高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
15 巻
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
特集 高等教育財政
  • 金子 元久
    2012 年 15 巻 p. 9-27
    発行日: 2012/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     20世紀から21世紀への転換に前後して,高等教育は資源の動員,効率性の向上,そして質的向上の三つの課題に対処しなければならなかった.高等教育財政がそれに対応してとった戦略はほぼ,政府誘導による市場化,法人化,そして高等教育機関の機能的分化・特化であった.本稿では,その三つの戦略についてその構造と問題点を分析し,そこから新しい高等教育財政の課題を論じた.

  • 経済学理論が示唆するパラダイム
    松塚 ゆかり
    2012 年 15 巻 p. 29-47
    発行日: 2012/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     高等教育財政をめぐる世界共通の課題として,急増する大学進学需要,高等教育費の高騰,政府予算の縮小,グローバル化,経済の自由化があげられる.本稿ではOECD 諸国を中心とする各国がなぜこうした問題に直面しているのか,その是非を問うのではなく,その背後にあるメカニズムを,経済学理論を用いて検討した.国際化に伴う学生や研究者を始めとする高度人材の移動は高等教育の市場化と連動して公財政支出の縮小を招くかに見える.しかし国際的な市場化の流れの中で機会均等を確保すると同時に高度人材を誘致するためには,公・私間のコストシェアに新たなパラダイムを導入しつつ,高等教育財政に一層の拡充と工夫が求められる.

  • 法人化後の検証
    島 一則
    2012 年 15 巻 p. 49-70
    発行日: 2012/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     法人化後,運営費交付金の削減にもかかわらず,国立大学全体の収入は2138億円増加している(病院収入増分はその84%分に相当).同様に,個別国立大学の財務についても,7割弱が収入増を経験している.ただし病院を有するすべての大学と過半数の理工系単科大学がその大部分を占め,教育系単科や附属病院を有しない複合大学の大部分は収入減となっている.結果,大学間格差は拡大傾向にある(学問間格差を内包).一方,病院収入は一義的には「病院」収入であるため,これを除いた値の変動をみると,過半数が収入減となる.以上の条件でなお収入増となる大学では,平均的に競争的資金+受託研究・事業等収入を倍増させている.これらは大学内の特定教員・グループへ偏在し,大学全体としての基盤的な研究・教育条件の水準維持とは別の話である.そして収入獲得に伴う業務増加の問題も存在する.現行の財政・財務配分の再考が求められている.

  • 渡部 芳栄
    2012 年 15 巻 p. 71-92
    発行日: 2012/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の主な目的は,公立大学法人の財務分析の端緒を開くとともに,その特質や課題を明らかにすることである.本稿において,公立大学法人に作成が義務付けられた財務諸表を使って分析した結果示唆されたことは,①資産に占める有形固定資産の比率が大きい,②目的積立金は貸方上の比率は大きくないものの,損益計算上は小さくない役割を果たしている,③業務活動で得た資金の範囲内で,投資や債務の支払いを進めている,④未処分利益の多くは目的積立金として処分される傾向にあるが,次期中期目標期間にどれほど繰越されるかは不透明である,⑤法人業務にかかる費用の約4割が,住民等の負担に帰せられる,⑥しかしながら,法人ごとに見れば財務状況のバラつきは大きい,⑦保有する資産と経常利益,業務活動,投資・財務活動,及びその結果には一定の関連が見られる,などであった.

     公立大学法人財務の概略は示せたものの,公立大学法人の財政・財務分析にはまだまだ課題が多い.実質的なインプリケーションを得るためにも,残された課題を解決していかねばならない.

  • 現状と課題
    両角 亜希子
    2012 年 15 巻 p. 93-113
    発行日: 2012/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿では最近15年間の私立大学の財政変化について実証的に検証し,今後の課題をまとめた.マクロレベルの分析からは,経常収支の悪化に伴い,安定的に経営を行う上で保有すべき資産の状況を示す積立率の悪化というストックにも影響を与えていること,また規模や立地による格差が広がっていることを示した.また,個別機関の変化については,私立大学の約9割をカバーする財政データを用いて直近3年のトレンドを分析した.63%の私学が好調であるが,17%は低迷傾向にあり,こうした財政状況の違いと経営行動の関係を分析した.今後は,大学経営の効率性や効果を検証する研究も必要だが,これだけでなく,授業料水準や公的負担のあり方を抜本的に検討するためにも大学政策論の観点からの研究がさらに必要となっている.

