日本水文科学会誌
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42 巻 , 3 号
特集 シンポジウム「雪氷寒冷圏における最近の水文研究」
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
巻頭言
総説
  • 山口 悟, 渡辺 晋生, 石井 吉之
    2012 年 42 巻 3 号 p. 89-99
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/16
    ジャーナル フリー
     本研究では,低温室における積雪の水分特性曲線(WRC)の測定事例を紹介するとともに積雪内部の水分移動のモデル化に向け,土壌理論を積雪に応用する際の問題点に関しても議論を行った。まず,積雪のWRC が砂のWRC と似た挙動をすることを示し,土壌分野のモデルが積雪のWRC に適応可能であることを示した。また積雪のWRC の粒径(d)と乾き密度(ρdry)依存性に関しても議論を行った。それらを踏まえ積雪のWRC に,土壌分野で広く使用されているBrooks - Corey モデル(BC モデル)とvan Genuchten モデル(VG モデル)を適用した。その結果, 両モデルとも積雪のWRC をよく再現するが,BC モデルよりもVG モデルのほうが測定された積雪のWRC をよく再現することを示した。次に土壌分野の水分移動特性モデルを積雪の不飽和透水係数(K)のモデル化に応用する際の問題点として,WRC のモデル化の際に使用するモデルの選択によってサクション(h)と不飽和透水係数(K)との関係式が大きく異なること,Kのモデル内の連結結合係数(l)の与え方によって,h とK の関係が大きく変わるので,積雪に適したl の取り扱い方を明らかにする必要があることを指摘した。
  • 石井 吉之
    2012 年 42 巻 3 号 p. 101-107
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/16
    ジャーナル フリー
    降雨と融雪が重なった時の出水現象を明らかにする目的で,北海道の2 つの流域で研究が行なわれた。積雪内部の流出過程に着目した研究では,積雪底面から流出する水の90%以上が積雪内部に貯留されていた水であり,晴天時でも降雨時でもこの割合に大きな違いはなかった。降雨を伴った融雪出水時に現れる河川流量の大きなピークの成因を調べた研究では,増水前の初期流量がもともと大きいことや,降雨量に融雪量を加えた流入強度が大きいことが要因であることが明らかにされた。さらに,雪面上に著しい大雨があった場合を想定した模擬降雨実験では,1m2 の雪面上に6 時間かけて200L の模擬降雨を散布したが,積雪底面からの流出水は現れなかった。このことから,雪面上に多量の水が供給されると積雪内における水平方向の水の流れが予想以上に顕著になることが明らかになった。降雨と融雪が重なった時の出水現象を解明するためには,積雪下の地表面にどのような水供給があるかを知ることが鍵となり,積雪ライシメータを用いた積雪底面流出量の観測例を今後も増やしていく必要がある。
  • 鈴木 啓助
    2012 年 42 巻 3 号 p. 109-118
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/16
    ジャーナル フリー
     わが国の日本海側地域は,世界でも稀な豪雪地として知られており,降雨にもまして降雪によってもたらされる多量の降水は水資源として極めて重要である。強い放射冷却によって,冬期のシベリア大陸には熱的高気圧が形成される。南側のチベット・ヒマラヤ山塊によってシベリア高気圧の南下が妨げられ,乾燥寒冷な空気塊は東側に吹き出す。この空気塊は日本海上で熱と水蒸気の供給を受けて積雲対流を生み,雪雲が形成される。この雪雲から大量の雪が日本アルプスに降り注ぎ,天然の白いダムとなり貴重な水資源となっている。
     山岳地域は地球規模での環境変動に対して敏感であると言われているが,山岳地の気象観測として象徴的であった富士山測候所が2004 年8 月で閉鎖され,富士山に次ぐ高所の気象観測点は標高1350 m の野辺山である。このような気象観測データの欠如では,地球規模での気候変動が標高3000 m に達する日本アルプスの自然環境に及ぼす影響を評価することができない。そこで,信州大学山岳科学総合研究所は日本アルプスでの気象観測網を展開している。
