高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
20 巻
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特集 高等教育研究のニューフロンティア
  • 羽田 貴史
    2017 年 20 巻 p. 11-29
    発行日: 2017/07/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     捏造,偽造,盗用などの不正を行わず,真実を追求する研究を行うことは,20世紀初めまでに確立した研究倫理の中核であり,現代の研究者は,この倫理を尊重し,守らなければならない.1980年代から,世界的に研究倫理は,研究者だけではなく,政治や行政の取り組むべき課題となり,各国でシステムが構築されている.

     ところで,現在の研究倫理は,研究者が遵守すべきとされた価値自由を中核にした「認識規範としての倫理」とされている.

     しかし,科学が技術への利用を通じて社会に大きな影響を与えるようになると,原子力研究やヒトを対象とした研究のように「価値・実践的な倫理」も求められるようになっている.この2つの倫理は,相互に対立する側面があり,現代の研究倫理は,社会に対する責任を果たすために研究者や研究コミュニティによって新たな倫理を構築する必要がある.

  • アジア共通単位互換制度の発展と学生の流動性への影響
    堀田 泰司
    2017 年 20 巻 p. 31-49
    発行日: 2017/07/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     近年,高等教育のグローバル化の一つの現象として,国家や高等教育機関が地域レベルで共有する一つの大きな「透過性のある枠組」(Permeable Framework1))を発展させようとしている.そして,異なる教育環境の相互理解と公平な評価に基づく,学生が自由に行き来できる一つの高等教育圏を構築しようとしている.欧州地域で展開された「ボローニャ・プロセス2)」は,その代表例であり,アジア地域でも同様のリージョナリゼーションの発展を目指し,すでに20年以上前から,いくつかの変革が起きている.本稿では,「(仮称)アジア学術単位(以下,AACs3))」を中心とするアジア共通の単位互換制度がどう発展し,世界の学生の流動性にどう影響を及ぼすか,今後の可能性と課題について論じる.

  • 大学進学行動の地域的差異から見た地域配置政策の含意
    朴澤 泰男
    2017 年 20 巻 p. 51-70
    発行日: 2017/07/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     18歳人口減少期の日本において,一部の地域(東京圏)だけは18歳人口が減らない状況のもと,新たな大学「地域配置政策」が実施されるとすれば,高等教育の機会にはどのような影響が生じうるのか.大学進学行動の地域的差異に関する検討を手がかりに考察した.

     『学校基本調査』を基に18歳人口や大学入学者の出身地域,大学進学者の進学先地域について,地域別の時系列データの推移を検討した結果,以下の示唆が得られた.もし,東京で大学新増設の抑制が行われるならば,東京圏への学生集中の緩和は,東京圏出身の女子や,北関東のような近隣の地方県の出身者の入学が減少することを通して実現する可能性がある.

  • 小杉 礼子
    2017 年 20 巻 p. 71-92
    発行日: 2017/07/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿では,若年大卒者の仕事の変容について,3つの視点(①学卒未就職,失業,非正規雇用の状況,②就業先の企業規模,職種,賃金,③早期離職)から統計分析を行った.そこから,高卒者との比較においては,失業率も非正規雇用率も低く,また就業先は大規模企業が多いなど学歴間格差は拡大していること,一方,ブルーカラー職に就く男性卒業者が2割を占めるようになったり賃金の分散が大きくなるなど大卒内での就業実態の多様化が起こっていることが明らかになった.また,女性大卒就業者が大幅に増えていることも指摘した.こうした変容を踏まえて,大学が検討すべきことは,培うべき知識・スキルの認識を(産業)社会と共有する仕組み,女性卒業者のキャリア開発であることを指摘した.

