去の経験や現在の学生生活を通じていかなる「卓越化」を図るのかについて,問題点の整理と筆者が実施した調査結果の分析を試みる.先行研究からは,一元的な社会階級・階層再生産の視点だけでなく,近年の価値多様化に伴う重層的な諸問題との関係の中で多方面の展開が繰り広げられてきた.関西・北陸8大学・短大生の学習経歴調査,上越教育大学1~4年次の追跡調査からは,出自家庭から文化資本を受け継ぐよりも,大学入学後にその時と場の要求に応じた順応主義的な立場から,多元的な予期的社会化を通じて文化資本を形成する傾向がみられる.不安定化した社会状況において組織よりも個人の判断が尊重される「適応主義」への転換が問題になる中,可変的な文化資本形成のあり方が問われる.

  • 小方 直幸
    2008 年 11 巻 p. 45-64
    発行日: 2008/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学のユニバーサル化や国際的競争力,経済社会への貢献,教育の質保証といった様々な文脈において,大学教育のアウトカムを重視する傾向が強まっている.社会人基礎力や学士力が議論の俎上にのぼるのも,こうした背景と無縁ではない.大学教育のアウトカムとは何か,アウトカムはどのような構造に規定されているかという点は,政策のみならず個別機関レベルでも,これまでになく重要になっている.しかし我が国では,この分野においてエビデンスベースの研究が十分に蓄積されてきたとは言い難い.大学教育のアウトカム研究の一翼を担う,学生調査研究の可能性を探った.

  • 入学難易度によるキャリア成熟の差異に着目して
    望月 由起
    2008 年 11 巻 p. 65-84
    発行日: 2008/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿では人文科学系を専攻する女子学生を対象にして,教育・職業・人生の3つの側面に対するキャリア成熟の様相を実証的に分析した.その結果,入学難易度により,大学生のキャリア成熟に相違がみられた.ただし,入学難易度が高い大学の学生の方が成熟している面(例えば進学観)もあれば,入学難易度が低い大学の学生の方が成熟している面(例えば職業や人生への展望)もあり,入学難易度とキャリア成熟の関連を一概に語ることはできない.進学大衆化が進み,大学生のニーズやキャリア意識も多様化している.個々の大学の学生のキャリア意識を実態に即して捉えた上で,彼らに応じたキャリア教育・支援を独自に検討し,取り組んでいくことが,今後ますます求められるのではなかろうか.

  • 小杉 礼子
    2008 年 11 巻 p. 85-105
    発行日: 2008/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学進学者が増加する中で非選抜的な大学が増加し,こうした大学で特に卒業後無業やフリーターになる学生が多いとされるが,そこに特徴的な就職活動のプロセスやキャリア形成支援の状況について,大規模な調査を基にした検討はされていない.本稿では,多くの大学(276校)の協力下で行われた大学4年次の学生調査,及び全国の大学就職指導・キャリア支援部門調査,さらに,1990年代に行われた大規模調査の再分析を基に,大学生の就職活動と大学のキャリア支援について,非銘柄大学の学生を中心に,過去からの変化を組み込んだ分析を行い,次の3つの知見を得た.第1に,非銘柄大学の学生は就職活動開始が遅く,応募する会社数を絞る傾向が見られた.1995年の卒業者でも非銘柄大学卒では接触する企業数が少ないが,日程は現在ほどの開きはなく,ほぼ卒業1年前から就職活動を始める慣行が大学の選抜性を問わず共有されていた.この間,銘柄大学の学生により早くという前倒しのプレッシャーがかかり続けてきたのではないかと思われる.第2に,大学の就職支援・キャリア形成支援はすでに多くの大学で教員とも連携を持って取り組まれていたが,非銘柄大学の学生のほうがより支援を活用する傾向があった.また,その活用には就職率を高める効果が推測された.非銘柄大学の学生のほうがより支援を活用する傾向は95年卒業者でも見られたが,現在より利用度は低かった.背景に,学生の「生徒化」の進行があると考えられる.第3に,非銘柄大学の学生の就職活動のプロセスの検討からは,大企業就職に価値を置く労働市場からの乖離がみられた.本人の就職活動への満足感を新たな市場の価値と考え,これを高める就職支援を検討した.そこからは大学による支援の力点の違いが指摘できるとともに,共通のものとして,就職への意識を喚起して活動開始を促す支援と大学生活を充実させ,成績を向上させることの重要性が明らかになった.

  • 現状と可能性
    濱中 義隆
    2008 年 11 巻 p. 107-126
    発行日: 2008/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     いわゆる「大学全入時代」の到来によって,学力,進学動機,将来への展望などの面において多様な学生層が高等教育に進学するようになった.かつてのように入学時の学力選抜によって,学生の資質を維持することは急速に困難になりつつある.この状況下においては,学生の期待と提供される教育との間に様々なミスマッチが生じかねない.そこで入学後の進路変更を容易にし,学生が自らに適した学習経験を選択的に蓄積できるような仕組みを構築することが期待されている.

     本稿は,高等教育進学後に教育機関を移動して学習を継続する学生の増加(たとえば編入学生)に焦点をあて,「学生の流動化」の現状を明らかにし,今後の可能性を検討することを目的とする. 調査データによる現状分析からは以下の点が明らかになった.

    ・上記のような期待にもかかわらず,大学への編入学者は近年では増加しておらず,「学生の流動化」は停滞傾向にある.

    ・一方で,実際に高等教育機関を移動して学習を継続する学生の規模に比べると,転学等を潜在的に希望する学生の比率はかなり高い.