  • 小林 雅之
    2012 年 15 巻 p. 115-134
    発行日: 2012/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,教育費の負担をめぐる政策の動向とりわけ授業料・奨学金をめぐる政策について,各国の動向と,それに関する研究および関連する実証研究をレビューし,政策的インプリケーションを得ることにある.日本では,子どもの教育は親に責任があり,親が学費を負担するのが当然という根強い意識がある.しかし,翻って海外に目を転じると,教育費を誰が負担するかは非常に大きな問題となっている.最大の問題は,公的負担から私的負担,さらに親負担から子(学生本人)負担への移行である.本稿ではこの視点から,学生への経済的支援が,給付型奨学金から貸与型奨学金(ローン)に移行していること,しかし,ローン負担やローン回避問題が発生し,再び給付型奨学金の重要性が高まっていることを各国の事例から明らかにする.

  • 小林 信一
    2012 年 15 巻 p. 135-157
    発行日: 2012/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学研究費のほとんどは公的研究費である.科学技術政策は公的研究費のファンディングを通じて,財政的に大学と深く結びついている.本稿の目的は科学技術政策が大学の財政や大学経営,研究活動にどのような影響を及ぼしてきたのかを検討することである.国立大学の公的研究費は非常に集中した状況にある。そのような傾向は,1990年代半ば以降の政策的変化によってもたらされたが,2000年代の政策により強化された。ファンディング・システムは,GUF 中心,DGF へのシフト,GUF の内部での分化,プロジェクト・ファンディングの多様化,COE ファンディングの登場と変容してきた。このような変化は,マクロレベル,機関レベル,研究者・研究グループレベルで影響を及ぼしたが,さまざまな問題を抱えている。

論稿
  • 吉田 香奈
    2012 年 15 巻 p. 161-179
    発行日: 2012/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿では,アメリカ連邦政府が実施する学生ローンの延滞・債務不履行問題を検討し,その抑制策の特徴として以下の点を指摘した.すなわち,(1)債務不履行者の多い大学に対し連邦学生支援の利用資格を停止・剥奪するペナルティを実施していること,(2)破産者への学生ローン返還免責の禁止等,日本にはない厳しい回収制度が存在すること,(3)段階型・延長型・所得連動型返還といった返還方法の多様化が図られていること,である.これらの取り組みにより債務不履行率は大幅に減少しており,一定の成果が得られている.ただし,(3)については「返したくても返せない者」をより一層困難な状況に追い込んでおり,セーフティネットの面からみて問題視されている.以上を踏まえ,最後に日本への示唆として3点を述べた.

  • 大学院修士課程との比較から
    石原 朗子
    2012 年 15 巻 p. 181-200
    発行日: 2012/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本研究は情報系大学院の教育に焦点を当て,専門職大学院の機能の独自性を,修士課程との比較から明らかにしていくことを目的とする.

     比較の結果,2つのことが明らかになった.第一に,専門職大学院は目的が特化されているため,両者は大学院のミッションやカリキュラムに相違がみられる.また教員の意識も異なる部分が多い.第二に,一方で,一部の修士課程では専門職大学院とかなり似た教育実践が行われている.

     現在,専門職大学院側も大学院修士課程側も産学連携推進などの点で,政策的に類似した取り組みが推奨される傾向がある.そのことは,専門職大学院の独自性を阻害する可能性もある.いまある制度を活用するために,専門職大学院のあり方に沿った政策が必要だろうと考えられる.

  • 資本市場と連邦寄付税制の役割に着目して
    福井 文威
    2012 年 15 巻 p. 201-220
    発行日: 2012/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,1980年代以降の米国の高等教育財政における個人寄付の拡大要因に迫る上で,資本市場と連邦寄付税制の役割に着目し,実証分析を行ったものである.従来の研究では,米国の高等教育財政における個人寄付の拡大要因として,株価の変動要因が強調されてきた.本稿では,株価と個人寄付が連動する背景には,「評価性資産に対する連邦寄付税制」の構造が寄与しているという仮説を提示し,実証分析を行った.分析の結果,当該制度が制限された時期においては,株価の個人寄付に対する影響力が低下していることが推定された.この結果より,1980年代以降の米国の高等教育財政における個人寄付の拡大においては,株価の変動要因に加えて,「評価性資産に対する連邦寄付税制」が寄与していたことが見出された.

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