高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
17 巻
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特集 大学教育のマネジメントと革新
  • 「経営」は「質保証」をもたらすか
    大森 不二雄
    2014 年 17 巻 p. 9-30
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,大学教育改革の鍵概念となっている「教学マネジメント」及び「内部質保証」に関し,大学経営と質保証の両面で先行した英国の政策と実態に関する分析・考察から,日本にとっての含意を得ることを目的としている.

     大学教育に関する日本の政策言説は,全学的な教学マネジメントや大学ガバナンスの内部質保証にとっての有効性に,素朴なまでに信を置いている.しかし,英国の大学における教学マネジメントを含む内部質保証システムの整備の考察からは,経営機能の強化は,質保証の実質化の必要条件であっても,十分条件ではない可能性が示唆される.また,質保証の取組がコンプライアンスにとどまり,教授・学習過程にインパクトをもたらすに至っていない,との批判的分析は,質保証の一筋縄ではいかない複雑性と困難を表す.

  • 単位制度の運用を手がかりに
    森 利枝
    2014 年 17 巻 p. 31-44
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     単位制度の運用は,近年わが国の高等教育行政および高等教育機関の教学マネジメントにおいても喫緊の問題となっている.同様の問題は,米国の高等教育においても指摘されている.本稿は,単位制度に関する米国における連邦レベルでの新たな規則に着目することによって,米国の単位制度の成立を整理するとともに,高等教育機関の学外統制メカニズムの動態を検討しようとするものである.その検討の過程で,適格認定のシステムが連邦による統制のプロセスに包摂された実態を連邦政府とアクレディテーション団体双方の文書から明らかにし,適格認定を介在させた単位制度に関する連邦の政策が持つ,米国高等教育史における意義を考察する.

  • 羽田 貴史
    2014 年 17 巻 p. 45-63
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     近年,学長リーダーシップの構築による教育マネジメントが提言されている.大学運営の改革論は,戦後,半世紀におよぶイシューであるが,学長リーダーシップ論は,マネジメント手法の問題を,権限体系の問題に還元する特徴がある.その理由には,大学管理運営の法制化が実現しなかったことから,管理体制の欠落が政策的に追求されてきたことがある.また,学長リーダーシップ論は,バーナード=サイモン革命を経た組織マネジメント論の発展を反映しておらず,大学運営の特徴であるシェアド・ガバナンスの点からも問題がある.他方,教育の専門性の観点から,教育マネジメントを担うべき大学教員集団においても,管理運営への参加が,国内法制では明確でない等の構造的問題がある.

  • 同一大学における横の偏差と縦の隔たり
    串本 剛
    2014 年 17 巻 p. 65-77
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     学内コンセンサスは,教育改革に必要な教学マネジメントの一要素とされながらも,それに関する議論が客観的な根拠に基づいてなされることは稀である.そこで本研究では,学長と学部長を対象とした全国調査の結果を使いながら,コンセンサスの程度とその影響力を実証的に明らかにすることを目指した.結果として,(1)コンセンサスの程度は,大学の属性によって異なること,(2)学長の現状満足度には,コンセンサスの程度はほとんど影響がなく,学長よりも学部長が教学マネジメントを重視している場合の方が,満足度を高めること,(3)実際の改革事項の導入状況は,大学の属性やコンセンサスの程度とはほぼ無関係であること,等が示された.

  • アメリカの経験に基づいて
    鳥居 朋子
    2014 年 17 巻 p. 79-94
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は日本の大学におけるプログラム・レビューへの示唆を得ることを目的に,マサチューセッツ大学アマースト校とカリフォルニア州立大学ロングビーチ校に注目し,プログラム・レビューの枠組みや体制,大学のミッションや戦略的計画とプログラム・レビューの関係,レビューにおけるIRの役割機能等を検討した.その結果,①多様な学生集団を抱える大学が学生の成功を期した教育改善を実現するには,学位プログラムと教育支援プログラムを対象にした包括的なプログラム・レビューが必要となること,②大学のミッションや戦略的計画と整合したレビューの重点設定や,重点に沿った問いに導かれたセルフスタディが有効であること,③問いを解く過程でのデータ提供や新規調査開発においてIRの機能が発揮されることが明らかとなった.

  • 中井 俊樹
    2014 年 17 巻 p. 95-112
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     全学的な教学マネジメントが政策的に推進される中で職員の役割の重要性が指摘されている.しかし,職員の担う具体的な役割については明確にされているとは言えない.本稿では,教務の熟達者と考えられる職員の実践の手法を収集する過程で得られた知見をもとに次の3点が明らかにされた.第一に,熟達者の教務に対する捉え方は一定の共通点をもつが個別に違いも見られた.第二に,教務の熟達者は実践の場面でさまざまな観点から状況判断をしていることが明らかにされた.その状況判断の方法は7つに分類することができた.第三に,職員はマネジメントの推進を担っていくべきだという教務の熟達者も見られたがまだ少数であり,教学マネジメントと直接関連がある内容が教務においてあまり重要であると考えられていないことが明らかにされた.

  • 信念・態度・成果
    小方 直幸
    2014 年 17 巻 p. 113-130
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,大学の授業の何が課題であるのか,大学教員の授業観,生活時間,授業評価,の3点に着目して考察することにある.組織的な大学教育の実践には,教育の射程や授業の調整という授業観を問う必要があり,これらは,インフォーマルな場面での教員・学生との交流の範囲や時間として顕在化する.授業の調整は,組織的な教育改革の方向性も左右するが,教育の価値観,時には研究観の調整も要求し,実現は容易でない.また,改革の意義を説得するには,成果に対する見通しを持つことも重要となるが,授業評価との関連性は複雑かつ不明瞭である.教育のマネジメントという領域は,課題認識や解決方略をめぐる議論が先行しているが、改革を左右する当事者たる大学教員の生態に関するエビデンスは,開発途上にある.

論稿
  • 改革開放政策下の中華全国婦女聯合会の活動を中心に
    加藤 靖子
    2014 年 17 巻 p. 133-152
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本研究では,全国婦聯と彼らが単独で設立した成人大学である全国婦聯管理幹部学院(現中華女子学院(普通本科))に焦点をあて,その設立過程を考察することによって,社会主義を掲げる中国でなぜ女子に限定された高等教育機関が必要とされたのかを明らかにすることを目的とし,国家イデオロギーと高等教育機関設立の関係性の一端を分析する.改革開放政策が始まると,中国共産党は幹部選抜に学歴要件を課すとともに幹部教育の正規化方針を打ち出した.この方針により男性に比べ学歴レベルの低い女性は幹部選抜に不利となった.しかし,全国婦聯は幹部教育正規化を足がかりとして,幹部の再訓練,自らの活動分野の専門知識を持つ女性幹部の育成,さらには女性の就業機会拡大のために女子高等教育機関設立を目指したのである.

  • 法人化期に焦点をあてて
    金子 研太
    2014 年 17 巻 p. 153-170
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿では,大学法人化期の附置研究所に対する政策の展開を明らかにするとともに,それが附置研究所にもたらした影響を分析する。 附置研究所は,法人化の際に省令での規定が模索されたものの,立法過程で見送られ,大学の内部組織としての性格を強めることになった。また,附置研究所の規模及び論文生産数については,拡大している研究所とそうでない研究所の存在が示唆される結果となった。競争的資金獲得額の割合は相対的に高く,附置研究所は評価―報償のシステムにさらされる存在となっている。今後の資源減少の中で,附置研究所のあり方の再検討が求められるといえるだろう。

追悼論文
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