高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
22 巻
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特集 高等教育と金融市場
  • 金子 元久
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 22 巻 p. 9-27
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/03
    ジャーナル フリー

     日本経済は20 世紀後半の成長の時代から,21 世紀前半の低成長の時代に移行した.それにも関らず高等教育就学率は上昇を続け,2010 年台には50 パーセントの大台に達した.その背後にはどのようなメカニズムがあったのか,またそれは高等教育を論ずるうえで何を意味するのか.本稿では,国民経済の中での高等教育の位置をマクロ経済的な視点から整理し(第1節),20 世紀から21 世紀にかけての日本の高等教育の変化がどのようにして生じてきたのかを考え(第2 節),またほぼ同時期のアメリカにおける経緯を分析する(第3 節)ことを通じて,現代日本における高等教育への新しい視座を論ずる.

  • ―その理論的背景と課題―
    阪本 崇
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 22 巻 p. 29-48
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/03
    ジャーナル フリー

     高等教育への投資が社会的に望ましい水準より低くなる理由のひとつとして,不完全情報に起因する資本市場の不完全性をあげることができる.1950年代から60年代にかけて,ミルトン・フリードマンやアラン・プレストによって提唱された所得連動返還型貸与奨学金は,この不完全な資本市場を補完することができることに加え,教育財源調達のための公平なシステムとしても注目され,オーストラリアやイギリスで導入された.所得連動返還型貸与奨学金には,債務不履行に対する堅牢性や,保険に類した機能の提供が可能なこと,低い行政コストなどの利点があるが,その一方で,所得の定義と捕捉,家計の扱いの難しさ,利子負担の増大といった課題がある.しかし,その基本的な仕組みのもつ有効性は高く評価されており,高等教育以外の分野での応用も期待されつつある.

  • ―奨学金財源の変化とその意義―
    白川 優治
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 22 巻 p. 49-70
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/03
    ジャーナル フリー

     本稿は,高等教育と金融市場の関係を,日本学生支援機構の奨学金事業の財源の調達構造の変化と,そのことが持つ意味から検討するものである.財政投融資を財源に1984年に創設され第二種奨学金(有利子貸与奨学金)は,1999年に量的拡大が行われた.他方,その財源は,2001年の財政投融資の改革などを背景に,財投機関債の活用,民間資金の借り入れなど,財源の多元化が進められてきた.このことは,奨学金事業が金融市場との間接的な接点から直接的な接点を持つようになっていったことを意味する.そして現在,行政コストの削減のため,金融市場が積極的に活用されている.そこには,公財政が逼迫するなかで,ユニバーサル段階の高等教育進学を支える公的制度である奨学金事業に対して,その資金をどのように継続的安定的に確保していくかという制度課題がある.

  • ―金融危機時に果たした役割―
    福井 文威
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 22 巻 p. 71-91
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/03
    ジャーナル フリー

     米国の大学が保有する基本財産は,金融市場の変動によりその資産価値が大きく変動する.本稿では,2008年の金融危機時における大学の基本財産の下落が大学の教育活動,及び家計の教育費負担にどのような影響をもたらしたのか検討することを通じ,米国の大学における基本財産の役割について論じる.分析の結果,大学が保有している基本財産の規模によって,金融危機時の基本財産の活用方法は異なっており,それが大学の教育活動と教育費負担に異なる影響を与えていることが見出された.この結果を踏まえ,米国の大学が如何に金融市場と付き合いながら財務基盤を固めてきたのかを考察し,日本の大学への示唆を探る.

  • ―Fiduciary Duty の概念を軸に―
    川崎 成一
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 22 巻 p. 93-112
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/03
    ジャーナル フリー

     本稿は,米国大学の資産運用の基本的な枠組みを形成してきた,フィデューシャリー・デューティーの概念を軸に米国信託法の変遷を辿りながら,そこからみえる日本の私立大学における資産運用の特質と,近年みられる新しい資産運用の取り組みについて論じる.日本の私立大学は,本来フィデューシャリーとみなされるが,その資産運用はプルーデント・マン・ルールやプルーデント・インベスター・ルールからは乖離した,ポートフォリオ概念の欠如や単年度志向と公平性の希薄さ,自家運用,使い切り型の疑似基金という特質を有する.しかし,近年では,ポートフォリオ運用や外部運用,教育理念と合致した運用がみられ始める等,フィデューシャリーとしての責務を果たしていこうとする動きがみられる.

