高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
16 巻
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特集 高等教育研究の制度化と課題
  • 山内 乾史, 南部 広孝
    2013 年 16 巻 p. 9-25
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,比較教育研究の観点から見た高等教育研究の状況について検討することを目的としている.もともと高等教育は国境を越える性格を有していることから,わが国の高等教育研究において比較という研究手法は当初から意識されてきた.日本高等教育学会と日本比較教育学会の学会誌掲載論文の比較では,対象地域の広がりの点で違いはあるものの,どちらも「合わせ鏡」的研究が多く,近年「トランスナショナル研究」の増加が見られるという共通の傾向が確認された.また,年次大会における研究発表題目の分析からは,両学会ともに大学教育の内実に関わる研究が限定的であることが浮かび上がった.互換可能性を高める改革の要請やトランスナショナル高等教育の新たな展開などが強まっている現在,比較という手法はますます重要性を増すと考えられる.

  • 加野 芳正
    2013 年 16 巻 p. 27-45
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     教育社会学は日本の高等教育研究をリードしてきた.教育社会学は,教育機会,進学,学歴,階層,社会移動,社会的不平等といった社会学の重要なトピックと関連させ,高等教育の研究を進めて自己の地位を確立した.バブル経済崩壊後の日本経済は低迷を続け,その打開策の一つを,大学の研究開発や人材養成に求めるようになった.また,市場化やIT技術の進展も大学を動かす力となり,1990年以降は,大学改革の20年となった.このことが高等教育研究の必要性を高め,大学の研究や運営・実践のためのセンターが数多く設置された.その結果として,高等教育の社会学的研究は研究者の厚みを増し,新しい段階に突入した.半面で,研究が政策科学や技術知へと偏りを見せており,その点で問題も内包している.

  • 大桃 敏行
    2013 年 16 巻 p. 47-63
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     教育行政学は領域的な学問であり,日本教育行政学会の機関誌に掲載された高等教育関係の論文でも多様な研究方法が用いられてきた.また,領域についても機関誌掲載論文の対象はかなり広範囲に及んでいる.この方法の多様性と対象の広がりの一方で,教育行政学は高等教育を主対象としてこなかった.そのため,高等教育行政研究の各領域で一層の研究の蓄積が必要となるが,本稿では3つの課題を示した.第一に高等教育の政策過程の研究であり,多様なアクターの活動分析とともに行政機関内のよりミクロな分析が必要なこと,第二に高等教育のガバナンス改革の研究であり,諸外国の改革動向をふまえた分析が必要なこと,第三に高等教育制度や行政に関する規範的研究であり,規範に関わる理論構築が必要なことである.

  • 大塚 雄作
    2013 年 16 巻 p. 65-78
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本論では,日本高等教育学会と大学教育学会を比較することを通して,両学会の研究連携のあり方について展望した.高等教育を研究対象とするマクロなアプローチを中心とする日本高等教育学会に対して,大学教育学会は,授業担当者が自らの授業の改善のために,自らの授業を研究対象とするミクロなアプローチを中心としてきた.しかし,この10~15年の間に,両学会に同時に属する会員の割合も多くなり,両者の境界は必ずしも明確ではなくなってきた.教育実践は,それぞれのローカリティにおける「個別性」が問われるが,その「個別性」の表現に,教育の文脈や背景,学生の多様性の記述などとともに,社会・文化・歴史・制度といった「普遍性」ある分類が的確に含まれる必要がある.そのような形で,実践と理論の橋渡しを試みていくことが,今後,日本高等教育学会と大学教育学会の両学会に求められていくであろう.

