高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
最新号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集 高等教育における多様性と包摂
  • 米澤 彰純, 白川 展之
    2025 年28 巻 p. 11-30
    発行日: 2025/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル フリー

     高等教育における多様性と包摂は,個人レベルの実践(ミクロ),大学など組織としての取組(メゾ),政策・法制度(マクロ)を貫通し,多様なステークホルダーの意識転換を促す「物語narratives」を必要とする.日本の高等教育において,多様性と包摂は未だ学外ステークホルダーの要請への対応としての外在的な価値の側面が強く,また,その取組は様々な領域ごとの縦割りとなる傾向が強いのではないか.インターセクショナリティや分断のリスクを回避し,多様性と包摂への価値付けと取組とが日本の高等教育において定着し,持続性を持つためには,学生や教職員などの学内ステークホルダーの間での現場での活動実践に根ざした,領域横断的な包括性をもつ内在的価値形成へとつながる共通の「小さな物語」を蓄積し,つなげていくことで,あらたな「大きな物語」を定義していく必要がある.

  • ―留学生の包摂とダイバーシティ宣言策定の動向を踏まえた考察―
    大西 晶子
    2025 年28 巻 p. 31-56
    発行日: 2025/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル フリー

     近年日本の大学において,ダイバーシティ宣言等の策定を通じ,多様性・包摂に向けた積極的な姿勢を示す動きがみられる.こうした動きを後押しする要因の一つには,国境を越えた学生の流動性の高まりによる学生の多様化がある.一方国内のダイバーシティ関連施策の中心は女性研究者支援にあり,学生に関する議論は十分に行われていない.また国際化と多様性・包摂は,共に高等教育における重要な課題であり,相互に重なり合う領域であるが十分に連動しておらず,多様性を巡る矛盾した状態を生むことが指摘されてきた.

     本稿においては,ダイバーシティ宣言の策定状況に注目しながら日本の高等教育領域における多様性・包摂の取り組みを整理し,留学生等を含む多様な学生を包摂するキャンパスの実現に向けた課題を確認する.

  • ―児童養護施設入所経験者を事例として―
    西本 佳代
    2025 年28 巻 p. 57-78
    発行日: 2025/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル フリー

     児童養護施設入所経験者は「排除状態の典型層」とも評される.彼・彼女たちの大学進学機会の拡充が政策課題として位置づけられたことは,日本の高等教育における多様性の推進を表している.しかし,児童養護施設入所経験者の大学進学に関する「不利益」は,大学入学前,在学中,卒業後それぞれの段階においてみられる.本稿では,児童養護施設入所経験者を積極的に受け入れている私立X大学でのフィールド調査の結果から,彼・彼女たちの「不利益」を描く.そして,明らかになった知見を用いて,「子供の貧困対策に関する大綱」にみられる高等教育段階の包摂の方針,方法について,三点の課題を指摘する.

  • 福田 由紀子
    2025 年28 巻 p. 79-100
    発行日: 2025/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル フリー

     本稿は,「社会モデル」の視点を用いて,高等教育における障害のある学生への支援を分析している.その結果,法律の整備やガイドラインの周知が障害のある学生の問題における「解消方法の社会性」や「解消責任の社会帰属」という観点で一定の進捗をもたらしたことが確認できた.一方,教育機関による対応格差や「合理的配慮」の限界から,社会的障壁の「発生メカニズムの社会性」に十分な関心が向けられていないことを明らかにした.

     アメリカの先行研究からは,ユニバーサルデザイン化による教育環境の改善や,キャンパス風土の評価,学生参画による改善の取り組みが,学業継続や学生満足度を向上させる可能性が示唆された.

     日本の高等教育における課題として,対応格差の解消,社会的障壁が発生するメカニズムを分析し学習環境を見直す取り組み,学生の参画を推進する場の提供やキャンパス風土の改善が挙げられる.今後は,実態調査や事例調査を通じて具体的な対応策の提案を深化させていくことが必要である.

  • ―科学技術分野における男女共同参画の視点から―
    河野 銀子
    2025 年28 巻 p. 101-121
    発行日: 2025/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル フリー

     本稿では,日本の高等教育における多様性と包摂の現状と課題について,主として男女という2つのジェンダーを通して検討した.Mezzanotteによる教育の4モデルを用いて,女性の高等教育進学状況を分析したところ,日本の高等教育は排除型から分離型へ,そして分離型を残しつつ統合型へとシフトしてきたが,包摂型には至っていないことが明らかになった.

     女性学生の参画が十分でないにもかかわらず,政府は男女共同参画政策と科学技術政策によって女性研究者を支援する事業を優先して推進してきた.しかしながら,女性研究者の増加は緩慢で,多様性が向上したとは言い難い.今後,包摂型の大学を目指すには,大学組織や知識伝達のジェンダー主流化が求められる.

  • 吉田 翔太郎, 福留 東土
    2025 年28 巻 p. 123-145
    発行日: 2025/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル フリー

     本稿は,米国の大学におけるDiversity, Equity, and Inclusion(DEI)を巡る動向を概観し,それを大学の自治の危機という観点を検討する.2020年以降,大学がDEIを強化する一方で,共和党支配州の一部では反DEI法が制定され,DEIオフィスの廃止などが進められている.事例研究として,1990年代のカリフォルニア大学バークレー校での多文化主義カリキュラムを巡る議論,近年の反DEIの動向,2023年以降のNew College of Floridaへの政治介入を取り上げる.DEIを巡る対立は政治的分極化を反映しており,大学の財政やガバナンス構造の問題とも密接に関連し,大学の自治を問う事態へと発展していることを明らかにする.

  • ―移民的背景を持つ日本の子ども・若者に焦点を合わせて―
    倉石 一郎
    2025 年28 巻 p. 147-167
    発行日: 2025/07/10
    公開日: 2026/07/14
    ジャーナル フリー

     本論文は,日本の大学・高等教育における包摂と排除をめぐる検討を通じて,高等教育研究の現代的課題を明示した.特に本稿では,移民的背景を持つ学生・教員の存在に視点を定めた.はじめに,通常型包摂と創発的包摂という2つの概念を提示し,移民的背景を持つ存在にとっての大学・高等教育が,通常型包摂の面では時にけん引役となることもあった一方で,創発的包摂の面では初等・中等段階に遅れをとるという構図を示した.次に高等学校での移民的生徒に対する進路「保障」の局面での大学・高等教育という存在について,実践報告資料を手がかりに検討し,包摂的実践の中に排除的要素がはらまれる構造を明らかにした.その上で,教育機会拡大の鍵としてセキュリティの概念を導入し,大学・高等教育がいかに義務制を含む下位段階の教育に影響を及ぼし,セキュリティの上昇に奉仕しているかを明らかにした.

論稿
feedback
Top