  • 小林 信一
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 22 巻 p. 113-133
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/03
    ジャーナル フリー

     本稿は大学とファイナンスとの関係の観点から,産学連携とベンチャーキャピタルの現状と課題を探ることを目的とする.現段階では大学のファイナンスに,産学連携,ベンチャーキャピタルはほとんど意味を持っていない.しかし,現在進行中,並びに近い将来に見込まれる制度変更は状況を大きく変える可能性がある.「官民イノベーションプログラム」の下で一部の国立大学は国からの出資金を国立大学ベンチャーキャピタルや投資ファンドに出資できることになった.これは2014年から実質的に動き出したが,現時点では大学の安定した資金調達源にはなっていない.しかし、2018年の2つの法改正は,大学発ベンチャーやベンチャーキャピタルと大学の関係を大きく変え,大学のファイナンスの手段となる可能性がある.

  • 西井 泰彦
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 22 巻 p. 135-161
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/03
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,1960年から現在に亘る文部科学省と日本私立学校振興・共済事業団の財務上の統計資料を利用して,私立大学の借入金を巡る動向とを振り返り,借入金に関する問題点と意義を分析することである.

     日本の私立大学は,二度に亘る学生急増期と減少期を経過する中で,借入金を活用して施設設備を取得して,大学の規模の拡大を図ってきた.

     借入金の比重が増大したが,その後,学生数が増加するとともに,財政上の改善が進み,自己資金が増加して借入金の返済が可能となった.

     しかし,近年,私立大学の拡張が止まり,財政が再び悪化している.学生数の長期的な減少が予測されており,私立大学が安定的な経営を持続するための借入金のあり方と課題を検証する.

論稿
  • 菅原 慶子
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 22 巻 p. 165-184
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/03
    ジャーナル フリー

     本稿は,わが国の大学開放の嚆矢とされる東京大学理医学講談会以前における,東京大学による学問の発信の取組を実証的に明らかにする.大学制度創設前後の東京開成学校では,文部省による大学政策の揺らぎの中,大学を志向し自立的に大学像を模索する動きがあった.その取組として,東京大学創設直前の明治10年3月より,一般公開の学術演説会を毎月2回開催した.演説者は同校教員に加え,学生や学外者も登壇し,広く市民の聴講が募られた.この演説会は,英米の大学にあるような象徴たる施設としての講義室の建設と連動することで大学像を具現化し,私学慶應義塾との連帯の中で社会と大学とをつなぐ回路として取組まれた.東京大学理医学講談会以前における学問の発信の取組とその背景・意義が明らかとなった.

  • 眞谷 国光
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 22 巻 p. 185-205
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/03
    ジャーナル フリー

     本稿は,近年活発化しているアジア留学が,日本人学生のアジア・シティズンシップの育成に,どのように影響を与えるのかを明らかにするものである.まず,アジア留学の活発化の現状とその要因について論じ,次に,地域内留学の先駆である欧州域内のエラスムス計画による留学,およびアジア域内留学による地域アイデンティティ形成に関する先行研究を概観した.先行研究においては,地域アイデンティティの定義が必ずしも明確とはいえず,その結果も一定ではなかった.そこで本研究では,アジア・シティズンシップの概念を検討し,より包括的な定義に基づき実証的に分析を行った.その結果,アジア留学が,アジアの政治・経済・歴史・文化に関する知識や関心を高め,また,アジアの人々との交流意欲やアジアへの貢献心を高めたことが明らかになった.

  • ―傾向スコアマッチングによる検証―
    呉 書雅, 島 一則, 西村 君平
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 22 巻 p. 207-229
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/03
    ジャーナル フリー

     長らく奨学金が社会問題化している.奨学金を批判する報道が繰り広げられ,学術的な文脈でも,奨学金が若年層の貧困化などの原因と論評されている.しかし,少数の事例に関する報道や政府統計に基づく簡易的な統計分析,さらには未返済の側面のみに集中して,脆弱なエビデンスに依拠して奨学金政策そのものを退ける論調には疑義を挟まざるを得ない.そこで,本研究では,生活時間に着目し,奨学金政策が大学生活に与える影響を傾向スコアマッチングで検証する.分析の結果,国公私立大学を問わず,奨学金によって学習活動時間が増加していること,偏差値45未満の私立大学の学部でも学習活動に正の影響を与えていることが明らかになり,奨学金の返還に関わる一部の事例をもって奨学金政策全体を非難する言説に対する反証が得られた.

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