日本水文科学会誌
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41 巻 , 3 号
SPECIAL ISSUE : "Nitrogen contamination in environmental water - role of hydrology as an integrated science - "
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巻頭言
総説
  • 宇仁菅 伸介, 遠藤 光義
    2011 年 41 巻 3 号 p. 49-53
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素については,地下水中で高濃度に検出されたこと等を踏まえ,平成11年2月に地下水の人の健康の保護に関する水質環境基準に追加された。それ以降地下水質の調査が全国の都道府県・政令市において実施されているが,高い環境基準超過率で推移しており,その対策が喫緊の課題となっている。
    硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素による地下水汚染の汚染原因は,施肥,家畜排せつ物,生活排水等と多岐にわたり,有効な対策が地域毎に異なることから,地域の自然的・社会的特性,汚染実態,発生源等の状況に応じた有効な対策を講ずることが必要である。対策を推進するため,対象地域の関係者で構成する連絡組織を設置し,この連絡組織において汚染範囲,汚染原因,対象地域等の共通認識を持ち,窒素負荷発生源毎の窒素負荷低減の目標の設定,目標達成のための対策について検討することが重要である。また,都道府県等により対策推進計画等を策定し,それに基づいて対策を実施することも効果的である。
    そこで,環境省としては引き続き硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素による地下水汚染の特性に応じた対策の促進を図っていくこととし,そのために流域の水量,流動との関連性等の汚染機構の解明を進めるとともに,農業関係者の取組へのインセンティブを高めて硝酸性窒素削減につながるような制度を含め,モデル地域の設定による具体的な取組への支援を通して,実効性のある対策の検討を進めている。
  • 田瀬 則雄, 李 盛源
    2011 年 41 巻 3 号 p. 55-61
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    硝酸性窒素による地下水汚染が深刻な問題となっており,法制度の整備,施肥量の適正化,家畜排せつ物の適正処理などの対策が行われているが,必ずしも対策効果が現れておらず,汚染された地下水の回復,さらに浄化・修復についてはほとんど進んでいない。とくに生態系の構成要素である地下水として,汚染された地下水を原位置あるいはオンサイトで浄化,回復・維持するという視点での技術開発が不可欠である。このような浄化・修復手法で,コストなどを配慮した実証事例がほとんどなく,対策として十分可能な成功事例,優良事例を蓄積していくことが急務である。本稿では,浄化・修復手法の優良事例の策定に向けての課題や考え方を示した。
    近年注目されているのが,原位置浄化法で,とくに安価で,技術(浄化プロセス)が明確で,維持管理が容易で,十分な効果が期待できる方法として,透過性反応(浄化)壁が考えられてきている。硝酸性窒素汚染対策としての事例は多くないが,日本ではいくつかの実証実験が行われている。浄化の実証実験を成功させ,優良事例を積み重ねるには,いくつかの条件を整える必要がある。まず適用する浄化技術の浄化原理・プロセスが明確であり,水文地質学的構造が把握でき,透水性が良く,効果を判定しやすい汚染サイトで実施することが重要である。また,透水性浄化壁はある程度の長さのある連続壁とし,下流への効果が判定しやすいようにすることなどが必要である。
  • 小倉 久子, 冬期湛水みためし水質調査隊
    2011 年 41 巻 3 号 p. 63-70
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    千葉県印旛沼流域の水田地帯において,水田による硝酸性窒素浄化能の調査を行った。水田地域に設置した12本の観測井,水田に隣接する台地の民家井戸,田面水などを5年間(2005 ~ 2009年)にわたり調査し,地下水が水田地域下の還元的なゾーンを通過するときに,水に含まれる硝酸性窒素が浄化(脱窒)されることが確認された。印旛沼に地下水として流入する水がすべて水田下の還元的ゾーンを通過すると仮定し,年間286トンの窒素が浄化されていると算定された。この量は印旛沼流域で排出される窒素負荷量の24%に当たる。
  • 八槇 敦
    2011 年 41 巻 3 号 p. 71-78
