いわゆる「大学全入時代」の到来によって,学力,進学動機,将来への展望などの面において多様な学生層が高等教育に進学するようになった.かつてのように入学時の学力選抜によって,学生の資質を維持することは急速に困難になりつつある.この状況下においては,学生の期待と提供される教育との間に様々なミスマッチが生じかねない.そこで入学後の進路変更を容易にし,学生が自らに適した学習経験を選択的に蓄積できるような仕組みを構築することが期待されている.
本稿は,高等教育進学後に教育機関を移動して学習を継続する学生の増加(たとえば編入学生)に焦点をあて,「学生の流動化」の現状を明らかにし,今後の可能性を検討することを目的とする. 調査データによる現状分析からは以下の点が明らかになった.
・上記のような期待にもかかわらず,大学への編入学者は近年では増加しておらず,「学生の流動化」は停滞傾向にある.
・一方で,実際に高等教育機関を移動して学習を継続する学生の規模に比べると,転学等を潜在的に希望する学生の比率はかなり高い.
・1990年代以降,学生の流動化を可能にする様々な制度改革が実施されており,学生の移動を阻む要因は,制度の未整備の問題ではない.したがって高等教育システムのさらなる弾力化によって学生の流動化が促されるとは考えにくい.
これらの現状分析の結果を踏まえ,今後,学生の流動化が進展するためには,どのような条件が必要とされるかを考察した.
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