高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
9 巻
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特集 連携する大学
  • 原山 優子
    2006 年 9 巻 p. 11-20
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     戦後大きく生まれ変わった日本の大学制度は,18歳人口の減少,国立大学の法人化,競争原理・評価システムの導入,産学連携の強化等,ドラスティックな環境変化に伴い,再度大きな変革の波にさらされている.社会及び産業界からの要求に対する大学の対応性が問われ,「社会貢献」,特に「産学連携」を教育・研究に次ぐミッションとして位置づけるに至った.「産学連携」は社会化され,また時と共にその形態,実践する主体,インプリケーションの多様化が進んでいる.本稿では「産学連携」の長い歴史を持つ米国を比較対象として取り上げ,「産学連携の進化」について考察を行う.また終わりに,大学のあるべき姿を「産学連携」の視点から私見を述べることにする.

  • 社会における大学の役割
    宮田 由紀夫
    2006 年 9 巻 p. 21-40
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     アメリカの産学連携は,過去25年に活発になったのであるが,大学の研究の中心は連邦政府による基礎研究という第二次大戦後の伝統が続いている.大学の特許は萌芽的で実用化までの努力が必要である.単に大学が研究成果を特許化して企業にライセンスするだけでなく,教員と企業との密接な協力が不可欠である.しかし,このような密接な連携ほど,利益相反問題を生じさせ大学の研究・教育に弊害が生じる可能性もある.産学連携による地域産業政策も成功は約束されたものではないが,全米全体でさまざまな取り組みが行われる中で国全体には経済貢献している.しかし,各大学にとって産学連携は研究予算を維持するような充分な経済的利得をもたらすものでなく,大学の高い研究能力は連邦政府からの支援によって維持されている.

  • 産学連携コーディネートの現場から
    澤田 芳郎
    2006 年 9 巻 p. 41-59
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     京都大学の「共同研究センター」として2001年に設置された国際融合創造センターは「融合部門」「創造部門」の2部門から成る.そのうち,産学連携窓口の機能を果たしているのが融合部門である.京都大学全体の産学連携に比べると同センターが取り扱う案件はわずかで,その真の役割は産学連携の新しいパターンを実践的につきとめ,モデル化することと考えられる.

     産学連携をめぐるコンフリクトは「〈産のシステム〉としての大学」「〈学のシステム〉としての大学」という2つの大学モデルの衝突で説明できる.産学双方が大学を〈産のシステム〉と見る場合は研究管理型,双方が〈学のシステム〉と見る場合は学術研究型の産学連携が成り立つが,不一致の場合には品質管理問題や知財権者問題が生ずる.大学がどこまで「産」たることを追求するか,あるいは追求しつつも「学」たりうるかは,それ自体が産学連携の課題である.

  • 大学間連携
    大江 淳良
    2006 年 9 巻 p. 61-78
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     わが国の大学間の連携組織である大学コンソーシアムはすでに50を超えていると見られる.大学コンソーシアムの活動・事業のなかで最も活発なものは単位互換であり,地域貢献の生涯学習がそれに次ぐ.単位互換に取り組んでいる大学等が提供している科目数の平均は26である.1科目の平均受講生数は2.4人であり,学生に「非常に好評である」という段階には至ってない.わが国の大学コンソーシアムの歴史はまだ浅い.2004年に全国大学コンソーシアム協議会が発足し,各地の組織がいっそう活性化されることが期待されている.これまでの大学コンソーシアムは地域に密着した組織であったが,これからは先端の情報技術を用い,地域を超えた連携が数多く発生すると思われる.