     多量の積雪のため山岳地域で積雪深を直接観測することは困難であるし,商用電源が利用できない状況では,冬期の降雪の観測も不可能である。そこで,雪氷化学的手法を用いた冬期の降雪量を見積もる手法が提案された。
  • 飯島 慈裕, 石川 守, ジャンバルジャフ ヤムキン
    2012 年 42 巻 3 号 p. 119-130
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/16
    ジャーナル フリー
     モンゴル北部の山岳地域は,北向き斜面にカラマツからなる森林,南向き斜面には草原が広がる植生の漸移帯(エコトーン)をなしている。この森林-草原斜面は,永久凍土・季節凍土の分布と重なり,明瞭な水循環過程のコントラストを示す。本研究は,ヘンテイ山脈トーレ川上流域で2004 年から開始した森林・草原斜面での各種水文気象の観測結果から,植物生長開始と生長期間の蒸散量の季節変化に影響する凍土-水文気象条件の対応関係の解明を目的としている。森林斜面からの蒸散量は,6 月~ 7 月上旬の雨量が7 月の土壌水分量を規定し,その年の蒸散量の最大値と良い対応関係が認められた。また,カラマツの開葉は消雪とその後の凍土活動層の融解との関係が深く,生育開始の早遅も蒸散活動の年々変動に影響している。この森林では,降雨の時期に加えて,消雪時期と凍土融解(活動層発達)時期の早遅が組み合わさることで,植物生長と蒸散量の季節変化と変動量が影響を受けていることが示された。2006 年夏季の流域水収支から,森林は草原に比べ蒸発散量が約半分に抑えられ,活動層内の土壌水分量と合わせて,河川流量に対応した水資源を確保している様子が明らかとなった。すなわち,モンゴル山岳地域の凍土-森林の共存関係は,流域水資源の維持に重要な役割を果たすと考えられる。
  • 知北 和久
    2012 年 42 巻 3 号 p. 131-146
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/16
    ジャーナル フリー
    ケッペン= ガイガーの気候区分に拠れば,北海道は亜寒帯域の南限に,アラスカの中~南部は亜寒帯域の北限に位置し,互いに類似した気候条件および河川流出の特徴を持つ。本稿では,両地域にある河川流域での水・土砂の流出に着目し,その流出特性から推測される流送土砂の起源について議論し,タンクモデルによる流出解析を行う。対象とした河川流域は,北海道の佐呂間別川流域(面積277.0 km2)と生花苗川(おいかまないがわ)流域(面積62.0 km2),およびアラスカ・ユーコン河の支流タナナ川の流域(面積6.63 × 104 km2)である。これらの流域では,夏季の降雨,冬季の降雪,春の融雪という水文気候条件は共通するが,流域スケール,土地被覆条件,地質,土壌構造が異なるため,河川の応答特性はかなり異なる。特に,タナナ川流域は相対的に寒冷のため,山岳域に氷河,森林域などに不連続永久凍土帯が存在し,夏季は氷河と凍土の融解による流出が降雨流出と重なって現れる。融雪出水中の河川流量・浮遊物質濃度の1 時間時系列データを用いて流量~浮遊物質濃度間の履歴図を描くと,佐呂間別川とタナナ川では右回りのループ,生花苗川では反時計回りのループを示した。前者はピーク浮遊物質濃度がピーク流量より時間的に先行して現れる現象で,一般的に侵食される土砂が河道起源の場合に多く見られる。生花苗川での反時計回りのループは,降雨出水時に常に現れた。このことから,同流域の森林土壌では雨水の浸透に伴う侵食過程が卓越していることが示唆される。佐呂間別川とタナナ川の日流量時系列に対し,タンクモデルを用いた流出解析を行った。結果として,融雪出水,および氷河融解流出と降雨流出が重なる出水に対し,ある年で決定されたパラメーターをそのまま用いても二乗平均平方根誤差(RMSE)が観測流量の8 ~17%,Nash-Sutcliffe 効率係数0.45 ~ 0.97 と再現性が高く,このモデルの有効性が示されている。この再現性が高い理由として,タンクモデルでは融解水の積雪内貯留や氷河内貯留が考慮できること,融雪期と氷河融解期での初期土壌水分や初期氷河内貯留が各年で類似した条件にあることが挙げられる。
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