    ・1990年代以降,学生の流動化を可能にする様々な制度改革が実施されており,学生の移動を阻む要因は,制度の未整備の問題ではない.したがって高等教育システムのさらなる弾力化によって学生の流動化が促されるとは考えにくい.

     これらの現状分析の結果を踏まえ,今後,学生の流動化が進展するためには,どのような条件が必要とされるかを考察した.

  • 吉田 文
    2008 年 11 巻 p. 127-142
    発行日: 2008/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,第1に本特集の諸論文が共有する分析の視点,第2に諸論文の位置づけ,第3に大学生を対象とした研究の今後の課題を提示することにある.共有されている分析の視点は,学生の意識や行動を分析するにあたって,大学の教育過程との関連を問うこと,学生層の分化の程度を明らかにすること,学生層の社会的不平等の有無を検討することである.特集を構成する諸論文は,入学から卒業までの時間軸と,正規の教育プログラムから課題活動までの活動領域から構成されるマトリックスに位置づく.今後の課題としては,諸論文の知見から得られた大学の教育過程において学生が変化する側面と,入学前の属性が継続的に影響をあたえる側面とに関してさらに研究を深めること,大学生の対象範囲の拡大を検討すること,一定の規模をもつパネル調査を組織化することをあげることができる.

論稿
  • 加藤 かおり
    2008 年 11 巻 p. 145-163
    発行日: 2008/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本研究は,大学教員の教育活動に関する専門職能(教育職能)とは何か,その能力をいかにして開発するのかという課題について,わが国における議論の基盤を得るために,英国における教育職能開発のコアプログラムである高等教育資格課程(PGCHE)を事例として取り上げ,その特質を,社会的背景や理論的根拠を踏まえて考察した.

     結果として,PGCHE は,知識社会や学習社会の文脈,および学生の学習経験に関する研究の蓄積を土台に,学習者中心の大学教育への転換をねらいとしていること,大学教員の教育職能の国家的な基準枠組みに基づき設計され認証を受けるプログラムであることなど,その組織的,体系的かつ戦略的な教育職能開発の特徴および意義が明らかになった.

  • Title Ⅳ 適用範囲の拡大を目指す営利大学の戦略
    古賀 暁彦
    2008 年 11 巻 p. 165-183
    発行日: 2008/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     アメリカ営利大学に関する先行研究には,大規模校を対象とするものが多く,そこで描かれる特徴には営利大学全体からみた場合に特異なものが含まれると考えられる.本研究では,全米教育統計センター(NCES)等のデータから包括的なアメリカ営利大学の特徴を検証した.その結果,営利大学では公立大学や私立大学に比べて①フルタイムの学生の比率が高い,②オンライン教育の導入比率が低い,といった先行研究とは異なる特徴を見出した.

     さらに本研究では,それら相違する特徴の要因について,連邦政府学生援助プログラムの受給資格(タイトルⅣ)の視点から考察し,アメリカの営利大学が,個人補助を重視する高等教育の財政支援政策等にうまく適応することで発展してきたことを明らかにした.

  • 教育課程の比較分析
    山村 滋
    2008 年 11 巻 p. 185-205
    発行日: 2008/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     わが国では,規模の小さな高校が少なからず存在している.本稿の課題は,高校教育の多様化政策・大学入試の多様化の下での小規模な公立普通科高校の教育課程を,大学教育の機会均等の観点から実証的に分析することにある.

     普通科高校に関する教育課程の全国的調査データを分析した結果,小規模公立高校では,コース・類型数やその種類が少ないこと,国語,数学,英語,地理歴史,理科といった教科の単位数が少ないこと,大学入試向けの科目があまり提供されていないこと,等が解明された.これらの特徴により,小規模公立高校の生徒は,大学入試に備えることが難しくなっている.換言すれば,大学教育の機会均等の観点から問題がある.したがって,このような格差を是正することが必要なのである.

  • 東京都所在大学の立地と学部学生数の変動分析
    末冨 芳
    2008 年 11 巻 p. 207-228
    発行日: 2008/05/26
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学立地政策とは工場等制限法における大学新増設規制とともに,文部行政による設置認可や定員管理といった複合的な法・政策を意味する.本稿では大学立地政策の規制効果を検証するために,東京都所在大学を対象とし,大学の立地動向の質的分析と学部学生数および大学移転の変動に関する量的分析を行った.対象年度は1955,1965,1975,1985,1995,2005年度の6時点である.

     先行研究においては日本における大学進学率の上昇とそれとともに浮上した地域間の進学機会格差,その是正のための大学地方分散の必要性といったことがらへの関心から,文部省の高等教育計画・政策に関する政策研究や,大学立地政策が大学生の地域間移動におよぼした影響の計量的評価等の分析が蓄積されてきた.ただし,大学立地政策の規制対象となった都市に中心的に着眼し,大学の立地や学生数がいかなる変動を見せてきたのか,という視点からの研究が不足しており,この分野での研究の蓄積が必要とされる状況にある.

     こうした課題意識のもとで,東京都に所在した大学について学部・学科・学年別に所在地と学部学生数をデータベース化し(東京都所在大学データベース),所在地に関する質的分析と,学部学生数と大学移転パターンに注目した量的分析を行った.

     その結果,(1)先行研究ではあきらかとはなっていなかった東京都規制対象地域における学部の新増設抑制効果は1975-85年度に顕著であったこと,(2)1995年度と2005年度データの比較から学部学生の「都心回帰」はまだ確認されないこと等が判明した.

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