  • 15年の活動を振り返って
    吉田 信正
    2013 年 16 巻 p. 79-94
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学行政管理学会創設15年で会員数は350名から1351名に増加,会員構成も設立時の管理職から全ての職員,教員,大学院生,大学関係団体職員にも広がってきた.中心となる研究活動は,地域・テーマ別研究会,研究集会,学会誌などを舞台に年々活発に行われている.研究活動では,職員自身の役割・あり方,マネジメント,業務課題解決が中心的なテーマとなっている.本稿では,大学行政管理学会の研究活動は「高等教育研究」であるのか,そうであるとしたら,どのような意味においてであるかを検討している.また,15年を経た大学行政管理学会にはどのような課題があり,どこへ向かうのか,目的であるプロフェッショナルなアドミニストレータ養成と「高等教育研究」がどのように位置づけられるかの観点から考察した.

  • 120年の展開
    グッドチャイルド レスター
    2013 年 16 巻 p. 95-122
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     米国において,学術分野としての高等教育,そして高等教育の専門学会としての米国高等教育学会(ASHE)はいかにして始まったのだろうか.学術分野としての高等教育が創始されたのは1893年に遡る.クラーク大学のG. Stanley Hall学長が最初の科目を教え,大学院学位プログラムを作ったのである.20世紀の米国高等教育の拡大により,今では4500もの大学が存在している.大学院学位を持った大学管理者や学生関係部門の専門職に対するニーズが,高等教育分野の成長を促し,約180もの高等教育学位プログラムを作り出した.2013年秋,この分野は120周年を迎えようとしている.

  • タイヒラー ウルリッヒ
    2013 年 16 巻 p. 123-143
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     世界の大部分の国において,高等教育研究は比較的小さな領域である.多くの学者にとって高等教育研究を実施するのはまれなことであり,かつ彼らは自分自身を高等教育の専門家だとは思っていないため,高等教育研究のサイズと境界を明確に示すことは難しい.さらに,政策や実践と結びついているアナリストと学術研究者との間の境界線はあいまいであり,同様に,時折システム分析に関与するコンサルタントや実践家との境界線もあいまいである.分析の大部分は個々の国に焦点をあてておこなわれているが,たとえそうであるとしても,欧州の高等教育研究者の多くは比較分析に関心を持ち,インテンシブに共同研究をおこなっている.これは後に,1979年設立の欧州組織研究協会(the European Association for Institutional Research: EAIR)および1988年設立の高等教育研究者コンソーシアム(the Consortium of Higher Education Researchers: CHER)の基盤となり,さらにCHERには,欧州以外の大陸からも多くの学者たちが集っている.

  • 潘 懋元
    2013 年 16 巻 p. 145-163
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     中国高等教育研究の特徴は,高等教育に関する問題についての早期の研究を基礎として,学問分野としての確立に重点を置き,高等教育学の理論研究と,応用的な問題解決型研究の二つの道筋が並行して発展し,それらが互いに交わりあう軌跡を描いてきたことにある.本論文ではまず,主軸となる分野としての高等教育学及びその下位分野群の形成・発展と,主要な研究成果について論述する.次に,教育改革における応用的問題解決型研究について,20世紀末の改革開放初期と21世紀初めの大衆化段階開始時期に分けてそれぞれ主要な研究領域と課題を述べる.そして最後に,中国の高等教育関連学術団体(学会)の概況とその役割を,中国高等教育学会,その下位組織,それ以外の系統の学術組織に分けて論じる.

  • 会員調査分析結果報告
    濱中 義隆, 足立 寛
    2013 年 16 巻 p. 165-181
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     1997年7月に設立された日本高等教育学会は,設立から15年が経過し,会員数も700名を超えるまでに発展してきた.設立当初に比べ,会員の所属や身分も多岐にわたり,研究関心も多様化し,学会に期待される役割もまた変化しつつあるのではないかとの認識が高まりつつあった.こうした現状認識を背景として,創設15周年記念事業の一環として,2011年3月に全ての会員を対象としたアンケート調査を実施し,会員の学会における活動状況ならびに本学会に対する意見や要望等を把握することとなった.本稿は会員調査の分析結果を報告するものである.調査の結果,近年,入会者に教員・研究者以外の者の比率が高まっていること,これにともない学会の役割として研究発表の機会としてだけでなく,実務上有益な情報収集の場としての機能が求められており,会員の研究関心を集める領域もまた変化しつつあること等が明らかになった.