  • 松下 佳代
    2017 年 20 巻 p. 93-112
    発行日: 2017/07/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,学習成果とその可視化について近年の動向をレビューし,論点を整理することにある.まず,学習成果を,①目標と評価対象,②直接的と間接的,③機関横断的・機関・プログラム・科目の各レベル,という3つの観点から捉えた.次に,この学習成果の多面性と関連づけながら,可視化の方法とツールを直接評価と間接評価,量的評価と質的評価の二軸で分類し,それぞれの特徴を明らかにした.さらに,こうした学習成果の可視化がもたらす第二次の可視化の例として,付加価値分析による大学の教育力の可視化と,メタ分析による効果的な教育方法の可視化を挙げた.最後に,学習成果の可視化の孕む問題として,数値化可能な学習成果への切り詰め,評価から目標への浸食,多様性の喪失,評価負担の大きさの4点を提示した.

  • 安部(小貫) 有紀子, 橋場 論, 望月 由起
    2017 年 20 巻 p. 113-133
    発行日: 2017/07/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     日本の大学における学生支援は,学生の多様なニーズへの対応が迫られる一方,学習者中心主義の大学教育における質保証という新たな課題にも直面しつつある.本稿は,学生支援の取組で先行している米国大学の学生支援における学習成果を基盤としたアセスメントに着目し,学寮プログラムを事例にその特徴と課題を明らかにすることで,示唆を得ようとするものである.

     一定の専門性を備えたアセスメントのスタッフによる相互のやり取り等のコミュニケーションを重視していた他,近年ではより中期的な見通しに基づく戦略計画が策定されている等の特徴が明らかとなった.学生支援におけるアセスメントは,大学全体の戦略や目標,活動やプログラム間の相互関連性を踏まえて運用していくことが重要といえる.

  • 過去10年間の経験を振り返って
    村澤 昌崇, 立石 慎治
    2017 年 20 巻 p. 135-156
    発行日: 2017/07/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿では,高等教育関連の学会誌・機関誌に過去10年間に掲載された計量分析を用いた論文をレビューした.我々が分析の際に行ってしまう傾向がある各種の課題,すなわち必要最低限の情報の不記載や,分析の前提から外れた手法の適用,過剰な解釈等を確認しつつ,これらの課題を乗り越え望ましい分析結果を得るための,いくつかの対応策や新手法の有効性を分析事例とともに提案した.関連する議論として,筆者らの限界により詳細には取りあげなかった先進的手法への期待,論文の紙幅制限によって記載できない情報を共有する仕組みの重要性も併せて指摘した.最後に,高等教育研究における計量分析の質の向上と卓越性について,学会全体で取り組むべきことであることを述べた.

特別寄稿論文
  • 天野 郁夫
    2017 年 20 巻 p. 157-176
    発行日: 2017/07/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     この度日本高等教育学会から,学会創立20周年行事の一環として学会設立当時の状況や設立の背景や学会の現状について,初代学会会長として一文を寄稿するような依頼があった.学会設立の事情を語るには,高等教育研究の制度化の源流に遡って見ていく必要がある.

     私が高等教育研究に関心を持ったのは,1960年代の初め,東京大学大学院の教育社会学専攻に在籍していた頃からである.当時,高等教育研究は,細々とやられていたにすぎなかった.

     学会創設以前の高等教育研究に大きな役割を果たしたのは,大学史研究会,IDE文献研究会,広島大学・大学教育研究センター(現高等教育研究開発センター)などである.特に1972年のセンターの創設は,エポックメイキングな出来事であった.

     その後,マス化の進展とともに顕在化し始めた,高等教育の新しい政策課題に対応するため,文部省は国立教育研究所に高等教育研究室を置いたほか,大学入試センター(1976),放送教育開発センター(1978),学位授与機構(1991),国立学校財務センター(1992)など,次々に大学関連のサービスセンターを開設し,そこに調査研究関連の部局を置いた.さらに国立大学に大学教育関連のセンターが順次設置され,私立セクターでも,同様のセンターを設ける大学が現れ始めた.また1980年代の後半になると,玉川大学出版部が高等教育関連の本を,積極的に刊行し始めた.

     東京大学教育学部にようやくわが国最初の「高等教育論講座」の新設が認められたのは1992年,私が初代の教授に就任した.

     このように高等教育学会の創設に至る,私が体験してきた高等教育研究の流れと時代状況の変化をたどってみると,1990年代半ばという時代が,その機が熟したというべきか,様々な条件と環境が,学会の設置に向けて整い始めた時代であったことがわかる.

