高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
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特集 高等教育の専門家をどう育成するか
  • 知識形成と人材養成を巡って
    阿曽沼 明裕
    原稿種別: 特集 高等教育の専門家をどう育成するか
    2023 年 26 巻 p. 11-32
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー

     高等教育分野が対象とする知識は多様であり,とくに学問志向と実践志向の違いともいうべき志向性の違いがあり,知識形成や人材養成について検討する際には避けて通れないように思われる.そこで本稿では,高等教育分野の知の多様性,そして知識形成と人材養成におけるその意味や役割について検討した.第一にその多様性が成り立つメカニズムを検討し,知識形成モデルを設定した.第二に,高等教育に関わる知識,及びその知識形成や専門的業務が社会でどのように分布しているのかを整理し,それらの課題を考えた.さらに第三に,人材養成について,米国の大学院の研究者養成と専門職養成との関係などから,多様性が専門分野を成り立たせてきたことを踏まえ,専門職分野としての高等教育分野の人材養成の可能性について論じた.

  • 高等教育の専門家をどのように養成していくのか
    田中 正弘, 佐藤 万知, 両角 亜希子
    原稿種別: 研究論文
    専門分野: 特集 高等教育の専門家をどう育成するか
    2023 年 26 巻 p. 33-52
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー

     日本の大学院(高等教育分野)において,高等教育の専門家をどのように養成していくのか,これが本稿の問いである.この問いに答える目的で,本稿は高等教育の専門家の養成者(計12名)を対象にインタビュー調査を実施した.この成果を基に,本稿は,①高等教育の専門家を目指す学生の多くは,高等教育学や教育学全般の知識が十分ではないまま大学院に入ってくること,②その一方,受け入れ先となる大学院のカリキュラムの体系化が十分とはいえないこと,③とはいえ,高等教育の専門家は,研究(教育)力だけでなく,実践力も求められがちであることを踏まえて,学生が「研究をするように実務に携われる」ことなどを目指して,指導面に創意工夫が見られたことを論じる.

  • 二宮 祐
    原稿種別: 特集 高等教育の専門家をどう育成するか
    2023 年 26 巻 p. 53-72
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー

     本稿で考察の対象とする「新しい専門職」とは大学内部において異動することなく特定の職務に従事する職種である.2017年から2018年まで「新しい専門職」を対象として実施した質問紙調査の結果から「年齢が比較的若い」,「現在の勤務先で働き続ける意向がある」,「上司がリーダーシップを発揮している」などの場合に大学外部での研修機会を得られやすいことが明らかになった.この職種の養成については2つの課題がある.第1に,有期雇用とされることが多いためにキャリアの展望を見出すことが困難である.第2に,職務を遂行するための知識や技術は「独学」によって身に付けたとされることが多く,適切な研修の機会を得られていない可能性がある.各大学の大学教育センターが全学的に教育訓練を提供する将来像もあり得る.

  • 教科書の執筆者及び内容に着目して
    原田 健太郎
    原稿種別: 特集 高等教育の専門家をどう育成するか
    2023 年 26 巻 p. 73-92
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,高等教育に関する「教科書」の検討を通して,「高等教育の専門家」に貢献するための知識生産の在り方を明らかにするものである.具体的には,近年執筆された教科書を分析するとともに,過去に執筆された教科書や米国の教科書との比較を行った.その結果,学会員のみで教科書の執筆が可能となる段階にあるが,学会外部の人材との連携・協力も重要であることが明らかにされた.教科書の内容については,高等教育研究という学問が制度化されることで記載内容に広がりと深まりが見られる一方で,専門教育や法的環境,内部組織等の記述が弱いことが明らかにされた.今後の知識生産の方法として,学会外部との協力体制を構築するとともに,学会外部で生み出された知識を受け入れ,活用していくことが期待される.

  • 磯田 文雄
    原稿種別: 特集 高等教育の専門家をどう育成するか
    2023 年 26 巻 p. 93-112
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー

     筆者は,文部科学省で37年間,3国立大学で10年5カ月勤務後,2021年4月より1私立大学で勤務している.政策担当者,大学の執行部として高等教育研究のそばで働いてきたのであるが,そこから見てきた高等教育研究と専門家養成について考えてきたこと,大切にしてきたこと,提案できることを取りまとめた.最も重要なことは高等教育研究の中核となる基本理念を確定することである.その基本理念のもとに様々な研究分野や研究手法を統括できる,固有の学問分野を形成することのできる基本哲学である.筆者はそれを大学の自治,研究者の自主性の尊重,教育の機会均等であると考える.大学が大学でなくなろうとしている今日,人類の知的活動の優れたシステムである大学を残すためにも,高等教育研究は何か改めて確認する必要がある.

  • ノルザイニ アズマン, ノラズハラディン シャー アブダラ
    原稿種別: 特集 高等教育の専門家をどう育成するか
    2023 年 26 巻 p. 113-135
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー

     マレーシアの高等教育は大きく成長したが,そこでの人材養成は未だ十分ではない.本稿はマレーシア高等教育に関する研究者,実務家,リーダー達の現状を概観し,高等教育専門家の人材育成に関わる研修・開発プログラムについて検討する.さらに高等教育研究者や大学院プログラムの不足,高等教育機関内部でのリーダーシップ育成の欠如といった人材育成の諸課題を論じ,高等教育における研究者,学者,実務家,リーダーを育成する上で今後必要となる視点や,高等教育システムの運営に必要となる知識や応用能力について考察する.

論稿
  • 改善業務経験にかかるインタビュー調査から
    木村 弘志
    原稿種別: 特集 高等教育の専門家をどう育成するか
    2023 年 26 巻 p. 139-158
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー

     本研究では,「大学職員は,どのように改善業務を“始めている”のか」という課題に取り組むため,中堅大学職員への半構造化インタビューを実施し,改善業務の遂行プロセスにおける概念の抽出とそれらの関係の考察を行った.

     その結果,先行研究で指摘されてきた改善業務の先行要因について,それぞれは大学職員の改善課題遂行プロセス上で異なる段階を促進しており,促進要因としての「意味」が異なっていることや,「組織内部の学習」「顧客志向」などの大学職員の育成上で重要と指摘されてきた概念が,業務遂行上でも重要であることなどが明らかになった.さらに,多様なステークホルダーとの協働が必要とされるという大学職員の仕事の特徴が,それらの関係性の背景にあることを指摘した.

  • 学術と実務の経験はどのように教育指導の力に関わるのか
    稲永 由紀, 吉本 圭一
    原稿種別: 特集 高等教育の専門家をどう育成するか
    2023 年 26 巻 p. 159-177
    発行日: 2023/08/10
    公開日: 2024/10/03
    ジャーナル フリー

     本稿は,政策動向や先行研究で欠落しがちな実務家教員などを含む多様な高等教育教員の実態把握を課題とし,短期大学・専門学校の教員調査データを再分析した.教員の能力認識として,「教育指導」「研究」「職業実務」の3因子に分解できたが,因子の特徴には学校種毎の差異が見られた.教育に関する能力認識3因子構造の構造方程式モデリングによる要因分析の結果,採用前の学術的経験も職業実務の経験も,「研究」や「職業実務」を通して「教育指導」を規定するという能力認識構造が明らかになった.採用後の経験では,在職年数,積極的研究発表,専門的業績の効果が見られたが,職業経験等の効果は確認されなかった.能力開発においては,研究会やFDへの受動的な参加よりも,能動的な発表や業績とりまとめが鍵となる可能性も明らかになった.

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