高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
21 巻
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集 学生多様化の現在
  • 日本における問題の論じられ方
    吉田 文
    2018 年 21 巻 p. 11-37
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2019/05/25
    ジャーナル フリー

     学生の多様化という問題が,どのように認識されどのように論じられたか,1960年代と2000年代の日本を対象に,各種の審議会の答申をもとに,イギリスとの対比で検討した.日本では,学生のメリトクラティックな選抜という観点が強く,高等教育の拡大は,能力のない学生の増加とみなされ,学生層の多様化に関しては否定的な見解が主流である.他方で,イギリスでは,1960年代以来,高等教育の拡大は,不利な背景をもつ学生層への教育の機会の提供として捉えられ,それの実現に向けての施策がとられてきた.こうした差異が生じる理由は,議論の前提としての社会的公正という理念の受容,教育拡大を社会的効用と関連して考える観点,教育拡大の結果を示す高等教育研究の蓄積によるといってよいだろう.

  • 1990年代以降の改革言説における展開と機能
    井上 義和
    2018 年 21 巻 p. 39-57
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2019/05/25
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は「学生の多様化」という多義的な言葉が,大学教育改革の文脈でどのような役割を果たしたのかを明らかにすることである.そのために,現代の学生多様化論を,従来の大学生ダメ論から方法的に区別したうえで,白書と答申という政策文書の改革言説のなかで,「学生の多様化」がどう語られてきたかを辿った.その結果次のことがわかった.(1)「学生の多様化」への言及は1991年にはじまるが1990年代前半はまだ定着しなかった.(2)1995年から2000年にかけてさまざまな組織的対応を求める根拠として繰り返し使われ,改革言説のキーワードとして定着した.(3)2001年以降は改革の成果が出はじめて白書の記述は淡白になっていくが,改革志向の研究者集団を背景に答申の記述は執拗になっていく.

  • 共通試験の変遷の視点から
    大塚 雄作
    2018 年 21 巻 p. 59-91
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2019/05/25
    ジャーナル フリー

     我が国では,この5年間,高校教育,大学入試,大学教育の一体的高大接続改革が進められてきている.だが,大学入試の具体像はまだ明確には見えてきていない感がある.学生の多様化をどう捉え,それにどう対処すべきかという点において,いくつかの立場が錯綜しているように思われる.大学入試は,それぞれの時代背景が大きく関わって変化してきているが,学生数(志願者数),進学率,大学数なども,学生の多様性を反映する指標として,その変遷にある程度の関連が見出される.例えば,大学の定員に対して志願者数が増えれば,大学入試は厳しい選抜となり,それに応じて大学数が増え,大学数が多くなれば,学生の多様性に応じた適正配置が選抜の課題となる.現在は,少子化と進学率の上昇傾向が進んでおり,大学はユニバーサル段階に入っている.しかし,現行の入試改革の方針では,共通試験においても,グローバル化の側面が強調されるなど,「大学全入」時代における学生全体が視野に収められているのか疑問も残る.少なくとも,現行のユニバーサル化の流れのなかで,共通試験の役割として求められるべきものを明確に共有することが,高大接続改革を的確に進捗させていくためにまず必要とされることであろう.

  • 学生相談の視点から
    森田 美弥子
    2018 年 21 巻 p. 93-106
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2019/05/25
    ジャーナル フリー

     本稿は,学生相談の視点から大学生が抱える問題の多様化を論じる.学生相談というと,悩みを抱えたり不適応に陥ったりした学生のためのものとみなされやすいが,決してそうではない.広義の教育の一環として位置付けられている.昨今では,学生相談担当者や担当部署のみならず,キャンパス構成員全体で取り組む課題として学生支援が重視されるようになっている.

     最初に学生相談の歴史を概観した後,学生相談という文脈で注目されてきたトピックス:(1)スチューデント・アパシー・(2)ふれあい恐怖心性・(3)発達障害傾向を紹介する.大学生における青年期心性の変化が生じているのかいないのか,学生支援の動向とそこで留意すべきことは何か,について検討する.心性という言葉を用いたのは,思考や感情といった心理的機能や行動特性などを含みつつも,青年自身の志向性,メンタリティ,その時々の心の動きに目を向けていたいという姿勢からである.