     1997年9月には東京大学で発会式を迎えることになった.私たちからみれば新世代の高等教育研究者たちの熱意と努力の賜物である.教育社会学の関係者が多いとはいえ,多様な専門分野から理事が選出され,他の教育関連諸学との関係が深まった.高等教育研究者の集まる「アゴラ(広場)」の出現である.

     その後,2010年から11年にかけての『リーディングス 日本の高等教育』の刊行は時代の「激流」に巻き込まれ,「あわただしく」対応を迫られてきた高等教育研究に対する「批判的反省と学問的な問い直し」の試みという点で,重要な意味を持っている.

     今世紀に入ってからの新自由主義的な政策誘導の高等教育改革という高等教育研究を取り巻く状況の激変は,研究者に期待される専門性の内容が大きく変化し,その幅が著しく拡大したことを示唆している.改革は具体的な実践の問題になった.そのことが例えば学会の年次大会における研究発表の,また会員の出身専門分野のどのような変化をもたらしているのか.20周年を迎えた学会が,「批判的自省」を踏まえた「さらなる発展と飛躍」をはかるためにも,改めて検証する必要があるだろう.教育社会学以外のどのような学問的・理論的よりどころをもとに知識と理解を深めていくのか,学会は今それを問われているといってよい.

     世代交替の進んだ学会が主導的に,研究の新しいフロンティアを切り開いていくことを期待している.

論稿
  • 専門大学の専攻深化課程を中心に
    松本 麻人
    2017 年 20 巻 p. 179-198
    発行日: 2017/07/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,韓国の短期職業高等教育機関である専門大学が学士課程(専攻深化課程)の導入を拡大させていることに焦点を当て,その背景や実際の教育内容を明らかにするとともに,その戦略の妥当性について考察することを目的とする.まず,専門大学の学士課程の制度を概観した後,政府や専門大学の連合団体の資料を基に学士課程導入の背景や戦略を考察し,4年制大学に対抗する手段としての側面が強いことを明らかにする.次に,4年制大学との比較を通して,専門大学の学士課程の特徴を分析し,同課程が明確な職業教育志向であることを明らかにする.最後に,専門大学が授与する学士の位置づけの妥当性について検討し,4年制大学との競合において,専門大学が採る戦略の課題について考察する.

  • 社会科学分野の大卒就業者に対するインターネットモニター調査
    小山 治
    2017 年 20 巻 p. 199-218
    発行日: 2017/07/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,社会科学分野の大卒就業者に対するインターネットモニター調査によって,大学時代のレポートに関する学習経験は職場における経験学習を促進するのかという問いを明らかにすることである.本稿の主な知見は,次の3点にまとめることができる.第1に,レポートの学習行動のうち,学術的作法は経験学習と相対的に強い有意な正の関連があったという点である.第2に,レポートの学習行動のうち,第三者的思考も経験学習と有意な正の関連があったという点である.第3に,レポートの学習行動以外の大学時代の変数は経験学習と強い関連がなかったという点である.以上から,本稿の結論は,大学時代のレポートに関する学習経験の中でも学術的作法と第三者的思考といった学習行動は職場における経験学習を一定程度促進するということになる.

  • 大学基準協会「会員資格審査」をめぐる関西四大学の活動過程
    藤原 将人
    2017 年 20 巻 p. 219-238
    発行日: 2017/07/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿では,戦後日本の適格認定の成立と実施の過程と背景を,当時の私立大学の活動―とくに「関西四大学」に焦点をあてて明らかにしながら,適格認定が個々の私立大学の活動や教育研究にどのような影響や変化をもたらしたのか,その具体的な様相を確認することにより,同制度が大学にもった意味を解明する.まず,適格認定の成立と実施の経緯をたどり,いかに大学がそれに関わっていたのかを整理する.次に適格認定の実施をめぐる関西四大学の活動とその背景を動態的に素描する.さらにそうした適格認定や各大学の活動を,当時の私立大学がもった背景とその後の政策動向のなかに位置づけて,最後に私立大学にとって適格認定はいかなる意味をもったのかを考察する.

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