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    環境省が実施した平成20 年度地下水水質測定の結果によると,硝酸態及び亜硝酸態窒素の環境基準値の超過率は,千葉県が12.3%で全国平均より高い。千葉県内で野菜生産が盛んな下総台地では,硝酸態窒素濃度が10mg/L を超える湧水が顕在化し,集水域内の畑地の面積割合が高いほど,その濃度が高い傾向がある。このような状況から,農地,特に畑地から流出する硝酸態窒素の低減が求められている。そこで,下総台地上に位置する富里市に調査地域を設定して,野菜栽培後の土壌に残存する硝酸態窒素の実態を調査した。さらに,この調査結果を踏まえて,調査地域に関する窒素収支を試算し,土壌浸透水の硝酸態窒素濃度が10mg/L 以下となる窒素低減目標を求め,当地域の主要野菜であるニンジン栽培において農地から流出する窒素の低減対策を実施した。
    その結果,野菜栽培後の深さ1m までに多くの硝酸態窒素が残存し,深さ4mの土壌水の硝酸態窒素濃度が地下水の環境基準値である10mg/L を超え,20mg/L 前後の農地が認められた。また,近隣の湧水の同濃度も20mg/L を超えており,この地域では積極的な窒素負荷低減対策が必要であることが示された。窒素収支から,対象地域で窒素投入量を23%低減することによって,土壌浸透水の硝酸態窒素濃度が約3割低くなり,10mg/L になると試算された。そこで,ニンジン栽培前に農地に残存する窒素を差し引いて,窒素施用量を低減する対策を実施した。この対策によって,窒素投入量を25%低減しつつ収量が確保できた。
    野菜栽培地帯において,地下水あるいは湧水の硝酸態窒素濃度を低減していくためには,さらに多くの野菜に関して,このような肥料窒素の利用効率を高める技術開発を進め,普及していく必要がある。
  • 中村 高志, 尾坂 兼一, 平賀 由紀, 風間 ふたば
    2011 年 41 巻 3 号 p. 79-89
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
     富士川流域の渓流水中の硝酸イオンの起源と森林・農地から流出する硝酸イオンの窒素同位体比を把握するために,57地点における渓流水中の硝酸イオン濃度ならびに硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比を測定し,流域の土地利用の分布と比較した。硝酸イオンの酸素同位体比は,渓流水中の硝酸イオンが硝化反応により生成されたものであることを示した。硝酸イオンの窒素同位体比と流域に占める農地の面積割合の変動には明瞭な関係が得られた。流域に占める農地面積の割合が2%より高い流域では窒素同位体比が増加し,農地の面積割合の増加に伴う硝酸イオンの窒素同位体比の上昇は5.4‰に収束した。これは,既往の報告にある甲府盆地の果樹園地帯における浅層地下水中の硝酸イオンの窒素安定同位体比と整合するものであり,渓流水に農地からの硝酸イオンの負荷があることを示した。宅地に関しては,面積割合が1%のより高い流域で窒素同位体比の値が上昇し,生活排水の影響を示唆した。森林域から流出する硝酸イオンの窒素同位体比の樹種による差は明確ではなく,流域に占める森林面積が98%以上の流域を対象に推定された森林から流出する硝酸イオンの窒素安定同位体比は0.9±1.0‰であった。
  • 齋藤 光代, 小野寺 真一
    2011 年 41 巻 3 号 p. 91-101
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    脱窒過程は,地下水の硝酸汚染の改善および抑制にとって重要な自然減衰機能の一つである。著者らは,地下水中での脱窒過程に及ぼす地下水流動の影響に関連する従来の研究結果を整理するとともに,今後の課題について議論することを試みた。結果は以下のように要約される。1)地下水流動系における顕著な脱窒場は,主に地形の変換点を含む浅部の地下水の流出域および不圧・被圧を含む深部帯水層に相当すると考えられ,2)地下水流動系において硝酸が脱窒によってどの程度除去されるかは滞留時間によってコントロールされている可能性が高く,さらに3)ダルシー流束などの地下水流速は,脱窒反応が流動系において生じるか否かを決定する要因となりうる。
     以上の結果から,著者らが考える今後の研究課題は,空間的・時間的な地下水流動条件の変化を考慮した“脱窒過程の定量化とそのスケールアップ”である。定量化にあたっては,脱窒反応の有無を制御し得る臨界地下水流速を推定することが最も重要であろう。また,定量的評価のスケールアップのためには,地形勾配のような地表面情報と地下水中での脱窒との関係を明らかにすることが重要であると考えられる。
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