  • 関連3学会の比較を通して
    橋本 鉱市, 丸山 和昭
    2013 年 16 巻 p. 183-201
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,高等教育学会の15年間の学会活動を振り返り,その知識形成と組織編成の変容と現状を考察し,今後の課題と展望について分析を行うことにある.具体的には,同時期に設立された大学教育学会と大学行政管理学会との比較を軸に,学会活動のメインである年次大会における研究発表(1998年から2011年まで)を分析対象とした上で,知識形成面では研究テーマと方法論の変容に,組織編成面では共同発表ネットワークに焦点を絞り考察を加える.さらに,本学会における知識形成と組織編成の連関について,共同発表ネットワーク上における研究者の階層構造を明らかにした上で,本学会ひいては高等教育研究の今後の展望と課題に敷衍する.

  • 金子 元久
    2013 年 16 巻 p. 203-218
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     日本の高等教育研究はここ40年ほどの間に制度化を進めた.しかしそれは同時に新しい制約をも生み出す.そこからどのようにしてイノベーション(革新)を生み出していくのか.そうした観点から,研究における革新の意味を整理し(第1節),これまでの高等教育研究の経緯(第2節)とそれがもたらした問題(第3節)を論じたうえで,将来への革新の課題(第4節)を論じた.

論稿
  • 小方 直幸
    2013 年 16 巻 p. 221-242
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,国立大学の教育系大学・学部に着目し,その中長期的な改革動向を,ケース・スタディを通して考察したものである.教員採用動向に着目して,教員養成改革の特異なケースを客観的に抽出した後,定量・定性的双方の手法を用いて,カリキュラムや教育実践という狭義の教育改革を越えて,入試や就職支援を包摂する広義の教育改革を対象に,教員採用向上をめぐる改革と成果の因果関係,並びに改革を可能にしたメカニズムの析出を行った.さらに,モノグラフから一般的な枠組の抽出を試み,他の教育系大学・学部の改革を検証する際にも援用が可能な分析枠組を仮説的に提示した.

  • イギリスの事例を鏡として
    田中 正弘
    2013 年 16 巻 p. 243-261
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     我が国の成績評価は大学教員の裁量に委ねられているため,評価基準が不統一かつ曖昧であることが多い.しかし,成績評価の信用が低いままでは,個々の学生の「学修到達度」(学士力)を可視化したとしても,社会の信頼を得られない.そこで本稿は,成績評価の内部質保証を自律的に遂行してきた好例として,イギリスの制度を紹介した.ただし,この制度は全ての科目の試験内容・評価結果を複数の教員が直に確認するという教員に多大な負担が掛かる内容のため,単純な輸入は危険を伴う.このため,その制度を運用し続けられる理由を解明する目的で,カリキュラムの分析により試験の総数が日本と比べて少ないことを説明した.そして,この事例を鏡に,成績評価の内部質保証制度構築に必要な環境整備の在り方を議論した.

  • 総合的能力の獲得に及ぼす個別能力・経験・雇用形態の影響に着目して
    立石 慎治, 丸山 和昭, 猪股 歳之
    2013 年 16 巻 p. 263-282
    発行日: 2013/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,日本の大学教員のキャリア形成と能力開発上の課題について,東北地域23機関の専任教員を対象とした質問紙調査の分析から明らかにすることである.具体的には,教員キャリアと能力観,及び諸経験との関連を概観した上で,総合的能力の自己評価を規定する要因を解明すべく,ロジスティック回帰分析を行った.その結果,総合的能力の自己評価における第一の基盤となるのは研究能力であること,また教育能力が研究能力に次ぐ影響を有していることが明らかとなった.次に,教科書の執筆,学内FDへの参加,学内研究経費の獲得が,総合的能力の自己評価に正の影響を及ぼす経験として抽出された.最後に,これらの諸要因の影響を統制した上でも,総合的能力の自己評価には,専任教員経験年数がプラスに,また任期付き雇用がマイナスに作用することが明らかとなった.

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