  • グローバル時代の高等教育戦略
    田中 義郎
    2006 年 9 巻 p. 79-97
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     地球的観点に立ってものを見ることが極めて重要である.高等教育システムは如何にしてそうした観点を上手に手中におさめることができるようになるのだろうか.連携の恩恵は,研究者あるいは学生,あるいは機関が,個人あるいは単独でできる範囲を越えたところに存在する.連携は国境を越えるのに立ちはだかる問題を打破するのに期待される手段でもある.実際,彼らが最終的にどこを目的地としているかは分からないが,海外で学ぶ学生数は世界的規模で確実に増加を続けている.研究面では,国際連携は今日的趨勢であり,実際,その数,特に戦略的連携の数が増加している.日本,韓国,シンガポール,中国,など,今日,高等教育における国際連携は,国際社会で生存し続けるための重要な国策のひとつとなっている.

論稿
  • 小林 雅之
    2006 年 9 巻 p. 101-120
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本研究は,高等教育政策と関連して高等教育機会の地域間格差の実態とその要因を明らかにし,政策的インプリケーションを得ることを目的とする.戦後日本では,高等教育の地方分散化政策が成果をあげ,現在では,大きな高等教育の地域間格差がないとされている.この結果,地域間の高等教育機会の均等は主要な政策課題にならなくなっている.しかし,より詳細に検討していくと,高等教育の地域間格差に関しても大きな問題が残されている.国立大学と私立大学,大都市圏と地方では進学機会とその要因に大きな相違があり,私学中心の格差是正と抑制政策・地方分散化政策は一定の成果をあげたけれども,高等教育機会の地域間格差はなお残存し,分散化政策は依然として必要とされることが示された.

  • 大学経営に果たした役割
    渡部 芳栄
    2006 年 9 巻 p. 121-140
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     本稿は,これまでの高等教育研究の中に十分な蓄積がなかったと言える大学法人の「基本金」に関して,概念的・実態的分析を行ったものである.概念的には,学校法人会計基準に掲げられている「帰属収入による基本金組入」,「消費収支の均衡」と並んで,「減価償却による(第1号)基本金額の維持」が学校法人の永続性に非常に重要な役割を果たすことが確認できた.またこれらのことは,マクロデータ・地域別データを利用した実態分析から概ね実現されていたことも分かった.学校法人会計基準に規定された消費収支計算と基本金制度の存在は,私立大学・大学法人の経営の安定のみならず,その安定的な資産形成を通して高等教育の大衆化に―少なくとも量的大衆化に―重要な役割を果たしたと考えられる.

  • 稲葉 めぐみ, 阿部 帥
    2006 年 9 巻 p. 141-159
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     大学が自主性・自立性を承認されるためには,社会に認められる教育の提供が必要になってきた.しかし,大学で行われる教育の全てに責任を持つことは簡単なことではない.日本においては教育に対するインセンティブが低いため,教育改革に消極的な教員もおり,改革が必ずしも全学的な教育の質の向上にはつながっていない.大学が教育の質を保証するためには,教育改革の取り組みを活かすシステムが必要であろう.その試みの一つである,茨城県立医療大学のコース制の統合型カリキュラムと一元的な教育の管理・運営システムでは,効率的な授業計画の策定や教育評価の透明化,明確化の進展などが確認されたことから,大学が社会にその教育の最低基準を保証する上で有効であり,責任ある教育の提供のために利用価値があると考えられた.

  • 葛城 浩一
    2006 年 9 巻 p. 161-180
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2019/05/13
    ジャーナル フリー

     近年,我が国では,大学教育の不断の改善や社会に対する説明責任を果たすべく,教育評価が求められるようになってきた.教育評価が教育改善を志向している以上,教育成果と教育・学習経験との関連性の検証は極めて重要な課題である.その手段として在学生によるカリキュラム評価は非常に有益であるが,我が国ではほとんど行われていない.

     そこで,全国の4年制大学14校の4年生を対象に在学生によるカリキュラム評価を行い,カリキュラムに対する学生の認識構造を明らかにし,学生が獲得した教育成果との関連を検証した.また,そこから得られたカリキュラム評価の指標やカリキュラム測定方法の洗練化のための知見を踏まえて,在学生によるカリキュラム評価の可能性だけでなく,その限界についても考察した.

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