  • 「ボーダーフリー大学」に着目して
    葛城 浩一
    2018 年 21 巻 p. 107-125
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2019/05/25
    ジャーナル フリー

     学生の多様化は,入試の難易度が低い大学ほど,より顕著に生じていると考えられる.「ボーダーフリー大学」とも呼ばれる,受験すれば必ず合格するような大学,すなわち,事実上の全入状態にある大学では,学生の多様化がもっとも顕著に生じているといってもよいだろう.

     そこで本稿では,ボーダーフリー大学に所属する学生の多様化の実態とはどのようなものなのか,また,そうした実態を前にしてボーダーフリー大学やそこに所属する教員がどのように対応しているのか,あるいはどのように対応すべきなのか,といった点について論じた.

  • 居神 浩
    2018 年 21 巻 p. 127-145
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2019/05/25
    ジャーナル フリー

     高等教育の根源的な変化を語るための視点として「マージナル大学」の概念を提起して以来7年になる.その間,思いがけず様々な方々から様々なご意見ご感想を頂いてきたが,痛感するのはそれぞれの「認識の準拠枠組み」の小さくないズレである.このズレが生産的な議論を展開するための大きな障壁となっている.本論ではその点を特に意識しながら,まずますます多様化する「ノンエリート大学生たち」に伝えるべき教育内容についての持論を再提示する.そのうえで,これを教授団として議論・実践する際の困難・展望について検討する.さらに高等教育政策の現状および今後の展開に鑑みて,学生の多様化を正面から見ようとしない大学論への絶望とささやかな希望を語りたい.

  • 福祉国家の視点から考える
    田中 秀明
    2018 年 21 巻 p. 147-170
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2019/05/25
    ジャーナル フリー

     2017年,政府は「人づくり革命」を政策アジェンダとして掲げ,保育・教育の無償化に2兆円を投じることを決めた.人的投資の充実は,現代の福祉国家における喫緊の課題となっているが,日本における教育無償化を巡る議論では,教育の問題点や解決策などについてデータに基づく分析が乏しい.本稿では,年金や医療等の社会保障の問題を分析するとともに,教育財政と公的支援のあり方を議論する.教育は福祉国家のあり方に関係するからである.保険制度に過度に依存した日本の社会保障を改革し,人的投資に資源を振り向けることができるかが,少子高齢化を乗り切るための鍵である.ただし,教育への公的資金の投入には逆進性などの問題があるため,慎重な制度設計と高等教育全般にわたる改革と戦略が必要である.

  • 米国の経験と日本への示唆
    川嶋 太津夫
    2018 年 21 巻 p. 171-192
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2019/05/25
    ジャーナル フリー

     最近,男女平等という視点や大学ランキングにおける国際化の評価が低いこと,そして,組織の活力やイノベーション強化の議論を背景にして,日本の高等教育の多様化を一層推進すべきであるという論調が高まっている.高等教育の多様化を論ずる際には,システムレベルでの多様化と機関レベルの多様化の視点があるが,日本では,従来,「機能別分化」の議論に代表されるように,システムレベルでの多様化の議論が多く,機関レベルでの多様化の議論はあまり進んでいない.

     そこで,本稿では,高等教育の多様化の「先進国」である米国の経験を整理しながら,主として機関レベルに焦点を当てて,多様化した学生にどのように対応すべきか,日本の高等教育への示唆を導き出すことを目指したい.

論稿
  • カリフォルニア大学を例に
    中世古 貴彦
    2018 年 21 巻 p. 195-212
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2019/05/25
    ジャーナル フリー

     本稿は,近年深刻な財政難に苦しむカリフォルニア州の高等教育における公立研究大学と州議会との対立に注目し,機能別分化政策的な解釈,大学理事会と政府との葛藤を直視しない立場,政策転換自体が必要とする観点からは見出し難い,同州のモデルが含意する大学の自律性の現代的な意義を検討する.財政難の中で州民への背信ともとれる行動をとったカリフォルニア大学に対し,州議会は統制強化を試みた.だが,公的使命の遵守を求めた公権力の介入は,大学が公的使命を果たすことを一層困難にしようとしていた.こうした対立を乗り越え,旗艦州立大学が卓越性追求を維持しつつ社会的使命を果たし続けるためには,政治的独立性に裏打ちされた真正な自律性が極めて重要であったことが明らかとなった.

feedback
Top